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イーグル・アイ  作者: 香田 拓人
6/13

フット・ワーク

毎朝、タカさんから受ける、ボクシングの特訓は続いていた。

最初はぎこちなかった縄跳びは、1週間もすると、タカさんには

遠く及ばないが、それ程、失敗もせずに続く様になった。


縄跳びのコツは「跳ぶ」のでは無く、小刻みなステップを踏む要領だ。

高く跳んでしまうと、動作自体に無駄が有るし、短時間で疲労するため、スタミナの無駄遣いにもなるのだ。

それと、縄は腕で回転させるのでは無く、手首のみを使って回転させる事だ。

それらに慣れると、軽快に跳ぶ事が出来る。


毎日、30回の腹筋と腕立て伏せも続けていた。

しかしこれは辛く、どうしても連続で20回がやっとだった。

体が上がらなくなると一度休み、残りの回数を消化をする始末だ。


合い変わらず、母親は、夢中でボクシング(まだパンチは教えて貰っていないが)の練習に、夢中な俺を訝った。

イヨさんなんかは、タカさんに向かって

「たー坊まで、拳闘屋にしようとしてんのかい!変なもん、教え込むんじゃないよ」と、えらい剣幕だったが、タカさんは、曖昧な笑みを浮かべて、半ば無視していた。


10日目の朝、いつもの様に縄を片手にタカさんを待って居るとタカさんは

「その内に嫌になって止めるだろうって思ってたけど、案外根性あるな」

と、褒めてくれた。俺は、つい嬉しくなり頬が緩むのが自分でも解った。


「じゃあ、今日から次の段階に移ろう」

でも、毎日、縄跳びと腹筋、腕立て伏せは、続けるように念を押された。


「先ずは、ボクシングの構えからだ」

とタカさんは言い

俺に向かってボクシングのファイティング・ポーズを、徐に構えた。

様になっている。

駆け出しとは言え、さすがに「プロ」だ。

俺は1m程離れた位置から、タカさんを見上げた。


両膝は軽く曲げられ、その両足は肩幅位に前後左右に開かれている。

体は左構え、右利きのボクサー構えで、左拳は軽く顔面の前に置かれ

右拳は自身の顎に引き付けられている。


顎は軽く引かれ、射るような鋭い視線で俺を見据えている。

タカさんの全身からは、俺の全身の毛を、逆立てせるような

殺気が痛いほどに、伝わって来る。


俺は、その殺気に射すくめられ固まってしまった。


タカさんの身体が、小さく弾かれたように動いた。

次の瞬間、タカさんの拳が直ぐ目の前に迫った。

「わぁっ」!

俺は叫び

気が付くと、地面に両手をつき、見上げるように、無様に尻餅をついていた。

タカさんは左拳を突き出した姿勢で、口元だけ動かし無様な俺を見て笑った。

凶暴な笑顔だと思った。


ふと表情が緩んだと思うとタカさんは構えを解き

俺を立たせてくれたが、先程の恐怖で膝に力が入らない。


・・・


ボクシングの構えには沢山、注意しなければならない点を教わった。

立ち方は軽く膝を曲げ、前後左右の幅は肩幅位で自分が楽な姿勢で、軽く踵が浮く位の感覚で立つ。

左右の拳を構えた際の上体は、肩や肘に力が入ってはいけない。

顎は引き気味で、視線は上目遣いに、、、。


その姿勢を保ったまま、縄跳びでマスターしたステップを使い

前後、左右にフットワークで細かく、時には大きく移動をする。

しかし、俺がフットワークをしていると

「上体が前のめりになってるぞ!」

「拳が下がってきたぞ」

「肩に力を入れるな」


タカさんの激がとんだ。


1週間後、


何とかフットワークが様になって来ると、やっとパンチを教えて貰う事が出来たが

次はパンチと、フットワークの動きが一致しない。

教えて貰ったパンチは2種類

左拳を真っ直ぐに突き出す「左ジャブ」

右拳を真っ直ぐに突き出す「右ストレート」

この2種類だ。

他にもパンチの種類はあるそうだが

習ったのは、この2種類のみだが、パンチの組み合わせで

複数のコンビネーションが生まれる事が解った。


ジャブは、前進した際の推進力と腕力だけで突く

モーションは少く、相手にヒットさせ易いが、打撃力は少ない。


ストレートの場合、モーションは大きく、相手に、かわされ易いが腰の回転が

加わるため、打撃力は大きい。

「KO率の高いパンチだ」

とタカさんは教えてくれた。


サンドバッグもミットも打たない、空間動作のコンビネーションだが

スタミナは、続けて3分持たず、腕は重くなり息は上がった。

タカさんは、自ら手本を見せてくれ、朝の時間を一杯に使って教えてくれた。


俺は少しずつ、自分が強くなっているのを感じた。

もう「あいつら」に一方的に蹴とばされるのはご免だ。

次は「1発」でも、奴らにお見舞いしてやる。

「2度と、馬鹿にされてやるもんか!」

と、改めて思い返した。



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