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第3話_OH エド捕物帖オウジサマン!(3)

 ユーリちゃんの仲直り大作戦!

 というわけで、ビビにプレゼントを買うため、ユーリはバイト中だったりした。

 今を遡ること数時間前、『今日は特別に無料でバイト先を紹介してやろう』というジャドの言葉で、ユーリが連れて行かれたのはギルドだった。

 ギルド『シャドウクロウ』のモットーは来るものは拒まず。そんなわけだから、ユーリは勝手に新人ギルド員に登録され、有無を言わさず仕事を与えられてしまった。

 初仕事はジャドのサポート役で、仕事内容を聞かされないまま、鍛冶屋に向かうことになった。

 ドラゴンファングという名の鍛冶屋は、王都アステアでも三本の指に入る有名店で、実力はナンバーワンだろう。ただし、店主が頑固オヤジで客を選ぶのが致命傷らしい。

 中央広場に近い立地条件の良い場所に、ドラゴンファングは店を構えていた。

 二人が店の中に入ると、いきなりナイフが飛んできた。

「何度言ったらわかるんだい、さっさと出ててって頂戴!」

 ナイフを投げたのは、店の奥で煙草を吸っている女だった。この店のカミさんだ。

 カミさんの名前はアルマ。鍛えられた体は若々しく、見た目は二十代後半くらいだが、実は二児の母で上の娘は一三歳だったりする。

 ジャドは陳列している武器や防具の間を抜け、飛んでくるナイフをかわしながらカウンターの前に立った。

「こちらとしてもメンツがある。この店に勝ってもらわなくては困るんだ」

「だから言ってんだろう、うちのダンナはそんな勝負事に興味ないって」

「おやっさんと直接話がしたい」

「ちょっとそこまで出かけてんだ。いつ帰るかわからないよ」

「昨日も、その前も、その前の日もだ。いつになったら帰って来るんだ?」

「さあね」

 ジャドは怒ったようにため息を吐き、床に座り込んでしまった。

「待たせてもらうぞ」

「勝手にしな」

 アルマも怒っているようで、そっぽを向いてしまった。

 まったく状況がつかめず取り残されているユーリ。とりえずジャドの横に腰を下ろした。

「あのぉ、今回の仕事の内容を教えていただけませんでしょうか?」

「この国の王がランバードの王に剣を贈りたいらしい。それで鍛冶勝負をして贈る剣を選ぶことになったんだ」

「この店に勝たせるのが仕事内容?」

「そうだ」

 二人の会話に聞き耳を立てていたアルマが口を挟む。

「そんなこと頼んでないよ」

 そこの言葉を聞いてユーリは当然こんな質問を投げかける。

「じゃあ誰の依頼なんですか?」

「ウチのギルドマスターの個人的な依頼だ」

 ジャドがうんざりしたように答えた。

 この依頼には裏がある!

 ……ような気がする展開だ。

 しかし、そんな期待もあっさりジャドに壊されることになった。

「ギルマスの気まぐれなんだ。話せば長くなるが、七五パーセントオフで話をすると、ウチとホワイトファングというギルドは仲が悪い。向うは王宮直属のギルドだからな、互いにいろいろ目の敵にしてるんだ。それで今回の対決になるわけだが、ホワイトファングが敵方の鍛冶屋を全面バックアップしているらしいと聞いたウチのギルマスが、対抗意識を燃やしてこの店を絶対に勝たせたいんだと……(くだらない)」

 大人がする子供のケンカだ。

 そんなわけでジャドはここ数日、この店に来て説得を続けているっぽい。しかもどうやら店主のおやっさんに会わせてもらえないらしい。

 ジャドはおやっさんの帰りを待つと言っているが、忍耐のないユーリはすでに飽きていた。

「ちょっと店の外のようすを見てきます」

 というセリフで逃亡。

 ユーリは店の外に出てどっとため息を漏らした。

「(人にこき使われるバイトよりはマシだけど……ヒマだ!)」

 店で待っていてもおやっさんには会わせてもらえないらしいので、こっちから探したほうが早いような気がする。

 おやっさんはどこにいるのか?

 店の奥に隠れているのか、それともどこかに逃亡しているのか?

 とりあえずまずは近隣で情報収集だ。聞き込みをしようとユーリがしていると、話しかける前に話しかけられた。

「あのすみません、シャドウクロウからご訪問の方ですか?」

「はい、そうですけど?」

 ユーリの視線の先には、同い年くらいの眼鏡っ娘が立っていた。

「わたし、この店の娘のアインって言います!」

 二つの拳を胸の前でギュッと握っている。しかも眼鏡がキラキラ輝いている。無駄に元気そうな眼鏡っ娘だった。

 ユーリちゃんも営業スマイルで応じる。

「こんにちは、ユーリと申します。本来ならばこんな可愛い女の子をデートに誘わないなんて一族の掟に反することなのですが、仕事中で忙しくて申し訳ない(お金がないから誘えないだけだけど)」

「やっぱりあなたが正真正銘ユーリさんなんですね!」

「えっ……アタシってそんなに有名人でしょうか?(やっぱり可愛いって罪なのね)」

「クラスメートです。店の中にいるジャドさんも同じクラスですよ?」

「ええっ!」

 まったく知りませんでした!

「今日から謎の転校生が来るってみんな愉快爽快だったのに、食中毒で臨時休業するって先生が言ってました」

「いや、食中毒とかにはかかってないんだけど(留置場にぶち込まれいたなんて言えやしない)」

「ところで……」

 急にアインのテンションが下がった。

 そして、いきなりハイテンション!

「ローゼン様とはいったい全体どういう関係なんですかっ! メルティラヴで一緒に楽しくおしゃべりしてたってウワサが垂れ流しですよ」

「……はい?(なにこの子、ローゼンクロイツ様の信者?)」

「あぅ……わたしですら一緒にスイーツとか食べたりしたことないに……」

 死の宣告を受けたみたいな落ち込みよう。

 呆然とするユーリに関係なく、アインは勝手に落ち込んで勝手に復活した。

「えと、申し遅れちゃいました、わたし……薔薇十字団の会長のネイス(ハンドルネーム)です!」

「ええっ!(まさかこんな子が会長だったなんて予想もしてなかった)」

「薔薇十字団とはローゼンクロイツ様のファンクラブです」

「知っています。だってアタシも会員ですから……(狭い、世間って狭い)」

「し、真実ですかっ! だったら抜け駆けですか、他の会員を差し置いてローゼン様と親睦会ですか! お天道様が許しても信者たちが許しません!」

「だったらアインちゃんもしたらいいのに」

「ぐわっ!」

 あまりの衝撃にアインは三歩後ろに下がって固まった。

 そして、恐怖に駆られて震えだすアイン。

「そ、そそそんな神をも恐れぬ悪行……崇高なローゼン様と親密関係なんかしたら、天罰が下って末代まで祟られますよっ!」

「そんなことないと思いますが、好きな人に好き言わない人生なんて腐ってますよ」

「愛の告白なんかしたら、喉笛が潰れて声が出さなくなっちゃいますよっ!」

「……そ、そうですか(変な人)」

 ローゼンクロイツへの愛は変わらないかもしれないが、友達としては一線を引いて付き合おうとユーリはコッソリ誓うのだった。

 ユーリはふと思い出した。

「そう言えば、シャドウクロウのギルド員であるアタシに用があったんじゃないですか?」

「あ、そうでした! すっかり脳ミソから脱落してました。至極大事な話がございましたです!」

「(大事な話なら忘れないでよ)どのような話でしょうか?」

「実は……父が行方不明なんです!」

 今すぐ捜索願届けを提出しましょう!

 アインが知らないということは、母親のアルマも知らない可能性が出てきた。

 ユーリは難しい顔をして考えはじめた。

「(奥さんはまるですぐに帰ってくるみたいな言い方してたけど、行方不明ならそうだって言って鍛冶対決を辞退すればいいのに。なんでわざわざくだらないウソを付くんだろう?)どうして行方不明になったんですか?」

「わからないです。母に訊いてもタバコを買いに行ってるとか、パチンコに行ってるだけだからって……でも、一週間も帰ってこないんですよ、奥さん事件ですよ!」

 もしかしたらアルマはなにか事情を知っているかもしれない。

 その前にアインから聞き出せることを訊いておこう。

「過去に同じようなことはなかったんですか?」

「父が長々と店を放棄することはありましたけど、ちゃんと言付けを残してました。その間は母とわたしで店を守り抜くんです。でもこの度の事例は……きっと悪の組織に捕られられてるんです!」

「悪の組織に心当たりが?」

「……ありません。雰囲気で言ってみただけです(父は正義の味方マニアですし)」

 ノリでした、ごめんなさい!

 ため息を漏らしながらユーリは質問を続ける。

「お父様が行方不明という話をジャドにはしたんですか?」

「至極できないですよ、同胞と言えどあの人恐怖なんです。授業中もあのフードをお取りにならないんですよ、怪しい人を略して怪人じゃないですかっ!」

「(怪しいというか、ただのネット通販好きだけど)ならアタシがお母様に尋ねてきます」

「あの……わたしはここで待機コマンドでいいですか? 昨今、お母さんピリピリしてて恐怖なんです」

「大丈夫です、中にはジャドもいますから」

 さっそくユーリは店の中に戻り、ブスッとしているアルマの前に立った。

「行方不明らしいですね、アナタのダンナさん」

 その言葉を聞いたアルマの瞳がギラーン!

 ぶっ飛ぶナイフ、豪雨のごとし!

 アルマによって投げえられたナイフを必死でかわすユーリ。

「アタシを殺す気か!」

「殺されたくなかったらさっさと出てお逝き!」

 逝きたくありません!

 ナイフがユーリの股間の下を抜けた。

「(……今、自分がオトコだってことを思い知らされた)」

 女の子にはわからないキューんとした感覚。

 あとちょっとナイフがズレていたらオトコとして再起不能になるところだった。

 よし、逃走しよう!

 ユーリは冷や汗を流しながら店の外に飛び出した。

 外で待っていたアインがすぐに駆け寄ってきた。

「顔面蒼白ですけど、大丈夫ですか?」

「あはは、大丈夫。うん、お父様はきっと帰ってくるから大丈夫!(ウソだけど)」

 ウソかよっ!

 そして、ユーリは笑いながら逃げ去った。

 ジャドも追い出されたようで、店の中から出てきた。

「ユーリのせいで俺まで追い出されてしまった。しかもどこに行ったんだアイツ」

 辺りを見回すジャドがアインを見つけた。

「……ん、アインじゃないか?」

「こんにちは、そしてさようなら!(こ、怖いよ、あの人恐怖です!)」

 ジャドと眼が合ってアインも逃亡。

 残されたジャドは首を傾げながら深く息をついた。

「なにかしたか?」

 言えやしない、言えやしない……ジャドの背中にナイフが刺さってるなんて、言えやしないよ!

 どーやらジャドは痛みに鈍感らしい。

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