第五話―意外な因縁―
第五話です。
一難去ってまた一難。
縦ロール姉妹の次は、また別な国の王太子と侯爵令嬢という新しい留学生という名の問題児。
この作品の世界観がベガーズオペラとはいえ、どうなる事か……。
第五話―意外な因縁―
全てが終わった後に解る事もある。その事実を知ったのは本当に全てが終わった後だった。
ロクナレス王国がロクナレス共和国に変わって約半年が経った頃、私はマルグレーテから
事の詳細を聞いた。ロクナレス王国で起きた革命の正体は意外にも内輪揉めから発生した
ものだった。と言うのもリターはセノエンスとシナッグンを生んだ妻の他にもう一人、妻が
いたのだ。その前妻は性格も容姿も良く文句なしの良妻賢母であった。だが、その弟夫婦は
あくの強い性格をしており彼女の頭を悩ませていたと言う。前妻が亡くなり義弟夫婦の事を
僅か一日で忘れたリターは後にセノエンスとシナッグンの二人を生むこととなる後妻と結婚
した。自分達の事を僅か一日で忘れ家臣として扱うリターに対して義弟夫婦は不満を抱いて
いた。だがユースレスが宰相に任命された事で国政が不安定となり反乱するにも出来ない
状況に追いやられた義弟夫婦は泣き寝入りするしか他はなかった。だが、そのユースレスも
死に若い頃、将軍だったマリスは自身の自慢である美人な妻を主君のリターに奪われそうに
なった事がある。その際、マリスの妻は貞淑だった故に夫のマリスに操を立てて自殺して
しまった。その事さえもリターの頭の悪さでは、ものの数分で忘れてしまうのだから彼の
怒りと憎しみは相当なものだったであろう。そんな年老いたマリスを今度は宰相として任命
するのだから運命とは時に皮肉が効いているものだ。マリスはまず国政を正すことから始め
次に義弟夫婦を煽り革命を起こさせた。その義弟夫婦の政治に問題が見つかると今度は義弟
夫婦を粛清し国内を安定させた。しかし主君を次々と変え最後は自らが国王となるやり方を
選んだマリスの生き方に不満を抱いた者達がいた。それは周辺の国を治める王とその配下
である貴族、そして市民である。彼らはユースレスの二枚舌にも嫌悪感を抱いたがマリスの
自身の目的を果たす為には手段を選ばないと言う生き様にも同じ嫌悪感を抱いたのである。
結局、マリスは自国の民であるロクナレスの住民にも受け入れて貰えず。一度、国家を転覆
させれる力が自分達にもあると手本を示されたロクナレスの民達は自分達の足で歩いていく
事を決めた。つまりマリスによって灯った革命の火は今度は民の手によって灯されたのだ。
その革命の火によって焼かれたマリスの命と引き換えにロクナレスの民は立憲君主制と言う
殻を破り民衆主体の会議制を軸とする国家へと生まれ変わったのである。ではロクナレスの
民はこれまで彼らに不自由を強いてきた王族や貴族達のように身勝手ではなかったのか?
問われると他の国の人達からすれば解らないと答えるだろう。何故なら、この世に絶対的な
正義も絶対的な悪も存在しないからだ。ましてや此処はとある邪神による、とある少女の
為の世界なのだから、その少女が望まない事は決して起きないのである。その後、一連の
事件が終わってから私はエルフリートと共に競馬場へと足をのばしていた。此処での私の
役割はマルグレーテ調教師が育成した竜馬をエルフリート騎手が乗りレースに出る様を私が
観客として見届ける事である。エルフリート曰く、何時かは父を超えるのだとか。その話を
聞いた時、果たしてそれまでの間、私は生きていられるだろうか?と思った。実際、それを
口にしたらエルフリート自身よりもマルグレーテや母親であるマイノグーラが激しく怒る
だろう事は容易に想像が出来たので此処は敢えて何も言わなかった。エルフリートはそんな
私の様子を見て首を傾げたが何でもないと返事をすると元の笑顔に戻った。マルグレーテは
私の事を疑っていたのか?しばらくの間、胡乱な目で見つめていた。ふぅ、危なかった。
今のところ、目下の課題は如何にしてクロケルとエリゴールにレースで勝つか?である。
クロケルとエリゴールの二人はエルフリートの父親であるアスモデウス様に負けて以来、
彼を逆恨みしており打倒!アスモデウス!!の目標を掲げているとマルグレーテから話を
聞いたことがある。しかし元々は彼ら二人が何処で如何アスモデウス様と関係があるのか?
全く知らない私にはエルフリートに対して如何、説明をしたら良いのか?解らないのだ。
『止めておけポラリス。何処を如何、説明しても納得できるものではない。』
と詳しい事情を知っているマルグレーテは言うけれど全く何も知らない内に巻き込まれた
エルフリートはそれで納得できると言うのだろうか?私なら納得できないと返事をした。
「クロケルとエリゴール。まずはどちらに先に勝つべきでしょうか?」
「うーん……クロケルは先行逃げ切り型の馬を好む傾向にあるしエリゴールは逆に差し
或いは追い切り型の馬を好むし傾向にある分、一概にどちらか先か?言えないわね。」
大体、如何してクロケルとエリゴールの二人がアスモデウス様と戦ったのか?さえ解らない
と言うのに娘のエルフリートと戦う理由があると言うのだろうか?それも元は競馬ではなく
別な試合で負けたと言うのだからマルグレーテから最初、話を聞いたばかりの私は思わず
『それ、何か間違ってない?たとえ相手から恥を掻かされたとしても、その相手の子供に
恥を搔かせよう、なんて普通は考えないと思うけど。実際に、その人達やったんだ……』
と言い内心、クロケルとエリゴールの二人の大人げのなさにヘタレだと呟きドン引きした。
目標を有耶無耶にしたまま前に進む訳にはいかない。まずは仮にエリゴールに勝つ事を先に
するようマルグレーテは言った。エルフリートの馬の育成方針は距離は万能、走法は状況に
応じてと言うマルチタイプを目指している。要は絵に描いたような名馬のお手本が好きだと
言う訳だ。これには流石の私も言うは易し行うは難しと内心、エルフリートの理想の高さに
脱帽した。後でマルグレーテが大変だろうなと思い彼の肩を叩くと嫌そうな顔をされた。
(何だよ。折角、人が励ましてやろうと思ったのに。)
私はその事に対して不満を感じたもののマルグレーテに余計な負担を掛けないよう黙って
いた。そんな私とエルフリートとマルグレーテの仲にひびを入れかねない事件が起きた。
エクセッシブ王立魔法学園に新たな留学生が二人、現れた。一人はゴドルフィン王国から
王太子が入学し、もう一人はアルレイム王国から王弟の一人娘である侯爵令嬢が入学した。
二人とも見目が麗しく立ち振る舞いも王族らしい気品を兼ね備えている為、たちまち学園の
人気者になった。だが私はそんな二人の事がどう言う訳か?好きになれずエルフリートに
対して油断しないよう注意した。その様子を見ていた他の生徒から何故か私は悪者扱いを
受けるようになった。と言うのも彼らの言い分によれば留学生が私に虐められたと言うのだ
(いやいや、いくら相手が気に入らないからと言って私は何もしてないぞ?)
どちらかと言えば今の私は気が合わない人と一緒にいないようにしている。何故なら無用な
争いを避けようと思っているからだ。ゆえに自ら火の粉を被るような真似は絶対にしない。
「ポラリス。しばらくの間、お前はエルフリートと一緒に行動しないでくれないか?」
「は?何で?私、エルフリートに何も悪い事してないんだけど?」
留学生が学園に来て三日経った頃、私はマルグレーテに中庭へ呼び出されると何故か、そう
言われた。私の経験からすれば、あの二人はエルフリートにとって害しかないのだが何故か
付け入る隙を与えるような事を言うのだ?大体、君は此処のところエルフリートに頼まれた
竜馬の世話に掛かりっきりではないか。だったら私がエルフリートの事を守る以外、選択の
余地はないと思うのだが?マルグレーテは私の様子を見て心底、嫌そうな顔をして言った。
「ゴドルフィン王国とアルレイム王国の連中に火種を提供する訳にはいかない分、
お前は私とエルフリート以上に自重しなくてはいけないのが何故、解らんのだ?」
お前は役に立たないから要らないと言われた様な気がして私は目の前が真っ暗になった。
急にマルグレーテは如何したのだろうか?元々、私は彼に嫌われている事を知っていたが
此処のところ彼の気を逆撫でにする様な事は一切していないのだ。なのに彼は一体、如何
言う訳か?私の顔を見るなり、うんざりした様な顔をして明らかに毛嫌いする様な素振りを
見せた。今まで私は彼の事を権力や出自に囚われない人物かと思っていたが如何やらそれも
違ったようだ。何だか裏切られた様な気持ちになった私は黙ってその場を去る事を選んだ。
とは言え、うっかりエルフリートに会ってマルグレーテの気を逆撫でにしたら後が怖いと
思った私は二人との縁も、これで終わりか?と考えながら一人、家へと帰ったのである。
「如何して、そんな酷い事を言ったの?マルグレーテ!!」
エルフリートはまるで猫が毛を逆立てるようにしてマルグレーテに怒った。要因は勿論、
ポラリスに対する態度についてである。ポラリスがエルフリートに内緒で家へ帰ったのは
友達になる前を除き、一度もなかったのだ。その為、エルフリートはポラリスの身に何か
あったのではないか?と思いマルグレーテのところへ行くと彼女の居場所について尋ねた。
すると彼はポラリスなら先に帰ったと素っ気ない返事をしたのでエルフリートは逆に怪しい
と思い更に問い詰めると観念して彼女に冷たい態度を取り家へ帰る様、仕向けたと言った。
「如何して?も何も、それがお前の為になると思って言っただけだ。」
「見損なったわ!マルグレーテ!!私の事を思ってと貴方は言うけれど私はポラリスの
事を親友だと思っているのよ!彼女を悲しい気持ちにさせて私が喜ぶとでも思った?
冗談じゃないわ!!貴方が自分勝手で冷たい人だとは思わなかった!!失望したわ。」
この時、初めてエルフリートは心無い言葉をわざと選んだ。と言うのもマルグレーテが
ポラリスに対してわざと心無い言葉を選んだ様に彼女もまた親友を傷つけた彼の事が如何
しても許せなくて仕返しをしようと思ったのである。マルグレーテはエルフリートの言葉に
対して強い衝撃を受けた様で驚き半分、恐怖半分と言った顔をした。そして顔を俯けると
何言か小さな声で呟くと、そのまま去って行った。一人、中庭に残されたエルフリートは
しばらくの間、少し泣いていたが家に帰るとこの事を父親であるアスモデウスに話した。
「別に他国から留学生が来たからと言って無理に仲良くする必要はない。」
それがマルグレーテに対してバアルゼフォンが最初に言った言葉だった。彼は家に帰った後
父親であるバアルゼフォンに中庭での事を話した。するとバアルゼフォンはそれが友人との
仲を壊してまでする事なのか?息子であるマルグレーテに聞いた。彼はばつの悪い顔をして
「違います。ただ私はエルフリートの今後について考えるとポラリスが留学生に
因縁をつけられる前に距離を取らせた方が二人にとって良いかと思っただけです。」
「ちゃんと二人にはそれを説明したのか?」
「そ、それは……」
理由を説明したが逆にバアルゼフォンからエルフリートとポラリスの二人に説明をしたか?
聞かれ言葉を詰まらせた。その様子を見たバアルゼフォンはマルグレーテが二人に対して
説明をしていない事に気づいた。マルグレーテの性格上、何時かエルフリートとポラリスの
二人に愛想を尽かされるのではないか?とバアルゼフォンは心配していたが、その予感が今
正に的中しようとしていた。彼は息子に対して言わなくてはならないと思い、口を開いた。
「お前が考えている通り友人だからこそ気を使うべきところは多少なりともあるだろう。
ただし、それは時と場合、人によりける事を肝に銘じておかなくてはならない。だが、
お前の場合、気を使うべき相手に気を使わず。気を使わなくてもいい相手に気を使って
いる。これではまるで順序が逆ではないか!そんな事ではいざと言う時に大切なものを
失ってしまうぞ!!お前は如何してそう言う肝心なところに何時も頭が回らないのだ。」
バアルゼフォンに叱られマルグレーテは唇を噛んだ。たとえエルフリートに嫌われても
彼女からポラリスを遠ざけなければならない理由があった。実はこの間、伯父の計らいで
ライバルであるレイファルドと初めて顔を合わせたのである。その時、レイファルドから
ゴドルフィン王国とアルレイム王国について情報を得る事が出来たのだが、あまり良い
話ではなかった。と言うのもゴドルフィンの王太子が何故、エクセッシブ王立魔法学園に
留学する事になったのか?理由を聞くと何でも女性関係が激しく自国にいる女性の殆どが
最低、一回は王太子から声を掛けられた経験のあり相当な色狂いだと言う事が解った。
対するアルレイムの侯爵令嬢は一見、問題がない様に見えて実際のところゴドルフィンの
王太子以上に問題があった。それは目に余る程の虚言癖と八方美人ぶりである。彼女と
面識がない人は必ずと言っていい程、騙されるとレイファルドが言うのでマルグレーテは
お前は引っ掛かったのか?と聞いた。すると彼は事前に彼女と幼馴染である王太子から
注意を受けていたので全く引っ掛からなかったと答えた。マルグレーテは内心、色狂いと
噂される王太子でさえ食指が動かない侯爵令嬢って如何なんだ?と思いつつ話の続きを
促した。侯爵令嬢にはミュンヒハウゼン症候群の疑いがあり他人の言葉尻を奪って自分の
言葉の様に締め括る癖がある。また自分の手柄を誇張したり他人の手柄を台無しにしたり
する傾向があり特に男性の注目を集めるのが好きらしい。ただ周囲の注目を集める為には
女性に対して優しくするなど見てくれだけはやけに良いので男女関係なく人気を集めて
いる所謂、優等生だと教えられた。そんなのに目を付けられたら後が面倒臭いと思った
マルグレーテはエルフリートとポラリスを守る為、敢えて二人を分解する事にした。そう
する事で留学生二人の目を欺き平和な学園生活を送れるのではないかと思ったのである。
計画は実行する前に頓挫し二人との仲も修復できるか解らない状態になりマルグレーテは
急に目の前が真っ暗になった様な気分になった。父親であるバアルゼフォンは早く二人に
謝ってくるように言うと彼を家から叩き出してしまったのである。マルグレーテは憂鬱な
気分のまま、まずは公爵の屋敷へ謝りに向かった。家の中から父親であるアスモデウスが
現れて今、娘はマルグレーテに会いたくないと言っている。私も友人の気持ちより自身の
体面を気にする様な輩の顔は見たくないと思っている。悪いが今日は帰ってくれないか?
と言われマルグレーテは何も言えないまま踵を返すと今度はポラリスの家へ向かった。
(私、そんなに足手まといなのかな?)
あのまま家に帰った私は何もする気力がなくて自室のベットの上で蹲っていた。そのまま
数分の間、動かずにいたら玄関からチャイムが鳴る音が聞こえた。私は誰だろう?と思い
玄関へ行くと小窓から扉の向こう側を覗き見た。すると見覚えのない黒髪で緑目の青年が
玄関の前に立っていたのである。私は内心、怖いと思いつつ扉の向こう側へ声を掛けた。
「あの、どなた様でしょうか?」
「こんばんわ。私の名前はレイファルドと申します。貴女はマルグレーテさんのお友達
であるポラリスさんですよね?貴女にお話したい事があります。よろしいでしょうか?」
(良い如何か聞かれても私、この人の事、何も知らないのよね。)
レイファルドと言う名前を私は誰からも聞いた事がない。それゆえ余計に怖いと感じた。
扉を開ける訳にもいかないし、かと言って玄関の前に立たせている訳にもいかないし一体、
如何したら良いのか?解らないものの返事をしようとした時そこへ意外な人物が現れた。
「レイファルド、そこで何をしている?」
「嗚呼、マルグレーテさん。丁度、良かった。貴方とポラリスさんに話したい事があって
ここへ来ました。エルフリートも一緒に話を聞いてくれるとよりありがたいのですが。」
「馬鹿なのか?お前は!!今、何時だと思っている?6時だぞ!6時!!もう夕方なのに
自宅にいない奴が何処にいる?エルフリートとポラリスは名字が違うのだから別の家に
住んでいるに決まっているだろう!!それを何で一緒に住んでいると勘違いするんだ。」
僅か1、2時間前に別れたと言うのに酷く懐かしく感じてしまった。そんな私の気持ちも
知らずにマルグレーテはレイファルドの顔を見ると警戒心を露わにして彼と話をしている。
レイファルドはマルグレーテと知り合いである様な口振りをしていたが、これは一体、如何
言う事だろうか?私が疑問に思っているとレイファルドがマルグレーテの気を逆撫でにする
様な事を言い出した。その言葉を聞いている中で私は彼のある特徴について気が付いた。
「今、私とマルグレーテさんは夕方なのにポラリスさんの家の前にいますよね?それと
同じですよ。私も貴方も彼女に用事があるから家の前にいる訳ですし、ありえない。
なんて事はありえないんですよ。それに私はあくまで希望的な感想を言っただけです。」
(この人、自分の気持ちに正直な反面、相手の気持ちに酷く鈍感なんだ!!)
その事実に大きな衝撃を受けながら私は彼らの父親が現れるまでの間、二人の会話を茫然と
聞いているしかなかった。その後、バアルゼフォン様とアザゼル様の二人が現れ息子である
マルグレーテとレイファルドが何故、此処にいるのか?訳を話してくれた。レイファルドは
マルグレーテに話した事をエルフリートとポラリスの二人にも話をする為。マルグレーテは
放課後、中庭でポラリスに対して誤解を招く様な言い方をして傷つけた事を謝りに来たと。
私との間の誤解が解けたとしてもエルフリートとの間に出来た溝を如何やって埋めるのか?
それが問題だと私は心の中で思った。それはマルグレーテも同じ様で暗い顔をしていた。
一部の事柄や人物については、第一部の番外編の話も関わっているので宜しければ第一部の書下ろし付きの購入も検討なさるとよろしいかと。
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次回はどうなる?こうご期待!
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