ワタシノ
ある家の、ある部屋に、二人の女の子がいます。
それだけなら、姉妹であるとか、友達であるとか、二人はそういう関係なんだろうなぁと、聞いた人は気にも留めないでしょう。
さて、二人の女の子、片方はわたくし、筒ヶ峰綾子。もう片方、つまり、
「はー、はー、っ、はぁ」
歪んだ笑みを浮かべつつ頬を紅潮させ、倒れているわたしに覆い被さって荒い息を吐いている彼女は、社辻ちゃん。
いかにも女の子な彼女の部屋で、二人の少女がこういう状況になっていると聞いたら、聞き手はどんな想像をするでしょう?
わたしだったら、それくらい仲が良いんだろうなぁ、くらいにしか思いません。実際、わたしと辻ちゃんは仲が良いですし……真っ白な髪が首筋に触れてこそばゆい。
「あやちゃん、あやちゃん」
「ん? なぁに?」
聞いてみても、辻ちゃんはわたしの名前を何度も呼びながら、顔を近づけて来ます。あぁ、またか、と思っていると、
「んっ、んふ」
かぷり。そんな可愛らしい擬音がピッタリでしょう、首筋に噛みつかれます。
どこか必死なその様子に、ゾクゾクとした快感が背筋を昇って来ました。
やがて血が滲んできた様で、小さな喉を鳴らして一生懸命飲み込んでいます。なんて可愛いんでしょう。
愛らしい辻ちゃんをもっと見たくて、小さな頭に手を添えて首に押し付けます。鋭い犬歯が食い込んで、ドクドクと出血していることが分かります。
一瞬戸惑った様子を見せた辻ちゃんでしたが、直ぐに、より美味しそうに喉を鳴らします。同じ様に、彼女とわたしの鼓動も激しくなります。
一体となっている感覚に、いつものことながら息が荒くなってしまいます。
「ん、んく、ふ、ん」
一頻り飲んだのでしょう、上げた顔はすっかり蕩けており、口の端には赤い筋が一本。
指の腹で拭い差し出すと、小さな口でしゃぶり付かれます。血と言うより指を味わう様に、隅々まで丹念に舌を這わせると、指をくわえたまま紅い瞳で見上げて来ました。
空いている手で頭を撫でながら頷きます。
指の腹にぴりりとした感覚。
なんとも美味しそうに、わたしの指を味わってくれています。
今度は暫く掛かるでしょうから、簡単に彼女のことを紹介しましょう。
血を飲む。白い髪。紅い瞳。これらの特徴から、この娘が吸血鬼ではと考えた方もいるかも知れませんが、それは違います。この娘はわたしの幼馴染みで、わたしの血が大好物な血液嗜好症の、普通の女の子です。
小学四年生の夏休み。自由工作をしていた時、カッターで指を切ってしまったのが始まりでした。わたしの指から出てきた血を、辻ちゃんは息を荒くしながら見ていたのです。
そんな辻ちゃんを見たのは初めてだったので、病気か何かかと心配しましたが、何のことはありません。
――あやちゃんの血、欲しい。
ただ、わたしの血を欲しがっているだけで安心したのは、今でもよく覚えています。まあ、ほんの四年前のことですからね。
そんな訳で、その日から、辻ちゃんはわたしの血をよく欲しがる様になり、カッターは必需品になりました。
そういえば、中学校に入学してすぐのこと。教室で指を切ったわたしと、その血を飲む辻ちゃんを、周囲の人は異質なモノを見る様な目で見ていましたが、どうしてだったんでしょう? 本当に異質だとしても、わたし達には普通ですから、そんな目を向けられることが理解できません。
わたしを見つめながら血を飲む辻ちゃん、カメラに収めたかったですね。
それから何度か教室で同じことをしていたら、別々に生徒指導室に呼び出されましたが、その時も血飲行為をしていたので無視しました。最優先事項ですから、当然ですね。
「ん、ちゅぷ……はぁ……」
簡単では無くなりましたが、どうやら終わったみたいです。
「満足した?」
勿論、答えは分かっています。
服を弱々しく掴んで、潤んだ瞳でもっと、とせがむ彼女に、わたしの熱は昂ぶるばかり。
あぁ、わたしの辻ちゃんは、どうしてこんなに可愛いんでしょう? あ、わたしの辻ちゃんですから、可愛いのは当たり前ですね。
掬い上げた一房の髪に口付けをして、
「ベッド、行く?」
微かに、本当に微かに、
「……」
彼女は頷きました。




