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【完結】私の幸せ  作者: P太郎
クローデット
39/59

兄との再会で思いを馳せる

キリアンお兄様に手紙を送ったけれど、すでにシルヴァン王国に向かわれたあとだった。

お兄様の侍従である女性文官から手紙をそのまま返されて、不在だと聞かされたとき、途方に暮れて窓から見える王城へと視線を投げた。


それから一週間後、帰国されたキリアンお兄様が修道院を慰問されると聞いて、私は時間をいただけるかと打診した。快諾の手紙が送られたのは早かった。

私は応接の間に場所を設け、マルグリット大伯母様にも同席していただき、お兄様に臨む。

来訪の知らせは早く、何度目かの深呼吸をすれば扉が叩かれた。


「どうぞ」


声を送って、ソファから腰を上げる。間もなく扉は開き、輝かしい美貌のキリアンお兄様が、笑みを浮かべて入室された。


「久し振りだな、クローデット。半年ほど間が空いてしまったが息災だったかな?ああ、それに大伯母上」


私に向けていた笑みの顔は、大伯母様を捉えると真顔に変わる。いえ、少し眉間に皺が寄っているようにも見えた。

キリアンお兄様はマルグリット大伯母様が苦手だと、幼少の頃から仰っていた。


「ご健勝のようで何よりです」


「まあ、王太子殿下。一介の修道女に対してなんと慈愛に満ちたお声がけ。骨身に染み渡ります」


「一介の修道女など、国教の重鎮が・・・」


何やら小声で仰っていたけれど、即座に対面するソファまでお兄様は移動してきた。

私を見て、優しい表情を浮かべてくださる。私が怖がらないようにしてくださっている。


「少し距離が近いか?」


「いいえ、大丈夫です・・・お兄様の配慮を嬉しく思います。では、おかけになってください」


キリアンお兄様は二人がけのソファの中央に腰を下ろす。金色の美しい髪、夏の草原を思わせる青々とした緑色の瞳の目。中性的で非常に整った顔立ちは、私達のお母様から譲り受けたもので、お兄様は絶世の美男子として名を馳せている。実の妹である私も子供の頃はよく見惚れたもの。

細身ながら引き締まった体を王太子に相応しい装いで包み、胴から伸びた長い足を組まれる。もう何度目かも分からないけれど、お兄様の見目の麗しさを再確認してしまう。


「行儀の悪いこと」


「家族間の団欒の場です。多少体勢を崩しても問題はないでしょう」


「従者や騎士の目があるでしょうに・・・本当に王太子殿下は、気さくな方ですね」


何やらお兄様と大伯母様が言い合ってらっしゃるけれど、お二人の話を聞く場を設けたわけではない。私もソファに腰を下ろし、大伯母様も続いて隣に腰を下ろした。

キリアンお兄様は、背後に控えていた従者と騎士に目を向けると、彼女達はすぐさま退室した。応接の間には私達三人しかいない。


「お前が話をしたいと言うものだから喜んでしまった。あまり長居をするつもりはない、緊張はしないでくれ」


「い、いえ・・・緊張をしているわけでは」


背の低いテーブルを挟んでいるだけの距離。心臓の鼓動が強い。僅かに汗が滲み、体にも力が入ってしまっていたけれど、キリアンお兄様の言葉でほんの少し緩んだ。

鼓動を落ち着けようと、深呼吸を数度・・・気持ちも落ち着いたのなら私から話す。二人とも、私のために待ってくれているのだから。


「・・・シルヴァン王国に行かれたと聞きました。魔女討伐を行われたのですね?」


「ああ、我がフラメルまで手を伸ばそうとしたデイナという魔女は確実に仕留めた。遺留物から魔道具を作られる可能性も考慮して、一片も残さず消失させている」


肉体が消失するほどの残酷な処刑法に胸が痛む。

一国を乱した邪悪な魔女。それは分かっていても、やはり他者の手で与えられる死は惨たらしく感じる。彼女は罰を受けるべき人であった。でも、ならば魔法を封じて私のように生涯をかけて贖罪をする道だってあったはず。


「そうですか・・・私は生命の女神に仕える修道女です。罪人とはいえ一人の女性が命を絶たれるなど、個人的によいものとは思えません・・・ですが、それはシルヴァンの国民にとっては良きことだと、そう思える事柄だったのでしょう」


ただ、魔女によって数多の女性達が迫害されたとも聞いている。命を奪われた方も少なくはないと。

魅了の魔女は、他者によって死という罰を与えられた。何人もの女性達を間接的に殺害したことで、もっとも重い罰を受けた。そう思うべきなのだろう。


「たとえフラメル王国が魔の手を逃れたとしても、あのままではシルヴァン王国の根が腐っていた。そう遠くない未来で滅亡していただろう」


「国を失う方々が出ることがなく、幸いだと思います。ただ、魔女討伐など突然聞いたもので、私は困惑してしまいました・・・優しいお兄様が、人を殺めるなんて」


一番、胸を締め付けたのは優しいキリアンお兄様が邪悪とは言え魔女を処刑したこと。

お兄様は本当に優しい。宮廷では優美と言われ、どのようなときも穏やかで落ち着いた所作を崩さなかった。妻であるイサベルお義姉様だけを愛する誠実な人で、息子達の養育にも率先して参加している。他者に対する慈愛の心をお持ちだと常々思っていたのに・・・。


「あの魔女はお前に危害を加えたのも同然だ。私としては決して許せなかった相手である。魅了などという厄介な魔法でなければ、過酷な拷問にかけて無残な姿にし、公衆の面前で処していた」


「まあ!聞きましたか、クローデット。これは貴女が思う以上に苛烈な男です。貴女だから優しい姿を見せていたと理解したほうがよいでしょう」


キリアンお兄様が発する非常に残酷な言葉。それを補強するかのようにマルグリット大伯母様が続く。

衝撃を受けた私は言葉を紡げず、声の出ない口をはくはくと動かすだけで、みっともないと手で口元を覆った。


「クローデット!?大伯母上、余計なことを仰るからクローデットの気分が悪くなったのです」


「何を言いますか、貴方がはっきりと包み隠さずに本性を晒すからでしょう・・・大丈夫ですか、クローデット?」


いつの間にか修道服の裾を強く握っていた。その手に大伯母様の手が重ねられ、労わるように撫でてくださる。

このようなことで、衝撃を受けて小心している場合ではない。キリアンお兄様は魔法使いとしての使命を果たした。怒りから魔女を惨殺することなく、しっかり自制して、粛々と刑に処した。お兄様の怒りは私が害されたから。心身を深く傷付けられて、以前のように振る舞えないから代行されただけ。


「・・・ええ、大丈夫です。お兄様は為政者となるべく、時には残酷ではないといけないのでしょう。弱い私では、そのようなお兄様のお姿に恐れを抱いてしまいますが・・・私は、お兄様の優しさを理解しているつもりです。侵されそうになったフラメルを守るため、私のために職務を遂行された・・・」


キリアンお兄様を見据える。

少し眉が寄って皺ができているけれど、怒りではなく苦しそうな表情に見えた。


「お兄様、ありがとうございました・・・」


「私は、お前が心穏やかで幸せに過ごしてくれるのならそれでいい。お前を害するものを排除することが、私の役目なのだから」


幸せ、私の幸せ。

それはきっと、もう訪れないもの。過去はキリアンお兄様の手によって清算された。もう私を害する方はいない。

私の過ごす修道院は、王家の女子が入る王家が管轄する避難場所。外界から遮断された場所。奉仕活動以外では、この修道院から出ることはない。私は守られている。男性という存在から守ってくれている。

お兄様が連れ立った従者と騎士は女性だった。お兄様とて、距離を取って話してくださっている。私を守ってくださっている家族だから、触れられなければ拒絶はしない。

だけど、外は違う。町中を歩いても、生家である王城でも、男性はいる。私一人に配慮して距離を置いてはくれない。私の恐怖心なんて分からないから、すれ違うほど詰められて、触れられてしまう。

私は耐えられない。恐怖心で心臓が潰されそうになるほど痛み、体は震えて身動きすら取れなくなる。心的外傷を、話したこともない男性達が気付いてくれるわけがない。


私の幸せは、もう訪れない。

以前、胸に抱いていたのは、王女として他国の高官や王侯貴族と交流し、国の繋がりを強めること。それが私の望みだった。

私の婚約者だったのはエリオット様。あの方のシルヴァン王国に輿入れをして、子を産み、フラメル王国とシルヴァン王国の絆を強めたかった。両国の架け橋となる子を育てて、さらなる親交を・・・でも、それはもう叶わぬこと。


男性恐怖症の子殺し。


それが私が自分を省みて思うこと。そんな私が、以前のように振る舞えるわけがない。


「幸せなど叶わぬものになりましたが、私は修道女として在ることを喜びとしています。お兄様のもと、フラメル王国がさらなる発展することをお祈り申し上げます」


「・・・それがお前の望みなら・・・ただ、不安がある」


「不安ですか?」


何に対してだろう。修道院での生活は身に付いた。清貧に努めて、社会奉仕活動もしている。主たる生命の女神への祈りも、命を奪った我が子への祈りも、毎日行っている。


「魅了から開放されて正気に戻ったエリオット・シルヴァンが、真っ先にお前の名前を言っていた。嫌な予感がしたから即刻帰国してきたが、もしかすれば接触を図ってくるかもしれない」


「・・・エリオット様が」


私を、私が心的外傷で通常の生活も儘ならなくなった原因。いえ、原因は魅了の魔女だけれど、私は操られたあの方によって恐ろしい所業を受けた。


「なぜ、シルヴァンの王太子も断じなかったのですか。魅了の魔法から解放されたのなら、クローデットにとっては確実に不安要素になります。完膚無きまでに張り倒してしまえば良かったのに!」


「魅了を受けた者達の中にあって魔女討伐を敢行した時点で外交問題だったのです。怒り狂い暴れ回る者達を制しながら、それでもきちんと遂行しました。おかげで事なきを得ましたが、王太子に危害を加えれば言い訳も効かない。敵中ですべきことではないでしょう」


「その妙なところで冷静さがあるのも腹立たしく思います。歯向かわれたら捻じ伏せれば良いのです」


「今は大伯母様の時代とは違うのですよ」


キリアンお兄様とマルグリット大伯母様が何かを言い合っている。私には内容なんて入ってこない。


エリオット様、私の元婚約者。

あの時に受けた罵倒。乱暴にドレスを引き剥がされて、王城のホールで裸にした私を引き摺って晒した人。


『魔女は淫乱らしいな!卑しい貴様に相応しい男達を用意してやったぞ!せいぜい楽しめ!』


笑いながら言っていた。あれは、魔女に操られての言動だったと今では分かっているけれど、あの悍ましい所業はエリオット様によって行われた。

私は、あの方に会うことなどできない。言葉を交わすことなんて、ましてや同じ部屋にいることもできない。顔も見たくはない。あの時の恐怖が蘇っていて恐ろしさしか感じない。




お兄様との再会後、数日経った夜。

針仕事の最中、ふと手が止まる。私は、奉仕の一環として孤児院の子供達のためにブランケットを縫っていた。毛足の長い厚手の布地を縫い、布地から飛び出した針が暖炉の火の光を受けて輝いていた。


最近、ふいに手が止まる。やる気の欠如ではなく、物思いに耽ることから。

その原因はエリオット様のこと。正気に戻られたあの方が、私の名前を呼んでいた。なぜ、と思い、求められているのかと浮かび、違うと否定する。そしてまた作業に移るのだけど、エリオット様が再び頭に浮かんでと、その繰り返し。


婚約の打診はシルヴァン王国からだった。フラメル王国の祭事、語り継がれる逸話では祖たる魔法使いが生まれた日がある。その生誕を祝うために、フラメル王国は祝祭を開く。十年前の祝祭で私は招待されたエリオット様と出会った。

会話とは言えなかった。名前を名乗り、挨拶をして、祝祭をお愉しみくださいと言葉を贈っただけ。エリオット様は終始穏やかな表情で、私の対応を友好的に思ってくれたのだと、それだけだった。

打診はあの方が帰国して二日も待たずに送られてきた。僅かに会話をしただけの、シルヴァン王国に比べれば国力も国土も小さい国の王女が求められた。


『クローデットの美貌目当てでしょう。エリオット王子だけではなく、他国の賓客も鼻の下を伸ばしておりましたから』


『私の執務室とはいえ軽はずみな発言をするな、キリアン・・・クローデット、シルヴァンの王子がお前を求めている。エリオット王子はあちらの第一王子で立太子も確定している。国王となる者だ。妻となるお前も、いずれシルヴァン王国の王妃となる』


『些か気の早い話だと思います。あちらにその考えはなく、クローデットの美貌に眩んで話を脚色している可能性があります。美しいクローデットを手の内に納めたいだけかもしれません。正妃とも確定していない、側妃もありえないが愛妾にする可能性がある』


『お前の憶測は後で聞いてやろう・・・クローデットはどうしたい?返答次第では外交問題に発展をする懸念はあるが、私はお前の意思を尊重するつもりだ』


シルヴァン王国は大陸で一番の国。私達のフラメル王国とは違って魔法使いや魔女は少ないけれど、その代わりに騎士が多く、王侯貴族も武功を立てるために必ず自身を鍛えると聞いていた。言うなれば、王すら騎士の国。その武力があるからこそ大国として在る。

私が嫁げば、魔法使いの国であるフラメルと騎士の国のシルヴァンは強固な信頼関係が結ばれ、他国に対する牽制にはなる。

子供ながら、そう思った。戦いが起きなければ無駄な血は流れない。親を失う子も減って、フラメル王国が属する大陸は平穏な日々が続く。


『お受けしようと思います』


私自身には思惑があった婚約だった。恋や、ましてや愛ではない。シルヴァン王国のエリオット王子と結ばれれば、平和な世に近付くと思っただけ。

エリオット様だって、そのはず。容姿が気に入ったからだとしても、自身の妻に相応しいと思える基準を私が満たしてからだ。恋や愛ではない。


だから、正気に戻って私の名を呼んだことが腑に落ちない。

別れは悲惨なものだったけれど、あの方にとっては過ぎたこと。婚約時代に戴いた手紙と何度かの面会で、自国の平穏に注力する生真面目な王子という印象だった。だから、あの方ならば魔女によって乱れた国を真っ先に憂うのではないか。


「分からないわ」


エリオット様は私を見ても穏やかなだけだった。私の両親や、キリアンお兄様とイサベルお義姉様のように熱を孕んだ目で見ない。あの目は愛する者を見ているのだと、侍女に教わった覚えがある。だから、私に対して愛情など持ち合わせてはいない。

エスコートはしてくださったけれど、私が目にした想い合う夫婦のように身を寄せたり、胸を合わせて抱き締めるなどしなかった。


「・・・お兄様の思い違いよ」


私はその場にいなかったのだから、エリオット様の状態がどんなものか分からない。ただ名前を呼んだだけ。優しい方だったから、元婚約者への所業を思い出して、胸を痛めただけ。


「そうだわ、謝罪の書状は送ってくださるはずよ」


エリオット様なら、魅了で操られていたのに自身を恥じてお詫びをしてくださる。それで十分。それ以上は求めない。

もはや再会などできないのだから。

私は納得して縫い物を再開した。孤児院に送るブランケットは多い。寝る前にあと十枚は縫わなければならないと、針を通した。




それからまた暫くして。分厚い雨雲が空を覆ったことで薄暗く、今にも雨が降り出しそうな日。

私は干していた洗濯物を屋内に移動するため、バスケットに移していた。

ふと、王城に目を向ける。薄暗い中で正門が開き、重厚な装備の馬車と騎兵、兵士達が列をなして行進をしていた。

一目で演習ではないと気付いた。遠目に見た装備も積荷も、戦場に向かうためのもの。馬車の紋章は我がフラメル王家のもので、キリアンお兄様の馬車だと私には分かった。

私の足は駆け出して、マルグリット大伯母様がいらっしゃる部屋に飛び込む。大伯母様は目を丸くされるほど驚いていたけれど、手にしていた万年筆を机に置いて、慌てる私を眺めた。


「貴女が焦りを見せるなんて、何か起きたのです?この修道院には貴女を害するものなどいませんよ」


「大伯母様、お兄様が!」


「・・・貴女、クローデットに飲み物を用意なさい。クローデット、落ち着いて。とにかく座りなさい」


私の様子に察したらしいマルグリット大伯母様は、控えていた修道女・・・思えば、大伯母様の職務を手伝う侍女でもあるのだろう。彼女に指示を出すと、私をソファに座るように促した。

なりふり構わず走ったことで息の上がった私は、荒い呼吸を繰り返しながら、ソファに腰を下ろす。痛む胸を手で押さえて何度か呼吸をして、息を整えようと努めた。


「クローデット様、お水です」


「ありが、とう、ございます」


水の入ったコップを受け取ると、零さないように口を付けて一口。冷たさが喉を通り、食道も冷やす感覚を得る。


「・・・はぁ」


冷水が心を落ち着かせる。もう一口飲んだ私は、無意識に息を漏らした。

マルグリット大伯母様は書類仕事をしていた机から離れると、私の隣に座った。コップを持ってない手に大伯母様の手が触れる。


「落ち着きましたね」


「はい、でも」


明らかにキリアンお兄様は挙兵された。私の知らないところで、この国に脅威が迫っているのかと思うと不安で仕方がない。

私は大伯母様を見つめる。いつの間にか、侍女のような修道女は部屋にいなかった。


「キリアンについて、ということは挙兵を目にしたのでしょう?」


「はい。洗濯物を取り込んでいたところで、王城からお兄様が軍を引き連れている光景を目にしました」


マルグリット大伯母様は溜め息を漏らすと、私から手を離し、頭が痛むのかこめかみを押さえた。


「全く、間の悪い」


「大伯母様、何かご存知なのでしょうか?どこかの国が、我が国に侵攻されたのですか?」


「侵攻というよりは・・・そうね、和平交渉が決裂したから戦争で決着をつけるそうですよ」


「和平交渉の決裂?」


「キリアンからの手紙では、シルヴァン王国のエリオット王太子が国交断絶の解消を訴えたそうです。以前のように友好国として条約を結ぼうとしたようだけど、馬鹿なキリアンは突っぱねました。お陰で両国は力による交渉を取ることになったのです」


「・・・なぜ、そのような」


和平を結びたいのに、戦争で決着をつけるなど本末転倒では。なぜ、そのような事態に発展したのだろう。キリアンお兄様が拒否されたからなのか。それとも、エリオット様の提示した条約が我が国に不利益をもたらすからか。


「和平のためにエリオット王太子が貴女を望んだのです。貴女と再婚約し、時待たずして婚姻を結ぶことで和平の象徴にしようと話された」


「え・・・」


大伯母様が教えてくださったことが突飛で、私は呆然と、口から情けない声すら発してしまった。

なぜ、エリオット様は私を求めたのだろう。私との婚姻が和平に繋がるなんて。あのような、あの惨たらしいことをしておいて、私を、なぜ。


「どうして、だって、私は」


「貴女はどうあれ、あちらは貴女を好いていたようですね。交渉の場に貴女を望んだのです。貴女と言葉を交わそうとしたようだけど、キリアンが許しませんでした。完全拒否から和平交渉は決裂。エリオット王太子から宣戦布告をされて、そちらは受け取ったようですね。徹底的に叩きのめすと手紙に書いてありました」


なぜ、お兄様の宣戦布告を受け取ったの。戦争なんて、シルヴァン王国であっても望まないはずなのに。分からない、私にはエリオット様の考えが分からない。

もし、例え想われていたのだとしても、あの方の想いの強さなんて分からなかった。私達の交流に熱などなかったから。お互いの利害が一致したから友好を結んだ関係だと、私は思っていたのに。


「シルヴァン王国のエリオット・・・一度だけ将として軍を率いたことがあるけれど、どうかしら?個人に武力があったとしても、父王と比べて戦場慣れはしていないはず・・・ああ、困りましたね。推し量れない。キリアンには魔法使いの部隊があるとはいえ、どうなるか」


大伯母様の言葉は耳を通り過ぎるだけ。頭に入ってこらず、私はただ、エリオット様の行動が信じられなかった。

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