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5話「チート?」

 今度こそマジで昇天するかと思ったわ、クソが。

 はあ、過ぎてしまった事を今さら愚痴っても仕方ないか。ゴキちゃんから竜に変化したんだ、あれぐらいの痛みはあるんだろう。納得は出来ないが話の分かる大人らしく引くとしよう。


 んで、肝心のゴキちゃんから脱却できたかどうかだが……どうなんだ、これ?

 鏡がないからサッパリ分からんぞ。分かるのは視点が少し高くなったことと、足が八本に増えてちょっと太くなったことぐらい。

 地べたを這う昆虫から爬虫類っぽくなった感じがする。なんとなくだが。

 これは一刻も早く水溜まりを見つけて自分の姿を確認しなくてはなるまい!

 どこじゃー、水溜まりー!

 カサカサカサカサ――。

 ちょっと待てや。なんで歩く音がゴキちゃんそっくりなんだよ。竜の足音じゃないだろ、カサカサは。爬虫類ならせめてタタタタ――だろうが。

 ……フン!!

 なんとか自分の姿を見ようと思い切り振り返るが、どうしても身体ごと動いてしまう。どうやら首がないのはゴキちゃんと同じということらしい。

 ……首がない爬虫類ってなんだよ? それは爬虫類じゃないだろうが。もしかして俺はまだ昆虫なのか?


 これは一刻も早く自分の姿を確認せねば。このままじゃ気になってカマキリ肉も食えねーぞ。

 カサカサカサカサ――。

 気にしたら負けだ。竜種とはこういう生き物なんだと割り切る。

 お、あの鉱石っぽいの、鏡として使えるんじゃないか?

 少し遠くの壁際に水晶みたいな小山が見える。あれなら水面よりもハッキリ自分の姿を確認出来そうだ。

 カサカサ――。

 ……ん?

 カサカサ――。

 んん?

 カサカサ――。

 んんんー?

 カサカサカサカサ――。

 水晶の目の前に到着。

 おいコラ、天の声。どいうことか説明しろや。


《……》


 俺の怒りは天井をガンガン叩いて今に突破しそうだ。

 予想通り、水晶っぽい鏡面には俺の姿がバッチリ鮮明に映ってる。それはいい。それだけはいい。問題は映っている生物についてだ。

 ゴキちゃんではない。俺はついにゴキちゃんを卒業し、モザイクも外れてバッチリ見えている。防衛本能がこの程度ならモザイクは必要ないと判断したんだろう。だがしかし、その防衛本能とやらは本当に信用できるのか? 断言する。答えはノーだ。

 ふざけんなぁぁぁあああ!! これのどこが竜だよ!?

 これは「蜘蛛」じゃねーか!!

 ゴキもクモも変わらんわ!

 益虫だがなんだが知らんがキモイもんはキモいし、嫌いな人にとってはゴキと同様に丸めた新聞のアタック対象でしかねーよ!

 ないわー。これはないわー。

 これのどこに竜成分が入ってるんだよ。「竜種(嘘)」だろ、こんなもん。

 しかもこれ、普通の蜘蛛より嫌悪感マシマシじゃね?

 水晶に映る自分の姿をモデルのようにくるくる周り、ポーズをつけて観察する。

 ぱっと見は普通の蜘蛛だ。1メートルぐらいあって巨大だが、まあそこは良しとしよう。一番の問題はその体表だ。

 なんでゴキちゃんのごとく艶やかな黒光りなんだよ。これだけでマイナス100点だわ。

 ゴキちゃんと蜘蛛を合体してどうする。しかも合体箇所はそこだけじゃない。感じるんだよ、分かるんだよ、背中にアレがあるって。

 バサッ!!

 黒光りの背中が割れ、昆虫特有の透明な羽が大きく広がる。

 キメー……。

 ゴキちゃんの比じゃねーよ、これ。防衛本能仕事しろ。今すぐモザイクかけろ。そして天の声は謝罪しろ。説明不足でごめんなさいと。


《……》


 完全にだまされたわー。

 アベラギウム? これはゴキタランチュラだ。竜種なんて言っといて正体はゴキと蜘蛛のキメラとか、優良誤認・名称詐欺もいいとこじゃねーか。俺みたいな犠牲者が増えないように改名しとけ。

 あー、クソ、やってらんねー……ペッ!

 水晶に映るゴキタランチュラにつばを吐く。

 ジュウゥゥゥ…………。

 ……。

 …………。

 ………………。

 溶けてます。水晶が。

 なに言ってるか分かんねーと思うけど俺にも訳分かんねー。

 なんで口から強酸が出るんだよ。こんなもんゴキでも蜘蛛でもねーぞ。完全にモンスターじゃねーか。あ、1メートルもある時点でモンスターだわ。

 もしかしたらゴキタランチュラ――アベラギウムってめちゃくちゃ強力なモンスターなんじゃね?

 よく考えてみようか。

 見た目、嫌悪感が限界突破。人間なら見ただけで吐きそう。

 素早さ、ゴキちゃん並。回避力が高いってこと。

 攻撃力、水晶も溶けるほどの強酸ぶっかけ。これはエグい。

 ……やべー、俺ツエー……。

 見た目を除けば最強クラスじゃね?

 その見た目だって人がいないから問題ねーし、俺が我慢すればアベラギウムもアリな気がしてきた。

 シュー……。

 ぶっかけた唾が少なかったせいか、小さな穴が空いただけで溶けるのは止まった。

 もっとぶっかけてみるか? これぐらいの小山ならバケツ二~三杯の唾で溶けそうな気がする。

 モゴモゴモゴモゴ……。

 唾を溜め、小山の上から一気に吐き出す。

 オエー、ゲロゲロゲロゲロ……。

 あ、モザイク掛かった。この絵面はアウトってことか。俺も完全にアウトだと思うし、良い判断だと思うぞ、防衛本能。

 仕方ねーじゃん。俺だって飲み過ぎのゲロのごとき絵面にはしたくなかったよ。本当ならケルベロスのような火球っぽい感じで「弾」として射出したかったよ。そっちの方がカッコイイし。

 ま、今は出来ないだけかもしれんし、将来に期待ってことで。で、肝心の水晶の小山はどうなったかというと……。

 地面に穴が空いております。俺がすっぽり入れるぐらいの大穴が。

 なに言ってるか分かんねーと思うけどありのままだよ。

 小山が消えて地面まで溶かしたんだよ。どうやらオーバーキルだったらしい。予想以上に強酸攻撃は強かったみたいだ。


《経験値が規定に達しました。レベルが1から2に上がりました》

《スキルポイントを5獲得しました。スキル保有ポイントは205です》


 バトル以外でもレベル上がるんかい。

 だがこれで確定だな。

 この世界のルールでは「討伐=経験値」じゃなくて「行動=経験値」って事だ。

 おー、なんか楽しくなってきたぞ。

 なにかした分だけ俺は強くなるって事だ。なんか成長スピードがめっちゃはえー気がするけど、そこは俺の夢なんだから贔屓があって当然だ。

 なにせ俺はこの世界で魔王になる存在!

 チート上等好むなりご都合主義の成り上がり!

 文句ある奴はかかってこいやー!!


 ズシン――ズシン――。


 ごめんなさい、ナマ言いました。あなた様がこの世界の頂点です。


「ガルルルル……」


 俺は溶かした穴に潜り込み、嵐が過ぎるのを待つのだった。

 レッドドラゴン、マジ怖ぇー。


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