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【完結】私の幸せ  作者: P太郎
本編
13/59

話は通じない

リカルド国王が制するように右手を掲げる。開きかけた口を閉ざし、フィガロ公爵の姿が視界に入らないように顔を逸らした。

もう言葉すら交わしたくはない。大体、私は国王からの召喚に応じてここにいる。もう関わり合いのない方と言い合いをするためにいるわけではない。


「子息の妻になるとはいえ、些か言葉が過ぎるぞ。ベルアダム侯爵は魔女の真の被害者であり、心無い貴殿からも一度縁切りをされたのだ。貴殿がすべきことは謝罪だ。次に取り上げた慰謝料の即刻返金をしろ。何より傷付いたベルアダム侯爵を労ることが義父の役目だろう」


「無論、不当な慰謝料でしたから返すつもりはございますが、この娘は、いえ、ベルアダム侯爵の態度は大変不遜なものです。憤りを感じるのも仕方ないこと」


国王も、もはや会話などできない。私の意志を蔑ろにして、自分達だけで話を進めている。謁見などに応じなければとすら思ってしまう。

ああ、私は何て無駄な時間を過ごしているのだろう。


「・・・ベルアダム侯爵として、フィガロ家との縁続きはご遠慮させていただきます。慰謝料の返金も結構。よい勉強になりましたから、授業料としてお支払いさせていただきます。我がベルアダムは農繁期。領民を統括する『農婦』としてやるべき事がございます。他家との交流などしている時間はありません」


以前、デイナが口走った言葉を態と使って礼をする。

本当に私は性格が悪くなった。私の「農婦」発言で、国王を含む室内の男性達が顔色を悪くさせたから。彼らが罪悪感を得ているのだと手を取るように分かる。


「ベルアダム侯爵、貴女を農婦などとは思っていません」


「ああ、魔女の言葉が現在も侯爵を苦しめていらっしゃるのだ」


「ベルアダム家は古より続く名家。そのご当主を嘲った発言の陳謝をせねば、食料品の取引を停止させられてしまう」


「君はいつまで処刑された罪人の軽口なぞを気にしているのだ!」


慌てて弁解する言葉、哀れに感じて漏らしたのだろう言葉。フィガロ公爵が私に向けて責める言葉と重なって聞こえる。

それらは全て雑音。何を言われようとも私には効かないし、やるべきことも変わらない。

ベルアダムの民が苦しまないように、平和に暮らせるように、侯爵として変わらぬ職務を成して国に仕えるだけ。


「私は反逆の徒ではありませんから、これからも民を守り支え、シルヴァン王国に仕えるのみです」


リカルド国王の顔を仰ぎ見る。顔色は悪いけれど、表情は険しくない。静かに私を見つめ返していた。


「私の婚姻など、国王陛下並びに無関係な方々が口を出すべきではないこと。フィガロ公爵閣下におかれましては、ご令息にしっかりとお伝えいただきたく存じます」


顔を向ければ、フィガロ公爵は忌々しそうに歯を食い縛っていた。代々、国の中枢にいる公爵家の当主らしからぬ感情を剥き出した様子。その顔は私の記憶にある怒れるアベルにそっくりで、少しだけ恐怖心が蘇る。

もう二度と顔すら会わず、関わりもないのだから気にする必要はない。そう思うしかない。


「・・・雑談に時間を取られましたね。私はこれにて、御前を失礼致します」


最後にリカルド国王陛下と臣下の方々に一礼をして、場を退出しようとした。


「待ってくれないか」


「まだ何か?」


踵を返そうとした瞬間、国王に声をかけられたことから上体を捻ったまま止まる。

見上げれば、どこか切羽詰まった表情を浮かべていた。


「貴女に教えてほしいことがある。今までのものとは関係なく、私個人に関わることだ。女性でなければ分からぬことで、現在この城には女性はいない。魔女が追い出してしまったからな。奉公人にも出仕している貴族にもおらず、すぐに教えを請えるのが貴女しかいない」


「まあ、それは・・・」


女性の城務めすら辞めさせるなんて。デイナはどれだけ女性嫌いだったのだろうか。いえ、男性だけを欲していたのだろう。ハーレムを作りたかったらしいもの。


「どのようなことでしょうか?」


徹底した女性排斥が、正常になった現在の王城には多大な打撃になっているのだろう。

切迫したリカルド国王の様子から、私は体勢を正して聞くことにした。


「私には幼い王女がいるだろう?まだ名前も顔すらも知らないが、タリス公爵領でアドリアーヌと共に健やかに過ごしているとは知っている。娘は今年で五歳になるはずだ。私は息子ばかりだったから、娘が好むものは分からない。離れてしまっている故に、せめて好みそうな贈り物だけでもしてやりたい。その年頃の娘は何を欲しがるのか、貴女が幼い時に何を父親に強請ったのか教えてほしい。参考にさせてくれ」


「・・・」


リカルド国王の知らない王女殿下。タリス公爵家が派遣した高官との取引で、王女殿下は将来美しさが約束された愛らしい少女とは知らされた。そのご容姿は、両親から引き継いだ色と顔立ちをしていると話された。王妃殿下に愛されていることで、甘えん坊の無邪気な性格とも。

そんな王女殿下を、私の目の前にいらっしゃる国王陛下が、父親が殺そうとした。


「タリス公爵領で過ごす王女殿下にとって、陛下は何者なのでしょう?」


「・・・何?」


「なぜ、王女という身分でお母上のご実家の領地内に身を寄せていらっしゃるのか、幼いゆえに疑問に思うはずです。王妃殿下はどう伝えるのでしょう?お父上である国王陛下が弑そうとされたから、タリス領にいるのだと教えたのでしょうか?」


「・・・・・」


リカルド国王の顔がみるみると蒼白になっていく。両手で顔を支えるように触れているけれど、体が前屈みになったことで玉座から崩れ落ちそうだった。


「もしそうであるならば、王女殿下は陛下を『父親』だと思うのでしょうか?」


「ベルアダム侯爵!流石に言い過ぎだ!!敬する陛下を責めるなど、君はどのような立場で話しているつもりだ!!」


フィガロ公爵が言葉を荒げる。私はそちらを見ずにリカルド国王だけに視線を向けていた。両手で顔を覆っているから表情は分からない。

でも、操られていたときの自身が取り返しのつかないことをしたと自覚したのだろう。逞しく感じていた体が縮こまることで小さく見えた。


「私は王女殿下を思って発言させていただきました。恐ろしいと感じる男性からの贈り物など、快く受け取るとは思えませんので」


「君は口から生まれた様な女だな!!」


「思考したことをお伝えしたまでです。私は、物事を深く考えてしまう性質ですから」


「ご先代を見ているかのようだ」


「母譲りの可憐な容姿に騙されてはいけないな。あの方は完全にベルアダム家の人間だ」


フィガロ公爵の怒号に交じって密やかに話す声が聞こえる。それらは聞かなかったことにして、私は謁見室の大扉まで歩き始めた。


「ベルアダム侯爵・・・」


控えていた近衛騎士達が扉を開けてくれた。背中を見せて立ち止まっていた私を、リカルド国王が低くなった声で呼んだ。


「明日も謁見の機会を設ける。まだ貴女との話は終わっていない。必ず応じてもらう・・・王命だ、いいな?」


「・・・御意のままに」


地を這うような、唸るような声で命じられた。私の遠慮のない言葉は、リカルド国王の心に傷を負わせたようで、怒りすら感じる声色だった。

従わなければ罰せられるだろう。自分の発言に後悔はないのだけれど、面倒事の引き金になったとも分かる。また王城に出向いて、国王やフィガロ公爵と再び顔を合わせなければならなくなった。最悪、とは思わない。自分がしでかしたことだから。

最後に淑女の礼をして、開かれた扉から出ていった。足早に進む私の後ろを、二人の護衛騎士が追従している。


「男性の怒鳴り声が聞こえましたが?」


「以前と違うとはいえ、暴言を言われたのでは?」


「違うわ、私が煽りすぎたの」


「煽り・・・?」


私の口からそのような言葉が出るとは思っていなかったらしく、振り返って見た護衛騎士達は唖然とした表情を浮かべていた。


「腹立たしいと感じると、私は思うままに口が動いてしまうのよ」


「閣下がですか?」


「ええ、そう。お父様によく似ていると言われたわ。とても誇らしいことですね」


放心したかのように目を丸くさせる護衛騎士達に口元が緩んで、自覚する。私は本当に性格の悪い女なのだと。

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