処刑を望まれた王妃
冒頭、若干のグロテスクな描写があります。ご注意ください。
今でも夢として見る。リカルドが、夫が剣を抜いて私に斬りかかる姿を。出産中の痛みで苦しみ、意識すらきちんと定まっていないのに、あの怒りの形相と鈍く光る刃は鮮明に映っていた。
『私のデイナを害した悪女が!その放り出している隣国との間者の子供を使い、我が国を侵略しようと考えているのも知って』
出産の激痛で、怒号の言葉は最後まで聞こえなかった。
『阿婆擦れが!死ね!』
次に耳に届いた言葉。何を言っているのだろうと、そう思って、産婆や医師が立ち塞がってくれたのも覚えている。私と、頭が出てきたという赤ちゃんを守るためにリカルドを押し留めてくれた。
あとはがむしゃらで、まだ産み落とせていないから、足の間にいる赤ちゃんを傷付けないように床を這って逃げた気がする。
お腹も付け根も痛い。裂けたような痛みが走っていて、でも、子供は守らなければならない。夫は、リカルドはまだ産声すら出せない子を殺そうとしたのだから。
『私の子ではない!出せ、八つ裂きしてやる!!』
なんて、恐ろしいことを。
私は貴方のみに身を委ねた。私が産んだ子は、全て貴方の子なのに。
『ひっ、ぁ・・・は・・・ぁ・・・』
這いずって、誰も使っていない衣装室に入った。私のお腹は限界で、足の合間に填まったままの子を出そうとしていた。
『はぁっ・・・はっ・・・ふぅ、う・・・うぅ、うぅぅっ』
この子の前に、嫡子のエリオットと次子のジャレッドを産んでいたからだろう。少し裂けた感覚を得ながら、力むことで産むことができた。開いた足の間に、血溜まりが出来ていて、まだ臍の緒が繋がっている血塗れの赤ちゃんがいた。
『ぁ、はぁ・・・あか、ちゃん、わたしの・・・あかちゃん・・・』
身を起き上がらせて、拾い上げる。血塗れで、目を閉じていて、それでも五体満足で生まれてくれた。
『な、なかない?ないてない!だめ、だめよ!しなないで!わたしのあかちゃん!』
産声がないことが不安だった。以前の、ジャレッドを産んだときを思い出して逆さにすると背中を叩いた。
泣かれてはリカルドに居場所を気付かれると分かっていた。でも、泣かれないと私の大事な赤ちゃんは死んでしまうと思った。だから、躊躇いなんてなかった。
『ふ、ふゃ、ふぎゃぁ!あぁぁ〜!』
何度か叩いてやっと泣き声を上げてくれる。私の可愛い赤ちゃん、私の子は、無事に生まれてくれた。
『あぁ、ごめんなさ、いたかったでしょう、ごめんなさい・・・ははがいますから、だいじょうぶですよ・・・』
胸に寄せて、苦しくはないように抱き締める。
初めての女の子。可愛い子・・・この子は、私が守らなければ。殺そうとする悪魔のような男から。
『ぅ、あ・・・はぁ・・・』
股間の痛みもお腹の痛みも凄まじい。でも、今すぐに安全な場所に逃げなければならない。ふらつく足に力を入れて、ぼたぼたと血が落ちるのを感じながら動かした。
赤ちゃんの体を部屋に残っていたシーツで包む。まだ、臍の緒で繋がった状態だけど、安全な場所を目指して歩き出した。
血の滴り、貧血で朦朧とする意識。下半身に感じる激痛。私の体は悲鳴を上げていたけれど、抱えた温もりを守ることだけを考えていた。
『見つけたぞ!売女と悪魔の子だ!』
あの声と顔はエリオットだったか、ジャレッドかもしれない。二人はよく似ているから、私とリカルドを足して二で割った容姿をしているから。どちらだろうとも息子達も私と赤ちゃんを殺そうとしていた。たから、逃げなければいけなかった。
殺意を持つ私の家族に従って、私を捕まえようとする貴族や官僚もいた。でも、対するように守ってくれた方達がいて、私は彼らに守られながら逃げた。逃げ続けた。
『あり、がとう、ございます・・・』
『妃殿下、お早く!本日はタリス家の方がいらっしゃるはずです!出産に際して登城すると書状がありましたから!』
『タリス、家・・・』
私の生家。我が国にある三つの公爵家の一つ。喧騒に泣き出した子を、私の子を守ってくれるはずだ。
それだけを思って、私は守ろうとする貴族達に助けられながら、謁見控室に向かった。
『アドリアーヌ様!?』
タリス家に長年仕えている士官の姿を見た時に、涙で視界は歪んでいた。体の力も抜けて、近付いてきた士官に身を預けたのを覚えている。
『リカルドが、陛下が、私と、この子を殺そうとして』
士官は私の体を支えて、連れ立った護衛騎士達に警護の指示を出す。
『アドリアーヌ!間男と共に逃げるつもりか!!潔く罰を受けろ!!』
人々の声、叫びや悲鳴に混じって、リカルドの怒鳴り声が聞こえた。
何を言っているのでしょう。私を助けようとする士官を間男と言ったのかしら。罰と、罰とは何に対してのものなのか。
全く分からない。リカルドの発言が、行動が良く分からない。私は貴方を裏切っていないのに、何故、私と生まれた子を殺そうとするの。
『デイナに詫びろ!命を持って償え!』
デイナ、デイナとは誰・・・ああ、あの魔法を扱うという平民の少女だわ。エリオットとジャレッドが城に招き、リカルドと楽しそうに談笑していたのを見かけた記憶がある。私は出産間近で、言葉を交わすことすらできなかった。
だから、きちんと会ったわけではない少女に、どうして危害を加えたとなるのか分からない。
私は、彼女の顔すらまともに見たことがないのに。
私の意識はそこで途絶えた。
次に目が覚めたときは、タリス家が懇意にしている王都の病院で、私が身を預けていたベッドの横に小さなベビーベッドが置かれていた。
覗き込めば、すやすやと寝息を立てている可愛い子。私のステラは、父親の刃にかかることなく健やかに眠っていた・・・───。
「お母さま!」
小さな可愛らしい女の子が、白い花を手に走り寄ってくる。
私の可愛いステラ。満面の笑みを浮かべ、ペールピンクのドレスを身に着けた姿は妖精のようだった。
私はガーデンチェアから腰を上げると、娘に近付くために歩く。駆けてきたステラは、私の赤いドレスのスカートに体当りするように抱き着くと、愛らしい顔で見上げてきた。
「にわしの方からお花をもらいました!あねもねと言うそうです!」
「まあ、そうなの。美しい花ですね。でも、そんな急いで来ては転んでしまいますよ。折角の花も落としてしまいます」
ふわふわの銀の髪を優しく撫でる。ステラは真ん丸の青い瞳で私を見上げている。
「はい、お母さま。でも、早くお母さまに見せたくて」
「ええ、花をありがとうございます。嬉しいわ、ステラ。貴女が見せたくなる気持ちも分かります」
手を出せば、ステラはアネモネの花束を渡してくれた。私は控えていた侍女に花瓶に生けるように頼む。
「走らなくともすぐに花は枯れません。ゆっくりでいいから、怪我をしないようになさって」
「ころんだら、けがをします?」
「ええ、しますよ。ステラの可愛い顔やふにふにの体に傷が出来てしまったら、母は悲しく思います」
「かなしい・・・分かりました!つぎはゆっくり、走らずにお母さまにとどけますね!」
しっかり頷いた娘の頭を撫でる。
柔らかく波立つ銀の髪は左右に分けて赤いリボンで縛ったツインテール。大きな目の瞳はサファイアを思わせる美しい輝きがある。清らかな白さのある肌。それでいて、丸みある頬とぷっくりとした唇は薔薇色。私のステラは、妖精と言っても過言ではない美しさと愛らしさを持つ子供だった。
他の、エリオットとジャレッドのように、リカルドと私の容姿を足して二で割った非常に美しい娘。
この愛しい子を、実の父親は不義の子と言い、血に繋がった兄達は悪魔の子と罵った。これほどまで可愛らしく、純粋な子を・・・。
「お母さま?」
思い耽ってしまった。「あの様な人達」のことなど考えるべきではない。私にはステラしかいない。ステラにも私しかいない。私達は「二人だけの家族」なのだから。
「お茶にしましょうか、ステラ。今日は貴女の好きなマドレーヌがありますよ」
「マドレーヌ!それは白くてふわふわなのが付いてますか?」
「生クリームかしら?今日は添えられていませんね・・・ただ、木苺とブルーベリーのジャムが添えられていますよ」
「ジャム?すっぱい?」
「甘酸っぱいかしら」
不思議そうに首を傾げるステラ。その姿すら愛らしくて、私の頬は緩んでしまう。私のスカートを握っていた小さな手を掴み、弱く引いてガーデンテーブルに連れて行く。
触れ合って感じる体温。我が子の愛しい温もりだけが、私の安らぎ。
リカルドから逃げ出した私とステラは、甥のステファノが当主を務めるタリス公爵家に身を寄せた。前公爵のダヴィドお兄様も、私達の保護に声を上げたけれど、現公爵のほうが発言力と軍事力もあるからと話し合いで決められた。
リカルドは、今やシルヴァン王国の重要人物となったデイナという少女を害したとして、私の処罰を望んでいるそうだ。身柄の引き渡しを要求する書状が、何度もステファノの元に届けられている。
「引き渡しなどすれば、叔母上の命はない。あちらは叔母上を処刑するつもりです」
父親にそっくりな顔立ちのステファノは、そうはっきりと答えて、領内の奥の緑豊かな場所に屋敷を用意してくれた。終の棲家にすればいいと匿ってくれた。
使用人も侍女も、私がタリス家にいたときに仕えていた熟練の人達やその子女達。皆、ステラを大切にしてくれる。仕えるべき主として優しく、少しやんちゃな子に親身になってくれている。
彼らの中では、ステラはタリス家の令嬢なのだろう。これからも仕える相手として接している。シルヴァン王国の王女としては見ていない。我がタリス家は、王家と敵対関係になったから。
私とステラを殺そうとしたリカルド国王陛下への忠誠心を、タリス公爵家は失った。私達のことを守るために袂を分かったのだ。
リカルドにとって、私とステラは排斥すべき存在。あの言動とその後の引き渡しから、そう感じ取っている。ステファノが考えを変えない限り、二度と会うことはない。
政略結婚ではあったけれど、リカルドは私を尊重してくれて、私も心を開いた。共に生きる伴侶としてあの時までは過ごしていた。確かに愛していた。でも、今はもう、残虐で恐ろしい男性でしかない。
私は、このままステラとタリス公爵家の領内で生きていく。一生をこの地で過ごしていく。ステラが健康に美しく成長して、いつか誰かに恋をして、幸せな結婚をするのを見届けたい。
それが私の幸せ。私の幸せはステラが幸せであること。それだけが、生きる糧。
変化というのは突然だった。
前公爵のダヴィドお兄様を連れ立って、ステファノがやって来た。いつもは先触れを出してくれるのに、突然のことに私は慌ててしまう。
「いかがされたの?突然いらっしゃるから、お茶のご用意もできていませんわ」
「茶を飲んでいる場合ではないのだ、アドリアーヌ」
息子に爵位を譲ってからダヴィドお兄様は恰幅が良くなった。少々厚みを増した体は迫力があって、抱き上げていたステラが慄いている。
「お兄様、そんなに詰め寄らないでくださいませ。ステラが怖がっています」
「おお、ステラ!我がタリスの麗しき妖精姫よ。怖がることはない、わしはお前の伯父だ。ほら、伯父様だぞ?」
「・・・おじさま?」
ダヴィドお兄様が引き締めていた表情をすぐに緩めれば、ステラは私とお兄様を見比べて首を捻った。似ている部分を探したのかもしれない。私と兄は目元が似ていて瞳の色が同じだから、何度か見比べて安心したようだった。
降りたいと腕を叩かれたので、そっと降ろせば、ステラはダヴィドお兄様に歩み寄る。
「おじさまー」
「どうした妖精姫。だっこかな?はぁ、お前は本当に幼い日のアドリアーヌとそっくりだ。甘えん坊で愛くるしいなぁ」
お兄様はステラを片腕に乗せて抱き上げると、私に目配せをする。どうやら来訪理由はステファノからされるらしい。
「ステラ、伯父様がご一緒に遊びたいそうです。花が好きな方だから、庭にご案内してあげて」
「はぁい!おじさま、あちらです!」
「おお、そうか。この屋敷の庭園の花は多種多様で鮮やかに咲き乱れていると聞いている。ステラが案内してくれるのか、わしは嬉しいぞ」
ステラはお兄様に任せれば大丈夫だろう。兄の従者もあの子の侍女も後を追った。私は中庭に向かう一団を見送ると、ステファノに向き合う。
「重大な話でしょうか?」
「はい、叔母上とステラに関わることです」
ダヴィドお兄様に似て精悍な顔立ちのステファノは、真剣だと顔を引き締めていた。整った容姿に切れ長の目が鋭い眼差しを送ってくることから、ステラがいれば泣いてしまっただろう。
あの子は、優しい顔立ちや表情の男性しかいない屋敷から出たことがない。免疫がないのだから、純粋に怖がっただろう。
「応接室で」
「分かりました」
私は廊下を歩き進む。背後からステファノの足音と気配を感じながら、来訪者が少ないことで殆ど使われていない応接室に案内した。
先行く女性の従者が扉を開き、中のソファに腰を下ろした。ステファノもテーブルを挟んだ向かいのソファに腰を下ろす。数秒も置かず、メイドがティーセットを手に入室してきた。彼女は素早く、音を立てずにお茶を用意すると、一礼をして退出していく。
室内にいるのは私とステファノ。私の後ろに控えた女性護衛騎士と従者。そして、あの日の王城から逃げ出したときに救ってくれたタリス家の士官が、ステファノの背後に控えた。彼は憂いを帯びた表情は、私に向けている。
「リカルド国王から書状・・・いえ、王命が下りました」
「まあ、そうですか。いつもの身柄受け渡しについてですね?」
「いえ、違います」
ステファノの眉間に皺が寄る。いつもの書状とは違うのだと、彼は表したのだろう。
私はステファノに向けて手のひらを差し出した。躊躇いつつも、国王の御璽で蝋封されていた手紙を置かれる。ステファノ宛だから開かれているのは当然で、私も躊躇いなく折り畳まれた紙を取り出した。
彼から送られてくる文章に、恐れなど感じなくなっていた。
私は何度も夫に死を望まれているから、何が書いてあってもそれ以上の衝撃などないと思っていたから。だから、二つ折りにされていた紙を躊躇いなく開いて、視線でなぞる。
「・・・これは、どういうことです?」
書かれていたことはあり得ないこと。今までにはなかったこと。私は驚いてしまい、文章とステファノの顔を交互に見てしまった。
───・・・ステファノ・タリス公爵。
貴殿が拘禁している王妃アドリアーヌ・シルヴァンと第一王女の即時返還を命じる。一週間後以内に返還がない場合は、タリス公爵家に反逆の意思があると見なし、公爵領に向けて挙兵をする。
リカルド・シルヴァン・・・───。
いつもとは違う。私を罪人ではなく、不当逮捕から救出をするつもりのような文脈。何より挙兵という強い言葉は使われてこなかった。
罪人としての身柄受け渡しでも、そこまで強い意志を感じなかったのに。
「いつもと違う文脈に驚かれたでしょう。リカルド国王は、王妃である叔母上と王女のステラを取り返そうとしているかのようです」
「ええ、そうですね。私の罪状も記載されていない・・・」
いつも記載されていた国家転覆罪と姦通罪が書かれていない。文章の違いに違和感を得て、私の顔にも力が入る。
「何のつもりでしょう?」
「リカルド国王は、タリス家が叔母上とステラを捕らえていると言っているのです」
「何を・・・それは、思い違いでは?私のことはリカルドが、国王陛下自らが処刑しようとされたのです。タリス家の助力があって、こちらに保護されたというのに」
「書状は速達で来ました。どうやら、数日前に王城に変化があったようです。詳しくは報告待ちですが、デイナという魔女が処刑されたました。魔法使いの血脈であるフラメルの王太子が、魔女討伐を敢行したようです」
「デイナ・・・」
「あちらの言い分ですと、叔母上が虐げたという娘の名前ですね。内部に潜めた諜報員の報告では、叔母上に代わり王妃面をしていたようですが」
「・・・言葉遣いがよろしくありませんよ」
「そんな細かい叱責をされている場合ではないでしょう」
息が詰まった。言葉と共にゆっくりと吐き出して、どくどくと脈打つ鼓動を落ち着かせたかった。
デイナ。私が害したという平民の少女。まともに顔すら見たことがない人。彼女は王城に居を移し、リカルドや私の息子達、高位の貴族やその子息から愛されて、国の支配者のように座していると言われている。男性達は、リカルドもエリオットもジャレッドさえも愛人のように侍っていると聞かされた。
まともな状況ではないと思っていた。何かしらデイナという少女にはあるのだと考えてはいた。彼女は魔女。類稀な魔法の使い手だからある官僚が保護をして、賓客と扱い、貴族の子女が通う国立学園に編入された。そこで、エリオット達と出会い、王城に招かれたことでリカルドとも出会った。
デイナに何かあるとしか思えない。でも、私は殺されかけたことでタリス家に逃げ延び、国内状況も把握出来ない位置にいて。
「・・・デイナという少女が亡くなったことで状況が変わったということ、でしょうか?」
「あれは毒婦です、叔母上。王城内も王都も自分の思うように乱し、懇意となった貴族の領地すら荒らしていたという話だ。タリス家は、連なる一族も含めて拒否をしましたから被害こそなかったが、国内は酷い状態になっています。あまりの蛮行に三つの公爵家の一つだったディルフィノ家は離反し、立国した。フィガロ家は手の内に入ったようだが、次男が結んでいた婚約が破棄され、婚約者だった令嬢はその次男から酷い暴行を受けて瀕死となったのです。一命は取り留めたものの、令嬢は名家であるベルアダム侯爵家の者。侯爵家は王都を出て領地に引き籠もっています。忠臣と言われたあの名家が離反をする可能性もありました」
「そう、でしたね。国が乱れるほどのことを行っていた・・・」
「叔母上も、あの女が原因で殺されかけた。最近まで処刑を宣告されていたのです。毒婦の死が変化に関わっているのは明白だ」
鼓動が早く、強くて、胸が痛む。恐ろしいことが、国難とも呼べる状態だったのだと私は徐々に理解をしていく。その元凶は、きっとデイナという少女だった。
「・・・リカルド国王陛下の、命に応じたほうが、よい、でしょう。陛下と、と、当家には・・・齟齬、があるとみて、間違いありません」
「・・・いえ、応じるつもりはありません。王命が下されたことを知らせたのは、当人である叔母上が知らぬところでタリス家の意思を示すべきではないと思ったからです」
「ど、どういう、ことですか、ステファノ」
「どんな理由があるにせよ、リカルド国王は我がタリスの花である叔母上を弑そうとした。生まれようとしたステラすらもだ。タリスの血を持つ婦女子を手に掛けようなど、当主として許せない。父上も私も、貴女達を渡すつもりはないと表明します」
「ス、ステファノ、これは・・・お、王命で」
「無自覚なのでしょうね・・・震えていらっしゃる叔母上を目にして、あの男の元に送るつもりはありません」
「あ・・・」
言われて気付いた。自分が震えていることを。リカルドのこと、あの形相を思い出して、恐怖が蘇っていることに気付いた。
「叔母上とステラは我々タリス家が守ります。あの様な非道な男には渡さない・・・よろしいですね?」
「・・・」
喉も震えてると気付いたから声は出せなかった。私はただ、向かい合うステファノの顔を眺めて、そのまま顔を伏せる。
リカルドは、怖い。私を殺そうとした。可愛いステラも自身の子とは認めず、刃を向けた。
それがデイナという少女が原因だったとしても、彼の心が戻ったとしても、私は・・・もはや、共に並び立つことすらできないでしょう。




