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【完結】私の幸せ  作者: P太郎
アリア
47/59

強引に成された婚姻

突然だとは思わなかった。だって、兆候はあったから。

ルーベンスが私を狙っていることはきちんと理解していたし、彼と同じくデイナの愛人だった男達は、次々に女性達を奪っていったのだから。

それでも驚いた。だって、ルーベンスは侯爵家令息で宰相子息。次期侯爵で次期宰相。宰相は臣民から政に関して有能な方が選ばれるから世襲制ではないけれど、今はルーベンスほど優秀な方はいなかった。彼は父君譲りの知性と政略をお持ちになっている。悪しき魔女に操られる前の性格に戻ったのなら、いずれは父君から引き継いで宰相になられる。

そんな方が、婚姻届を手に我が家に乗り込んでいらっしゃるなんて普通では考え付かない。これほどまでに強引な手段を取るなんて思わなかった。




朝、目覚めてすぐに感じたのは声と足音。ベッドに身を預けていたのだから夜着のままで、私はブランケットを引き寄せて体を隠した。

昨日、コルネリアから手紙が来て、王命で国王陛下に謁見すると書かれていた。その要件が終われば次の日、つまり明日には私を迎えに来てくれる。そうとも書いてあって私は喜んだ。喜んだのに。

不安を煽るように自室の扉の前で二人の男性の声が聞こえる。一人はお父様で、もう一人はルーベンスだと思った。言い合いをしているようだけど、私のお父様は気が弱い。くぐもっていて言葉は分からないものの、言い負かされていると分かった。


「何をっ!?流石に許すことはできません!」


「私とアリアは婚約している。すぐに婚姻も結ぶのだから問題はない」


「婚約はそちらから破棄されたでしょう!何より娘はまだ眠っています!!」


「いや、目覚めたようだ。おはよう、アリア」


呆気に取られていた私に、勝手に扉を開いたルーベンスが笑いかける。

僅かに口角を上げたうっすらとした微笑。目は笑っていないから、愛想笑いと分かる。

分かるけれど、どうして私の寝室に入ってきたの。まだ寝起きで、それに、なぜルーベンスが。分からない、理由は分かるけれど、分かりたくない。


「ル、ルーベンス様」


「そうだよ、私だ。おはよう」


「あの、なぜ、わ、私の部屋に!そ、それに入室の許可を出していません!勝手に入られては困ります!」


目的は私。頭が醒めていたから分かる。ルーベンスは私を捕まえるために、私の部屋に押し入ってきた。それは分かる。

でも、彼のような性格の人が、婦人の部屋に勝手に入ってくるのは理解できない。そんな方ではなかったはずよ。


「で、出ていってください!」


薄地で体の線が分かる夜着だから、だらしない姿を晒すことになる。羞恥心とルーベンスの恥知らずな行為に、私の顔は熱くなっていた。確実に真っ赤に染まっているはず。


「先触れなく迎えに来たから、君の用意が済んでいないのは分かっていた。寝間着姿でも気にしていないよ。すぐに準備をしてもらうからね」


「あの、何が?」


「ルーベンス殿!横暴です!」


「・・・黙っていろ」


困惑する私。お父様は珍しくルーベンスに怒り露わに声を上げられたけれど、顔だけを向けたルーベンスが一声発すると本当に黙ってしまった。

青白い顔で、不安そうに私とルーベンスを見比べている。


「あ、あの」


夜着だからベッドから降りられない。姿を晒すことはできない。家族にすら寝間着で会うなどしたことはないのに、私と無関係なルーベンスに見せるわけがない。


「アリア」


彼はお父様に向けていた顔を私に戻すと、綺麗な緑色の瞳の目を細めた。

それは蛇が獲物である蛙に狙いを定めたような目。食らいつこうとする恐ろしい眼差し。


「本日中に私と君は婚姻を結ぶ。夫婦になるんだ。だから、君が寝間着でも気にしない。このまま着替えて大丈夫だ」


「・・・ぇ」


「迎えに来たと言っただろう?君の準備が出来次第、マルチェロ家に連れて行く。現状から式はまだ挙げられないが、婚姻届だけは用意してある。今は提出だけをして、国内が落ち着いてきたら王都の大聖堂で結婚式を執り行おう」


「なに、を」


「さあ、起きてくれ。嫁入り道具の準備は出来ていないと踏んでいるから、こちらで用意した。持参金もいらない。君が必要とする物も全て揃えたから、君は着替えてくれるだけでいい」


何を言っているのか理解したくない。私、私はルーベンスと結婚するって、どうして、なぜ。だって、私達はもう関係ない。婚約破棄したし、もはや婚姻を結ぶつもりもない。私は修道院に行く。コルネリアが迎えに来てくれて、明日にはベルアダムに向かう、のに。

それなのにルーベンスは勝手に話を進める。強引に事を運ぼうとする。私の意思も気持ちも蔑ろにして。


嫌、嫌。絶対に嫌。ルーベンスと結婚したくない。夫婦になるつもりはない。だって、私はデイナが現れる前からルーベンスが大嫌いなのよ。


「いや、嫌です!でて、出ていって!!私の部屋から出ていってください!私は貴方の妻にはならないわ!勝手に話を進めないで!!嫌よ!結婚なんてしない!!」


ブランケットで身を包み、お尻を引いて後ろに下がる。

距離は離せない。ベッドから出られないから。夫でもない人に私の姿を晒さない。私は絶対に結婚しないのだから、赤の他人のルーベンスに見せるわけにはいかない。


「出ていって!お願い、出ていってよ!ルーベンス様、お願いだから・・・でていってよぉ・・・」


感情に従って涙が溢れる。頬を伝って濡らしていく。

それなのに、どうして呆れた表情で私を見ているの。聞き分けが良くないと溜め息を漏らすの。

私、間違ったことはしていない。間違っているのは、おかしいのはルーベンスなのに。


「駄々をこねないでくれ」


「いやっ!来ないで!」


近付いて来たルーベンスは、私のベッドに腰を下ろした。私が姿を晒せないのをいい事に、手を伸ばして肩を掴む。


「い、やっ、やぁっ!」


グイッて引き寄せられて、私とルーベンスの体が触れ合う。

小柄で背の低い私から見れば彼も大きく映るけれど、この国の男性達に比べれば背も低くて細身。筋肉なんてないって体型をされているのに、それなのに力は凄く強かった。身じろぐこともできずに抵抗虚しく肩を抱かれて、右手首を掴まれる。


「アリア」


「ぁ、やぁ」


低めの澄んだ美声が息と共に耳元に吹き込まれる。思わず体が跳ねて、ルーベンスは私の頭に頬を乗せた。


「・・・説明をしておこう。まず四年前の婚約破棄だが、あれは偽装だった。君の安全を考慮して魔女の目を欺く必要があったから偽ったんだよ。お陰で魔女は君をあまり意識しなくなった。監視は付けていたようだが、それだけだっただろう?」


「い、いえ!嘘です!私が記入した婚約破棄の証書は本物でした!写しもレーヌ家で保存しているはずです!」


「巧妙に作った偽の証書だった。だから写しがあっても破棄の証明にはならない・・・そうだろう、レーヌ伯爵?」


身を寄せられた私からはルーベンスの顔は見えないけれど、視界に映っているお父様が肩を跳ね上げたから、睨まれたのだと分かった。

お父様は躊躇いつつも、何度か頷いている。


「レーヌ伯爵も了承したね。つまり、あれは偽の証書だった。君との婚約は継続状態だ。邪悪で淫蕩な魔女が死んだことで婚約を隠す必要はなく、このまま婚姻を結んでも問題ない。そうだろう?」


「嘘をおっしゃらないで!!」


騙されない。あの魅了されていたルーベンスがそんな偽装をするわけがない。この方はデイナに心を奪われていた。私など二人の愛の障害だと詰って、苦しめて、私が婚約破棄を願い出たときの顔は喜びの顔だった。

それが操られていたからだとしても、その当時は本心に変わりない。魔法による偽りの愛は強力なもので、確かにルーベンスはデイナを愛していたのだから。


「魔法の力がどのようなものだと分かりませんが非常に強力だとは身を持って体験しました!当時のルーベンス様には偽装することはできません!あの時の貴方は『あの人』を愛していた!『あの人』を守るためだって貴方も私に監視までつけていたもの!私を愛を引き裂く悪女だって風潮もしていた!!」


「『あの人』とはバカ女のことか。口に出すのも嫌なんだね。分かるよ、私も名前を聞くだけで虫酸が走る。あんな馬鹿がいなければ、私は一時だろうとも君を手放すなんてしなかった」


カサリと乾いた音が聞こえる。

ルーベンスは懐から紙を取り出したようで、それを私に見せてきた。

それは婚姻届。ルーベンスの署名は既に書かれていた。あとは私が署名すれば、この婚姻届は役所に届けられて受理されてしまう。


「あ、い、いや!」


「書いてもらうよ。私は婚約者である君と婚姻を結ぶ。君以外を妻に迎えるつもりはない」


「い、やめっ、いたい!力が強いわ!いたい!はなしてぇ!かきたくない!書きたくないの!」


サイドテーブルに婚姻届が置かれると、私の右手首を掴んでいた手が右手を覆った。いつの間にか取り出したペンを握らせて、婚姻届の署名欄にペン先が当てられる。


「やめ、いや!いやよ、手を離し、はなして!いたい!いやぁ!」


「ルーベンス殿!アリアが痛がっている!止めてください!」


「抵抗するなら無理強いをするしかないだろう・・・しかし、義父殿は何時までアリアの部屋にいるつもりだ?私とアリアはもう夫婦になったんだから義父が口を出すべきことじゃない。部屋から出ていってくれ」


「アリアは私の娘です!苦しんでいる娘を見捨てるわけには」


「見ろ、アリアは私の妻になった。これで我がマルチェロ家の者だ。外戚が口を出すべきじゃない」


ペン先は曲がり、それでも書かされた婚姻届をルーベンスがお父様に掲げる。涙でぼやけているけれど、歪んだ字になったけれど、私は自分の名前を書いてしまった。

奪い取れるの、破り捨てられるの。できるわけがない。誇らしげに掲げる彼はルーベンスなのだから。


「ぅ、く・・・うぅっ・・・んんぅ・・・」


ルーベンスの手が肩を押して、私の顔を胸元に押し付けた。止めどなく溢れる私の涙で上等なシャツが濡れていく。知らない。濡れても知ったことじゃない。

これは無理強い。私は従わされている。だから、シャツがどうなろうと配慮する気はない。

悪いのは全部ルーベンスなのだから。


「義父殿は認めないと、この婚姻届を奪って破り捨てるのか?私から奪えるとでも思っているのか?」


「・・・・・・」


「できるわけがない。レーヌ家はマルチェロ家の傘下だ。こちらが婚約を打診したときも貴方は逆らえなかったと聞く。私の父上が余程怖いらしい・・・さて、貴方の気持ちはよく分かったら出ていってくれないか?アリアと話すことがある」


「ルーベンス殿」


「聞こえなかったか?出ていけ、そう言ったんだ」


お父様は言葉を返さなかった。呻くように喉を鳴らすと、扉を開いて立ち去っていった。

ああ、そうだわ。勝てない、お父様ではルーベンスに勝てない。昔からそうだった。マルチェロ家は私達レーヌ家の上にいる方々。公私とも関係があって、常に私達を従えていた。

あのとき、デイナに心を寄せていたルーベンスが私を罰しようと司法に掛け合ったときも、マルチェロ家ご当主のギリアム宰相が止めたという。親の指示にルーベンスは従い、私のお父様も指示を受けた。私を決して他家に嫁がせないようにしろ、と。

もし、この状況を見越していたのなら、私はもう逃げられない。マルチェロ家は、ルーベンスは用意周到に準備をしていたはずだから。


「さて、アリア。君の父親もこの婚姻を認めてくれた。君も承諾してくれないかな?書類はもう私の手の内なんだ。君がどう足掻こうとも覆らない」


「・・・嫌」


ルーベンスの胸を両手で押すけれど、身を包むように抱き締める腕は離れることを許してくれなかった。


「嫌と言えば解消になると思っているのか?物事はそんなに簡単じゃないんだ」


見上げれば、涙で歪んでいる視界。睨み付ければ、見下ろしてくる緑色がある。

また胸を押す。筋肉なんて感じないのに私の力で離れないのは、中世的な美貌と体型を持つのこの方も男性だから。それでも・・・。


「・・・嫌、嫌よ!絶対に嫌!貴方と結婚なんてしないわ!以前の貴方に酷いことを言われたからじゃない!以前の貴方が私を捨てたからじゃない!私は、初めて出会ったときから!」


言ってしまおう。私だって散々と暴言を言われたのだから。私の気持ちをはっきり伝えたとして、ルーベンスがどう傷付こうが知ったことじゃないわ。


「貴方のことが大嫌いなの!話すのも嫌!顔を見るのも嫌!本当のことを言って私をいつも注意するし、ご自身の思い通りにしようと縛り付けられた!貴方に相応しいようにって難しい勉強や厳しいマナーまでさせられて、いつも息が詰まっていた!それがこれからの人生でずっと続くなんて耐えられない!息苦しい!!大嫌いな貴方と結婚するなんて嫌よ!一緒にいたくないほど嫌いなの、大嫌いなのよ!!」


「・・・」


ポロポロと涙が頬を伝う感覚がある。私の顔は酷い泣き顔で、寝起きも相まって非常に見苦しいはず。

こんな醜い姿を晒して暴言を言う我儘な女なんて、血筋や家柄に価値があろうとも嫌気が差す。ルーベンスのような方なら嫌悪すら感じるわ。

視界にある緑色の瞳も、顔を顰めたようで細くなった。うるさく泣き喚く女に苛立ちを覚えて。


「君の気持ちがどうであれ、私達は夫婦になった。覆すことはしない。君は手放さない」


「何、で・・・そ、そんなものがあるから!」


ルーベンスは夫婦だと主張しているけれど、手元にある婚姻届は提出されていない。記入済みの婚姻届があるからこの方は夫婦だと主張している。だから、破いて破棄しまえば。


「あっ!?いや!」


伸ばした手は握り締められて、婚姻届はルーベンスの上着の懐に。それを引き出そうともう一方を差し向けるけど、それすら掴まれて・・・いつの間にか、ルーベンスにベッドに押し倒されていた。私に覆い被さって、私を感情の見えない緑色の瞳が見下ろしていて。


「いやぁっ!離して!どいて!」


「・・・アリア」


顔が近付いてきて、私の耳元に唇を寄せる。サラサラとした黒髪に首筋をなぞられて体が跳ね上がった。


「今すぐ、契ってもいいんだ。そうすれば君は完全に逃げられない・・・何を言ってるのか分かるね?ここで君を犯すって言っているんだよ?」


「ひっ・・・」


なぜ、そんな恐ろしいことを仰るの。強姦するなんて予告して、わ、私をなぜ怖がらせるの。


「嫌だろう?私だって最初は優しくしてあげたいんだ。こんな場当たりに、君の実家の寝室で強姦紛いのことはしたくない・・・だから、反抗的な態度は改めてほしい。私は君と心を通わせた夫婦になりたいんだから」


今まさに私の気持ちを蔑ろにしているのに・・・。

唇も喉も震えて言葉にはできなかった。見下ろしてくる自分勝手で恐ろしい男。少しでも拒否したら、きっと私は悍ましいことをされる。ああ、だから、従うしかないのね。




紳士の皮を被ったルーベンスは着替えを覗くような真似はしないけれど、私が逃げないように部屋の中で待ち続けた。

侍女の入室も許さなかった人から身を隠すように着替える。体を起こされたとき、夜着を見られたのはやっぱり不快で、眉を寄せた顔に何を思っているのか分からなくて、それも不快感を煽った。

肌を隠す、それでいて自分だけで着れるもの。手に取った長袖のベージュのワンピースは細いベルトで腰を引き締めるくらいだから、体型も強調しなかった。素早く着替えて、髪もできる範囲で整える。

そうしてルーベンスの元に向かえば、短く息を吐かれた。

袖や裾を飾るフリルと胸元の大きなリボンが子供っぽいと思ったかしら。それでも構わない。


(貴方が強姦しようとしたのは子供のような女なのよ。罪悪感でも抱けばいいの・・・)


自分の性格や嗜好が幼いなんて分かっている。誇れることではないけれど、真面目な男には扱いづらい相手になるでしょう。

実際、ルーベンスは何度も私を矯正しようとしてきたのだから。


(変わらないわ、私はずっと貴方が苦手な女のままよ)


鼻を鳴らせば、ルーベンスが手を差し出してきた。エスコートをするつもりらしい。


「触りたくありません」


「我儘を言っては駄目だ」


近付いてきた人は腕を掴んで私を引き寄せると、ベルトで絞った腰に手を回した。気持ち悪いって、言ってしまおうかしら。


「気持ち悪いと思っているだろうが、君に逃げられては困る。暫く我慢をするように」


どうやら私の心の声はルーベンスに伝わったらしい。それすら気持ち悪いと思ってしまった。


部屋を出されてエントランスへ。途中、お母様が駆け寄り、ルーベンスに縋った。


「ルーベンス様、お願いいたします!アリアを解放してください!この子は我が国の女神に支えようと心に決めているのです!マルチェロ家に連れて行かれたら、その願いは」


「そんな他人行儀はやめてほしい。貴女は私の義母になったんです、エリザベス夫人・・・私の父上も貴女に会いたがっていた。国内が落ち着いたら是非、あの夫を連れてマルチェロ家にお越しください。レーヌ家と貴女と外戚になれたのは当家の念願。父上もお待ちしていますよ」


サッとお母様は顔色を悪くされて、ルーベンスに連れて行かれる私を見送った。私は手を伸ばしたけれど、お母様は震えた手を下げて、最後に遠目に見えたのはふらついたのを侍女が支えた姿。

エントランスに辿り着けば、お父様がソファに座って頭を抱えていらした。私達の足音に顔を上げられたけれど、苦しそうに歪んだ表情を浮かべている。


「貴方は人攫いそのものだ」


「何度も言うが、私とアリアは正式な夫婦だ。署名をした婚姻届もすぐに提出する。不当な発言をするならば、父上に伝えておこう。二度と歯向かう気持ちすら失うほど『叱られればいい』」


そう言われるとお父様は蹲り、喉を引き攣らせていたようだった。手を伸ばそうにも、ルーベンスがそれを私よりも大きな手で絡め取る。


「では、アリア。行こうか」


手の甲に唇を落として。

感触も温もりも不快だと振り払いたかったけれど、敵わないから無理だった。

ずっと住み慣れたお屋敷、私を愛してくれた優しい両親。ここはデイナと狂っていたルーベンスから守ってくれていた安住の場所だった。それなのに、正気に戻ったルーベンスによって私は引き離されてしまう。


幸せにはなれない、先にあるのは不幸だけ。それだけは私にだって分かった。

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