回想:あの日の出来事
その日は空を雲が覆い尽くしていた。
昼に突然鳴り響いた危険を報せる鐘はすぐに村中へと広がり、村人達は自らの家の中へと急ぎ避難し地下へと隠れた。
ジルはその日レティシアの家へと遊びに行っていた。レティシアの手作りの菓子を振舞ってもらうためだった。突如鳴り響いたその鐘により菓子は結局食べずに終わってしまう。
村長の娘であるレティシアはジルと共に村長の家の地下へと隠された。
程なくして地上から聞こえる炸裂音と金属と金属の交わる音。
ウェンスドリア帝国騎士団と隣国、アースドルド公国軍が交戦を開始したと程なくして地下信管より連絡が入った。
村の地下通路を使い移動できる者は村長の家の地下室へと集まり、自らもいざとなった時身を守れるようにと武器防具を身につける。
村長の家の地下にはいざという時のために武器防具がたくさん用意され、ジルやレティシアも自らを守るために剣を持つことを決める。
「ジル、君にはこれを。レティ、お前にはこれをやろう……。必ず生きてくれ」
ジルが村長から渡されたのは鞘から柄まで全て光を飲み込んでしまいそうなほど黒い剣だった。
それに対し、レティシアが渡されたのは持っているだけでとても美しい光を放つ少々彼女が持つには大きめな剣だった。
後のエペタムとレーヴァテインである。
「覚悟は出来たな。男が先に出る、女子供はまずは俺の家で身を隠しておいてくれ」
村長を先頭に村人達は地上へと再び戻っていく。
「男衆、行くぞ!!!!」
村長のその掛け声と共に村の男は村長の家より飛び出ていく。
ジルもその中に混ざっていた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
レティシアは絶対に守る。
彼の心の中ではそれが全てを支配していた。
柄へと手を掛ける。
「……!?総員、ジルの後ろに行くんだ!!!」
勢いよく出た村長もすぐにジルの異変へと気付き村人達の安全を確認するかのように下がらせる。
「お、おい……。なんだよ、なんだよこれえええええ!!!!!」
ジルの持つ剣と鞘の間から黒い靄が漏れ出ていた。
「止まれよ、とまれよ、おい、村長!!これなんだよ!!!!」
「ジルよ、お前に厳しい運命を突きつけた私を許してくれとは言わん。だが、これは神の決めたことなのだ。すまない……」
それだけジルに言うと村長は村人をジルとは反対側の村の出口へと誘導していく。その間も黒い靄はジルの前方へと広がり続けている。
「お、おい……んだこれ、足が抜けねえぞ……!?」
アースドルド軍の騎士が一人、黒い靄へと飲み込まれていく。
「た、助けてくれええええええ!!!!!!」
その隣のアースドルドの騎士もだ。ジルの前方で広がっていた戦いはジルの持つ剣から発せられる黒い靄により一気に混乱へと変わっていく。
「あ……ああ……あああああああああああああああああ!?」
自らの身体からも何かが吸い取られていく。
大切な何かを。
『相当数の生命と、貴様の命。契約は完了した。』
頭の中に響く謎の声。
もう彼は上下左右も自分が何をしているのかも何を考えているのかも分からなくなる。
「ケイ……ヤク……?イノ、チ?」
先程まで広がっていた靄が一気にジルの剣へと収束する。
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
直後彼の脳内に様々な『声』が響きわたった。
『ツライミカタナノニナゼコロシタバケモノシネコロスシニタクナイタスケテクレニクイヤメロクルナハカイスルコワスハカイスルコロスコワスハカイスルメチャクチャニシテヤルナニモカモコワススベテガドウデモイイスベテヤキツクセコロスコロスコロスコロスコロスコロス』
「アア!?アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」
暴走が、始まった。
剣と喰らった魂の声に耐え切れず、彼は暴走を始めてしまった。
無差別に展開される魔方陣。
その中よりでてくる何百本という数の剣。
彼の周りを『エペタム』が覆い尽くしていく。
「ジル、本当に、本当にすまない……」
「やめて、お願い……。もう誰もいないのに、元に戻ってよ……」
出口から村長とレティシアはジルの暴走の様子を見ている。
止めたくても彼女らには決して止めることは出来なかった。
「コワス、コロス。ナニモカモ、ハカイスル」
『剣の魔物』と化したジルは破壊を求め村長達の方へと向き直る。
「聖櫃騎士団です!皆さん、大丈夫です、か……!?」
村人達の保護に来た国王直属騎士の集まり、聖櫃騎士団の一人がジルの姿を見て身を震わせる。
「そんな……、あれではまるで魔物ではないか……」
「ハカ、イ……」
『魔物』の口より魔方陣が開かれる。
矛先は村人達や聖櫃騎士団。
「シネ!!!!!!」
無数の剣が『魔物』の魔方陣より放たれていく。
その場にいる全ての人間が自分達はこの『魔物』によって消されるのだと確信し、目を瞑った。
「『巨壁』」
彼らの覚悟したような衝撃は、吟遊詩人のような見た目をした男の使う魔法の壁により全て弾かれたのである。
またまた遅くなってしまいました。煮込みすぎると本当に変な方向に進んで行ってしまいますね。今回で回想は終わりのはずでしたがもう少し続きます。感想、評価等待ってます。