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第8章 精神交換

議場へ行くと、すでに解放された人たちが何人か集まっていた。

相変わらず、議場の上からつりさげられているスクリーンには、国王が写っていた。

「御奏上致します」

ジハールが深々と一礼し、そのままの格好で国王に報告した。

「王女閣下は開放いたしました。しかし、犯人は取り逃がしてしまいました…」

「娘を解放しただけでも、十分だ。褒美をやろうと考えており、いま、閣議にかけている」

「ありがたき幸せ」

国王が彼らから目を離すと、俺らに話し出した。

「日本皇国より参られし議員の方々、ウルダン帝室第1皇女であらせられるサクルージョ殿下、今回は誠にありがとうございます。よければ、こちらの惑星にご足労いただきたいのですが、よろしいでしょうか」

「時間は山のようにありますので、いくらでもお邪魔させていただきたいです」

「私も、別にかまいませんよ」

俺が答えたすぐ後で、俺の背中から皇女が話した。

国王はそれから、ようやく娘であるリゾーマタに話を振った。

「よくぞ無事だった。最初に連絡を受けた時には、非常に心配をした」

「すみません、ただ、ここにいる者たちがいなければ、確実に私は死んでいたでしょう」

「そのことを考慮に入れ、閣議にかけている。全員をまとめて、派遣軍と同行して帰ってきてくれ。受勲等もこちらで行う」

「わかりました」

王女は一礼すると、国王の姿が消えて真っ白のスクリーンだけが残された。


「では、軍が来るまでどうしましょうか」

出入りが激しくなってきた議場の中央付近に集まっている俺たちは、国王に報告をすましたことで、やることがなくなってしまった。

「とりあえず、外に出ようか」

俺は、どこへ行くか考えずに、外へ行こうとした。

「休息室があるはずだ。そこへ行けば、多少は安らげるだろう」

王女が俺たちに言うと、まとめて移動を始めた。


「この角を曲がれば、休息室がある」

女王が案内したところは、議事堂から歩いて5分ぐらいのところだった。

曲がろうとした時、俺のすぐ後ろを歩いていた金内が急につまずいて俺にぶつかってきた。

後頭部に一瞬だけ痛みを感じると、視界が黒くなった。


「…おい、大丈夫か、大丈夫か!」

俺に覆いかぶさるように、誰かが声をかけている。

「大、丈夫、だと思う…」

腕を動かそうとすると、何か違和感を覚えた。

「金内愛美、大丈夫か」

「何を言っているんだ、俺は天栄英資…」

そこまで話した時、違和感の正体に気付いた。

「入れ替わってる」

俺が俺だと思っている体は、金内の体だった。

上半身を起こすと、周りを見回し、いるはずの金内を探した。

転がっていたのは、俺の体だった。

「精神交換か、交換装置は、我が国の軍が保有している。装置につながるまでは、そのままで頑張ってくれ」

王女が、俺にそう伝えた。

「精神交換って、小説の世界にしかないと思ってましたよ」

俺が金内の体で立ち上がると、王女に聞いた。

「時々起る現象だ。詳しくはわからないが、神経が集中している部分同士がぶつかると、意識が共有してしまい、その衝撃でそっくり入れ替わるという事例が報告されている。その研究も、我が国では盛んで、精神交換を人為的に起こすことも可能だ」

「つまり、俺と金内の精神を再び入れ替えて、元に戻せるっていうことですか」

「さっきもそう言っただろ。だが、それには軍の船にある装置につなぐ必要がある。それまでは、我慢してもらいたい」

「マジですか…」

俺は、そういって金内の体で動いてみた。

「結構、胸って重いんですね」

「ほほぅ、それは私が巨乳だということですか?」

穏やかな口調だったが、明らかに怒気が込められている。

俺がゆっくりと振り向くと、仕方がないと言った感じの王女の表情と、俺の体で殴りかかろうとしている金内が見えた。

「ちょっと待つんだ、俺がなんと言おうと、お前を好きなのは変わりない。それに、巨乳だからと言って、嫌いになるわけでもないぞ!」

「ここで、そのことをバラスなと言ってるんです!」

「ケンカをするなら、もっと別のところでしてくれ。なだめるのが面倒だ」

ジハールが俺たちに、冷たく言った。

「ごめんなさい」

俺がジハールに謝った。

「休息室へ行ってから、よく話しあえ。一番重要なのは冷静になることだ」

王女は、俺たちに促してから、互いにむすっとした表情を浮かべて、休息室へ入っていった。


休息室は、半分が座敷、半分が土足可のカーペット敷きになっていた。

俺と金内は、座敷に腰掛けながら、話しあっていた。

王女たちは、カーペットのところにあるテーブルを囲むように、飲み物を飲んでいた。

「なあ、そろそろいいだろ?」

「ダメ。私の体だから、殴るのは勘弁してあげているけど、元に戻った時、覚えてなさいよ」

「ただたんに、胸が重いと思っただけじゃないか」

「それがいけないっていうの!」

縁側をこぶしで何度もたたきながら、俺に話してくる。

俺がどうやってなだめような考えている間に、いいタイミングで、館内放送が入った。

「今回の議会は、一時延期となります。延期期間は1週間を予定しています。本惑星より1週間ので往復できる範囲内での移動は許可されております。議員各位におかれましては、宿舎をご用意しております。宿舎をご利用なされる議員は、本会議場の正面玄関外で、30分後より受付を開始します。ご利用なされない議員は、事務局へ宿泊地を申しつけてください。繰り返します……」

俺は、正直助かったと思った。

王女とジハールが立ち上がると、俺たちも一斉に立ち上がった。

皇女が、座敷に横たわって眠っていたのを起こすと、王女が事務局へ連絡を入れた。


部屋の隅にあった内線電話で、議会事務局へ話しを通すと、ほとんど同時に、放送が聞こえてきた。

「御呼び出しをいたします。金内愛美様、天栄英資様、イルネス・ケーサカムバリン・リゾーマタ王女殿下、フィール・キア様、カール・キア様、ジハール・キア閣下、サクルージョ皇女殿下、第4ドックへ来て下さい。イルネス王立宇宙軍派遣隊がお待ちです」

「来たな」

王女がにやりと笑いながら俺たちを見た。

「第4ドックへ行きましょう」

皇女を俺が再びおんぶしようとすると、そのまま歩いていくということだったので、俺が手をつないで歩いていった。

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