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ディメンションダイバー  作者: LESTAT
序章
28/37

断章

この章を読んで目が点の方、

安心してください、回収しますよ!

僕がBiSiPここに潜って3日経った。


「仮想世界における検証を通じた外界環境の急激な変化による生体および生物種への影響」

それが執筆中の論文のタイトルだ。呪文のようだけど、論文なのだから仕方がない。簡単に言えば、隕石が地球に落ちてきたとして、それがある生物を絶滅させる代わりに別の生物が繁栄するか、とかそんなことを研究してるのが僕だ。

何の役に立つのかー僕もよくわからない。この学科を選び、研究と論文で身をたてることを選んでしまったのだから仕方がない。


今流行りの人工知能とやらであらゆる物理法則を再現し、生物も可能な限り再現した途方もない仮想世界、そう聞いて仮説の検証に最適だと思ったのは僕だけではないはずだ。事実、今やあらゆる企業が目をつけてスポンサー契約を我先に申し出てきていた。

実験テーマの募集は何度か行われたが、個人の応募はもう打ち切られている。最初でこそ話題作りのために広く実験テーマを募ってみたが、今や協賛金を払って応募する企業をさばくのに精一杯で、金にならない個人の応募に貴重なリソースを割く必要はないのだ。僕の応募が通ったのはゼミの教授のコネが開発者グループにあったことと、タイミングのおかげだろう。応募当時の審査は正直甘かったこともある。


何はともあれ僕は30歳にして論文の検証のためにこの巨大な箱庭の一部を使うことになった。大規模災害が生物種の繁殖状況に与える影響をこの地域でシミュレーションするのだ。

隕石の落下―太古に恐竜を絶滅させたと言われるこのイベントでK-Pg境界の大量絶滅のシミュレーションをかけたい。そのためには前後の生物相をBiSiPバイシップへのダイブで調べる必要があった。それが文系の僕が苦行のようなダイバートレーニングを受け、装具をつけてダイブに至る理由だ。


理解しがたかったのは、いちいち生物プログラムの意識内に自分の意識や精神を同期させる、このダイブというシステムそのものだ。BiSiPバイシップ内に定点観測用のカメラを仮想的に設ければ済む話だ。もしくはアバターを作ってそれを画面で操作すればいいだけのことだ。まあ、環境に与える影響を最小化するため、というのも理解できなくはないが、とにかくめんどくさい。まあ、それがルールなら仕方がない。


しかし、いざ潜って見ると、ダイブは僕に新鮮な経験を与えてくれた。夜がない代わりに赤と青の空が入れ替わる奇妙な自然現象。奇妙な生物達―魚が空を飛び、樹木が歩き、巨大な昆虫が闊歩するなんて、ゲームの話のようだ。そして何より、退化した第三の目をもつ奇妙な人間型の知的生物と、中世ファンタジーもどきの独自の文化。VRゲームは結構やったけど、そのどれとも違う圧倒的な説得力と存在感がある。僕はすっかりこの世界に魅せられていた。


空を見上げた。このおかしな色の空もようやく慣れてきた。

今日中にこのフィールドを歩いて生物相の調査を完了する必要があった。といっても、必要な生物のリストアップは完了しているので、あとはサンプルの入手を完了させるだけだ。

目の前の森の中に入れば、いくつかは捕獲できるだろう―。

目の前に鳴き声と共に大きな影が飛び出してきた。

退化した羽、大きく発達した足、長い首の上に大きな嘴をもつ顔、ジャラットと現地の知的生物に呼ばれている陸鳥の一種だろう。こちらに向かってくる。害意は感じられないが、必死の形相だった。


慌てず、プログラミングした定型動作に移行する。手にした麻酔針銃ニードルガンを向け、撃ち込む。麻酔針を撃ち込まれたジャラットは、一瞬弾かれたように硬直し、二歩ほど歩いて地面にどう、と倒れる。僕の意のままに動くこの生物プログラムの体はBiSiPバイシップの中の探索や作業のために用意されたものだ。現地の知的生物というよりは人間そのものの体をイメージして作られたもので、予め緊急用の定型動作マクロがセットされている。現実世界の僕はこんなに麻酔針銃ニードルガンを上手に使えない。


ジャラットを調べるためにそばに近づいた。確かこいつのサンプルも必要だったはずだ。

後で考えれば、もう少し慎重であるべきだった。

なぜジャラットが必死に走っていたのか、それはもしかすると捕食者から逃げ回っていたのではないか?

地面に落ちた大きな影を見た瞬間、僕は後悔に襲われた。

見上げた頭上には大きなあぎと。思考の一部が危険生物データベースから情報を引き出すまでもない。ブレリィだ。


知っている動物で一番近い姿は肉食恐竜だろう。但し、尻尾は太く短く、腕は太めだ。一番特徴的なのは、両手の三本指の真ん中の指が異常に発達していることだ。伸ばせば自分の体長程にもなる長すぎる指は、普段は蝶の口のようにぐるぐるに丸まっているが、いざ伸ばすと鞭のような強靭さを発揮する。これで捕食対象を捕らえて大きな顎で噛みつくのがこいつの食事だ。


緊急用の定型動作マクロは既に発動していた。横にローリング。その後で麻酔針銃ニードルガンを構えて水平射撃。

しかし、間に合わない。

ブレリィの左手の指はすごいスピードで伸びて、僕の手から麻酔針銃ニードルガンを弾き飛ばした。人間の道具をまず先に狙う―おそらく知能が高いのだろう。意外とピンチかもしれない。

もう一方の指が伸びる。胸を狙ったそれをかろうじてかわした。

だが、伸びた指は大きく弧を描いて回りこみ、僕の体に巻き付いた。指一本とは思えない力で締め上げる。まずい。


空気を裂く音がした。バツン、という嫌な音と共にブレリィの指が切れて落ちる。呼吸が楽になった僕は膝を着いて咳き込んだ。

続いてさらに空気を裂く音が続いた。今度は細い音だ。

音の原因になった飛翔体は矢の形をとってブレリィの首や腹に突き立った。怒ったブレリィが矢の飛んできた方に口を向けて咆哮を上げる。その顔や目にも次々と矢が刺さっていく。

動きの鈍くなったブレリィの腹に大型の槍が突き刺さった。苦悶の咆哮が辺りに響く。その声も眉間を割るように刺さった大型の刃物でプツリと途絶えた。どう、と音を立ててブレリィが倒れた。


矢を放っていたのは民族衣装のような出で立ちの数名の男女だ。

両脇の屈強な男が槍を投げたのだろう。真ん中にいる女がリーダーだろうか。彼らは僕に警戒しながらやって来て、ブレリィの体から矢や槍を引き抜いた。リーダーの女がブレリィの眉間から回収したのは大型の透明なブーメランだ。何かの文字のようなものが浮かびあがると、それは自ら動いて女の手に収まった。

彼らは指示を待つまでもなく、あっという間にブレリィの解体に取りかかる。


「助かりました。礼を言います。ありがとう。」

少々翻訳がぎこちないが、僕は礼を言った。この連中は間違いなく狩人の一部族だ。危険生物を狩り、その肉や革で生計を立てる少数民族。独自の文化と戦闘能力の高さでも知られている。

「異なる里の狩人よ、我らは我らの狩りに励んだだけ。」

リーダーの女がこちらに答えた。

なるほど、僕も狩人の同類と認識してもらえたようだ。

「ええっと、助けてもらったついでに何ですが、その…ブレリィの体の…一部を貰えませんか?ちょっとでいいです。ここに入るくらい。」

僕は慌てて礼と共にサンプルの回収を願い出た。サンプルケースを見せながら彼らの取り分には影響しないことを告げる。

「異なる里の狩人よ、我らの獲物を欲するか。いかなる道理で請い願う?」

確かにそうだ。我ながら厚かましい要求をしてしまった。

「あのジャラット…あげますよ。助けてもらった礼もあるし。サンプル以外は要らないので。持ってっちゃって下さい。」

取引という形をとって申し出てみた。彼らにはこのほうが分かりやすいだろう。

「ジャラットを狩りながら、嘴も爪もいらぬと申すか。あまりに寛大にして過ぎたる申し出。そちらの部族は救命の報恩を重くとらえる誓約を有するか。」

彼らは内輪で一言二言話すと、こちらに同意を示した。

「改めて告げよう。そちらの申し出、しかと同意した。」

僕が捕獲したジャラットの嘴や足の爪と交換ということで決着した。 この取引に彼らは気を良くしたようだ。

「異なる里の狩人よ、孤独の狩りは勇なるかな。然れどもその身を案ずる者の身になれば、この森を出るまで我らと道程を共にせんことを願い出る。先ほどのそちらの報恩に感銘を受けた者として、願わくは我らの申し出を一考されたし。そして更に願わくば、饗宴にも客人として参加を願いたい。」

翻訳機の間違いなのか、大袈裟な言い方だ。

意味としてはさっきあげたジャラットの礼として、僕に同行してくれるということだろうか。

信用していいものかどうか考えたが、この森の危険生物は想像以上に手強い。さっきみたいなブレリィには僕は太刀打ちできないだろう。義理堅い部族に見えるし大丈夫だろう。それに敵意があればもう攻撃されてるはずだ。

「ありがとうございます。有り難くお受けします。」

身振り手振りを交え、感謝の意を伝えた。


彼らは危険生物を狩り、その肉や革で生計を立てている現住民族の1つだった。弓と大型の投げ槍を中心に中距離から集中攻撃をする戦法は、危険生物達には効果的だった。彼らの狩りの手腕は期待した通りで、僕のサンプル回収ノルマはすぐに達成できそうだった。


特にリーダーの女性―ネフリというらしい―の腕は大したものだった。彼女の得物であるブーメランは薄い透明な材質でできていて、飛んでいるかわからない。これは狩りでも対人戦闘でも大きなアドバンテージだろう。更に、不思議な事に、このブーメランは生きているように彼女の手元に戻ってくる。ブーメランに時々浮かび上がる光る文字のようなものが原因だと思うけど、これは仕組みが良くわからない。


夜には彼らのキャンプで寝食を共にした。大体は昼間の狩りの獲物をシンプルに焼いて食べることが多かった。

ただ焼いただけなのにやけに旨い。

にっこり笑って串に差した肉を渡すネフリを見ると、改めて彼らの部族に出会った幸運に感謝した。


予定していたサンプル回収を概ね終えた僕は、ダイブ地点に戻ることにした。僕がそのことを告げるとネフリ達は残念そうな顔をする。こちらも少し寂しくなった。

大体何でデータリンクでは駄目なのか。BiSiPバイシップ内のプログラムであればその構成要素の一部はデータに返還可能で、それを送信すれば済むだけの話だ。切り取った体組織の一部をオブジェクトとして持ち帰る意味がわからない。


一方で、携帯デバイスで僕のスケジュールを見るとアラートが上がっていた。別のスポンサー企業による広域実験が隣の地域でもうすぐ予定されているらしい。

原発事故による放射能汚染を想定した除染の実験のために、放射能汚染を想定した環境変化が予定されている。危険度は特Aだ。

メッセージはこの地域を含む影響範囲からの早期退去を推奨している。生物プログラムに対し、どう放射能の影響を測定するのか、それはそれで生物環境学の観点でも興味深い。

僕の地域では隕石落下を想定した実験が行われるはずだった。

放射能汚染に隕石落下。冗談のような災厄の連続だけど、これもまたBiSiPバイシップの存在理由なのだから仕方ない。

しかし、ふと携帯デバイスを握りしめて考えた。

はたして、ネフリ達の一族は大丈夫なのだろうか。

BiSiPバイシップ内の生物プログラムに過剰なシンパシーを持つことは現実世界での適応障害を招く兆候―そう教わったはずなのに、僕はその思考を追い出すことができなかった。


ネフリの一族と別れる前の晩、ささやかながら宴が催された。

今日の獲物と酒が料理として振る舞われる。僕はなぜか別れがたいものを感じていた。プログラムである彼らに親近感を抱いてしまっているようだ。ネフリが骨で作った杯を片手に僕の隣に座った。

「異なる里の狩人よ、げに善き道中であったな。」

「いやあ、こっちこそ有り難うございます。ほんっと助かりました。こういう出会いもいいもんですね。」

僕は酒の影響もあって少し饒舌になっていた。

「そちらにも善き道中であったようで何よりだ。」

ネフリは微笑むと、体を密着させてきた。ドキリとする。近くで見るとネフリは素朴だが整った顔をしている。彼女の手が僕の手に重ねられた。ドキドキが大きくなる。


まずい。いいのだろうか?これは何かの冗談か?

それとも本気にしてしまっていいのだろうか?

僕は文章にすることの躊躇われる妄想で頭を膨らませ始めた。

「善き…旅立ちになることを祈りてやまぬ。」

「ああ…ありがとう…。」

「時に…饗宴を始めるがよいか?」

彼女の声が潤みを帯びたようだった。

「饗宴?」

そういえばそんなことを言ってたような気がする。その言葉は、この後に始まる男女のお楽しみを意味しているに違いない。

「いいよ、歓迎だ。」

肩を抱こうとした手が抑えられる。女性とは思えない強い力だ。どうやら僕は調子に乗りすぎてヘマをしてしまったのかもしれない。セクハラと思われたのなら謝ろう。気まずくなることは避けなきゃいけない。

そう思ったとき、彼女が僕の腕を上に高くあげて叫んだ。

「皆、客人は今宵の饗宴に参加することと相成った!」


ええ?何?何なんだ?

「ちょっ…」

言いかけて、僕に注がれる何人もの目に気付いた。ネフリの仲間達、男も女も皆、熱に浮かされたような目で僕を見ている。ネフリと同じ目だ。自分の欲望を満たしてくれるモノに対する期待感。その欲望はどうやら性欲ではない。もっと原初の欲望だ。

「饗宴…久しいな。」

「喜ばしきことよ。」

彼らは次々と期待を口にした。刃物を手にしながら。

「供物を迎え、ここに饗宴の始まりを告げん。」

彼らの僕に抱く欲望が食欲であることに、そこでようやく気付いた。彼らの口から呻きが漏れる。

「深謝する。異なる里の狩人よ。」

僕は麻酔針銃ニードルガンに手をかけ、走ろうとした。

足が動かない。

ふと気付くと、白い光で出来た文字がぼうっと僕の足に浮かんでいる。ネフリの仲間の二人が膝を着いて一心に祈っていた。彼らの眼前の空間にも何か文字が浮かんでいる。

どうやらこの呪文のようなものが僕の足を拘束しているようだ。


僕が腕だけの動作で引き金を引けたのは定型動作マクロをアップデートしてたおかげだった。ブレリィの時の反省から、片手で抜き様に正確な射撃を行う動作を組み込んでおいたのだ。

不自由な体勢のまま左手で体を支えて連射モードで前方の二人を凪ぎ払う。祈っていた二人が倒れると、足が自由になった。

そのまま転がってさらに一射。弓を構えてた一人が倒れる。

横に大型ナイフを構えた別の1人。喉を狙った一撃を銃で防いで膝蹴りを顔面に入れる。これも格闘用に用意した定型動作マクロだ。僕は走り出した。とにかく逃げるしかない。


この世界での死が現実世界の僕の死を意味しないことは分かってる。でも、死を体感することによる心的外傷トラウマやPTSDも報告されてるのだ。おまけに相手は食人族みたいな連中だ。おそらくまともな死にかたではないだろう。逃げるしかない。怖いじゃないか。仕方がない。


ピーピーとアラートがポケットから鳴っている。こんな時に。

そう思って無視していると、視界の一部にメッセージが強制表示される。「実験開始3分前。カウントダウン開始。」

慌てて木の陰に隠れてデバイスを取り出す。触った瞬間に違和感を覚えた。取り出した携帯デバイスは傷だらけだ。ディスプレイ部分も割れている。何かでこじ開けようとした形跡もあった。

おそらく、寝てる間にネフリか彼女の仲間が僕の荷物を漁ったのだろう。携帯デバイスに興味を示し、中に何か貴重品が入ってるとでも思ったのかもしれない。


そこまで考えてドキリとする。

さっきのメッセージの強制表示。あれは緊急時にデバイスがこのプログラムの体にリンクして視覚に重要メッセージを表示するものだ。緊急メッセージが送られる前には通常何回か警告メッセージが送られるはずだ。

さっき見た限り、デバイスの受信機能が壊れててもおかしくない。多分警告メッセージは何回も送られていたのだ。さっきのが最後なのかもしれない。

じゃあ、何に対する警告なのだろう。たぶん、広域実験の放射能汚染か隕石に関係したものだろう。実施はまだ先のはずだ。

…だけど、もしも、実験のスケジュールや対象地域が変更されていたとしたら?


「供物たる者、聖なる饗宴を汚して何とするか!」

ネフリの怒りに満ちた声が響く。

息を殺した僕の服からアラート音。自分の運の悪さにひきつった笑いが漏れる。

「そこか。」

ネフリの声はぞっとする響きを帯びた。

「痛さと死に怯えておるのか。げに可愛きことよ。すぐに捌いてやるが故、何も案ずるでない。」

堪らず走り出した。だけどそれは足音で彼らに位置を知らせることになったようだ。後ろから複数の走る音が近づいてくる。


「もしくは、我らに狩りの愉悦を与えんとするが望みか?」

彼女の声が追ってきた。予想より近い位置だ。

思わず後ろを振り返る。

ネフリの姿だ。

右手を前に突き出した状態で足を前後に開いて立ち止まっていた。まるで丁度何かを投げた直後のように。

瞬時に定型動作マクロが発動し、麻酔針銃ニードルガンを構える。

構えた直後にガツン、という音がして麻酔針銃ニードルガンの銃身が消失していた。手に残った半分も衝撃で空中に持っていかれる。

あの透明なブーメランだろう。


「40…39…」

カウントダウンは1分を切っていた。

定型動作マクロで僕はダッシュとフェイントを繰り返し、木陰から木陰に移動した。さっきまで立っていた足元に槍や矢が突き刺さった。僕の足が止まる。

道は消えていた。前方に広がるは断崖絶壁だ。

逃げてたつもりで、追い詰められてしまったのは僕だった。

「そちの柔らかき皮はよき水袋になる。腸も肉詰めにして子らに分けるとしよう。頭蓋も杯に使うてくれる。」

声が近づいてきた。冗談じゃない。プログラムのくせに。

でも、何でこんなに怖いんだろう。


足音はゆっくり近づいてきた。

順番に木陰をチェックしながら追い詰めてるのだろう。

「20…19…」

カウントダウンは続く。そもそもゼロになったら何があるのか?

「見ぃつけた。」

まずい。逃げ場はなかった。

「10…9…」

「動くでないぞ。」

「3…2…1…発射します。」

発射?絶体絶命なのに、その言葉は僕の注意を引いた。

武器を一斉に構えたネフリ達が近づいてきた。

その向こうに飛翔体が見える。

そいつはあっという間に目で見える大きさになっていた。

そういうことか。

僕は駆け出す。崖に向かって。

「着弾予定時刻は…」

僕の最悪な予想が当たれば、助かるかもしれない。

崖からジャンプする。

直前に、崖に一番近い樹にフックをかけるのを忘れない。


轟音が響いた。


崖の下に飛び降りた瞬間に、遥か向こうが光るのが目に入っていた。キノコ雲の上がる前に衝撃波がくるはずだ。

それは、このあたりの地表にいる者全てを凪ぎ払うだろう。

崖の上のネフリ達含めて。


雑な実験があったものだ。放射能と隕石の衝撃の効果を弾道ミサイルで一度に再現しようとしたのだろうか。

全然分かってない。

そんなことで環境変化の効果測定はできはしないのに。

責任者に説教してやらなくては。


轟音と爆風、地響きと熱風。

その最中で、実験に対する悪態を最後に僕の思考も途切れた。

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