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【完結】私の幸せ  作者: P太郎
レイチェル
54/59

理想の幸せがありますので!

鉄拳制裁

扉を開いて入っていらっしゃった方は、本来ならば鮮やかな赤色の髪を一纏めに括り、なおかつ緩やかなウェーブがかかっていることで華やかな印象を与えてくださる方。

日に焼けた肌は健康的で、意志の強そうなつり目は夕日色の瞳は魅力的。薄い口元はにこやかに弧を描いています。

わたくしが純粋無垢な乙女でしたら、この鮮やかな美を浴びせられて赤面卒倒していたでしょう。

クレイバーンに移住してから再会した同級生のエリシャ様。気丈で麗しい美女は、クレイバーンの大商人ヘンドリック・ロウ様を父君にされたことで跡継ぎになられたそうです。

このような美貌の商人なんて!わたくし、どんなものでも購入してしまいますわ!


「こんにちは、レイチェル様。本日はお求めされていたババル鉱山産のルビーをお持ちしました」


「まあ!そのような他人行儀はお止めくださいませ!わたくし達はお友達!気軽にレイチェルとお呼びください!」


「私は一介の商人。高貴で麗しい公女殿下と同列にはなれません」


微笑まれながら答えられました。

はぁん、一線を引かれていますが、むしろそれでいい!と思ってしまいますわ。エリシャ様は元辺境伯令嬢ですもの。礼節はしっかりとされていますし、このクールなご様子と中性的なお声・・・美女のハスキーなお声に勝てるものなんて鍛え抜かれた騎士の上腕二頭筋くらいしかありませんわ!最高です!


「・・・レイチェル様、現物をご覧になられますか?」


「はぅ・・・あ、ええ、勿論です!どうぞおかけになってくださいませ!」


エリシャ様の麗しいご尊顔を眺めつつ、その美声を脳内で反芻していましたら夢見心地になってしまいましたわ。いけません、折角のエリシャ様とのお時間。惚けている場合ではありませんわ。

わたくしが向かいのソファを指し示せば、エリシャ様は対面するようにお座りになられました。

先程まで貧弱フニャフニャ王子殿下がいましたが、エリシャ様と向かい合うなんてあまりにも眩しくて失神してしまいそうです!

落ち着いて、わたくし。


「本日はわざわざご足労をおかけしました。ババル産のルビーはクレイバーン内でも有名な輝石。どうしても入手したかったのです。エリシャ様の商品の中にあって良かったですわ」


本当はエリシャ様にお会いする口実ですけども!


「当店で取り扱っているもの全てをお持ちしました。必ずや公女殿下の美しさを引き立てるはずです」


ジュエリーケースがテーブルに置かれて、蓋が開かれました。並べられている赤い煌めきはどれも鮮やかで、様々なタイプのカットをされていることも相まって目を引きますが。


(本日はルー様とケイ様もいらっしゃいますのね!)


エリシャ様の後ろに控えている男性二人にも目が引き付けられてしまいます。彼らはエリシャ様の部下と護衛なのですが、どちらも引き締まった体躯をされていますわ。

ルー様は腕を剥き出しですから、筋肉でゴツゴツされた丸太のような腕を晒して下さっています。ケイ様は首から下は衣服とケープでしっかりと隠されているから想像ですが、素晴らしい筋肉をされていると目測で分かります。

わたくし、岩石のごとく逞しい男性が好みですが、顔立ちの整った男性も勿論好みでして、筋肉逞しいのならば尚のこと好みなのです。つまり、ケイ様もルー様は特に好みの男性で、視界で楽しんでしまう傾向にあります。

ああ、ですが、お二人共エリシャ様に懸想されていると理解しておりまして、美しい女性と筋肉質な男性二人が共にいらっしゃると尚のこと素晴らしく。

やはり、好みの美男美女の睦まじさを眺めるのは最高ですわ!ずっと眺めていたいですわ!


「こちらのペアシェイプカットだとネックレスが一番映えます。レイチェル様の白磁の肌を彩るでしょう・・・どうですか?」


「はう!・・・ご、ごめんなさい。つい、うっとりしてしまいましたわ。美しいものとは目を引きつけますもの。はぁ、エリシャ様の美しいお顔と陽の光を思わせる澄んだ瞳。後ろに控えていらっしゃるお二人の逞しい肉体・・・」


「・・・ルビーはどうですか?」


「ええ!勿論全て美しく高品質だと分かります!一つに選ぶことなどできませんので、全品購入いたしますわ。エリシャ様のお見立てに相応しいアクセサリーにしたいのですけれど、ご提案をいただけても?」


理想を思い描いて心此処にあらず、になってしまいましたわ。自省しませんと。

そう思いつつ、最新のアクセサリーのデザイン集を出し、ノートに書き出したエリシャ様を眺めさせていただきます。


学生時代のエリシャ様はとあるグループに所属していらっしゃいました。グループ、というかご友人の集まりでしたが。そのグループは、広大で豊かな農耕地をお持ちのベルアダム侯爵家令嬢コルネリア様を中心にされたものでした。マッケンジー伯爵家のカーラ様、レーヌ伯爵家のアリア様を含めた四人に、わたくしは悟られないように視線を向けていたものです。なぜなら、皆様とても美しく可憐で可愛らしくて、眼福という言葉を体現されていたからです。

殆ど戦闘課目を取っていたわたくしなので、授業ではエリシャ様とご一緒することが時折ある程度ですが、仲睦まじく身を寄せて廊下を歩かれる様や、教室から窓を眺めて談笑されている光景は楽園のようで。食堂で昼食を取られる姿なんて妖精か女神の食事会では、と思ったほどでした。

コルネリア様達は、美女や美少女ばかりの国立学園の中でも更に上位の美しさで、他の女生徒達も学園生活の潤いとして眺めていらっしゃいました。

まあ!男性達はデイナ様の術中に嵌って全く見向きもしていませんでしたけれども!無駄な学生生活を送りましたわね!と言い放ちたいほどの光景でした。


叶うならお友達に。

そう思ったのは一度や二度のことではありません。あちらはディルフィノ家の格に気圧されていたようで、すれ違っても挨拶を交わすだけでしたけれど。

臆せず話しかけてくださればと思っても、わたくし自身もディルフィノ家を背負う者として背筋を伸ばしていましたから、交友などできず。


その後、元婚約者達の手でコルネリア様達は貶められたと知り、憤慨と荒ぶったのは忘れません。怒りのあまり、藁で作った訓練人形を何十体もズタズタにしましたもの。

そのようなことになるのならば、交友を持てば良かったと非常に後悔しました。わたくしがいれば、皆様は傷付いて苦しめられはしなかったのだと。


すでに過去のこと。今更悔いてもどうにもできず、それならばと今から関係作りを画策しました。

王都追放で行方不明となったカーラ様は、懇意の医師に救われ穏やかに暮らしていると知り、手を引きました。カーラ様は幸せになられたので、わたくしが仲介すべきではないと思ったからです。

アリア様は、何故かマルチェロ侯爵家の妨害が入って接触すらできませんでした。あの家は、当主と夫人の双方がアリア様の母君に執着心があると知っていました。新参者に過ぎないわたくしにはどのようにもできませんでした。凄まじい執念をも感じましたし。


コルネリア様は、独身の女性侯爵としてベルアダム侯爵領を切り盛りされていました。ですから付け入る隙・・・いえ、官僚を介して食料供給、物資運搬、対価交換など取引をしていましたから少しずつ歩み寄りがありました。まあ!ディルフィノ公国が派遣した官僚がわたくしの二番目の兄リチャードお兄様でしたけれども!

コルネリア様自らが取引をしていましたので、リチャードお兄様とは顔馴染み。知人。お互い好意的だったと聞きました。

このままいけば、コルネリア様をディルフィノ公国に迎えられるのではと、わたくしだけではなく、お父様も二人のお兄様も思ったのです。ロンバルドは基本いないので、公国の要職には就いていません。ですから無視しました。

とにかく、リチャードお兄様はコルネリア様を妻にと考えました。可憐なお顔をお馬鹿な元婚約者の方に傷付けられて酷い傷跡があるそうですが、リチャードお兄様は気にしていませんでした。コルネリア様自身を好まれたのでしょう。


つまり、コルネリア様をお義姉様に迎えられる、望んでいたお友達になれると、わたくしの胸も高鳴ったものです。


その思いも期待も破壊してくださったのがコルネリア様の元婚約者お馬鹿なアベル様でしたけれどもね!本当に余計なことをされたと思いますわ!

カーラ様もアリア様も、結局は元婚約者の男性達が奪われました。悲しいですが、彼らの思うままに扱われていらっしゃるのかしら・・・。

結局、わたくしはコルネリア様達とお友達になれず、助けることもできず。弱きを守る騎士を目指した者として情けなくて、非常に落ち込みました。


エリシャ様もお友達と別れることになり、きっと悲しまれているはずですわ。それなのに、その心を隠してわたくしと交流してくださっている。悲しみを晒さない強さをお持ちだと分かります。

ですから、エリシャ様の力になりたいと思いました。支援も込みで商品を購入し、わたくしが知る範囲の情報をお教えする。少しでもエリシャ様のためになればと・・・あわよくば、お友達になりたいものですわ。


「こちらの二点は指輪が合うと思います。他より小粒ですが、輝きを強調するカットをされています。この一番大きなルビーは髪飾りにされたほうがいいかと。以前紹介した金細工師に依頼して、細やかかつ豪奢な台座を作ってもらうことが可能です」


はぁん、お仕事に誠実なエリシャ様。真剣な眼差しと声色に胸が高鳴ってしまいます。どうにかしてお友達になりたいですわ。そして、ララと同じく側に侍らせたい。


「いかがしますか?」


「勿論、お願いいたしますわ!」


内心の葛藤など悟られては公女として未熟ということ。

満面の笑みで対応させていただきました。はぁ、エリシャ様の柔らかな微笑みがこちらに向けられています!女神の微笑のようで美しいですわ!最高の微笑みをしっかりまて網膜に焼き付けませんと!

わたくしの荒ぶりは常に内に秘めていますので、エリシャ様には気付かれず、怜悧な美貌のお顔を傾けられます。何て愛らしい所作なのでしょう!わたくしが絵師ならばすぐさまキャンパスに描いて部屋に飾っていました!


「本日はジャレッド王子はいらっしゃらなかったのですか?」


「・・・はい?フニャ、いえ、シルヴァン王国のジャレッド王子殿下ですか?先程までおりましたわ。変わらずお話が平行線でしたので、早々にお引き取りしていただきました」


折角のエリシャ様との時間ですのに、不愉快極まりないフニャフニャ王子殿下のお話なんて!・・・いえ、つまりこれまでエリシャ様との商談を影響があったということ。

次は門前でお引き取りを願い出ましょう・・・駄目ですわ。そのようなことをすれば、幼児のように駄々を捏ねて居座る方でした。ああ、上手ないなし方を考えませんと。


「本当にお早いですね。普段ならレイチェル様との決闘に負けられてから帰るのに。駄々を捏ねなかったのですか?」


「変わらず駄々っ子でしたわ。でも、公女として夫にはできないと言えば引き下げられて・・・」


おかしい。

今まではそれでも縋り、わたくしを従わせたいならと決闘をしました。戦闘能力が月とスッポン、いえ、大きな開きがあるにも関わらず、それでも挑んでこられて。わたくしをシルヴァン王国に連れて帰ると息巻いておりました。

本日提示した徒手空拳が本当に嫌だったのでしょうか。そうだとしても、わたくしとの投げ技勝負には食い付いていらっしゃったし、何か心境の変化をもたらすものがあったのでしょうか。


「レイチェル様、ジャレッド王子殿下はどのようにお帰りに?」


「扉から出ていかれましたが」


「その後の姿はご覧になっていない?」


「はい、執事のサンドラが控えていれば玄関まで引き摺って連れていきます」


「私は隣室の控えで待っていましたが、王子殿下の気配も足音も感じませんでした。ルー」


「なんだ?」


エリシャ様は背後にいらっしゃるルー様に振り返ります。その角度からですと、シミもシワもない滑らか首筋がよく見えて、本当にお綺麗な肌だと・・・いえ、今は見惚れている場合ではありませんわ!


「王子殿下の気配は感じた?」


「いや、俺は壁際に控えていたが足音も振動も感じなかった。俺達のいた控え室の前は誰も通っていないな」


振り戻したお顔は真剣なもの。


「だそうです。控え室の前を通らなければ玄関には行けないのに」


「中庭を介して行けますが、ジャレッド王子殿下をそちらに通すわけがありません」


「レイチェル様のお屋敷は広い。流石は公国の姫君のための豪邸だと思います。それにも関わらず、内部の人員は少ない。もし侵入者が入り込んだら、隠れ潜むところも多いのでは?」


その通りですわ。

警備としてディルフィノ公国の兵士達は多く配置しています。ただ、それはお屋敷外周にです。塀に沿うように彼らは駐在していて、詰所や生活寮も沿うように建っています。お屋敷には内門に交代制で四名の騎士がおり、わたくしの身近にいる護衛騎士は本日休日を取っています。

賊というか、つまりジャレッド王子殿下がどこぞの一室に隠れ潜んだ場合、探し出すのは手が掛かる。あちらには、わたくしには劣るものの五名の精鋭近衛騎士がいるのですから、もし武力で暴れられたら・・・わたくしがいるのですから大丈夫ですわね。


「貴女の侍女のララさんがいないのも引っかかっています。いつも側にいらっしゃるのに、どちらに行かれたのですか?」


「ララはお茶請けの洋菓子を取りに行きました」


時計を見る。

ララが応接室を出て行って十分以上経っている。彼女は仕事が早い。決して慌てることなく、それでいて素早く熟してくれる。そのララが、まだ洋菓子を運びに来ない。


「・・・エリシャ様」


わたくしはソファから立ち上がった。見上げていらっしゃるエリシャ様に淑女らしい微笑を浮かべる。


「邸内に不穏分子がいらっしゃるようです。早々に始末いたしますので暫く、こちらの応接室でお待ちくださいませ・・・エリシャ様の存在が発覚すれば、あちらから厄介な男性がいらっしゃいますもの」


「元婚約者にはバレましたよ。狂った辺境伯は、王家と交信しているはずがないので情報は届かないと思いますが」


「それでもです・・・では、ごきげんよう」


早足、それでいて優雅に。

わたくしが応接室の扉を開いて出れば、背後から「おっかねぇ」などと聞こえましたが、今はそれどころではないので後ほどお話をさせていただきましょう。




「いや!来ないで!」


女性の悲痛なお声が聞こえたのは中庭の奥。目隠しのために林のように植樹した木々の合間から。ララの声だとすぐに分かりました。

わたくしはドレスの裾を翻すことなく、駆ける足音が向かう先を予想して歩みを進めます。


「待ってくれ、ララティーナ!逃げないでくれ!」


聞いたことの、いえ、記憶を掘り起こせば耳にしたことはありますわね。最後に聞いたのは呻き声でしたが。

わたくしは貴方を雇った覚えはありませんのに、なぜわたくしのお屋敷でわたくしの大切な侍女を追いかけ回していらっしゃるのかしら。我が物顔で腹立たしいことこの上ありません。


「ヴァイス回り込め!」


「そうは言っても足が速くて」


追手はもう一人いらっしゃるようね。視界を林に向ければ、ちらりと見えた髪色は薄水色。ララと同じ髪色でしたわ。双子の兄君で確定でしょう。


「やだぁ!嫌!私を殺すつもりでしょう!また殴るつもりなのだわ!嫌、嫌よ!痛いのは嫌なの!!」


なんて悲痛な声。恐らく、ララは自分を殺害しようとした男達に追われて錯乱していらっしゃるのね。

きっと泣いていらっしゃるでしょう。かわいそうに、わたくしのララ。

ああ、わたくしの大切なお友達を泣かせるなど、決して許してはいけません。


「ララティーナ!」


「ほら、こっちだ!捕まえて」


「いやぁっ!?」


白髪の男性と薄水色の髪の男性が、わたくしのララを挟んだのを目にした。その瞬間、目の前がカッと赤くなって。


「ララ、いっしょにぎゃあっ!!」


気が付いたら薄水色の髪の男性のお顔に両方の足の裏を叩き込んでいました。ドレスの裾が翻って素足を晒していましたが、今は気にする状況ではありませんので!!


「ぎゃんっ」


「・・・はしたなくも、お顔を蹴り飛ばすなどいたしましたわ。ですが、貴方方はわたくしのララを泣かせたのですもの。暴漢に慈悲はありませんのよ!」


「レイチェル!」


抱き着いてきたララの体をしっかりと抱き止めます。ああ、綺麗に整えたお化粧が涙で流れてしまって・・・それでも美しいのですから美少女とは本当に魅惑の存在ですわ!


「洋菓子、取りに行ったら、この人達がいきなり出て来て、わ、私を連れて帰るって!わ、わたし、きっと、ころされ、ころされる!だってお兄様もいるもの!私をハイマン家に、連れて帰ってころ、ころすつもりなのだわ!」


ああ、思った通り錯乱していましたわね。かわいそうに。

懐から出したハンカチを涙で濡れたお顔に当てます。慰めるために背中を叩いて落ち着かせます。


「う、ぅう・・・」


わたくしの胸元に顔を埋めた可愛い侍女。いつもは冷静なのに、これほど取り乱させるなんて。

倒れている男性と、腰が引けて座り込んでいる男性を感情のまま睨み付けてしまいました。


「ひっ、レ、レイチェル公爵令嬢」


「・・・わたくしはディルフィノ公国の公女です。何度も、何度も貴方の主人にお伝えしているはずですか?ああ、貴方がこちらにいらしたのは初めてですから、わたくしの立場をご存じなかったのですね。初の来訪で、野盗のように婦女暴行をされるのですもの。わたくし、非常に驚いております」


「じ、自分は野盗ではありません!そちらの女性は自分の婚約者で、国内が落ち着いたから連れ戻そうと」


「嫌がる女性に無理強いを敷くことは立派な暴行ですわ!大国の王子の近衛騎士がされることですか!恥を知りなさい!!」


怒りのままに言葉を発したから、きっと塀の向こうにも轟いたでしょう。

非常に下品だと思います。公女としてしてはならないことだと分かっています。ですが、未熟と言われようとも許せぬことに対して怒りを示さなければなりません。この方達はわたくしのララを苦しませたのですから!


「う、っ・・・ヴァイス?・・・げぇっ!ディルフィノ公爵令嬢!?」


薄水色の髪の男性は、わたくしのヒールの跡を顎に付けつつ上体を起こしました。そして、わたくしを目にしたことで後退るようにお尻を引きます。わたくしが逃がすとでも思っていらっしゃるのかしら。


「シルヴァン王国の近衛騎士と、許可なく邸内に侵入した犯罪者の方。覚悟はよろしくって?」


「ま、待ってください!俺はララの兄です!」


「レイチェル公爵、レイチェル公女殿下!ララティーナを返してください!彼女は自分と結婚する予定なのです!」


「お黙りなさい!問答無用!!」


近付いてきた白髪の近衛騎士を投げ飛ばせば、木々の合間から覗く塀に激突しました。慌てた様子の薄水色の髪の男性は、そのまま顎を狙って殴り上げたのですが、木の枝の間に挟まりました。

・・・以前も飛ばしましたが、その以前よりも飛距離と高さが伸びましたわね。わたくし、あの頃よりも力が増しているようです!


「うわっ!君達何をやってるの!?ハイマン家の令嬢を捕まえたんじゃ」


「監督不行き届き!!」


「ぎゃふ!!?」


そして、どこかに隠れていたらしいジャレッド王子殿下がのこのこと姿を現されたので、躊躇いなく殴り抜かせていただきました。弧を描く様に飛ぶ姿は、ある意味で芸術点が高いですわね。


「ジャレッド王子殿下、すでに屋敷からお出になられているはずの貴方がなぜ、まだいらっしゃいますの?そして、近衛騎士と不法侵入者がわたくしの侍女に暴行を行った件についてお話がありますわ。そちらの残り四名の近衛騎士の方々も、主の手綱が握れていないご様子。本日は他の予定がありますが、一度場を設けてお話しなければいけませんわね?」


顔を青くする王子殿下。どこか別の、ここにはいない何かを見るように遠い目をするレグルス殿。その他の近衛騎士達も居た堪れないお顔をしていますが、わたくしは許しません。


「きっちりとお説教させていただきます!言葉で分からぬのなら体で分からせることも厭いませんわ!!」


わたくしの怒号は再び轟きました・・・───。






───・・・優雅に、そう優雅に努めて好みではない銘柄の紅茶を一口。わたくしは公女ですので苛立ちなども封じて、音を立てずにソーサーにティーカップを置きました。


注がれていた茶褐色から視線を上げれば、腹立たしいお顔が微笑みを浮かべています。もしわたくしが公女でなければ、紅茶を浴びせてもよろしいかしら・・・いえ、口にするものを粗末にするなど、どのような立場だろうとあってはならないこと。


「ロンド辺境伯領とルノー伯爵領が開戦するようでさ、そうなると隣接するクレイバーンへの道は閉ざされちゃうでしょう?レイチェルに会えなくなるのは嫌だから、僕も暫くはクレイバーンで暮らすことにしたんだ。お互いの屋敷も近いし、気軽に会いに来れるよ」


「はあ・・・」


溜め息程度ならば漏らしてもよろしいでしょう。

このジャレッド王子殿下は、わたくしの侍女ララに懸想する近衛騎士とララの兄君を使い、わたくし達を引き離す稚拙な戦略を取られました。

王子殿下を叩き・・・きつくお説教をしたことで聞き出しましたが、大事にしている侍女がシルヴァン王国に戻れば、わたくしも戻るなどと考えたようです。あまりにも稚拙な作戦で頭が痛くなります。いえ、痛いですわ。頭痛に効くハーブティーを用意していただこうかしら。


「いつかレイチェルと一緒に暮らしたい・・・ねぇ、やっぱり今から結婚しようよ!」


美しいお顔に満面の笑みを浮かべる身勝手極まりないフニャフニャ王子殿下。


「レイチェル公女殿下、ですわ・・・」


脱力してしまってそれだけしか訂正できませんでした。厄介な男性の参入など望んでおりませんのに。わたくしの生活はこれからどうなるのでしょう。

理想は筋肉逞しい精悍な男性との結婚!好みの美女や美少女を侍ら・・・好ましいご婦人達との楽しい交友!でしたのに。


「レイチェル。君がどんなに嫌がろうとも、僕は君が好きだ。だから結婚しよう!幸せにするよ!」


どうしてここまで好意を持たれたのか不明ですけれど。


「何度も申しますね。お断りします!わたくしは、わたくしが認める素敵な男性との幸せな結婚をするつもりですので!」


微笑みながらお断りさせていただきます。

どのような好意や愛情を示されても、わたくしには思い描く理想の幸せがありますから!

あまりに強すぎて本編には出してはいけない公女すぎた。


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