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【完結】私の幸せ  作者: P太郎
本編
3/59

過去のこと 3

女性が酷い暴力を受ける描写があります。ご注意ください。

クローデット王女殿下が病院に運ばれて暫く、兄君であるフラメル王国の王太子殿下が迎えにいらした。妊娠は、分からない。

ただ付き添ったカーラいわく、王太子は泣きながら王女殿下に謝っていたそうだ。


『お前一人を送るべきではなかった、ごめんよ、クローデット』


そう仰って、男性に怯えを見せるクローデット王女殿下を気遣いながら共に隣国に帰っていったらしい。私は最後は立ち会いできなかったけれど、王太子殿下から謝礼と王女殿下のことを綴った手紙を送られた。

クローデット王女殿下は、これからは国政に関わることなく王太子殿下の保護の下で過ごされるらしい。御身をお隠しになって余生を過ごされる。

それでいいと、手紙を読んで思った。。惨たらしい行いを受けた王女殿下だから、穏やかな日々を過ごしていただきたい。

この国は変わってしまっていた。一人の女性を崇めて、その一言一言に傅いて、害意があると判断されたら排除される。もっとも、殆どは女性達が被害を受けた。国内外であろうとも、真っ先に害悪だと吊るし上げられて、悲惨な罰を与えられる。



私の身近ではまず、エリシャが殺された。

実の父親である辺境伯と婚約者のウリエルに殺された。デイナを害したとして、辺境伯夫人と共に演習場で砲撃の的にされてしまった。直撃を受けた肉体はバラバラになったことで、判別はできず、回収は困難だと。

これを聞いたのは学園の卒業式間近。あまりの衝撃で理解ができなくて、気付いたときにはアリアと一緒に泣いていたことを覚えている。無惨に殺されたエリシャを想って鬱々と過ごしていた。



カーラがいなくなったと知ったのは、その後すぐ。

彼女は、帰宅の途中でレグルスに襲われたそうだ。デイナの敵だと断じられ、処刑すると言われながら追いかけ回されたらしい。何とかマッケンジー伯爵家のタウンハウスに戻れたけれど、レグルスはそこにも足を踏み入れた。

娘を庇ったマッケンジー伯爵が腕を切断される大怪我を負ったことで、レグルスの鬼気迫る様子は鳴りを潜めたらしい。血塗れの伯爵と泣いてしまったカーラを呆然と眺めていたそうだ。

その日の内に婚約破棄が決められて、カーラはデイナを貶めたという罪で身分を剥奪をされた。平民になり、学園を退学処分されていた。



エリシャを失って、カーラもいなくなって不安な日々を過ごしていたら、アリアが婚約者のルーベンスに暴言を吐かれた。


『お前のような卑しい豚を養う私の身にもなってみろ。食うことしか脳がない豚女は、辛うじて人間だから食肉にもなれない。お前は何の生産性も無い存在意義すらない女だ』


アリアは太りやすい体質でだったけれど肥満ではなかった。女性すら羨む豊満な肉体をした栗色の髪と空色の瞳をした美少女。

それなのに女性に、ましてや人に向けるものてはない発言を浴びせていた。アリアは顔面蒼白でカタカタと震えていたけれど、意を決して叫んだのを覚えている。


『婚約破棄をしてください!私は二度と貴方に関わりません!私に有責があると慰謝料を請求して頂いても構いません!だから婚約破棄をしてください!』


そう言わなければ私も殺されると、後々にアリアは言っていた。あの人達は、自分の婚約者をデイナの敵だって言い掛かりを付けて危害を加えていた。国家君主である国王陛下すらデイナの男になっていたのだから、邪魔に思った女性達は排除されるという。王城に務める父親のレーヌ伯爵から内情を知らされていたアリアはそう教えてくれた。



その他にも麗しい婚約者を持つ貴族令嬢達は次々に被害を受け、人伝であるけれど、ジャレッド第二王子殿下の婚約者であるディルフィノ公爵令嬢も、一方的に婚約破棄をされたあとで殺されそうになったらしい。

ただ、あの方は勇ましい人だった。令息に混じって剣術や軍略を学ぶ方だったから、殺そうと迫る第二王子殿下を剣一本で叩きのめし、同じく婚約者に婚約破棄を言い渡された子爵令嬢の手を取って隣国に国外逃亡された。

アリアから聞いた話では、隣国に骨を埋める勢いで根を張り、後ろ盾になってくれそうな新しい婚約者を探しているらしい。そのような話を聞くと、心身とも強い女性だと尊敬の念を抱いてしまう。高貴な方だったから、いつもすれ違う時に挨拶を交わすことしかできなかった。麗しくも華々しい方。

その御息女の一件で、ディルフィノ公爵は国からの離反を選んだ。自慢の愛娘だとよく口にされていたと聞き及んだことがある。そのような大切な人が殺されかけたなど知ったら、当然の反応だとも思う。

元々権力も発言力もある公爵は、ディルフィノ公爵領の独立を宣言すると大公殿下となり、現在も王家と対立している。




様々な女性達が悲惨な状況に陥れられた。いつかはと怯えていた私の順番も、遂にやってきた。

あの時のことは二度と忘れない。恐怖と痛みと絶望を味わった。絶対に忘れてはならないし、許してはいけないことだ。


その日は学園の卒業式だった。婚約破棄の手続きでアリアは式に間に合わず、私は一人。皆がいなくなってしまったから一人でいるしかなかった。

学園を卒業したら、すぐにアベルとの結婚式が決まっていたけど、彼はデイナに夢中だったから何もかもが滞っていた。何より親友達の受けた被害と、アベルから敵意を向けられていることに、私の気持ちは萎んでいた。


(このまま婚約を解消しよう)


お父様も賛同してくれていた。国を乱すデイナに関わるべきではないと、婚約解消の手続きを始めてくれていた。このまま関係を断ち切れば、恐ろしいことにはならないと暢気に思っていた。

あとは、私の存在を無いものとするアベルに何とか話を聞いて・・・そう考えた時に右頬に激痛が走り、体が浮く。床に叩きつけられたように落ちたから、背中も腰も足も痛かった。なのに頬に感じる痛みが一番凄まじかった。


『コルネリア、貴様!!』


最初は誰の声か分からなかった。聞いたことのない怒気を孕んだ大声。私は痛みで霞む目をその人に向けた。歪んで見えたけど間違いなくアベルで、悪鬼というような形相で私を睨み付けていた。


『デイナを殺そうとしたそうだな!俺からの愛が得られないからとデイナを傷付けようとするなんて、悪魔のような女め!!』


『ひょ、ひゃ・・・?』


言葉が上手く言えなかった。ズキズキと痛む頬と口の中に広がる血の味から、アベルに殴られたのだと分かったけれど、硬いものが二個ほど口内にあって。歯だと気付いたときには、アベルに胸元を掴まれて引き上げられていた。


『ひゃめ、ぎゃぁっ!!』


また床に叩きつけられた。打ち付けた左半身が痛かった。なぜ、私がこんな暴力を受けるのか分からなかった。

デイナとは話したこともない。接近したこともない。ただ、アベルを含む男達と身を寄せるほど親密にしている姿を、遠くから眺めていただけ。


『い、ひゃ・・・いひゃい!いやぁ』


逃げようとした。理由が不明の暴力からに逃げようと床を這いずって、そうしたら足首を掴まれて引き戻された。

見上げれば怒りの形相をしたアベルと、儚げな表情をしたデイナ。


『アベル様ぁ!この人は私の顔を潰そうとしたの!私の顔が気に入らないって叩こうとして!』


『しょ、しょんな』


そんなことはしていない。

言いたかったけれど、アベルが再び私の顔を殴った。何度も、何度も殴って。顔中が痛み、口から血が噴き出して、息すら苦しかったのを覚えている。


『貴様のような醜い女が美しいデイナに嫉妬するなど烏滸がましい!』


そう吐き捨てるように言うと離れたけれど、アベルは何かを持って戻ってきた。


『二度と嫉妬すらできないほど焼いておこう』


何を・・・疑問は一瞬だけ。

近くの講堂の暖炉から火かき棒を持ってきたようで、その切っ先は赤々と熱せられていた。


『ひゃめ、ひゃ、ひっ、ぎゃぁあぁぁぁぁぁあっ!!!』


右目に刺された、掻き回された。今思い起こせば、そんなことをされていたと思う。当時は激痛にのたうち回っていたから理解できなかったけれど。

何かしらの罵声を言いながら、私の右目を奪った火かき棒が、顔や庇おうとした腕に叩きつけられて、右胸にも押し付けられて、引き下ろされた。


『女としての価値も落とさないと』


デイナの言葉だっただろうか。

今でも分からないけど、熱した火かき棒に右目を突き破られて、体中を叩かれた私は、そのまま意識を失ったようだった。

気が付いたのは二日後、王都のタウンハウスにある私の寝室だった。酷い暴力を受けて失神した私は、学園の正気だった教員達に保護されたらしい。即座に病院に運ばれて緊急治療を施されたと教えられた。私が横になっているベッドの脇で泣いていたお父様に、そう教えられた。

この時は何故、片目だけしか見えないのだろうと不思議だった。右半身を中心にズキズキと痛むし、体が動かせないのがもどかしかった。


『すまない、すまないコルネリア。可愛いお前がこのようなことに・・・』


泣かないで、と手を伸ばそうとするけど先にお父様の手に包まれてしまった。


『お、おと、しゃ、ま・・・』


『ああ、何も言わなくていい。今は休んでくれ、私の、私達の可愛いコルネリア・・・』


お母様が亡くなられたのは、アベルとの婚約が決まってすぐだった。馬車での移動中に事故に遭われてそのまま。

突然の死に悲しむ私を、お父様はお母様の分も愛してくれた。亡くなられたお母様も愛しく思っているからと、母の愛が分かるように二人分の愛情を与えてくれた。だから、お母様を失った悲しみも晴れ、愛情を受けていた日々を思いながら生きてこれた。

この優しさに包まれてるのなら私は死ぬことはない。きっとアベルからも守ってくれると、安堵して眠りに落ちたのを覚えてる。


私は暴力を受けたことで体の様々な骨が折れ、右目は失明した。口が開けないほど顔が腫れ上がっていたから当時は分からなかったけれど、正確には右目とその周辺の肉が抉れてボロボロになり、欠損すらしている。また、歯も奥歯が二本折れていた。右頬と右腕、右胸には再生が難しい焼けて抉れた傷があり、右半身には小さな火傷も多かった。かなりの重傷だった。

これらは全てアベルから受けた暴力によるもの。一生残る傷を、よりによって唯一の自慢だった顔にも受けた。お医者様にある程度は治療していただいたけれど、今の医療では完全再生は難しいと言われた。

その事実を受け入れるまで一年はかかった。仕方ないとは思えない。理不尽な暴言と暴力を浴びせたアベルのせいで、私は取り柄を失った。何もない、いえ、酷い傷のある顔と体になってしまった。

私はデイナと関わっていなかったのに、デイナの言葉を信じて、もしくは罪を捏造して暴力を振るうなんてあり得ない。絶望を塗り潰すような怒りが沸き上がったのは言うまでもない。

感情のままに婚約破棄を突きつけた。でも、それはあちらの言葉だったらしく、アベルは私の有責で婚約破棄を突き返して裁判になった。

裁判官は男性で、デイナを崇拝していた。私の訴えなど聞く耳すら持たれずに、デイナを害したからだと私の有責で婚約破棄となった。多額の慰謝料をデイナとフィガロ公爵家に払わされて、お父様に申し訳なく思った。


『気にしなくていい、金で簡単に解決できたのは幸いだ。もう小僧ともフィガロ家とも関わらなくて済むのだからな』


ただ、優しいお父様は私を励ましてくれた。私に罪はないと許してくれた。

縋ってしまったお父様に連れられて、ベルアダム領に引き籠もった。学園は卒業扱いになっている。いる理由なんてないから、あの恐ろしいアベルとデイナ、デイナに夢中の人々しかいない王都には居られなかった。

このままお父様の領地経営を手伝って、ひっそりとベルアダムの地で眠れたらいいとすら思っていた。

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