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第2話_ドリームにゃんこ in 夢(む)フフ(9)

 ふかふかのベッドで眠るユーリを呼ぶ優しい声。

「ボクの愛しいユーリ、早く目を覚まして……」

 ユーリのおでこに触れたやわらかい唇の感触。

 ゆっくりと目を開けたユーリは、いきなり鼻血ブー!

 噴射した鼻血はすっぽんぽんの男に掛かった。

「お、おにいたん!」

 ユーリは慌てて両手で目を塞いだ。

「おにいたん、どうして裸なの? お風邪引いちゃうよ(……あれ、なんか可笑しい)」

 なにかが可笑しいことにユーリは気づいた。

 いきなり裸族の兄が仁王立ちしているのも可笑しいが、そこじゃなくて……なにか重要なことがあったような気が……。

「(あ、どうしてアタシお兄様のことおにいたんって呼んでるんだろう。そうだ、これっていつもの夢なんだ)」

 でも、なにかもっと重要な何かを忘れているような気がした。

 恥ずかしそうにユーリは指の隙間からアーヤお兄様のことを覗いた。

 いつも夢に出てくるアーヤと変わらない。いつもと同じ『のっぺらぼう』。今日はすっぽんぽんの大サービスだ。

「おにいたん、早くお洋服着てちょーらい。恥ずかしいよぉ」

「いつも一緒にお風呂で洗いっこしてるのだから、別に今さら気にすることはないよ。ボクらには愛があるじゃないか!」

 アーヤと一緒に入っていた記憶が甦りユーリちゃん鼻血ブー!

 このまま出血多量で萌え殺される。

「おにいたん……お願いだからお洋服を着てちょーらい……(殺害される……実の兄に欲情して死んだら、恥ずかしくてさらに死ねる)」

「しょーがないなぁ。可愛いユーリのお願いじゃしょうがないか」

 ため息を落としながらアーヤはしぶしぶ気替えはじめた。

 そして、気替え終わったアーヤが男らしく仁王立ち――赤いふんどしが風に靡いた。

「ブハッ!」

 またまた鼻血ブーのユーリちゃん。

「ゲホッ……ゲホゲホッ(な、なんでお兄様……赤フンなの)」

 鼻血が出すぎて口に入って吐血状態になってしまった。

「大丈夫かいユーリ!」

 すぐにアーヤが駆け寄ってくる――赤フンを揺らしながら。

「おにいたん来ないで!(これ以上近づかれたらまた鼻血で死ねる)」

「えっ……どうしてだいユーリ……ま、まさかボクのこと大ッ嫌いになったのかい? ショックだ!」

 勝手な思い込みでアーヤは沈んだ。床に両手両足を付いてマジでへこんでいる。

「ち、違うよおにいたん! おにいたんのこと好きだから、その格好で近づかれると……ドキドキしちゃうの(さすがに萌え死ぬからやめてとは言えなかった)」

 絶望状態だったアーヤに生きる希望が湧いた。

「愛してるよユーリ!」

 笑顔大爆発でアーヤはユーリに飛び掛った。

 アーヤのハグハグ攻撃で、ユーリの顔は殿方の胸板にグリグリされた。

 鼻血ブー!

 ユーリの白い肌を彩った血の華。

 その瞬間、ユーリは世界が膨らんだような気がした。部屋の壁などが、ほんの一瞬だけ膨張したような気がしたのだ。

「今……(なにがあったんだろう?)」

「どうしたんだいユーリ?」

「ううん、なんでもないの。おにいたんとずっとこうしてたい……おにいたんどこにも行かないよねぇ?」

「もちろんだよ、なにがあろうとボクはユーリの傍にいるよ」

「お約束だよ?」

「うん、約束するよ」

 二人は小指と小指を強く絡め、指切りげんまんをした。

「お約束を破ったらユーリをおにいたんのお嫁さんにするんだお!」

「うんうん、わかったよ」

 のっぺらぼうの顔なのに、なぜか兄が満面の笑みを浮かべているような気がした。

 瞳を瞑ったユーリは心の中で泣いた。

「(でも……お兄様は消えてしまった……現実の世界では……このままずっと夢が覚めなければいいのに)」

 世界が一瞬だけ膨張して戻った。

 ユーリの心を揺さぶる不安。

 そんなユーリをアーヤは心配そうに覗き込んでいた。

「本当に大丈夫かいユーリ?」

「うん、ぜんぜんへーきだよ! ユーリはいつも元気だもん♪」

「あはは、うん、ユーリはいつも元気だもんね」

 アーヤはユーリの頭を優しく撫でた。

 優しい温もり。髪の毛を通して暖かいアーヤの体温が伝わってくる。

 急にアーヤは『あっ』と声を漏らした。

「そうだ、いい子のユーリにプレゼントがあるんだった」

「なぁに?」

「ちょっと待ってて」

 アーヤはユーリに背を向けてなにやら大きな箱のフタを開けているようだった。

 赤フンがケツに食い込んでTバックになってますよ!

 鼻血ブー!

 もうユーリは瀕死だった。

 アーヤは可愛らしい服をユーリに見せた。

「可愛いだろう? 有名な仕立て屋にボクが描いたデザインで作ってもらったんだ。ほら、ここのフリルとか萌えるよね」

「おにいたん、それちょっとスカートが短い……」

「いいから、いいから、早くボクに着て見せてよ」

「うん♪」

 ベッドから降りたユーリは服を気替えはじめた。アーヤはじーっと気替えを見ている。

「おにいたん、あっち向いてて!」

「生着替えの過程も大事なのに……着替え終わったら声をかけてね」

 アーヤは両目がある部分を手で隠した。指の隙間がちょっぴり開いているのは仕様だ。

 パジャマを脱ぎ捨ててユーリはパッと着替えを済ませた。

 だが――。

「(やっぱりこれってスカートが……)お、おにいたん……き、着替えたけどぉ」

「カ、カワイイ! この世で一番カワイイよ、やっぱりユーリは何を着させても似合うよね。あとは魔法ステッキを持ったら、完璧な魔法少女プリティユーリに大変身だね!」

「お、おにいたん……おぱんつ見てるのは恥ずかしいよぉ」

 スカートが短すぎてパンティーが半分以上丸見えだった。

「大丈夫、それは某海藻ちゃん仕様だから!」

 仕様ならしょーがないか♪

 アーヤは手に持っていたユリの花をユーリの髪に挿した。

「さっき摘んで来たんだ、ユーリに似合うと思ってね」

「おにいたんありがとぉ」

「嗚呼、生きていてよかった」

「でも……」

「でも?」

 急にユーリは不安そうな顔をした。

「でも、こんな格好をしてると……またお母様に叩かれるよぉ。お母様もお父様も、シィ兄様も、みんなユーリのこと大ッ嫌いなんだもん」

「大丈夫だよ、もうみんないないんだから」

「みんないない?」

「そうだよ、ボクたちは駆け落ちして家を飛び出したんじゃないか!」

「……えっ?」

 駆け落ちってあの駆け落ち?

 男女が結婚や交際を反対されて逃避行するアレ?

 唖然とするユーリをアーヤが優しく抱きしめて囁く。

「もうずっと一緒だよ」

「駆け落ちって……ユーリとおにいたんが?」

「そうだよ、駆け落ちして結婚して、今はハネムーンの最中じゃないか。昨日の夜だってボクらはあんなに愛し合ったのに……激しすぎて覚えてないのかい?」

 悪戯っぽくアーヤは言った。

 鼻血ブー!

「ユーリとおにいたんが燃えるような激しい男女の……(ありえない、それはありえないけど、もしもそんなことが……いや、ない。アタシに女装を仕込んだのはお兄様だけど、お兄様がアタシにそーゆー関係を迫ってきたことはないし、一線を越えるなんて……だって血の繋がった兄弟だよ)」

 でも、鼻血ブー!

 取り乱したユーリの頭の中はピンク一色に染まった。

 世界が揺れる。

 激しく世界が膨張する。

 まるでこの世界が爆発するような……。

 ユーリはハッとした。

「思い出した!」

 世界はさらに膨張を続けていた。

 いつの間にかふんどしを取ったアーヤがユーリをベッドに押し倒す。

「ユーリ、愛してるよ」

「ダメ……でもいいかも……じゃなくて、ダメ……じゃないかも」

 世界が、世界がどんどん膨れ上がる。

 ユーリの胸のドキドキが爆発しそうだった。

 のっぺらぼうだったアーヤの顔に唇が浮かんだ。

 そして、唇と唇が重なる瞬間――。

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