第一話―無自覚公女―
第二部連載開始です。
今回の第一話は、前作(novel/series/14438269)より少し過去に遡った時間軸です。
前作を読まなくても読めなくはないかとおもいますが、読んでからの方がもっと良いかと。
第一話―無自覚公女―
昔々、宇宙の何処かに世界のあらゆる本を集め造られた図書館があった。
その図書館の主の名をマイノグーラと言い宇宙を創造したと言われる魔王
アザトースの使者にして邪神の1柱であるニャルラトテップとは従兄の関係にある。
ある日、彼女は地球へ降り立つと人間が神族の力によって悪魔を地下世界へと
追放している光景を見た。マイノグーラは地下世界へ追放された悪魔達の後を追い、
その中でも魔王と呼ばれる者達に対して、こう声を掛けた。
『お前達、悪魔の中で我々、宇宙に住む邪神と交流したいと思う者はいるか?
もし、いるの なら、お前達、悪魔の除くを叶えても良い。』と――
マイノグーラの提案に対して魔王の中でも特に変わり者として有名な発明王ベルフェゴール
と、その弟であるバアルゼフォン。そして南方領主アスモデウスの三人が応じた。
マイノグーラは三人の魔王に研究材料としてそれぞれの血液を提供して貰う代わりに
研究によって生み出されたもの全ての所有権を与え利益とする契約を結んだ。結果、
マイノグーラの研究によって生み出された吸血鬼と夢魔の掛け合わせである少女と
黒竜と夢魔の掛け合わせである少年の二人はそれぞれ別の家へ送り出されることになった。
吸血鬼と夢魔の掛け合わせである少女は血液の提供者である南方領主アスモデウスの下に。
黒竜と夢魔の掛け合わせである少年は血液の提供者であるバアルゼフォンの下に送られ
彼らの子供として生活することとなった。マイノグーラは無事、子供達を魔王の下へ
送った後、宇宙へと戻っていった。だが彼女はまた何かの機会があれば地球へ介入する気が
あり、その機会を待っていたのである。それから11年の歳月が流れ当時、5歳の
少女だったエルフリートは現在、16歳の乙女となっていた。その歳になると貴族社会に
生きる者達は皆、デビュタントと呼ばれる貴族たちのお披露目会に参加することになる。
勿論、エルフリートもその例に漏れず今年、デビューする令嬢達と共に王族主催の社交
パーティーに参加することになった。尚、父親である南方領主アスモデウスは山岳地域に
あるエトルリア公国の王族の為、エルフリートは必然的にエトルリア公国の公女である
訳だが、本人にはその自覚が全くなかったのである。エルフリートは毎日、父親が統治する
城下街へと赴き、そこに住んでいる民衆と一緒になって牛の乳搾りや野菜の収穫、或いは
市場に出掛け老人達の買い物の代行をするなど真面目に働いていた。その光景を見て父親で
あるアスモデウスは咎めるどころか褒めてやり、時には自らの従者を現場に送るなどして
娘のことを手伝わせていた。こうして、民衆に優しい王族がいるエトルリア公国は長きに
渡り平和を保ってきた。だが、その長きに渡る平和を脅かそうとしている国があった。
その国の名をロクナレスと言いエトルリア公国の西に位置する王国である。その
ロクナレスの王であるリターは好色で高慢、権力欲の強い王として周囲に知られていた。
そのリターの娘達であるセノエンスやシナッグンもまた難のある性格をしており、
ロクナレスに住む人達は勿論のこと近隣に住む国の人々もまた彼らの目に留まらぬよう気を
付けていた。そんな中、ついにエルフリートはデビュタントの日を迎えることになった
訳だが、その日に初めて父親であるアスモデウスに親友であるバアルゼフォンと
その息子マルグレーテを紹介されたのだった。
「エルフリート。今、私の隣にいる人は私の親友で 名をバアルゼフォンと言い、
彼とは昔から家族ぐるみの付き合いをしている。また彼の兄はベルフェゴールと
言い、私の仕事の仲間で主に機械の発明をしており皆からは発明王と呼ばれている。」
そう父親であるアスモデウスはエルフリートに説明した後、
今度は自身の親友であるバアルゼフォンにエルフリートについて説明を始めた。
「バアルゼフォン。彼女は私の娘であるエルフリートだ。お前の息子である
マルグレーテとは今年で16歳になる者同士だが些か浮世離れしていてな。
良ければ お目付け役として、お前の息子に様子を見て欲しいのだ。」
とお願いした。斯く言うバアルゼフォンは
エルフリートを見ると一つ頷きアスモデウスに、こう返した。
「もしかすると私の息子の方がエルフリートに監視して貰うことになるかも知れないぞ?
私の息子も結構な変わり者でな兄さんの開発した道具を使い研究ばかり没頭している。」
と笑いながら言った。エルフリートはバアルゼフォンがアスモデウスに対して冗談を言って
いることに気付いた。だが何処から冗談で何処からが真実なのか?解らず困惑していた。
対する父親であるアスモデウスは親友のバアルゼフォンが如何して冗談を言ったのか?
理解しているようで二人とも穏やかな笑みを浮かべていた。その様子を見ていた
バアルゼフォンの息子であるマルグレーテはエルフリートに対して、こう言った。
「父はお前に問題があるのなら私にも問題はあるだろうと言ったが、
それは社交辞令に過ぎない。子供が妙に早い内から聡いと早逝の天才と言われ、
それもそれで問題になると言う。要はそうなって欲しくないと言う親心だな。」
エルフリートはマルグレーテの話を聞いて内心、嗚呼と納得した。親友同士、互いの子供を
貶す心算はないし、また貶される心算もない。かと言って自分の子供を誇張して言う必要は
ないので程々に話すとしたら多少、冗談を交えて言った方が相手にとっても気が楽だろう。
そう言うことだったのである。エルフリートはマルグレーテに対して、こう返した。
「マルグレーテは相手の気持ちを汲むのが上手なのね。私は自分の思ったことを
すぐに言ってしまうから相手に驚かれることが多いの。けど不用意な嘘を
ついて相手を困らせたりしたくないから私は今のままで良いと思ってるわ。」
それを聞いたマルグレーテは少し驚いた顔をしたが、すぐにまた、すました顔に戻った。
エルフリートとマルグレーテの二人は父親同士がそうだったように出会ってすぐに気が合い
仲良くなった。その様子を見ていた二人の父親は内心、安堵の溜息を吐いた。それから
然程、時間が経たない内に4人を迎えに来たベルフェゴールと共に馬車で王宮へ向かった。
途中、馬車の中で今年、王宮で開かれる舞踏会について
アスモデウスはベルフェゴールから忠告を受けた。
「知っているか?アスモデウス。
今年、開かれる王宮舞踏会に隣国の王女が出席するそうだぞ。」
「いや、それは知らなかった。
が、そうか……その言い方だとロクナレスの王女と言う訳か。」
ベルフェゴールの言葉を受けてアスモデウスは浮かない顔をした。
その様子を見ていたエルフリートはベルフェゴールに言った。
「ベルフェゴールの伯父様。
と呼ばせて頂きますが一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「別に構わないが何だ?その質問とやらは。」
ベルフェゴールがそう答えるとエルフリートはすまいを正すと神妙な面持ちをして言った。
「そのロクナレス王国の王女と言う人はそんなにも酷い人なのですか?」
エルフリートの質問に対してベルフェゴールは少し面を喰らったような
顔をしたが、すぐにすました顔に戻った。その仕草を見ていたエルフリートは
矢張りベルフェゴールとマルグレーテの二人は親類なんだなと思った。
ベルフェゴールはエルフリートに、こう答えを返した。
「いや、ロクナレスの王女がと言うより、ロクナレスの王族そのものがと
言った方が話が早いな。王は勿論のこと、その弟である王弟やその妻を始め王子や
王女と言った王族全てが貧困に喘ぐ国民を顧みず贅沢三昧をしているのだからな。」
その様相は悪の王国と言ったところだろうか?他人を顧みず
己の利欲のみを追い求める様はさながら権力に取り憑かれた金の亡者と言えるものだった。
エルフリートはベルフェゴールの言葉を聞いて内心、腸が煮えくり返るような
怒りが湧いた。国民が貧困に喘ぐ中、彼らの血水を売るような真似をされて
心底、頭にきたのだ。エルフリートは馬車の中にいる4人に対して、こう言った。
「私、ロクナレス王国の王族の人達と仲良くする心算はありません。
もし向こうから、やって来た時は……殴るかも知れません。」
その言葉を聞いて父親であるアスモデウスはただ苦笑するしかなかった。
隣にいたバアルゼフォンもまたエルフリートの言葉を聞いて苦笑していた。
ベルフェゴールの場合、すました顔をしていたが
マルグレーテにいたっては笑いを堪えているのか?少し肩が震えていた。
(この娘、いずれ大きなことを成し遂げるかも知れない。)
エルフリートを見てベルフェゴールはそう思った。何のかんの話をしている内に
馬車は王城へ辿り着いてしまった。内心、エルフリートは憂鬱な気持ちに駆られたが
マルグレーテはそんな彼女の気持ちを察してか?傍を離れることはなかった。親である
アスモデウスとバアルゼフォンの二人はエトルリア公国の王すなわちアスモデウスの
兄であるアウシュトラスにベルフェゴールと共に挨拶をしていた。
(嗚呼、舞踏会に参加するより、お父様と一緒に伯父様のところへ挨拶に行きたい。)
そう思ったエルフリートは憂鬱気に溜息を一つ吐いた。それだけで儚げな印象を持つ
アルビノカラーの猫っぽい髪形をした美少女がいると周囲の目を引くことを彼女は全く
知らなかった。その事実を知っているのは隣にいるマルグレーテの方であり彼は彼女の
心の安寧を守る為、悪意を持って近づこうとする輩がいないか?目を光らせていた。
また不純な理由で彼女に興味を持った男が不用意に近づけば何時でも攻撃できるよう
ひそかに準備もしていたのだった。その様子を国王への挨拶が終わり広間へと戻って来た
アスモデウスとバアルゼフォン、そしてベルフェゴールの3人が見ていた。その内、
マルグレーテの父親であるバアルゼフォンは自分の息子が親友の娘に対して抱いている
執着心について警戒心を抱くと共に、こんなことを内心、思ったのであった。
(どんなに仲が良くなったとしても、それとこれとは話が別と言うこともある。)
息子が、かつて自分が犯した間違いと同じ過ちをするのではないか?と言う疑念と
その時、自分が支払った代償のことを考えると何だか何とも言えない気持ちになった。
「何だ?マルグレーテ。もう私の娘を嫁に貰う心算なのか?気が早いな。」
アスモデウスが冗談まじりでマルグレーテにそう話を掛けると彼は下を向いて黙っていた。
別にアスモデウスは娘を嫁にやりたくないと言う父親の類ではない。むしろ娘が、いずれ
進んで結婚の話をしてくれるまで待っている心算なのだ。と言うのも肝心のエルフリートの
方が婚姻に関して全く興味を持っておらず、また同年代の令嬢達と違い恋愛のれの字も
関心を持っていないのだ。これには流石のアスモデウスも頭を抱えたくなったのである。
アスモデウスに話を掛けられ固まっている甥っ子の姿を見てベルフェゴールは思った。
(ヘタレだ。間違いなく、これはアザゼルが見たらヘタレだと言うな。)
魔王達の知恵袋とも呼べるご意見番が見たら、そう言うだろうことを冷静に判断した。
兄のベルフェゴールに息子がヘタレだと判断されたバアルゼフォンはその事実が恥ずかしい
やら何やらでマルグレーテとは別な意味で下を向いてしまった。アスモデウスは言った。
「私は別にマルグレーテへ圧を掛ける為に言った訳ではないのだが……」
親友であるアスモデウスが自分の息子であるマルグレーテに対して気を使っていることが
バアルゼフォンにはすぐに解った。何故、親友が息子に気を使っているのか?解っている
彼には如何に息子の度胸がないのか?理解した上で意気地がないと同時に怒りも沸いた。
「マルグレーテ。自分の意見があるなら、ちゃんと自分の口で言いなさい。」
他所へ出ると表面上、良い子である息子に対してバアルゼフォンは容赦なく叱った。
よりによって、好きな人とその父親がいる前で叱られたマルグレーテは唇を軽く噛んだ。
父であるバアルゼフォンは体裁を気にする人ではないし伯父であるベルフェゴールもまた
同様である。そう言ったことを多少気にするのはマルグレーテだけであり、また好きな
人がいる前で格好をつけたがるのはその年齢らしい心理的な作用によるところであった。
(くそっ!砂を噛む思いとは正に、このことだ!!)
父親に公の場所で叱られるとは思ってもみなかったマルグレーテであるが、それだけ悪い
意味で周囲の目を引くことになったのが、より悔しく感じた。何故なら、その分、他の
男にエルフリートへ付け入る隙を与えてしまったからだ。見栄っ張りだと言われれば、
それまでではあるが恋する男の心情としては如何しても看過する訳にはいかなかったのだ。
「私は……」
「エルフリートさん、私と踊って頂けませんか?」
マルグレーテがアスモデウスに何か言おうとした時、誰かがエルフリートに声を掛けた。
エルフリートが声のした方向に顔を向けると、そこには一人の青年がいた。その青年は
周囲のご令嬢方から黄色い歓声を受けながらも何故か彼女の方へ歩み出ると、その手を
差し出した。エルフリートは内心、訳が解らない。と思いつつも青年の差し出した手を
見た。そして、その手を受け取ってはいけないと思い青年に対して、こう言ったのだ。
「貴方は人を不幸にする手を持っています。私は人を幸せにしたいので、お断りします。」
エルフリートに断られると思っていなかったのか?青年は驚いた顔をして、その手を
引っ込めた。その瞬間、青年の顔が僅かに引きつったのをアスモデウスは決して見逃さ
なかった。青年の腹に何か隠されているものがあると気づいたアスモデウスは青年を
娘に近づけさせてはいけないと思い、こんな忠告を一言、周囲のいる前で述べた。
「私はかつて、ある女性から頼み事をされて3人の夫を殺したことがある。その女性の
夫は非常に好色で女性に目がなかった。当時、女性は16歳の乙女で対する夫の方は
32歳の子持ちで妻は既に3人もいた。それでも夫は新しく妻を迎える予定があり、
その新しく迎えられる予定だった妻こそが、私に頼み事をした例の女性なのである。」
暗に娘を不幸にしたら容赦はしないと言っている訳だが言葉の意味を解っているのか?
いないのか?よく解らないが青年はアスモデウスに対して笑みを浮かべると、こう返した。
「ご安心ください、大公殿下。私じゃなくても、貴方の娘はこの国の公女な訳ですから
不幸にしようとする輩は恐らく存在しないでしょう。何故なら彼女は王弟の娘つまり
国王からすれば姪にあたる人である訳だから、そんなことをすれば不敬罪に問われる
ことは皆、承知していることでしょう。そんな恐れ多いこと誰が考えるでしょうか?」
弁舌は最もであるが、そんなことを考えていなければ避ける方法も考えはしないだろう
と言うことをアスモデウスはよく知っていた。この男、矢張り信用できないと判断した
アスモデウスは青年の顔を冷ややかに見据えると厳しい口調で、はっきりと宣言した。
「お前だ!ユースレス!!貴様、自分が一体、何歳だと思っている?私はお前が若返りの
薬を飲んで見た目が20代に見えるようにしていることは知っているんだぞ!!そんな
男の言葉を誰が信じると言うのだ?二倍以上、年上の男に嫁がせる父親などいない!!」
烈火の如く怒るアスモデウスにユースレスと呼ばれた男性は真っ青な顔で震え上がった。
それもその筈、自分の嘘を親子で揃って見破っただけではなく、その返答次第では容易に
首を刎ねられる可能性だってあるのだ。このやり取りを見ていた令嬢やその両親達は皆、
眉を顰めユースレスから距離を取った。と言うのもアスモデウスの言うように己の経歴を
平然と偽るような輩に娘を嫁がせる親はいないのだ。また貴族と言うものは家と家の結び
つきを大事にしている為、慎重に慎重を重ね納得できるような相手しか選ばないのだ。
この一件によりエトルリア公国内の社交界におけるユースレスの立場は完全に無いものと
言っても過言ではなくなった。王弟はもとより国王を始め多くのエトルリア公国内に住む
貴族達がユースレスのことを信用ならない輩だと認識して社交界に参加することを拒否
したからである。その結果、ユースレスをエトルリア公国に紹介した隣国の王リターは
恥を掻いたのであった。だがロクナレス王国の王族は時として恥知らずと揶揄されるだけ
あってリターは所謂、厚顔無恥の類だった。自分の部下が駄目だと解ると今度は自分なら
大丈夫だろうと意味の解らない自信の下、エルフリートに対して婚姻届を送ってきたので
ある。これは勿論、父親であるアスモデウスが一瞬で消し炭にしたが両国の間には何とも
言えない剣呑な雰囲気が漂い、それは間違いなく戦争を彷彿とさせるようなものであった。
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