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第2話_ドリームにゃんこ in 夢(む)フフ(2)

 『ロロアの林檎』を売店で買ってきて早数日。まだ惚れ薬はできていない。

 もう九月も今日で終わってしまう。

 今日は学院もお休みなので、ユーリはカーシャの自宅に直接催促に出かけた。

 東居住区にあるアパート。その部屋の一つがカーシャの自宅だった。

 一階の角部屋の前に立ったユーリはインターフォンを押す。

 ピンポーン♪

 返事がない。

 ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン!

 返事がない。ただの留守のようだ。

 深読みが得意なユーリは居留守かとも思ったが、地面に紙切れが落ちているのを発見した。

「えーと、『急用があるやつはルーファスの家に来い』ってなんでルーファスの家?(やっぱりあの二人……ただの生徒と教師の関係じゃないのかも)」

 さっそくユーリはルーファスの家に向かった。

 カーシャの自宅から歩いて三分もない距離にルーファスの家はある。二人の疑惑は深まるばかりだ。

「(まさか愛人関係)」

 なんてユーリは思ったが、すぐに鼻で笑って否定した。

「……ないない(カーシャ先生も打算で生きてそうな人だし、ルーファスなんて利用価値なさそうだもん。あ、でもドジでマヌケでへっぽこだから、簡単に言うこと聞くのかも……パシリ程度にはなるかな)」

 そんなことを考えていると、すぐにルーファスの家に着いてしまった。

 借家と言っても一軒家、学生の分際で悠々自適な暮らしっぷりだ。

 クラウス魔導学院に通う生徒は裕福な階層と苦学生に二極化しているらしいが、あきらかにルーファスは裕福な階層なのだろう。

 ユーリはインターフォンをピンポーンと押した。

 返事はない。

 せっかく着たのにまさかの留守

 ユーリはドアノブに手をかけて力強く回すと――あっ、開いた。

「お邪魔しまーす」

 勝手に上がりこんだユーリは思わずため息を漏らした。

「(相変わらず汚い)」

 ルーファスの家に上がったのはこれがはじめてじゃなかったが、汚いものは何度も見ても汚い。

 キッチンから物音が聞こえた。居留守だ!

 すぐにキッチンに駆け込んだユーリが見たものは――ようかんを食べるカーシャだった。

 まるで自分ちのように寛いでいるカーシャ。

「なんだ、ルーファスだったら留守だぞ?」

「ルーファスじゃなくてカーシャ先生に用なんですけど……(ルーファスもいないのに、なんでこの女がいるの。やっぱり愛人)」

「妾はお前などに用はない」

 キッパリ断言!

「アナタになくてもアタシにはあるんですけどぉ。惚れ薬はまだできないんでしょうか?」

「あれならとっくにできておるぞ」

「じゃあ早く渡してください」

「昨日ルーファスに預けたが、まだ受け取っていないのか?」

「受け取ってません!(どうしてルーファスなんかに預けるの、アタシに直接渡せよ)」

 で、そのルーファスは家にいない。

「ルーファスはどこに行ったんですか?」

「知るか」

 キッパリ断言!

 ユーリの拳がグッと握られた。

「あはは、知らないんですか、そーですか(なんだこの女、無性に腹が立つ)」

「そうだ知らん。それよりもお前……」

「なんでしょうか?」

「そろそろ猫を被るのをやめたらどうだ?(このにゃんにゃんめ……にゃんにゃん、にゃんにゃんかわゆいな、ふふっ)」

「…………」

 ユーリとしたことが言葉を失ってしまった。そんなことしたら無言の自白だ。すぐにユーリは取り直す。

「猫を被るって意味がわからないんですけどぉ。アタシぃ、ぜんぜん猫なんか被ってませんよぉ」

 思いっきり被っていた♪

 笑顔爆発のユーリ。でも、目の奥は笑っていない。

 カーシャは淡々とお茶を飲みながら、ユーリに近くの席を進めた。

「まあよい、そこに座れ、オ・カ・マちゃん、ふふっ」

「あはは、ヌッコロスぞぉ♪」

「やっぱり猫を被っているではないか(まだまだ甘いな、ふふっ)」

 勝者カーシャ!

 カンカンカンと勝利のゴングが鳴り響いたところで、勝者から敗者にようかんが差し出された。

「これでも食って頭を冷やせ」

「なんですかこれ?」

「東方の和菓子だ、名はようかんと言う。この街のももやと言う店で売っておるぞ(あそこのドラ焼きも絶品だ)」

 さっそくようかんに手をつけようとしたユーリだが、やっぱり手を止める。

「タダですか?(この女がタダでくれるハズが……)」

「ルーファスのだから思う存分食すがよい」

 ルーファスのかよ!

「じゃあ、いっただきま〜す♪」

 食うのかよ!

 カーシャもユーリも自分中心で世界が回っていた。

 飲み物が欲しくなったのでユーリは勝手に冷蔵庫を漁る。

「あ、オレンジジュースある。でも一〇〇パーセントじゃないのぉ? 普段は一〇〇パーセントしか飲まないんだけどぉ、まっ、いっか」

 やりたい放題いいたい放題。

 オレンジジュースを飲みながら、ユーリはすっかり寛いで……どうするっ!

 ハッとユーリは我に返った。

「違うし、こんなことをしに来たんじゃないし。惚れ薬を取りに来て、持っているのはルーファスだから……」

 キッチンからも見える腐海の森……この樹海から探せと?

 ユーリはお祈りのポーズをして天を仰いだ。

「(これは神が与えたもうた試練なのですね、お兄様。嗚呼、お兄様だったら、こんな場合どうしますか、家ごと燃やしますか? 燃やしたらダメですね、片付くけど片付くの意味が違いますものね。嗚呼、お兄様、アタシにどうか力を貸してください)」

 と、言うわけでユーリちゃんは気合を入れた。

「よっしゃ、片付けするぞぉ。掃除・洗濯・夜のお勤めは淑女の嗜みだもんね!」

「お前、オカマだろうが」

「あはは、次言ったらヌッコロスぞ♪」

 ユーリはようかんの刺さったフォークを強く握り締めていた。怨恨は刺殺が多い。

 さっそく掃除をはじめたユーリ。もちろんカーシャは手伝う気ゼロ。それでもユーリはめげずに殺意を押さえて掃除をした。

 ――それから数時間後。

「やっと終わったぁ!」

 精根尽きたユーリはカーペットの上に倒れた。

 ユーリは天井を見ながら、瞳から涙を流していた。

「(嗚呼、お兄様アタシは頑張りました、褒めてください)でも、なんでねぇーんだよ!」

 探し物の惚れ薬は見つからなかったようだ。

 ユーリは涙を拭いてシャキッと立ち上がった。

「なんでないの、まさかルーファスが持ったまま? てゆか、こんなに隅々まで掃除したのに、エロ本すら見つからないなんて……まさかまだ掃除してない場所が」

「ルーファスの家にエロ本などないぞ。あやつのエロに対する免疫ゼロでな、パンチラ程度で鼻血を出すチェリーボーイだ」

 カーシャはテレビを見る片手間でそう言った。メロドラマだ。

 こうなったら直接ルーファスに問いただすしかない。

「アタシ、ルーファスを探してきます。心当たりはないでしょうか?」

「ない!」

 キッパリ断言!

「あはは、そーですかー」

 カーシャに聞いたのがバカだったと思いながら、ユーリはルーファスの家をあとにした。

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