全てが夢であったのなら
女性が襲われていますので、苦手な方はご注意ください。R‐15程度の描写に留めています。
「あまり時間をかけたくはないから、とりあえず婚姻届に記入してほしい。そうすれば、全て丸く収まるんだ」
「嫌・・・」
震えた声で漏らす。拒否の言葉に、アベルの饒舌だった口は閉ざされて感情のない顔で見つめられる。
「あ、貴方と結婚なんて嫌。それだけは嫌。貴方だけは嫌なの!怖い!な、殴られたときの記憶が、目を潰されたときの記憶が甦る!貴方を見てると、思い出すの!だから無理よ!結婚なんてできない!一緒にいるだけで息苦しいのに!」
「俺を拒絶するな」
「ひっ!」
思い出した恐怖に涙が浮かんできて、それでも流さないように指先で払って、一生懸命に自分の意志を告げたのに。
アベルは地を這うような低い声で、恨んでいるような暗い声で私を制した。怖い、怖い、怖い。
「きょ、拒絶してもしょうがないわ!だって貴方は」
「俺が嫌だからと罪人になることを選ぶのか?それほど俺を嫌悪しているのか」
「だっ、だって、だって貴方は私の顔を、潰した!体中を傷付けられて怖かった!とても怖くて、痛くて、今でも貴方が怖いの!」
私の気持ちを理解してほしくて懸命に答えた。感情が高ぶることで、嗚咽が混じってしまい、上手く話せないけれど意思を伝えたかった。
「俺はもうそんなことはしないと言っているのに、聞かないんだな」
落ち込んだ声色。目も伏せて、暗い海の色の瞳が私から逸らされた。強い眼差しがなくなったから体の緊張が。
「えっ、いやぁっ!!」
ナイトドレスが引き裂かれた。突然、アベルが両手を動かして、胸元の布地を掴むと横に引っ張り引き裂いて。胸が、右胸の皮膚を一直線に抉る大きな傷が露わにされて、アベルに肌を。
「何を、止めてぇ!!」
更にナイトドレスは引き裂かれて、お腹まで見えてしまう。慌てて隠そうと手を動かすけれど、アベルに掴まれた。どちらの手も頭の横に固定される。
「離して!離してぇ!いやぁ!」
「白くて柔らかそうで、とても綺麗だ・・・俺のコルネリア。俺だけのコルネリア。この滑らかで白い肌も、柔らかな乳房も薄い腹も、全部俺のものだ」
うっとりした声で、い、いやらしいことを言っている。私の裸を、晒した胸を見て興奮している。
この男には醜い傷が見えていないのか。貴方が、操られていたとはいえ、貴方が付けた引っ掻き傷を。
「何をいっ、ひぅっ!?」
アベルの頭が近付いてきたと思ったら、右胸をその黒髪が擽り、傷を下からねっとりと舐められた。吸われる、胸を、傷を。
「やめっ、やめて!やだ!舐めないでぇ!きもちわる、あぅ、んっ!」
何度も傷を舐められて、最後に吸われる。傷にキスをしている。その感触が不快。ぞくぞくして嫌。
「やめて、アベル!!」
「はぁ、この傷も俺が付けた。俺のものだ。俺だけが触れて慰めることができる」
「んんっ!」
強く吸われて、体が跳ねた。変な感覚。今までにない痺れが舐められたところから全身に広がっていく。気持ち悪い、気持ち悪い。このような感覚は知らない。
「もう、やぁ!」
「・・・そんなに嫌がらないで、コルネリア。これは夫婦なら当然の行為だ。閨事については学んだだろう?跡継ぎを作るための大事な触れ合いなんだ」
「ね、や?・・・わ、私、貴方と子供なんて、ましてや夫婦などでは」
「俺と君は夫婦になると決まっているんだ。君が嫌がるなら無理矢理にでも事を進めさせてもらう。拒絶はさせない・・・高位貴族の女が無理矢理であろうとも純潔を奪われたらどうなるか、分かるよな?」
「えぇ?ひ、んんっ」
最後の言葉は私の耳に寄せて囁いた。そのあとすぐに唇に食まれる感触と、穴に侵入してきた濡れた柔らかいもの・・・アベルの舌が私の耳穴を犯している。卑猥な水の音と感触に体が震えた。
「やぁ、いやっ!あ、ぁっ」
「声が甘くなっている・・・気持ちいい?」
気持ちいいわけがない。責められた部分から変なゾクゾクが広がっていて、不快感しかない。
「あっ」
体を押し倒された。目覚めたときのようにソファに仰向けにされて、アベルが覆い被さってくる。
「君の唇に触れるのが夢だった」
そう言って親指で唇をなぞり、顔が近付いてくる。
流石にキスをされると分かったから顔を背けた。アベルはそのまま左頬に唇を落とす。音を立てて吸うと、舐められた。
「まだ嫌か・・・まあ、いい。君が素直になってくれるように俺が頑張るよ」
彼の手が私の体に這う。両手とも、肩を撫でると胸に触れて、弄ってくる。アベルは唇でも私を刺激した。首筋に何度もキスをされて、吸われて、鎖骨や胸にも落とされる。
本当にこの男は私を、ベルアダム領主の仕事場である執務室で、私を犯そうとしている。
「他に傷はある?ここは・・・ああ、小さく残っている。ここも俺が慰めよう・・・こんなところにあるなんて・・・こちらはどうだろう」
許せない。この場所で下劣な欲望に従って、自分の思うままに私を扱おうとするなんて。怒りが滲んで拳に力が入る。拳、私の両手は自由になっていた。アベルが体を嬲ることに夢中になっているからだろう。何か、ないだろうか。この獣のような男を止める何か。
探して見れば、ローテーブルに花瓶がある。小さな花を生けるためのものだから小物であるけれど、厚みがあって重い。私は手を伸ばして掴んだ。熱心に私の体を弄るアベルを張り倒すために、右手に持ち直すと、こめかみに向けて叩きつけた。
「ぐうっ!?」
アベルの顔は真横にずれて、突然のことだったから上体もずり落ちた。覆い被さっていた男がいなくなったから、私はソファから起きて、肘掛けから飛び降りる。アベルの様子を窺いながら、部屋を出る扉に向かった。
「コルネリア!」
打たれたこめかみを手で押さえながら、アベルは立ち上がる。彼が一歩踏み込んだ瞬間に、持っていた花瓶を投げつけた。
「くっ、止めろ!」
「それはこちらの言葉よ!!」
言い放って部屋から飛び出す。ナイトドレスを裂かれてお腹まで見せてしまっているから、手で手繰り寄せて肌を隠す。
誰かいないか。モリスンは、侍女は、メイドでも使用人でもいい。一番は兵士だけれど、とにかく私を助けてくれる人はいないかと走り出した。
「誰か、誰かいないの!?」
でも、僅かな灯りが照らす屋敷内は薄暗く、人の気配は感じなかった。私とアベル以外はいないかのような静けさ。
「呼んでも誰もいない。屋敷の使用人達は全員拘束して、離れで聴取中だ。ここには君と俺しかいない・・・出入り口に行けば人はいるが、それは俺が引き連れた王家の兵士だ。助けを求めようとすれば逆に捕まる。彼らは君を俺に差し出すから、目の前で愛を交わすことになるかもな」
アベルはいつの間にか距離を詰めていて、私にゾッとするような言葉を放った。
身勝手に私を襲ったのに、それを愛と言うのか。そのようなことを人前で行うつもりなのか。
「貴方はおかしい!」
叫んで走り出す。どこか隠れる場所はないか。逃げ出せる場所はないかと。
「俺を狂わせたのは君だよ」
走り出す前に聞こえたアベルの声。
違う、違う、違う。私のせいじゃない。勝手に貴方がおかしくなっただけ。私の気持ちを蔑ろにするような男に変貌しただけ。
逃げなければ。アベルは私を手に入れるためなら何でもする。何だってする。他の男達だって目的の女性達を手に入れるために常軌を逸した。
アベルだって完全におかしくなっている。私を捕まえたら、先程の続きをされて、私は苦しめられる。
嫌だ、嫌だ。それだけ思って走り続けて、私の息も切れてきた。呼吸が苦しくて、足も痛い。アベルの腰を膝で叩き続けたことも影響しているのだろう。痛みと疲労で力を失った私は、よろよろと壁に身を預ける。
こんなことをしている場合じゃないのに。アベルに追われているのだから、休憩などしているわけには。
「はぁっ、はぁ・・・あ」
あの飾りガラスが嵌め込まれた両開き扉は、庭園に至るものだ。綺麗に整えられているけれど、奥の方は様々な高さの木々が植えられていて、綺麗な泉と自然と調和するように蔦が茂ったガゼボがある。人口の建築物はそれだけで、小さな森のようになっていた。
(あの場所なら)
よろめきながら扉を開き、庭園に足を踏み入れた。整えられた生け垣の横を通り、光がないことで色が暗く見える花壇の前を進む。
庭園内の森ならば、アベルから隠してくれると思った。暫くは息を潜めて、日が出たら屋敷を囲う石壁を登ってでも脱出しよう。
足音を立てないように注意しながら進み、水の音が聞こえ始めたことで安堵する。深い緑色の小さな森は、潜むならば最適に見えた。木々の密集地に足を踏み入れて、自然発生したかのように設計された泉の横切り、ガゼボの中へ向かおうとした。
「きゃあっ!?」
両腕を掴まれて、後ろに引かれた。大きな体の、逞しい男が私の体を抱き締める。
そ、そんな、気配も足音もしなかったのに。
「こんな暗い森の中に逃げ込もうとするなんて、君は森の妖精だったのか?ああ、そうか。だから人目を奪うほど可憐なのか。全てが愛らしい君だから、どうしても惹き付けられてしまう」
「あ、ぁ・・・は、ぁ」
息ができない。
アベルに捕まった。いつの間にか忍び寄っていて私を捕らえた。
「・・・ここならば、人の目も時間も気にせずに愛し合えるな」
「やめ、やぁっ!」
顔に大きな手が触れて、私の顔の向きを変える。アベルの顔と向き合わされる。光のない森の中、真っ黒に淀んだ瞳が私を見ている。笑っているけれど、とても不気味な笑み。
手が、私の眼帯をめくり上げた。ぐちゃぐちゃで眼孔の形も崩れ、眼球の弾けた酷い傷跡を晒した。
「やめて、外さないで!顔が!」
酷い顔、醜い顔、嫌悪感しか抱かれない顔。それを晒されて叫ぶけれど、アベルは顔を近付けて舌でねっとりと舐める。
「いやぁっ!」
「この傷も俺が付けた。俺の罪だ。しっかりと慰めないと、誰にも渡さないために・・・いや、こんな酷い傷ならば、どんな男だろうとも嫌がるだろう。俺以外は嫌がる。君を愛そうなどとは思わない」
なんて酷いことを言うのだろうか。
「君を愛しているのは俺だけだよ。この傷ごと君を愛してる。俺だけのコルネリア・・・」
お前が傷付けたのに。
ガゼボを目前にして、私の体は押し倒された。抵抗しようにも、アベルは自分のベルトを引き抜いて、ガゼボの柱に括り付けて私の両手も縛り上げる。身動きすらできなくなった私は叫んだ、泣くことしかできなかった。それなのに私を辱める手も、唇も、止まらない。
ナイトドレスが更に引き裂かれる音。私はそれを耳にしながら目を閉ざした。裸体を晒された私は恐ろしい凌辱を受ける。逃げられない。逃してはくれない。
ああ、全て夢であったらいいのに・・・───。




