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閑話「最弱モンスター」

 とある王国の学び舎。

 農民の子供が集まる校舎には笑い声が溢れていた。


「あははは!」

「次のモンスターはマー君だからな! 僕が勇者!」

「えー」

「昨日アレが畑に入ってきて怖かったー」

「あ、おばあちゃんにお小遣いもらったから帰りに屋台で——」


 どこにでも見かける普通の子供達。

 会話は遊びと身近な話題だけの平和なもの。

 今日も子供達の日常は平和だった。


「ほらお前たち、席に着けー。授業始めるぞー」

「「「 はーい! 」」」


 先生が教室に入ってくると生徒達はガヤガヤ騒ぎなら席に着く。

 日直係が挨拶し、いつも通りの授業が始まる。


「よーし。教科書の18ページ開けー」


 子供達が一斉に教科書を開き、しかめっ面を浮かべる。


「えー、今日はこれなんですかー……」

「絵でも気持ち悪いよねー」

「初めて見たときは怖かったけど、やっぱり気持ち悪いよねー」

「僕はなんともないぞ! 毎日お父さんと一緒にやっつけてるから!」


 教科書に書かれた絵を見ながら、子供達はワイワイ騒ぐ。


「ほらほら、静かにしろー。気持ち悪くても畑では一番身近なモンスターなんだ。しっかり勉強しないと大人になったときに困るぞー」

「はーい!」


 子供達は明るく返事をし、先生は黒板に題材モンスターの絵と説明を書いていく。


「ほら、これの名前は?」


 先生が黒板に書いた絵を指すと子供達が一斉に手を挙げ、描かれた絵のモンスターの名前を答える。


「レッサー・ブラッタニクス!」

「正解だ」


 子供たちの笑顔と笑い声が教室に響き渡る。

 先生は子供のテンションに合わせながらも、真剣に授業を進めていく。


「——という特徴がある。身近なモンスターではあるが、うっかり触ると病気になるほど汚いからな。質問は?」

「はい!」

「なんだ、エド」

「どうして進化しないのに『レッサー』という名前が付いてるんですかー!」


 先生はその質問を聞き、「待ってました」とばかりに笑顔になる。


「いい質問だぞ、エド。予習してきたのか?」

「はい!」

「みんな、教科書の25ページを開けー」


 子供達は少し先のページを開く。そこには生物の進化についての基礎が書かれていた。


「ここに書かれている通り、みんなも動物もモンスターも進化するのが当たり前だ。『レッサー』と名前が付く生き物は『レッサー』という言葉がとれて大人の生き物になる」


 子供達が頷く。


「でもな、そうじゃない場合もある。エド、生き物の進化に必要なことって何だと思う?」

「えっと……」

「動物やモンスターを倒すとエドはどうなる? みんなも一度は経験してるはずだぞ」

「あ! レベルアップ!」

「そうだ。生き物が進化——強くなるためにはレベルを上げる必要があるが、進化できない生き物はレベルアップに必要な経験値を溜めることができないんだ」


 子供達は「へー」といった感じで頷く。


「そしてレッサー・ブラッタニクス。雑食性のモンスターだが、食べ物は野草や野菜、生き物死骸がほとんどで、自分では狩りができない。狩りができないからレベルも上がらない。レベルが上がらないから進化もできない。ここまではいいか?」

「「「 はーい 」」」


 子供達が大きな声で返事をする。


「そして、モンスターの中でレベルアップできない生物はレッサー・ブラッタニクスだけなんだ。大きさや繁殖力のせいでモンスターに分類されているが、下手すると野良犬より弱い」

「「「 あははは! 」」」

「さて、ここでエドの質問に戻ろうか。どうして進化しないのに『レッサー』と付いているか。それは——」


 先生が真剣な表情で教壇からぐぐっと身を乗り出すと、子供達も真剣な表情になる。


「それはな——モンスターとして、弱すぎるからだ」

「「「 …… 」」」

「モンスターの種類の『レッサー』じゃなくて、モンスターとして弱すぎるから『レッサー』なんだ」


 子供達はポカンと口を開ける。


「モンスターじゃないモンスター。ようはモンスターとしての落ちこぼれ。そういう意味での『レッサー』なんだ」

「「「 へー…… 」」」

「でも、みんなは注意するように。ただ大きいだけの昆虫と言えなくもないが、モンスターと呼ばれていることには間違いない。もし見かけたら近寄らず、大人に知らせること。いいな?」

「「「 はーい 」」」


 ほぼ全ての子供達が返事をする中、一人の子供が挙手をする。


「質問か?」

「僕一人でもやっつけられた! 棒でバシバシ叩いて!」

「はは、そうかそうか、ダグは強いな」


 強いと言われた少年は「えっへん!」と胸を張る。


「だが、それは罠に掛かったレッサー・ブラッタニクスだろ」

「う、うん……」

「ダグはレッサー・ブラッタニクスが動いてるところを見たことないかもしれないが、アレはすばしっこいんだ。罠にかかっていないアレに攻撃を当てるのは難しいぞー」

「そ、そうなんだ……」


 少女が手を挙げて口を開く。


「畑でお父さんが追っ払ってたけど逃げ足速かったー」

「そうだな、大人でもレッサー・ブラッタニクスには追いつけない。だから罠を使って駆除してるんだ」

「うちはベタベタする紙を床に置いてます!」

「うちは餌を使って閉じ込めるやつ!」

「そう、それが正解だ。レッサー・ブラッタニクスは、逃げ足は速いが考えることは苦手なんだ。だから色々な罠が使える。将来畑を継ぐみんなは、お父さんやお母さんから罠の作り方や置く場所をしっかり教えて貰うように」

「「「 はーい! 」」」

「よーし。じゃあ次は——」


 元気な声が響く教室では、今日もいつもの時間が流れている。

 王都も、街も、農村も……そこにあるのは、いつもの平和な日常だった。


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