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苦手な方はご注意ください。

ラブラブカップルの白い結婚【短編】

作者: 霰石琉希






「見て! ハリソン王子とマチルダ夫人よ!」

「まあ素敵! 美しいわ!」

「あちらにいらっしゃるのは第二王子のレオナルド様!」

「ああ、フローラ様もお綺麗ね……」


ハリソン・レグ第一王子とその妻・マチルダ。

レオナルド・レグ第二王子とその妻・フローラ。

この国で最も仲睦まじく、皆の模範となる夫婦。すべての恋する者の憧れの的。そんな夫婦が二組、この国にはいる。


「わたくしの愛するハリィ、今日も国民たちに笑いかけてあげなさい?」

「そうだね、マチルダ。君も手を降ってあげたらどうだい?」


ハリソンとマチルダはいかなる時も微笑みを崩さない高嶺の花。国民たちから絶大な支持を受け、いつも黄色い声をあげられている。


「レオナルド、今は式典の最中よ。少しは笑ったらいかが?」

「そうは言ってもな、フローラ。俺は笑うのは苦手なんだ」


ハリソンの弟夫婦のレオナルドとフローラは、穏やかで細やかな生活を好む。政略結婚の兄と違いフローラは庶民で、レオナルドと恋に落ちた。駆け落ちまで計画して国を脱走しかけ、父である国王が折れてようやく結婚の許しを貰えたことは記憶に新しい。

政略結婚ということを微塵も感じさせない第一王子夫妻、三年に渡る大恋愛を繰り広げた第二王子夫妻。その結婚一周年式典は恙無く行われ、四人は王城へと帰っていく。国民に姿が見えなくなることを惜しまれながらも、バルコニーの窓は閉められ、カーテンが下ろされた。


「……よし、もう大丈夫。三人とも、お疲れ様」

「お疲れ様でございますわ、ハリソン様」


ハリソンの労りにマチルダは事務的に返す。その実の変わり様をメイドたちは日常として受け流す。


「レオナルド様、先ほどは躓いてしまって申し訳ございませんわ」

「かまわない。上手く受け止められてよかった」


レオナルドとフローラも先ほどの距離感はどこへか、人一人分離れて挨拶を交わした。そして、次の瞬間。


「ああ、わたくしの愛しいフローラ。レオナルドに取られるんじゃないかと気が気でなかったわ」

「それは聞き捨てならないね、マチルダ。私のレオが目移りすると?」


マチルダは一直線にフローラを抱きしめる。ハリソンがレオナルドの肩を抱き、笑いかけた。


「なあレオ、こんな嫉妬に塗れた兄を許してくれよ。お前がどこぞの馬の骨と駆け落ちするなど耐えられない」

「兄上、俺にはあなたしかいない。大丈夫だ」


ハリソンの熱烈の言葉にレオナルドは頷いて返す。それを見ていたマチルダはさらにフローラをきつく抱きしめる。


「ああ愛しいフローラ。今日の香水は薔薇の香りね、よく似合っているわ。」

「マチルダ様も、そのドレス、よくお似合いです」

「なんて素敵な褒め言葉! 詩集を出せるんじゃないかしら」


フローラの言葉に酔いしれるマチルダに、ハリソンが苦笑いする。


「相変わらずの過保護だね、マチルダ」

「そちらこそ、過保護よ。ハリソン様」


____そう、この二組の夫婦は「白い結婚」をしているのである。

始まりは王子二人の禁断の恋だった。兄ハリソンは弟レオナルドを愛してしまったが、王子という立場と性別がそれを阻んだ。恋に悩んだ16歳、結婚式まであと三年。ハリソンにあてがわれた許嫁のマチルダは、その頃平凡な街娘に恋をした。それがフローラである。フローラは街の花屋の娘だった。街に出たマチルダがたまたま立ち寄った、ただそれだけの出会い。しかし二人は確かに恋に落ちて、確かに愛し合った。レオナルドとフローラの間にある駆け落ちの物語は実はマチルダとフローラのものである。マチルダは婚約宣誓書を破り捨てハリソンに向かってフローラと一緒になれないなら死んでやるとまで豪語した。

しかし、現実は厳しい。

いくら愛し合っていようと、兄弟であること、同性であること、貴族であること、その全てが恋を阻んだ。ハリソンはマチルダと結婚するしかなく、レオナルドも許嫁を探さなければならない。運命が二人を引き裂こうとしたその時、フローラが言った。


「体裁を気にするのであれば、仮面夫婦になればいいのでは?」


その言葉は三人に強い衝撃を与えた。よき夫婦でなければならないという固定観念に囚われた貴族たちを救い出したのは夢見がちな本好きの娘だった。その話に乗った二組は晴れて夫婦として国民を騙すことになったのだ。


「この一年、大変なこともあったけれど。秘密を守り通せたことに、乾杯」


式典の夜、ハリソン、レオナルド、マチルダ、フローラは隠された一室に集まりワイングラスを掲げた。


「あら、ハリソン様。このワイン、隣国仕込みですわね?」

「よくわかったね。ああ、こちらのチーズはどこのものかわかるかな」

「……まあ! これは我が国のものでしょう、騙されませんわよ!」


「レオナルド様、クッキーはいかがですか。焼いてきました」

「もらおう。……美味しい」

「まあ、嬉しいです!」


白い結婚であろうと、仮面夫婦であろうと、愛する者を守るための協力者、戦友、良き友である。それはマチルダの言葉。四人はワイングラスをかわして、笑いあう。この幸せがいつまでも続くように。愛するものといつまでもともにいれるように。そして、願わくば夫の、妻の恋人が、優しい世界で過ごせるように_____



今日も秘密は守り通される。幸せと平穏のため。


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