第三話―悪女達の宴―
第三話です。
第三話―悪女達の宴―
「ぎゃっ!!」
「あら?ごめんあそばせ。そこに蠅がいたものだから扇で振り払おうとしただけですわ。」
(私には何も見えなかったのだけど……)
あれからセノエンスは何かとつけてポラリスのことをいじめてくるようになった。それを
エルフリートが咎めると余計にいじめるので注意しようがなく不満に感じていた。反面、
シナッグンはセノエンスと違いポラリスをいじめてくることはなく、ただ遠巻きで悪口を
言ってくるだけであった。と言うのもセノエンスとシナッグンの仲はポラリスに煽られた
以降、ユースレスに煽られた時以上に最悪なものになっていたのである。その最悪さ加減は
普段、鈍感であるリターでさえも二人の間に剣吞な雰囲気が流れていることに気が付く程
である。ある日、リターはユースレスのことを王の間まで呼び出すと、こんな話をした。
「ユースレスよ、私の大事な娘達が何故、あんなにも殺気だっておるのだ?お前の仕事は
娘達の機嫌を良くする事だろうに何を怠けておるのだ!さっさと機嫌を直して来い!!」
(宰相の仕事に王の機嫌取りも王女の機嫌取りも入ってねぇよ!この愚王めが!!)
と内心、暴言を吐きながらユースレスは表面上、綺麗な笑みを浮かべて了承した。すると
リターは表面上の言葉だけでも満足したのか?満面の笑みを浮かべて頷いたのであった。
(ちょろいな、この愚王。)
とこっそり笑みを浮かべたユースレスは一人、王の間を去って行った。この後、放置して
いた二人の王女のせいで自分の頭を抱えたくなるような事件が起きるとも知らずに……
「あぁ、もう!何で私の前に跪かないの!!私はロクナレス王国の第一王女でしてよ!!」
「そんなこと、誰も知ってるわよ。大体、エトルリア公国の貴族が何で隣国の王女相手に
跪かないといけないのよ?公女であるエルフリートに跪くのなら、まだ話は解るけど。」
大人げない話、年上である筈のセノエンスがポラリス相手にあることないこと因縁をつけて
噛みついてくるので流石のポラリスも辟易した顔をして、そう言葉を返した。正直な話、
高貴なる者の務めを果たしていない王族に敬えと言われても敬意の欠片も感じないのだ。
「ふん!エトルリアの公女が何だと言うの?私はこの国で一番、尊い存在なのよ!!」
「いや、それは流石にないと思う。この国で一番、偉い人はアウシュトラス陛下だから。
国王より偉い人は何処にも存在しないから。自惚れるのも大概にして馬鹿の王女様。」
エクセッシブ王立魔法学園はエトルリア公国の国立学校である。当然、敷地はエトルリア
国内にあり学校の先生も殆どがエトルリアの貴族達なのだ。それを自分の国で建てたように
扱い自分の立てた功績のように扱われては、たまったものではない。ポラリスは毅然とした
態度でセノエンスの意味の解らない要求を拒否した。セノエンスは今までロクナレス国内に
おいて、どんな理不尽な要求でも叶えてきた自負がある。その為、エトルリアに来訪して
始めて挫折を味わったことになるのだ。セノエンスは自分が今まで感じたことのない怒りと
屈辱に燃えていた。このままでは絶対に終わらせない。如何やってポラリスを屈服させて
やるか?そればかりを考えていた。ポラリスがこの国で絶対に敵に回してはいけない相手の
お気に入りであることをこの時、セノエンスは全く以って知らなかったのである。
「おーほっほっほ!!そこの者!私の代わりに
宿題をやったら褒めてあげてもよろしくてよ?」
「は、はぁ……」
(そんなので褒美になる訳がないだろうに。)
その頃、マルグレーテはシナッグンの様子を呆れた顔で見ていた。と言うのもシナッグンは
セノエンスと違い非常に怠惰なのである。実際、セノエンスとシナッグンの二人はどちらも
傲慢ではあるものの、権力に対して強欲性もあるセノエンスの方がよく動いている。対する
シナッグンの方は怠惰ゆえに何でも人にやらせたがるきらいがあり、その手柄を自分のもの
として風潮する分、周囲から嫌われているのだ。今もまた何時もと同じように自分の宿題を
他人にやらせておいて自分は遊び回る心算だったらしい。だが何時も違い自分の周りに取り
巻き達が一人もいないので新たな取り巻きを作ろうと妙な媚を売っていたのである。大体、
男をかしづかせようとして媚を売ること自体が間違っていると言うのに何をどう間違えたら
こんな結論に至るのだろうか?とマルグレーテはシナッグンの頭の悪さに脱帽を覚えた。
「何で私の言うことが聞けないんですの!?」
「何で私の命令が聞けないんですの!!」
セノエンスとシナッグンの二人の叫び声がそれぞれ別な場所から同時に聞こえた時、ついに
先生の堪忍袋の緒が切れた。エトルリア出身の先生だけはでなくゴドルフィンとアルレイム
出身の先生もまた二人の非常識さ加減にはもう、うんざりしていたのである。先生達は皆、
セノエンスとシナッグンの二人を学園から追放する為に徒党を組んで学園長室へ向かった。
「学園長先生もお人好しが過ぎるよね?あんな落第必死のお馬鹿王女様を二人も学園に
入れるだなんて。しかも父親であるロクナレスの国王は更に輪をかいて馬鹿だと言うの
だから救いようがないわ。如何したら、あんなろくでなし達が王族になれるのかしら?」
「シーッ!これ見よがしに言ったら駄目よ?あれでもプライドだけはある人達だから。
後で、どんなことをされるか?解ったもんじゃないわ。でも一人じゃ何も出来ない人
だから反撃、出来ないか?或いは馬鹿にされていることも解らないのかも知れないわ。」
セノエンスとシナッグンの二人は学園に入学して一年の間、周囲と仲良くすることも誰かと
交流することもなく好き放題した結果、他の生徒達から嫌われ完全に孤立してしまった。
おまけに先生達からも総スカンを喰らってしまったからセノエンスとシナッグンの二人は
何を血迷ったのか?母国にいるユースレスに対して、こんな手紙を書いたのである。
『ユースレス様、隣国のエトルリア公国の人達が私達のことを馬鹿にしてくるのです。
やれ勉強が出来ないだの、一人では何も出来ない無能だの挙句の果てにはロクナレスの
王族はろくでなし以外、存在しないだとか言われ、いじめられています。お願いです。
ユースレス様、今すぐ此処へ飛んで来て私達のことをあの害虫達から、お助け下さい。』
(何で、こうも問題ばかり起こすんだ!この愚王一家が!!)
セノエンスとシナッグンの二人が手紙を出して三日後。二人の手紙を読んだユースレスは
頭から湯気が出そうな程、怒りが内から湧いてきたのである。ユースレスは最初、王族を
利用して立身出世を目論んでいたが、こうもロクナレスの王族が愚かなのばかり集まって
いるとは思いもしなかったのだ。しかも問題を起こすだけ起こして解決は皆、他人任せの分
押し付けられた人間が、どんな思いをして解決しているのか?全く以って理解しておらず
功績だけ甘い蜜を吸うように搾取するのだから、やられた側は堪ったものではないのだ。
(大体、瞬間移動の類を持っていない私には今すぐエトルリアへ行って国王と貴族相手に
平身低頭して王女達二人が犯した罪を許して貰うことなんて出来る訳がない。だから、
王女達二人には常日頃から何かあったら、すぐに連絡しろと言っておいた筈なのに何を
思ったのか?連絡用はおろか普通の手紙ですら送ってこないとは、どう言うことだ!!)
ユースレスはデビュタントの時に会ったアスモデウスのことを思い出して顔が真っ青に
なった。今度、エルフリートにちょっかいを出したら命はないようなことを言っていた分
ユースレスは何としてでもセノエンスとシナッグンの誇りを一度、折らなければならない
と思った。とは言え、セノエンスの驕気は今まで一度も静まったことはないしシナッグンの
頭、お花畑ぶりも治った試しがない。この絶望的な環境にユースレスは一体、如何したら
良いのか?解らず頭が真っ白になった。良くて自分の首が飛び悪くてロクナレスが亡ぶ。
どの道、明日がないと言う状況に置かれるのは正直、ユースレスの好む選択肢ではない。
普段のユースレスならば、分の悪い勝負は捨てて国外にでも逃亡するだろうけれど今回の
場合、それをする訳にはいかなかった。ロクナレス王国の宰相と言う地位は本音としては
全く価値のないものではある。だが、ユースレス個人としてはアスモデウスの機嫌を一度、
損ねている分、何処へ逃げても結果は同じであろうことはあらかた予想が出来た。つまり、
どの選択肢を取ろうとも、このままだと死ぬのは確定しているのだ。最早、ユースレスに
残された選択肢は一つしかない。アスモデウスの怒りの原因をこの手で消すことである。
「え?本当なの!?お姉様!ユースレス様が学園に来てくれるのは!!」
「本当よ、シナッグン。ユースレス様は私達を助けに学園まで来て下さると。」
速達で届けられた手紙を手にセノエンスはシナッグンにそう言った。実際のユースレスは
セノエンスとシナッグンの二人を始末して、その返す刀でリターも始末する心算だったが
手紙ではそれを悟らせないようにする為、何時も通り穏便な内容で返事を書いた。すると
ユースレスの出した手紙の内容にすっかり騙された二人はユースレスが自分達を助けに
エトルリアまで来てくれると信じていたのである。ユースレスは内心、今までロクナレスの
王族に押し付けられてきた負責を如何やって返してやろうか?考えていた。ユースレスと
しては今まで散々、無理難題を課してきただけではなく、その尻拭いをさせられてきたので
ある。一つや二つ、仕返しをしても良いではないか?と思っていたのだ。それを知らない
セノエンスとシナッグンの二人はユースレスが早くエトルリアに来てくれないか?願って
いたのである。対するユースレスの方は自分の命を守る為、セノエンスとシナッグン、
そしてリターの三人を暗殺する計画を入念に練り実行に移す機会を待っていたのだった。
ロクナレス王国からエトルリア公国へ行くのに最低、三日は掛かるのだがユースレスから
手紙を送られて僅か一日しか経っていない内に彼は学園に現れたのである。そのことに
ついて何も疑問に思わなかったのか?セノエンスとシナッグンは学園でユースレスの姿を
見た瞬間、彼のことを微塵も疑わずにむしろ熱烈歓迎と言った調子で駆け寄ったのだった。
「ユースレス様、会いたかったですわ!!」
「危ない!!」
何を考えているのか?解らないような怪しい男にセノエンスとシナッグンの二人が近づいて
行く様子を見て私は思わず前に飛び出してしまった。本来ならば、あの二人を助ける義理は
私にはないのだけれどエルフリートと一緒に行動するようになって彼女のお人好しが私にも
うつったようである。とは言え私はセノエンスとシナッグンの二人とは違い何も考えず前に
飛び出した訳ではない。一応、学校で教わるよりも一段階も二段階も上の防御魔法を展開し
更には受け身を取った状態で二人の前に立ったのである。おかげで例の男性の攻撃は無事、
障壁に阻まれ弾かれたのであった。教えてくれたエルフリートに後でお礼を言わないとね。
なんて考えている間にも例の男性は舌打ちしつつもその場から慌てて去って行こうとした。
反面、彼のその反応にショックを受けたセノエンスとシナッグンの二人は唖然としたまま
ピクリとも動かなかった。私は内心、何処を如何したら、あんな男を信頼するのだろうか?
と思いつつ二人の様子をしばらくの間、眺めていたのである。夕方になってエルフリートが
私のことを心配して迎えに来てくれた時に発した声でやっと我に返った二人が言った言葉が
「ユースレス様!如何して私達のことをお見捨てになられたのですか!?」
と今更の如く叫び声を上げたので思わず私は半眼になってしまった。大体、マルグレーテの
話を聞いている限り32歳の八方美人的な言動が目立つ有言不実行の男など誰が信じると
言うのか?1時間くらい問い詰めてやりたいところであるが無駄そうなので止めておいた。
「ポラリス!大丈夫だった!?何でユースレスが学園にいたのかしら?」
「大丈夫よ、エルフリート。あの男の攻撃なら障壁で防いだから。」
私は自分を迎えにきてくれたエルフリートに対してそう返事をすると互いの無事を喜び合い
ハグをした。その間にも茫然自失と化していたセノエンスとシナッグンの二人はぼんやりと
した調子でその光景を眺めていたが、やがてその両目には涙が溢れとめどなく流れ始めた。
「……うっ…うっ……ひっく!!」
(あー、流石に知り合いの男から攻撃されたらショックで泣いちゃうよね。)
セノエンスとシナッグンの二人がめそめそと泣き始めたので私はエルフリートと共に如何
やって二人を慰めるか?考えていたのだが次の瞬間、二人が叫んだ言葉に私は唖然とした。
「ユースレス様!如何して私達のことをお見捨てになられたのですか!?」
(最初に言うのが、そっちかよ!!)
内心、私は思わず、そう突っ込みを入れてしまったが実際には声に出さずに済んだ。どうせ
あの二人には何を言っても無駄なんだろうと言う諦めが半分あった為、表情的には半眼に
なった程度で済んだ。その後、セノエンスとシナッグンの二人はしばらくの間、何故か私に
抱き着いたまま泣きじゃくっていた。そのせいで私の制服は彼女達二人の涙と鼻水でぐしゃ
ぐしゃになった。後でセノエンスとシナッグンの二人にはクリーニング代、出して貰おう
かな?とか思いながら私は二人が落ち着くまで、エルフリートと共に待っていたのだった。
「小娘、私のハンカチになったことを光栄に思うことね!!」
「そうよ!馬の骨如きが私達のサンドバックになったこと自体、名誉なことでしてよ!!」
気持ちが落ち着いた途端、セノエンスとシナッグンの二人は何時ものように意味の解らない
理屈を述べ自分の我儘を通そうとしてきた。これでは頭が胡桃の皮のようだとか鶏頭だとか
言われそうだが、私としてはそれらの方が、まだマシのような気がした。だって、この二人
平気な顔で恩を仇で返そうとするんだもの多少、人間性を疑いたいレベルである。にしても
今まで、よく刺されなかったな?と思いながら私はセノエンスとシナッグンに質問をした。
「あの人、何時もシュールに貴女達の首を狙ってくる訳?」
「いいえ!そんな筈ありませんわ!!
ユースレス様は何時でも何処でも私達の味方でしたもの。」
「じゃあ、何で今日に限って、そのユースレス様とやらは剣を振ってきたのよ。」
「そ、それは……」
私はセノエンスとシナッグンに関する、ある仮説を立てた。それはユースレスが最初から
二人の命を狙っていたと言うもの。実際、本人の話を聞いてはいないので何とも言えないが
セノエンスとシナッグンの二人が気づいていないだけで本当はユースレスにさえ嫌われて
いたのではないか?と言う推測を立てたのである。だが二人の言う通りユースレスは最初、
二人のことを嫌っていなかったのだとしたら一体、何処で心変わりしたのか?解らない。
(案外、ユースレスと言う男の腹の底が読めないわね。)
相手のことが解らない限り次に何をしてくるのか?全く予想が出来ない。これでは防げる
ものも防げない事実に私は苛立ちを感じた。だが焦りは禁物であると自分を律し親友である
エルフリートにセノエンスとシナッグンの二人を任せることにした。エルフリートは私に
「あの人は自分の幸せの為に平気で他人を踏み台にします。ポラリスも気をつけてね。」
「大丈夫。私もかつて自分の幸せの為に他人を踏み台にしようとした女だから、そう言う
輩の言葉は信用しないの。それに同族嫌悪的な感も持っているから何となく解るのよ。」
警告してくれたので私は私でユースレスのことを全く信用していないことを示した。勿論、
警戒はしているので油断はしていない。今度、戦う時は最低でもマルグレーテには同行して
貰う心算である。よければ、父親であるバアルゼフォン様やベルフェゴール様にも同行して
貰いたいしアスモデウス様に同行して貰えれば最高だ。言うことがないと内心、私は頷くと
「あんな雑魚相手にそんなに集めて如何するんだ?まぁ、アスモデウス様の場合、お前が
呼ばなくてもユースレスの前に現れるだろうけれど。……言いたいことがあるらしい。」
(あー、それは間違いなく、お説教コースってやつね。)
マルグレーテは何時もの如く呼んでもいないのに人の心を読みながら姿を現した。それに
対して誰も突っ込みを入れないまま話は続いていった。それもそうだ。そんな細かいこと
よりも今、目の前にある問題を片づける方が余程、重要なことだもの。それにしてもあいつ
良くて骨折か?悪くて殺害されるか?文句は言えないようなことをしていた奴ってことね。
了解、私は何も見なかった聞かなかったことにするわ。良い子だから領主様を悪人のせいで
殺人犯にしたくないもの。だから何も聞かなかったことにする。それが一番、簡単だもの。
ポラリスの科白じゃないですが、縦ロール姉妹は今までよく刺されなかったと思います。
まァ、犯罪行為に走ってまで消す価値はなかったのかもしれません。
そんなこで人生を棒に振る心算はないとか。
それはさておき、縦ロール姉妹が32歳の八方美人的な言動が目立つ有言不実行の男に暗殺されかける事件が起きるのですがーーー。
次回はどうなる?こうご期待!
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