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【完結】私の幸せ  作者: P太郎
本編
19/59

王太子との謁見

謁見室の前、私は深呼吸をして大扉が開くのを待つ。私の様子を近衛騎士も護衛騎士達も心配するように窺っていたけれど、入室して大扉が閉じられたら、彼女達の姿は消えた。

謁見室に挑むのは私だけ。突き進んで、玉座のある段差の上に待つ方を見る。


ルーベンスが言っていた殿下。それはエリオット・シルヴァン王太子殿下だった。後継であっても王ではない彼は、玉座の脇に立ち私を待ち構えている。

淡い金の髪に淀みなく澄んだ青い瞳の美青年。ご両親の容姿が混ざり合ったような美しい王太子殿下。少し見かけなかったうちに成長されたのか、体格が逞しくなっている。お父様の国王陛下に似てきたのかも知れない。

控えには誰もいない。私と王太子殿下が一対一のようだ。段差の前に来ると立ち止まって淑女の礼を取る。


「お久し振りでございます、エリオット王太子殿下。コルネリア・ベルアダム、召喚に応じ参じました・・・」


何故、エリオット王太子殿下なのだろう。国王はどうしていらっしゃらないのだろう。疑問は今、内に秘めておく。


「ああ、久し振りだな。コルネリア・ベルアダム嬢。最後に言葉を交わしたというのはおかしいが、私が一方的に暴言を吐いて蔑んだ以来か。あの時は、魔女の魅了にかかり君に対して敵意と殺意を植え付けられていた。魔女が原因とはいえ、非礼を詫びよう。すまなかった」


衣擦れの音・・・王太子殿下もお詫びで頭を下げて下さったのだろう。


「面を上げよ」


私が顔を上げれば、エリオット王太子殿下の青い瞳が真っ直ぐに向けられている。今の眼差しに嘲りはない。でも、何か嫌な感覚を与えられる。探るように私を見ている気がする。


「陛下に聞いていたが、本当に男装をしているのだな。可憐な君には似合わない」


きっぱりと仰った。この謁見は私の服装を見るために設けられたのか。でも、呼び出したのは国王陛下で王太子ではないはず。


「私の服装など、どうでもよろしいことです。私はリカルド国王陛下により召喚されました。陛下はどちらに?」


疑問を投げかければ、エリオット王太子の目が細まる・・・居心地が悪い。この方は完全に私を探っている。反応を窺っていた。


「国王陛下は、王妃である母上と我が妹姫を迎えにタリス公爵領に進軍された。早ければ、二日後には攻略を開始されるだろう」


「は・・・はい?な、何故」


私は何を言われたのだろう。よく分からない。理解したくない。国王が王妃殿下と幼い王女殿下を迎えに、捕らえるためにタリス公爵領を軍事攻略する。そんな事を言ったのか。


「何故、そのようなことを!」


「声を張り上げるな、コルネリア嬢。その可憐な容貌に影響が出るぞ」


「張り上げもします!何故、軍事攻略などされるのですか!王妃殿下と王女殿下は平穏に過ごされていると聞いています!何より、タリス公爵家は王妃殿下のご実家。害することもないのに武力で奪還するなど異常です!」


「異常ではない。タリス公爵家には再三、母上と妹姫を返すように陛下が訴えていた。だが、彼らは交渉の場にすら出なかったのだ。母上と妹姫は我らの大事な家族だ。話し合いに応じぬのなら、武力を持って救出するのが道理だろう」


「救出など、それを王太子殿下が仰るのですか!?」


目の前の方は口元に弧を描く。目は一切笑っていないのに、微笑みを見せた。


「ああ、そうだ。偽りの愛に惑わされていた私達は正気に戻ったことで、失ったものを取り返すんだ。どんなことをしてもな」


エリオット王太子は王妃の座に手を伸ばし、肘掛けをゆっくり撫でる。


「母上は非常に辛い思いをされた。それを父上自らが癒やすのだ。あの方は以前と変わらぬ寵愛を受けるべき人。父上からの愛情を一身に受けて、傷を癒されるべきだ。そして、私の耳にすら届く愛らしさを持つ妹には純粋に会いたい。我々が名前すらも知らない妹姫だ。彼女は、我々が家族であることも知らないだろうな」


王妃の座を眺めていた目が、私を鋭く見つめる。敵意からではないが、確固たる意思があると示しているかのようだった。


「父上の為さることは家族の逢瀬のため。その邪魔をするならば、例え外戚のタリス公爵だろうとも容赦はしない・・・ああ、処刑はしないぞ。タリス公爵家は我が国に無くてはならない臣下。処罰で済ますつもりだから安心をしてくれ」


何の安心だろうか。この方は、王族の男性達は、求める女性を奪うために自国の公爵へ軍事行動を取ったというのに。


「なんて愚かなことを」


王太子は、王の玉座と王妃の座の間に立ち、腕を組んで私を見据える。


「愚か、か。君は凄いな。本来ならば口を噤むだろうに、はっきりと諫言をする。自分の思ったことを隠さない。だから、父上も動かされてしまったのだろう」


「それは、どういうことでしょうか?」


「きっかけは君だということだ、コルネリア嬢。君の言葉が父上を傷付け、母上と妹姫を逃さぬための原動力になった。確か、『王女殿下は陛下を父親と思うのか』だったか?そう聞いている。父上はその通りだと思ったのだよ。遠く離れた場所から好意を抱かれるように行動しても、今更遅い。懐に抱き込んで可愛がらなければ、きっと永遠に愛情は得られないとな」


血の気が引いた感覚があった。私が、私が思ったことをそのまま言ったから、悪い方に国王は動いた。私の、せいで・・・。


「初めから顔色は良くなかったが、更に悪くなったな。思うことでもあったか」


「わ、私が、余計なことを」


「ああ、今更反省か?少し遅かったな。だが、全てが悪いわけではない。君のおかげで父上は行動に移せたのだ。すぐに母上と妹姫を連れて帰って来る」


タリス公爵にも迷惑を、武力制圧を受けることになった。私が、私が余計なことを言ったから。


「暗く考えるな、コルネリア嬢。君の諫言は真っ当だった。物事をはっきり言う人間こそ、我が国には必要不可欠。君の価値を高めている」


「価値など、私にはありません。怒りに任せて余計なことを言うだけの醜い女です」


「醜いか」


エリオット王太子が喉を鳴らす。笑っている。私の傷付いた醜い顔を見て笑っているのかなんて、そんなことを考えていた。


「いいや、君は可憐な女性だ。私は覚えている。学園に入る前に、君がアベルに笑いかけた顔を覚えているんだ。そのときと変わらずに、君は可憐で愛らしい」


あの人の名前を突然言われて、ぎょっとしてしまって、私は反応ができなかった。

誰か、後ろにいた。私の肩を掴んで引き寄せて抱き締める。逞しい体に、嗅いだことがある香水の匂い。


「ほら、君達はとても絵になる。似合いの『夫婦』だ」


見上げて映ったのは、緩く癖のある黒髪と吸い込まれそうな青い瞳。少し顔は顰めているけれど、非常に整った顔立ちだから崩れていなくて、昔と変わらない。


「コルネリア、会いたかった」


薄い唇が動いて、優しい声色で囁く。

アベル、アベル・フィガロ。私の元婚約者。私を傷付けた人に、私は抱き締められていた。

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