火焔を纏った見習い剣士
ジルがシュラに拾われて3年が経った。
3年間に情勢は変わりに変わった。
もちろん彼ら黒翼の騎士団も戦へと赴いている。
時には少数の編成された小隊で敵を後ろから不意打ちしたり、時には正面から一気に攻めたりと様々な所謂『修羅場』をジルは経験していった。
「なあ、久しぶりに団員が来るって本当か?」
少し浮き足だった感じでイダがジルへと問いかける。
イダはジルとほぼ同期に騎士団へと入団した気さくな性格の青年である。ただ少しいたずら癖があるのが問題になりがちだが、そのいたずらも愉快なものが多くジルは彼のいたずらを好んで手伝っているときがある。
「ああ、なんでも帝都の騎士学校の卒業生らしい。そんな奴を入れるのを許すなんて、シュラの考えてることはわからんね」
シュラに今の黒翼の騎士団の中でもっとも近い存在であるジルですら今回入ってくる人物の名前は知らない。聞いてもシュラは教えられない、楽しみにしていろの一点張りだったようだ。ジルはそれが納得できないと同時に、少々楽しみな気持ちもある。
「『洗礼』は俺がやるからな?邪魔すんじゃないぞ」
「ジルは先輩方にめっちゃくちゃにされたからなあ、特に団長との相対は目も当てらんなかったぜ」
「言うな、思い出しただけでなんか身体が軋むから」
3年前、ジルが入ってすぐに行われた『洗礼』。
それは団員と新人の組手のことである。ジルはその組手で先に入っていた団員にめちゃくちゃにやられながらも最後のシュラまでたどり着いたが、経験の差も実力の差も歴然とした相手にジルは滅多切りにされて3日3晩生死を彷徨った経験をしたのだ。
「おーい、ジルとイダ。団長からの召集がかかってんぞ!」
「噂をしてれば、か。いこうぜジル」
「ん、行こう」
ふらりと立ち上がり活き活きと歩くイダの後ろにジルはついて行く。
『……なぁんか、嫌な予感とは違うけど変な予感がするな』
変な感覚に囚われたまま正面玄関前へと彼は向かった。
「本日より我が騎士団へと入団するティーアだ。皆、よろしく頼むぞ」
「ティーアと申します。まだまだ未熟な身ではありますがよろしくお願いします!」
ティーアと呼ばれた新人はとても印象的な人物だった。
まずは顔立ちである。
男でありながら、どこか女性を想像させる顔立ちをしている。
そして騎士団で一番身長の低いジルと比べてすらティーアと呼ばれる少年は身長が低かった。
「おい……、あれ本当に男か……?」
「……言うな」
イダが小声でジルの考えていたことと同じことを言うがジルはそれをあえて一蹴する。
「ティーア、早速だが組手を始めるがいいか?」
「はい、もちろんです!」
シュラの質問に元気よく答えるティーア。それを見て周りの団員は少しほっこりした顔をしている。どうやら癒し担当へとティーアはなるようだ。
「ではこれより『洗礼』を開始する!」
団員が輪を作りその中心で新人はバッタバッタと向かってくる団員を切り伏せる。
「見た目に反してやるな……」
いつの間にか隣に来ていたシュラがそう漏らすほどにティーアは強かった。
歴戦の騎士を相手に舞うように蹴散らしていく。
「ジル、お前はエペタムを使え。殺す勢いで構わん」
「……は?」
ティーアの動きに見惚れてしまっていたのか、いつの間にかジルの出番になった時にシュラはそんなことを言った。殺しても構わないと。
「いいのか?」
「ああ、ティーアは死なん。保障するさ」
団長の太鼓判なるものを貰い不審に思いつつもジルは腰に下げている愛剣『エペタム』を抜く。
「ジル……さんだよね?よろしくお願いします!」
「手加減はしない。死ぬ気でこいよ」
ティーアはジルに一礼すると今まで使っていた模擬剣を地面に突き刺した。
「……どうした、降伏か?」
「いえいえ、確かに怖いですけどね。ジルさんにこの剣じゃあさすがに失礼なので、ボクも本物を使おうと思いましてね」
そう言って、彼は手を上へと掲げる。
「太陽剣『レーヴァテイン』よ!我が身を火焔へと包み込み給え!!」
「レーヴァテイン!?」
ティーアの掛け声と共に掲げられた手を中心に展開される魔方陣。
その中心を握り一気に彼はその『剣』を抜き放つ。
「レティ……」
「行きますよ、ジルさん!!」
言いたいこと、聞きたいことがシュラに沢山できてしまった。
『シュラの野郎……、何が新人だ、何が見習い剣士だ……。本当に嫌味なことしてくれやがる……!!』
そう内心でシュラに悪態をつきながら向かってくるティーアの剣をジルは受け止めた。
遅くなって本当に申し訳ありません・・・。テストにアルバイトに、(ゲームに)いろいろ忙しくて更新が遅くなってしまいました。是非感想など指摘などあれば遠慮なくお願いします。