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【完結】私の幸せ  作者: P太郎
本編
32/59

幸せになどなれるわけがない

雨音が聞こえる。

私は、霧に包まれたように霞む領都を自室の窓から眺めていた。雨季で何日も雨が続いたことから、空気も冷えて呼吸をするたびに肺を冷やす。

でも、お腹は冷やしてはいけない。椅子に座る私はブランケットをかけていた。大事に、膨らみ始めたお腹を包む。


アベルの子を妊娠した。彼が望み続けた命が、私の中にいる。

体調不良から診断をして下さったお医者様に告げられたとき、私は呆然としてしまった。嫌だと、認めたくないと、そんなことを一瞬考えて・・・そう思ってしまったことを、お腹の子に懺悔をした。

この子は私が守るべき大切な存在。どうしてそう思えたのかなんて、分かりきっている。私の子だから。私の血を受け継ぐベルアダムの子だから。まだ小さな存在だけれど、私の中で生きている。だから拒絶なんてできない。

女の子になるか、男の子になるか。どちらでもいい。成長して無事に生まれてくれたのなら、私は構わない。生まれたのなら、どうするか。先のことで考えが纏まらない。とにかく、今は何事もなくお腹の育って、無事に生まれてくることを祈るだけ。

これは愛情なのだろうか。嫌悪すら感じる男の子供なのに、お腹を撫でるたびに心が温かくなる。愛が芽生えているから、このような気持ちになるのかも。


私の悪阻は軽かった。食べ物を戻すことはなく、特定のものの香りを嗅ぐと吐き気を感じるくらい。

それでもアベルは心配から私を外に出そうとはせず、安定期に入るまでは自室で過ごすように命じてきた。息苦しさを感じていたけれど、今はアベルと一緒ならば、庭園での散歩は許されている。彼の介助を受けながら、のんびりと歩くことで体を動かした。全く運動をしないのも体に悪いらしい。だから、今の私の楽しみはお腹の子と草花を愛でること。

今日は雨が降っているから景色を眺めることしかできないけれど、霞む領都の光景も幻想的だから不満はない。


アベルは私の妊娠を大変喜んだ。念願だった自分の子供で、私を逃さないための楔になってくれるから。

より過保護になった彼は、屋敷に閉じ込めた私の側を離れない。執務中も異常はないかと一時間ごとに様子を見に来て、大切だと私のお腹に触れて撫でる。

食事や入浴の世話もしようとしたから嫌がったけれど、彼は譲らなかった。私達の距離は近く、寄り添うようにいる。眠るときすら体を包むように腕を回されて、お腹に触れられた。

私と子供に対する愛情に見える。例えそうだとしても身勝手極まりないもので、突き動かされているアベルは私を逃さないように屋敷の警備を強化した。

私は彼に捕らわれた。彼が用意した箱庭で子供を産み育てて、また妊娠をして、子供を産む。その繰り返し。私は一体、何人の子供を産むことになるのだろうか。


雨音は小さくも、はっきりと聞こえて続けている。今はまだ雨が降り止む気配はない・・・───。






「王都に行くの?」


雨雲が去って、顔を出した太陽の光が降り注いでいる。雨粒で濡れた草花が、光を受けて輝いて見えた。そのキラキラとした花壇の花を眺めながら、アベルに聞き返す。

私が足を滑らせないように、しっかりと腰を抱いて並び歩く彼は、穏やかな笑みを向けてくる。愛しいものを見るような目に、僅かに不快感を得た。


「ああ、友人から夜会の招待を受けたんだ。君も安定期に入ったことだし、一緒に行ってほしい」


「そのご友人のことを聞いてもいいかしら?」


アベルの交友関係なんて知らない。学生時代は言わずもがな。領地から出ない彼は、友人を屋敷に招いたこともない。

幼少期からの友人だとしたらエリオット王太子殿下では、と思うけれど親戚を友人とは言わないだろう。

疑問にアベルは目を細めた。私の歩調に合わせながら歩き進み、切り揃えられた木々の合間にあるガゼボに誘導すると、ベンチに座るように促される。私が座れば、彼も座って寄り添ってきた。


「レグルスだ」


「・・・彼と友人だったの」


「あの忌々しい女を介して知り合ったが、正気に戻ったあとも連絡は取り続けていた。どうやら、お互い気が合うみたいなんだ」


あのレグルス・オルトリンデと友人だったなんて。思い起こせば、私が男達の異変を感じたきっかけになった人だ。

彼自身、かなりの異常人物だと思っている。温和な言動から落ち着いた人柄に見えた。でも、かなり強引で常人とは感覚のズレがある。疑いの段階ではあるけれど、カーラを拐い、医院に火を付けて沢山の死傷者を出した。その可能性のある狂気を孕んだ人。確かに気は合うだろう。アベルだって異常だもの。方向性は違えど、この人だって狂気を宿している。


「貴方一人で行くということはできない?」


「無理だ、君と離れたくない」


食い気味に言われたことで溜め息を漏らした。アベルは本当に側を離れない。どこにいても私に付き纏い、最近では私の自室でも仕事をするようになっている。

うんざりしているけれど、嫌がればこの男は強引な手段を取る。妊娠中でもあるため、心労のない日々を過ごすには抵抗してはいけない。私の疲れは、お腹の子にも影響してしまうのだから。


「分かったわ。ただ、馬車の移動では負担がないように整えてちょうだい」


「勿論だよ、コルネリア」


微笑む彼の唇が、私の額に当てられる。そのまま離れることはなく、腕を回して私を抱くと、膨らんだお腹に手を当てた。


「君もこの子も、俺にとっては大事な宝物なんだ」


愛情からの言葉。私に気持ちがないのだから苦痛で、それでも受け入れなければならない。

お腹の子供が両親の歪な関係を知れば、きっと不安に思うだろう。不安を抱えて過ごせば、幸せだと思うこともできない。この子が生まれるまでにアベルに慣れて、耐えないと。アベルの愛を受け止めないといけない・・・───。






───・・・ゆっくりとした走行で辿り着いた王都。以前、私が泊まったホテルの一室を取ると、夜会に向けて準備をする。

アベルは黒をベースにした礼服で、私の瞳の色をしたタイを付けた。前髪を後ろに撫で付けたことから、落ち着きのある青年然としている。

私は膨らんだお腹を締め付けないデザインの青いドレス。久し振りに、しかもアベルの瞳の色をしたドレスを着て居心地は悪いけれど、お腹の子のために我慢をする。


「ごめんね、コルネリア。君に我慢をさせてしまった」


アベルは私のことを察して謝ってくれたけれど、謝るくらいならば私を解放してと言いたかった。

言ってはいけないと分かっているから、それも我慢したけれど。


「・・・」


鏡に映っている私の顔。

肌色を整えて、ドレスに合う色味の化粧が施されている。傷を隠す眼帯は濃紺で、黒く細やかな花の刺繍があった。髪型も、髪の一部で作った編み込みが眼帯の上に垂れ、右耳のほうへと流されて留められている。残りの髪は左側に寄せられて、耳の下で青いリボンを絡めながら纏められた。

私の傷を目立たないように工夫する侍女の技術は、日に日に向上しているように見える。


「さあ、行こうか」


腕を差し出したアベル。私は、穏やかな表情の彼を少し眺めて、その腕に手を乗せた。


辿り着いた門扉を馬車が潜る。爵位こそ伯爵ではあるけれど、代々シルヴァン王国の騎士団長を務めるオルトリンデ家の邸宅は、騎士の名門と謳われていることに相違なかった。

アベルにエスコートを受けながら、ホールに足を踏み入れる。歴史を感じる古風ながらも豪華な様式に、私は目を奪われそうになるものの無作法にならないことを心がけた。

寄り添う夫の温もりを感じながら前を向く。その熱が不快でも顔には出さない。


視線を感じる。主催者への挨拶に向かう私を、いえ、私達に注目をしている。参加されている貴族の方々の顔を視界に映す。見覚えがあって、それが学生時代の同級生達と気付いた。彼らは、歩き進む私達の妨げにならないように道を開けて佇んでいる。


「コルネリア様だわ、王都にお戻りになられたのね」


「最後にお見かけしたのは、卒業式の日に担架に乗せられてぐったりとしたお姿でしたけれど、お命があっただけでも良かったわ」


「普段は男装をされているから、ベルアダムの麗人と呼ばれていらっしゃるのよ。とてもスマートで美しいと噂になっていますけど、ああ、本日のドレス姿も素敵ですわ・・・それにしても、夫君はあの方でしたか。きっと大変だったでしょうね」


女性達の囁くような会話が耳に届く。そう、卒業式以来。同級生の女性貴族達とは、デイナの被害者にならなかった方達とは卒業式の日は迎えられた。隣の男に暴行されたせいで、それっきりだけれど。

彼女達は、被害を受けなかった婚約者と無事に結ばれて、政略結婚であろうともきちんとした家庭を築いているのだろう。

私は、少しだけ視線を動かした。私達を見ている方々を見渡す。皆、知っている顔。学生時代を共にした方々。デイナの男達だった人も、その婚約者だった女性も、いつ被害を受けるか怯えるように過ごしていた方達もいる。


(・・・これは、同窓会なのかしら?)


そういう目的の夜会が開かれることもある。悲惨な時代ではあったけれど、勉学を共にしたという事実は変わらないから。つまり、レグルス・オルトリンデが主催の同窓会へ招かれたらしい。やっと理解できた。


(それにしても)


被害を受けなかった方達は、普通の夫婦として寄り添い、肩を並べている。平穏だと表情に表れていた。

そして、夫がデイナの男だった夫婦は・・・妻を逃さないように、強い力で腰や肩を抱いているように見える。夫人も、やはり顔が暗く引き攣っているように見えた。中には、私のように隠せない場所に傷がある女性もいる。


(・・・同じね)


デイナと同級生だった私達は、一番の被害者だった。体か心を酷く傷付けられて捨てられて、中には殺されてしまった方もいる。この場にいない同級生の顔を思い出して、私は身を震わせた。


「どうした?寒い?」


体に触れているアベルには伝わって、私のことを心配そうな顔で覗き込んでくる。


『お前達が怖いから震えた』


そんなことは言えないから首を横に振って対応する。

私の目に、壁際に控える男性が女性を追い詰めるように囲っている姿を捉える。明らかに怯えた表情を浮かべるのは、パトリツィア夫人。そんな彼女のパートナーのように密着しているのがノヴァ。


(・・・貴女も同じなのね)


私と同じ。恐ろしい男に捕らわれて、共にいるように強要されている。

視線を離す前に捉えたパトリツィア夫人のドレスは、私と同じブランドとデザインだったけれど、まさか、違うはずだと思いたい。

暗い想像したことで、私は軽く頭を振って浮かんだものを払う。


「やあ、ベルアダム侯爵夫妻」


突然、声をかけられたことで意識はパトリツィア夫人から移った。聞き覚えのある声に、私が顔を向ければルーベンスがグラスを片手に笑っている。

立ち止まって向かい合った。スマートに流行のデザインの礼服を着こなす彼は、若干顔が赤い。酔っているのだろうか。


「ルーベンスか」


「・・・お久し振りです、マルチェロ侯爵令息」


熱のない平坦なアベルの声に続いて、私は礼をする。ルーベンスはそんな私に、手のひらをヒラヒラと振るだけ。


「畏まらなくていいだろう。家の身分は同等、同級生でもあったんだ。何より私はアベルと友人で、アリアは君と親友なんだろう?気安くしてくれて大丈夫だよ」


久し振りに聞いたアリアの名前。僅かに肩が跳ねて、アベルの手が労るように擦る。


「俺のコルネリアに気安くするな」


「君はもう少し敬意を持てよ。話しかける男は全員恋敵だと思っているのか?」


「アリアは」


ピリピリと緊張感のある彼らの会話なんてどうでもいい。アリアのことが聞きたかった。ルーベンスの隣にいないのなら、夜会には参加していないのか。

会いたい、ただ純粋に思う。もう半年以上も彼女と話してもいない。手紙を送っても返信はルーベンスで「問題ない」とだけ。


「アリアは健勝でしょうか?」


「勿論。ただ、悪阻が酷くてね。夜会には参加させてあげたかったけれど、立つのもやっとだったから休ませているんだ」


「つ、悪阻・・・」


「そう、君は軽かったんだろう?アベルから聞いているよ。女性は妊娠中も大変だから私も介助しているけどね、男にできる範囲なんて限られている。できるなら変わってあげたいよ」


「妊娠・・・」


うわ言のように口から漏れしまう。アリアは妊娠している。誰の子をなんて、ルーベンスの子供に決まっている。分かっている。あの可憐な少女のような子が、こんな男の子供を。


「君の方が妊娠は早かったようだが、無事に生まれたら子供達は同世代になる。いい友人関係、男女に別れたら婚約者になれるかもしれない。楽しみだね」


何が楽しみなのだろう。その子を、アリアは望んで妊娠したと思えないのに。


「気が早い」


「ベルアダム家とは仲良くしたいからね。それに言っただろう?子供が生まれたらアリアに会わせるって。ねえ、コルネリア夫人?」


アリアに会える。でも、この状況は彼女にとって残酷で、どう感じているのかと心配に思ってしまう。


「アリアは、泣いていませんか?」


「泣いている場合じゃないってアリアも分かっているよ」


私の問いに躊躇なくルーベンスは答えると、近くにいる給仕にグラスを渡した。


「長居するつもりはないんだ。アリアが心配だから帰る・・・君も、無理をしないほうがいいよ。嫌になったらアベルがすぐに帰してくれる」


嫌なのは、そのアベルなのに。


「お前に言われなくても分かっている」


「君さ、コルネリア夫人以外にはトゲがあるよね。もう少し優しくしてもらいたいよ」


立ち去っていく背中。呆然と見送る私の肩を、アベルは優しく押して、歩くことを促す。


「レグルスに挨拶をしたら休もう」


「・・・そうね」


色々な衝撃で立つことも困難になり始めている。休みたい、椅子でもソファでもいい。身を預けて何も考えたくないと放棄したかった。

主催のレグルスの元に着けば、彼は以前と変わらずにこやかな対応だった。


「ご健勝そうで何よりです、ベルアダム侯爵。夫人も、今回は足を運んでくださってありがとうございます」


「お招きありがとうございます、レグルス・オルトリンデ殿」


私は礼をすると、視線をずらした。彼の目は綺麗なのに怖い。どうしても血の色を連想させる。


「適当に過ごしたら帰る」


「貴方ならそう言うと思いましたよ。ルーベンス殿にも言ったが、ゆっくりされたらよろしいのに」


「社交なら十分に熟している」


「貴方はそうでしょう。ベルアダム侯爵として、顔は広めたほうはいいですから。僕も父の跡を継がなければならないが、如何せんジャレッド王子殿下の護衛から離れるわけにはいかないもので」


「まだディルフィノの令嬢は捕まえられないのか」


捕まえるなんて・・・やっぱりそういった認識なのか。


「あのご令嬢はかなりの実力です。剣の腕では僕よりも上。ジャレッド王子殿下が勝てるわけもなく、叩きのめされて追い出されるの繰り返しですよ。クレイバーンの大商人も味方に付けていますから、思うようにはいきません」


エリシャのお父様のことだろう。エリシャとディルフィノ公女殿下は、とりあえず無事。そう考えていいのだろうか。


「力ずくでは無理か」


「気の弱い王子殿下にできるわけがないでしょう」


恐ろしいことを言っている。私は顔を背けて、ホールから庭園に至るテラスに目を向けた。恐ろしい会話する男達を意識しないように努める。

そう、意図なんてなく、ただテラスを見た。そこには人が寄り付いていなくて、二人の侍女に囲まれた女性だけがいる。女性は黒髪で、シルエットに見知った雰囲気があって。


「・・・僕達の話など、か弱い女性に聞かせるべきではありませんね。コルネリア夫人」


「何、でしょう?」


私の視線はテラスの女性に釘付けだった。彼女は両手に何かを抱えて、侍女達に補助されながら庭に出ていく。


「僕の妻とお話でもしてくださいませんか?まだ赤子を抱えているのですが、僕の子を身籠っていまして・・・日々を不安そうに過ごしています。貴女とお話でもできれば、少しは気が休まるはずです」


僕の妻。赤子。僕の子。言葉が、言い回しが奇妙だった。違和感のある言葉に意識を取られながら、庭にいる女性を見続ける。

レグルスはいつ結婚をした。妻は誰なのか。自分の子を赤子というのか。妊娠中の子は自分の子と言うのに・・・いつ、赤子は生まれた。レグルスは、いつ女性と接触して、カーラは。


疑いが確信に変わる。

私は肩を抱くアベルから離れて、庭に向かおうと足を踏み出した。


「妻は今しがた庭に降りて涼んでいるはずです。赤子の体温は高く、それなのに妻から離すと泣き叫ぶのでね。本当にうるさくて堪りません」


決して走りはしない。私のお腹には大事な子がいるから。でも、気が急ってしまった。早足に、私に視線を送る方達の合間を縫ってテラスに出た。

月明かりが照らすオルトリンデ家の庭は、整えられた低木が花をつけている。私は階段を降りて中を突き進み、石材のベンチに座る女性を見つけた。侍女達は彼女の世話をと、タオルや茶器を持っている。女性は、腕の中にあるお包みに視線を落としていた。それが側に設置された外灯のおかげでよく見えて。

不意に彼女は私に目を向ける。青い綺麗な瞳が私を捉えて、見開く。


「コルネリア?」


「・・・カーラ」


彼女の瞳は歪んで、ポロポロと涙が零れ落ちていく。しっかりと、腕の中のお包みを抱き締めると嗚咽を漏らして泣き始めた。

生きていた。やっぱりカーラは生きていた。あのお包みには、彼女の赤ちゃんがいるのだろう。ふっくらとした膨らみと、僅かに覗く黒髪から分かる。

カーラの控えめなデザインながら生地が上質のドレスは、体を締め付けるようなものではない。膨らんだお腹の線をはっきり見せていた。妊娠中期だと嫌でも分かってしまう。

泣いてしまったカーラを侍女達が慰めている。私も彼女に近付きたくて、足を動かそうとした。


「コルネリア」


両肩が掴まれると、後ろに引き寄せられる。背後から私を抱き締める男は、私のお腹を愛しそうに撫でた。


「そんなに急いで歩いては転んでしまうよ。ゆっくり歩こう・・・この子も驚く」


恐ろしい男が私に囁いている。この男も、レグルスもルーベンスも、ノヴァも、私達を苦しめる男達が怖い。おぞましい。彼らは私達を真に想っていないから、非道な手段を容易に取る。手放すつもりはないと私達を支配していく。


アベルの腕を払って、私はカーラに近付いた。場所を空けてくれた侍女達にお礼をして、隣に座る。泣いて震える彼女の体を抱き締めると、腕の中にいる赤ちゃんを見た。

カーラと同じ髪と瞳をした子。顔立ちから女の子だろうか。とても可愛らしく、不思議そうに私を見ていた。


「無事で良かった・・・」


「・・・ぅ、うん・・・コルネリアぁ」


カーラが私に身を寄せる。私の視界はぼやけて、頬に涙が伝っている感触がある。

無事で良かった。本当にそう思う。カーラも、子供も無事だった。彼女は、それ以外の全てを失ってしまったけれど。


ぼやける視界に、近付いてくるアベルが映る。その後ろにいる銀の髪の大男はレグルスだろう。

こうして会えたのは嬉しい。でも、私達はすぐに引き離される。私達を支配する男達が、思う通りに扱うために。


私もカーラも、アリアも先の人生は決まってしまった。私達は、決して心から幸せにはなれないと分かっている。

エリシャはこのまま逃げられるだろうか。父親のロンド辺境伯とウリエルに気付かれたら、彼女を捕らえようとするはずだ。


(・・・私達が一堂に会することなど、もはや永遠に訪れないでしょうね)


まだ冷静な部分があるみたいで、そんなことを考えてしまった。

私の肩に手が触れる。アベルの手だと分かっているから視線を合わせば、揺れる視界の中、青い色が見えた。

それは私を捕らえている恐ろしい青色の瞳。真っ直ぐに、決してそらされずに私を見ている・・・───。

これにて本編は終了となります。ここまで読んで下さってありがとうございます。


他の女性の話も番外編として載せるので、読んでいただけたら幸いです。

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