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イーグル・アイ  作者: 香田 拓人
7/13

実戦

タカさんは、俺の手に、包帯のようなモノを、「ぐるぐる巻き」にした。

ミットや、サンドバックを拳で、打つ時に拳を「傷めないため」なのだと言う。

勿論、初めての経験だ。それは包帯では無く「バンテージ」なのだ、と教わった。


今日から、パンチング・ミットを、実際に打つ練習に入る。

と、告げられ、バンテージを巻いた拳で、ファイティング・ポーズとった。

俺たちは、向かい合ったが、タカさんと俺とでは、身長差が有る為、ミットを構えた

タカさんは、半ば中腰の姿勢だ。


両手にミットを付けた、タカさんは、先ず片方のミットの面を、俺に向けた。

「ジャブ」を打ってみろと。

俺は、今まで、空間動作で練習して来た、ジャブをミット目がけて、放った。

ジャブは、ミットにヒットしたが、それは鈍い音をさせただけで、ジャブを放った後

俺は、身体のバランスを崩し、無様に、よろめいてしまった。

「ミットを打つ事に、一生懸命になって、身体のバランスを崩したな」

「パンチを打つ時に、力み過ぎても駄目だ」

と、タカさんは説明してくれた。

俺は、肩の力を抜き、パンチが、ミットに当たる瞬間だけ「力」を瞬間的に入れる事を覚えた。


タカさんは、自分も、左右にフットワークで細かく動きながら、左右のミットの面をランダムに

出してくる。そのミットを追いながら、俺は左右のパンチを繰り出して行く。

しかし、タカさんの動きを追い切れず、全てのミットの動きにパンチを当てるのは、至難の技だった。

油断していると、隙を見て、ミットが俺の「横っ面」を叩いた。

攻撃ばかりでは無く、相手のパンチを、かわす練習も同時にやらされた。

この、ミットによる練習は、俺の動きを機敏なものにした。

今は、自然にフットワークも軽快に出来るようになった。

全身が映る「鏡」の前で、教わった「シャドウ・ボクシング」をすると、なかなか「様」になっていて、

我ながら「格好いい」と己惚れた。


自分を「蹴転がした」、例の上級生3人組は、学校やアパートの近所で、接近する事も有ったが、それは俺から、遠ざかるようにした。何故なら、未だ奴らに「敵う」程、強くなれていないからだった。


しかし、世の中の流れは、自分の都合のいいようには、出来ていないものらしい。


或る日、俺は学校帰りに、アパートへと続く、通学路の路上で例の、俺を蹴転がした「奴ら」3人組と出くわしてしまった。

俺は、奴らと眼が合わない様に、そそくさと通り過ぎようとしたが、以前と同じ「リーダー格」の子に

出会い頭に、右肩を掴まれた。3人に囲まれる格好になり、助けを呼ぼうにも、周囲には誰も居ない。

俺は、右肩を掴んでいた「リーダー格」の手を振りほどき逃げようとしたが、後ろから掴まれて逃げ出す事は出来なかった。

「最近、コソコソ俺達から逃げてるよな」

「ふん、今度は逃がさないぞ」

奴らにしてみれば、面白半分に「弱いもの苛め」を、しようって魂胆なのだろう。

リーダー格を筆頭に「ニヤニヤ」しながら、俺を囲んで来た、今にも手を出してきそうだ。

ここは、覚悟を決めなければならないだろう。

俺は、以前に「蹴り転がされた」事を思い出し、リーダー格の「顔を睨みつけた」。


リーダー格の子は、睨みつけて来る俺の顔を、一瞬、意外そうな表情で見たが、直ぐに

「生意気なツラすんじゃねーよ!」と、言いながら

俺の、左頬を平手で張ってきた。

一瞬、たじろいだが、何の事は無い、ボクシングのトレーニングの時に

油断するとタカさんから、顔面に貰う「パンチング・ミット」の方が、余程効く。

俺は、怯まずにまた睨みつけた。


リーダー格の子は、俺の胸ぐらを掴もうと右手を伸ばしてきたが、俺は軽くステップして

後ろに下がりながら、その子の右手を、自分の左手で内側へ軽く、打つように払い

手を払うと同時に、次は前にステップして「右ストレート」を、相手の顔面に叩き込んだ

そのパンチは「顎」にヒットした。俺の右手にはしたたかな「手応え」が有った。

相手から「ありえない」という、苦痛に歪んだ表情が見て取れた。

俺は、間髪入れず、動きの止まった相手に「ワン・ツー」を叩きこんだ。

そのワン・ツーの、左拳は顎に決まり、右は鼻に決まった。

相手は、前のめりに膝から崩れた。

一度、うつ伏せに倒れ、その後、寝返りをし仰向けになった相手の

両手で抑えた顔面からは、鼻血と涙が「ごちゃ混ぜ」になって、指の間から流れたいた。


呆気、に取られていた仲間の2人が「この野郎」と叫びながら、俺に同時に向かって来た。

もみくちゃになったが、狙うのは相手の鼻か、顎だ。

先ず、一人めは体重を載せた「右ストレート」を横から顎に叩き込んで蹲らせた。

2人目は、一人目にパンチを叩き込んでいる時に、横から蹴りを貰い、態勢を崩したが

直ぐに立て直し、更に向かって来る相手の顔面に、ワン・ツーを叩き込んだ。


3人共、顔面を押さえ、苦痛に歪んだ顔でそれぞれ、蹲っていた。

特に、リーダー格の子は、無様に泣きべそをかいていた。

当然である、今回のパンチで一番「いいのを」そいつの鼻に叩き込んだのだ。


気が付くと、息が上がり「肺」が破れそうで、心臓は運動会の徒競走並みの

苦しさだったし、さっき蹴られた脇腹も痛む。


俺は、その場に居るのが、急に怖くなりアパートへと、痛む脇腹を押さえながら

走った。

走りながら、俺の両手の拳には、奴らに叩き込んだ時の感触と、傷みが残っていた。

本当に、俺は「あいつら」に打ち勝つ事が出来たのか?

はなはだ、信じられない思いでアパートに向かった。


痛む脇腹を、押さえながら、やっとの思いでアパートに着くと

管理人の「イヨさん」が、清風荘の玄関前の、狭い花壇に向かい、手入れに熱中していた。

アパートに着くなり、安心した俺は、息苦しさに耐えきれずに、その場に座り込んだ。

俺の姿を見るや

驚きの表情で「どうしたんだい?たー坊」

イヨさんは、うわづった声を上げながら、小走りで駆け寄って来た。

何とか、イヨさんに、今までの事を説明しようにも苦しくて、声にならなかった。

その間も、イヨさんは、俺の表情を見たり、全身に何か怪我が無いか素早い目付き

で確かめていた。特に大事は無いと思ったのか

「ちょっと待ってなよ」と言い残し、アパートの玄関に駆け込んで行った。


間もなく、玄関から出て来たイヨさんの手には

たっぷりと、水の入ったコップが握られていた。

その、コップの水を見た瞬間に、俺は自分の喉が「カラカラ」な事に気づいた。

「ほら、この水を飲んで」

イヨさんに渡された、コップを受け取り殆ど「一気飲み」で飲み干した。

喉の渇きが癒えると、先程の荒い呼吸も、速い鼓動も何とか収まった。

心配そうに、俺の傍で俺を見つめる、イヨさんに俺は今までの経緯を語った。


それは、以前に公園で上級生の3人組に捕まり、自分や母親の事、清風荘の事を馬鹿にされ

挙句の果てに「蹴り転がされ」悔しかった事

また、いつか仕返しする為に、タカさんからボクシングを習っていた事

今日また、3人組に絡まれたけど、今度は負けずに渡り合った事などを語った。

初めは、眼を「白黒」させて聞いていたイヨさんだったが

元々、鉄火気質のイヨさんは、最後の話を聞き終わる頃には

目に涙を浮かべて、手を叩き大声で笑っていた。

「わたしゃね~、たー坊は弱虫だと思ってたけど、強くなってくれて嬉しいよ」

それは、上機嫌だったのだ。


しかし、話はこれで終わらなかった。


その夜、叩きのめしたリーダー格の親が清風荘に怒鳴り込んで来たのである。


。。。次号へ









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