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ショートショート6月〜5回目

作者: たかさば

…近所にある小さな小学校には、正門横のあたりに、一本の桜の木が植えられている。


春先になると薄桃色の花が咲き、通りかかる人々を和ませている。

タイミングが合えば、入学式の時に咲き誇り、彩を添えている。


桜の木は、ネットフェンスのすぐ近くで生えている。


おそらく…、植えた場所が、悪かったのだ。

幹の一部が、ひし形金網から飛び出している。


切った枝の先のひとつが金網の枠の中に伸びて、成長したらしい。

不格好に枝の先が膨らんで、はみ出した部分が…おかしな形になっている。


「なんかネズミがいるみたい!!」


時折、子供たちのはしゃぐ声が聞こえた。


遠目で見れば、木の幹には…見えない。

近くで見ても、ネズミのように見えた。


……木のでっぱりは、どんどん大きくなっていく。


ひし形金網の一つの枠からはみ出して、周りの枠まで巻き込みはじめた。

これはいわゆる…物質を巻き込んで成長してしまったということなのか。


「ねえねえ、なんか猫に見えない?」


時折、子供たちの声が聞こえた。


大きくなったでっぱりは、遠目に見ると木の幹には見えない。

近くで見れば、猫のような形をした木ではあった。


……木のでっぱりは、どんどん大きくなっていく。


ひし形金網を取り込んで、一体化している。

もう…フェンスと木を切り離すことは難しそうだ。


「すごい、じゃれてる大型犬みたいだ」


時折、大人たちの驚く声が聞こえた。


大きくなったでっぱりは、遠目で見ると木の塊には見えない。

近くで見れば、ごつごつとした木の表面だとわかるのだが。


……木のでっぱりは、どんどん大きくなっていく。


すっかりフェンスを飲みこんで、まるで最初からそういう造形物であったかのように佇んでいる。

もはや…芸術作品と言ってもいい風貌だ。


「ゴリラが、いる…」


たまに、老人のささやく声が聞こえた。


大きくなったでっぱりは、遠目で見ても異様だ。

近くで見ても、やっぱり異様だ。


……木のでっぱりは、どんどん大きくなっていく。


すっかりフェンスが朽ちてしまったというのに、凛々しく己の姿を誇っている。

どこにも…木と鉄の融合を確認できる部分は見当たらない。


「まるで恐竜だな……」


思わず、呟いてしまった。


大きくなったでっぱりは、遠目で見ても目立つ存在だ。

近くで見ると、神々しさすら感じる。


木の生命力というのは…素晴らしいな。


体内に異物を取り込んでもなお、己の成長を止めないとは。

ここまで、大きく成長することができるとは。


きっと、これから先も……どんどん、大きくなっていくのだろう。


本当に……恐れいる。

正直なところ、木の生態を…なめていた。


……どこまで大きくなるのか、気になるところではあるが。


人のいない星には、少々…飽きてしまったのでね。


「大きく、なれよ」


私は、ものを言わぬ大木を、荒れ地に残したまま。


宇宙へと、旅だったのだった。

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