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1.2026年春

藤原秋風(ふじわらあきかぜ) 33才 大手四菱商事を退社後起業して個人商社を起業し奮闘中


2026年3月11日水曜日

藤原秋風はホノルルから東京航空73便羽田着15:55のビジネスに乗っていた。

挿絵(By みてみん)

「どなたかお医者様はいらっしゃいませんか。胸の苦しみを訴えていらっしゃる方がおられます。」

スタイルの良い、鍛えているのであろうキャビンアテンダントがアナウンスをしている。

急病人がいるようだ。

商社マンとして飛行機には結構な頻度で乗っているが、ドラマのようなシチュエーションに出会ったのは初めてである。

ドラマのように手を上げる人がいるかなと見ていると誰からも反応が無いようだ。

平日便の為、ビジネスマンが多いのであるからだろうか、乗客が少ないこともお医者さんが乗っていない事の要因でもあろう。

経済学部を出ているだけの商社マンには何も出来ない事は理解しているものの、CAが右往左往している姿を見ると手伝ってあげたい気もする。

暫くして「ポーン」という機械音がした

「機長の山辺です。急病人のお客様がおられるため、少し速度を上げ羽田に向かいます。多少の揺れがありましても、安全には問題ありませんので、ご安心ください。また、予定より1時間程早まり、4時間後の14時45分頃に到着します。」

特段することは無いので、仮眠を取ることにした。


「藤原さま、起こして申し訳ありません。まもなく、到着いたします。」

フラットにしていた秋風は、CAに起こされ、席を元にもどす。

『4時間だけど熟睡してたな』そう思いながら外を見ると、千葉の海岸が見えてきていた。

「ドン」という音で機体が揺れたと思ったら

「メリッ」という音とともに体が飛び上がった

『エッ』シートベルトを着けて座ったままの自分の体が見える。幽体離脱?


「Hey,Boy, here you’re .」(目的地に着きましたよ)

「ありがとう」不思議そうな顔をする運転手。

『そうか、英語か』「oh,Thank you」財布の中の20ドル札を2枚渡した

携帯を見ると日時は3月11日、14時46分羽田に到着した時間だが、何故か海外の教会に着いている。

しかも夕方だ。日が落ちている。19時間の時差のせいだ。ハワイは未だ3月10日19:46である。

運転手がキャリーバックを出してくれた。

「Have a nice day」(良い日を)降りたあとに運転手が声を掛けてくれるとは珍しい。と思いながら周辺を見る。

教会は見覚えのある教会だ。

高校生の頃に、ハワイで祖母の葬式に来た教会と似ている。

『確か、カワイアハオ教会だっけ?』

携帯で位置情報を確認する。

『あれ?携帯が古い?』携帯が小さくて懐かしい携帯だ。今とは違いシンプルな使い方だったような。

「普通のマップしかないし。やはりハワイだな」

キョロキョロしていると、近くにいた日系の男性が声をかけてくれた。

「千尋さんのお孫さんの秋風君ですかな?」確か弁護士の大田政知氏だ。

「孫の藤原秋風です。ご無沙汰しています」

「初めまして、千尋さんとは友達であり、顧問弁護士でもありました大田政知と申します」

『初めまして?』「あの、覚えていらっしゃいませんか?」

「お会いしたことありますか?昔遊びに来ていましたか?」怪訝な顔をされた。

「いえ、以前にお会いしていたと思いまして。」

奇妙な事に気がついた。

15年前に会った時から弁護士先生が老けていないのだ。

待てよ。

携帯の「11(金)」のアイコンを押す。水曜日じゃない。

『げ、2011年になっている』続けてカメラのボタンから自分方向のモードに切り替えた。

顔が若い。高校生の自分がいた。

15年前は、両親が仕事中で来れないため、代表して単身ハワイに来たのであった。

そうそう、ハワイ観光して、夕方に教会で大田先生と約束してたな。

土曜日の明日に両親は来る予定だったが、確か東日本大震災の余波で国内の移動が出来なかったと聞いている。

未だこの時には羽田に国際ターミナルは出来ていなかった。国際線は全て成田からの時代。

そう、3月11日だ。

「叔父さん、日本のニュースは見れますか?」

「ええ、日系ではケーブルテレビで日本のニュースを見るようにしている人がほとんど。千尋さんの家が一番近いので、行ってみよう。」

そう言えば、教会から少し歩いた所に祖母の家がある。確かに、日本が落ち着くまで滞在していた場所だ。誰も住まないので売却をしたため、忘れていた。

キャリーケースを引きながら少し歩くと、平屋のゆったりした家である。「鍵は預かっているので、渡しておくね。それと、遺言により、この家についてはお父上に遺贈されます。」

「両親はハワイには来ることはほとんど無いので、おそらく、処分をお願いすると思いますので、落ち着いてからお願いします。」

「急ぐことはないので、ゆっくり考えてください。」

考えてみると、商社として果物の仕入れをしにハワイに出張する事が多かったので、祖母の自宅を引き継いで、駐在員事務所にした方が効率的と思った。

「この家を僕が引き継いでもいいでしょうか。社会人になるまでは貸し出すことでどうでしょうか。管理会社への仲介をお願い出来ませんか?」

「良いでしょう。後でお話ししますが、この家と現金2百万ドルをお二人に均等に遺す事が遺言でしたので、ここと75万ドルを貴方に、お父様の夏良さまに125万ドルということで良いではないでしょうか。」

「では、そのようにお願いします」

リビングの机に置いてあったリモコンでテレビを付け、日本のチャンネルを探す。

地震の速報が流れている。

大田さんと秋風の2人は無言でニュースを見ている。



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