表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/35

第3話_OH エド捕物帖オウジサマン!(7)

 ダイカーンの耳に私兵が耳打ちする。

「逃亡者を完全に見失ったそうです。いかがいたしますか?」

「もう探さずともよい(見つからんほうが好都合だ。不戦勝となれば、エルザも文句の付けようもあるまい)」

 ダイカーンは壇上に立って、抑えられずに自然と笑みがこぼれた。

「ドラゴンファングの剣を持って逃亡した者を取り逃がしてしまったそうだ。我が屋敷で起きたことはわしにも責任があると痛感しておる。しかし、こうなってしまっては仕方あるまい……鍛冶対決は武器商店エクスカリパーの勝利とする!」

 会場がざわついた。

 白銀の甲冑を着たブロンドヘアのエルザが意義を唱える。

「勝敗を決めるのは早いのではないか!」

 エルザの鋭い蒼眼がダイカーンを見据えるが、ダイカーンは鼻で嘲笑した。

「しかし、武器がないのだから仕方あるまい」

「勝負を延期にすればよい話ではないか!」

「それも時の運、ドラゴンファング側も異存ないな?」

 ダイカーンに顔を向けられ、アルマは無愛想に頷いた。

「武器を盗まれたのはウチにも落ち度がある。負けても文句は言えないね」

 これでダイカーンもアルマも思惑通りになって万々歳なのか?

 だが、エルザだけは納得ができなかった。

「ダイカーン貴様、まさか貴様がドラゴンファングの武器を盗ませたのではなかろうな!(この勝負には裏があると最初から睨んでいたが、未だなに一つ証拠がつかめん)」

「言いがかりも甚だしい。国王陛下のお気に入りだからと言ってあまりでかい顔をするな!」

「なにをぉ、貴様こそエチゴヤと裏で繋がっておるのだろう!」

「それ以上わしを愚弄するというならば、審問会に訴えてやるわ!」

「やれるものならやってみるがいい、貴様も壇上に立たせて洗いざらい吐いてもらうからな!」

「あーはははは、証拠なぞ出るものか。わしは濡れ衣なのだからな!」

 急に部屋が停電した。

 そして、映写機で投影したように壁に映像が映った。

 ダイカーンとエチゴヤの密会映像だ!

《おっと、忘れておりました。ダイカーン様のお好きな黄金色の菓子でございます》

 エチゴヤが賄賂を渡すシーンがしっかり映し出されている。

 それを見たダイカーンは顔を真っ青にして慌てた。

「すぐに消せ、早く消さぬか!」

 だが、映像は止まることなく流れ続けている。

《それがな、エルザが当日に視察に来るらしいのだ》

《あの堅物の女ですかい?》

 映像を見ていたエルザの眉間にシワが寄る。

「ダイカーンこれはどういうことだ、説明してもらおうではないか!(これ以上の証拠はあるまい。しかし、いったい誰が?)」

「わしはなにも知らん。これはわしを陥れようとする陰謀だ!」

 もはやその言葉を信じる者はいない。

 そして、今回の鍛冶対決の裏にある陰謀が陽の下に晒されたのだ。

《ドラゴンファングが対決を辞退すれば我々の不戦勝、あの店に勝ったとなれば、あっしらがひいきにしてる店も大繁盛、王国の武器や防具の受注を一手に握ることも可能ですぜ》

 ダイカーンは怒り狂った。

「誰だ、誰の仕業だ!」

 壁に映った映像が消え、天井裏から誰か落ちて来た。

 落ちて来たのはユーリだった。そのままダイカーンの頭にゴン!

 ダイカーンは痛恨の一撃を受けてぶっ倒れた。

 まさか、これは悪のダイカーンをユーリが倒してしまった構図?

 これにて一件落着、めでたしめでたし……んなことあるか!

 ユーリはすでに私兵に囲まれ、ダイカーンも頭を押さえながら立ち上がった。

「おのれ、すべてこの小娘の仕業だな。斬れ、斬ってしまえ!」

「えっ アタシ……なにがどうなってるの?」

 全ての罪はユーリに擦り付けられようとしていた。

 そのとき、スポットライトが人影を照らした!

 真紅のドレスを着た紅髪の薔薇仮面。

 薔薇仮面はエルザに向かって映像ディスクを投げた。

 受け取ったディスクのラベルには『ダイカーンとエチゴヤの悪巧み繁盛記』と書かれていた。

「まさかこれは……さっきの映像は貴様が撮った物なのか」

 エルザの問いかけに、薔薇仮面は口元に笑みを浮かべた。

 証拠物件まで出てきてしまって言い訳も通らない。こうなったら最後の手段しかない。ダイカーンは手の者に命じる。

「斬れ斬ってしまえ、薔薇仮面もエルザもドラゴンファングの人間も、そこの小娘もだ!」

「……アタシも入ってるんだ」

 ユーリは嫌そうな顔をして頭を抱えた。

 さらにあくどいダイカーンはこう続けたのだ。

「すべて薔薇仮面とそこの娘のせいにしてしまえば済むことだ!」

 汚い、やることが汚すぎる。こんな大人になりたくないです。

 もう戦いは免れそうもない。

 剣を抜いた私兵たちが襲い掛かってきた。

 ユーリはくにょくにょ剣を構えた。

 だが――。

「こんなんで戦えるか!」

 すぐに投げ捨てて敵に背を向けて逃げた。

 エルザも刀を抜いて応戦中。その横ではフルフェイスの重装備をしているエルザの部下らしき男も剣を抜いて戦っていた。

 アルマもさすが鍛冶屋のカミさんだけのことはある。豪快な断ちで次々と私兵をぶった斬っていく。

 そして、薔薇仮面は優雅に納豆を食っていた。

 なんで納豆やねん!

 しかも、納豆にかけているのは山盛りの七味唐辛子だった。

 私兵が薔薇仮面に襲い掛かる。

 仮面の奥で光る瞳に六芒星が浮かび上がった。

 刹那、ネバネバの納豆がお箸から放たれた!

「くせぇ!」

 私兵の悲痛な叫び。

 納豆の糸はまるでクモの糸のように私兵を絡め取ってしまった。もがけばもがくほど動けなくなる仕様だ。しかも臭い!

 良い子のみんなは食べ物を武器にしちゃダメよ♪

 一方ユーリちゃんは――追い詰められていた♪

 ユーリは尻餅を付いて、背中はすでに壁だったりした。まさに絶体絶命のピーンチ!

 しかし、ユーリの口は恐れを知らない。

「アタシに触れたらわいせつ罪で訴えますよ!」

 お得意の法的手段だ!

 だが、ユーリを囲んでいる三人の男たちにはノーダメージ。

「死人に口なし、訴えられるものなら訴えてみるんだな」

「殺人未遂及び脅迫罪でも訴えてやる。てゆーか、あんたたち王宮直属のギルド員じゃないの!」

 ユーリを囲んでいる男たちはホワイトファングのギルド員。シャドウクロウが邪道なら、ホワイトファングは王道のハズだった。

「ふっ、悪はどこにでも蔓延るのさ。ましてや正義は悪の隠れ蓑に申し分ない、金さえもらえればなんでもやるさ!」

 ギルド員の剣がユーリに振り下ろされる瞬間、それを何者かが受け止めた。

 眼を丸くしたユーリが感嘆の声を漏らす。

「ジャド!」

「金でなんでもやるのはウチの専売特許だ。営業妨害も甚だしい」

 ジャドは手に持っていた武器で相手の剣をはじき返した。

 その姿を見ていたユーリの胸が少しときめいた。

「(ピンチのときに現れるなんて白馬の王子様っぽい。ちょっと惚れちゃうかも)でも……ジャド持ってるのフライパンだよね?(ドジっ子萌えと幻滅が紙一重)」

 ユーリに指摘され、ジャドは自分の持っていた武器を確認した。

「しまった……こないだ通販で買った焦げない錆付かない洗うの簡単なフライパンだった」

 こんなアホなヤツに負けてたまるかと、敵ギルド員が束になって斬りかかってきた。

 フードの奥で嘲笑するジャド。

「喰らえ、通販で勝った包丁セット!」

 用途に応じた包丁が用途無視して投げられた。

 投げられた包丁セットは敵ギルド員の手に刺さり思わず剣が落とされた。

 手を押さえて歯を食いしばるギルド員たち。

 圧倒的なジャドの強さ。負けたほうはいろんな意味で悔しそうだ。

 だが、ユーリは蒼ざめていた。

「……あはは、ジャドの体を剣が貫通してるように見える(きっと手品だよね、どこかに種があるんだよね!)」

 ユーリは自分に言い聞かせた。

 すべて幻想です!

 でもやっぱりリアルだったりした。

 自分の腹を貫通する剣をジャドは慌てることなく抜いた。

「俺は痛みに耐える修行をしている。こんなもの痒くもない」

 そーゆー問題なのか!

 ジャドの足元がふら付いた。

「だが……痛くなくとも……貧血にはなる」

 バタン!

 ジャドは貧血で倒れてしまった。

「痛くないとか意味ないじゃん!」

 ユーリのツッコミ。

 腹から血を流して倒れているジャドを見ながらユーリは不安そう顔をした。

「元はといえばアタシを助けてくれてこんなことに(愚民が特権階級を守るの当然だけど)。でも……アタシを守ってくれたこの人を……絶対に死なせたくない!」

 なにか熱い想いがユーリの胸を突き動かした。

 すぐにユーリは回復呪文を唱えようとした。

「ラヴヒール!」

 ――声が木霊しただけだった。

「しまった、呪文使えなかったんだ!」

 ユーリちゃんショック!

 慌てふためくユーリ。

「ちょっと待って、今何とかするから。え〜と、絆創膏……なんて持ってないし……あっ」

 ポケットの中を探っていたユーリは小瓶を見つめた。

 その小瓶はカーシャ特製の惚れ薬だった。

 ここでユーリは魔導書で読んだ記述を思い出した。

 ――愛の女神ロロアの加護を授かる『ロロアの林檎』には、回復魔法が得意なロロア同様、その特性が林檎に成分として含まれている。

 ユーリは迷わず……迷わず……まよ……。

「苦労して作ったのに……でも……でも……」

 迷わず使えなかった♪

 ユーリが自分の中の善と悪と討論している間も、ジャドの体からはどんどん血が流れていた。

 ついにユーリが小瓶のフタを開けた!

「また作ればいいんでしょ!」

 投げやりな感じでユーリは惚れ薬をジャドの傷口にぶっかけた。

 果たして愛の奇跡は起こるのか!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ