第7章 解放
通路にいる相手は金内が瞬殺し、血まみれのナイフを手にしながら、俺達を導いてくれていた。
「そこを右だ」
「了解」
その後ろで指示をしているのは、頭の中に地図を思い浮かべているフィールだった。
指示通りに、金内が走り出す。
数分間、そうやって指示を出したり、出てくる奴らが敵であると判明した瞬間に首から上が無くなったりしたが、どうにか部屋に到着した。
「踏み込むぞ」
「ちょっとまってくれ」
カールが俺たちを引きとめる。
「どうした」
俺が彼に近付いて聞いてみる。
「この扉からだと、俺たちは全員死ぬ。裏に指向性の爆発物が仕掛けられていて、俺たちが粉みじんになるのを待っているそうだ。別の方向から行った方がいいだろう」
「中からの通信?」
「ああ、ジハールさんからだ。間違いない……」
そう言って少し待つように俺たちに伝えると、少しずつ扉から離れたところを触りだした。
「…ここか」
ひとり言を言いながら触っているさなかも、どこからわいたかわからない敵が俺たちを襲ってくる。
「早くしてくれ!」
俺がカールのそば、数cmまで来たところで、ようやく金内に話す。
「ここだ。ここをぶち破ってくれ」
「分かった!」
金内はすぐにカールが指さしたところの壁を切り取った。
「やあ、待っていたよ」
俺の腕の長さぐらいしか見えない部屋の中で、ごくわずかに靄のように部屋中に土煙が経っている。
「サバイだな。王女を返せ!」
金内が暗闇に叫ぶと、反響することなく静まり返った。
「ああ、返してあげよう。だが、生きて返して上げられるかは、君達次第だ」
指を1回鳴らすと、俺たちが入ってきた穴がなくなり、もう一回鳴らすと、床から次々と兵士が現れてきた。
ただ、出で立ちは中世ヨーロッパのような感じで、薄いステンレスみたいな金属をつけていた。
「往け」
サバイが言うと同時に、金内が動く。
それは風でしか感じられない世界だった。
俺たちはその間に電灯のスイッチを探す。
壁を床から天井までじっくりと探していく。
そして、俺が手に当たった出っ張りを強く押すと、部屋の中の電灯が一瞬で点いた。
目がくらんだが、それもすぐに慣れ、サバイの姿を探した。
部屋の中央付近に石でできた椅子があり、そこに荒縄で縛られた王女とジハールが座らされていた。
そのすぐ後ろに、黒フードを被り、全身黒一色の男が立っていた。
「お前がサバイだな」
「そうだ」
にやりと笑って、地面にめり込んでいった。
「じゃあな」
一瞬風を感じて、サバイは笑いながら魔法を使ってその場から溶けた。
俺たちは追いかけようとしたが、その間は1秒足らずしかなく、反応することができなかった。
「逃げられたか…」
王女たちの荒縄を解いていたカールとフィールは、縄を解いてから俺たちの方を見た。
「逃げられたものはどうしようもないさ。それよりも、他の人たちは…」
「おそらくは大丈夫だ」
王女が、縄に縛られていた手首をさすりながら俺たちのところへ歩いてくる。
「彼は君たちが来るまでに、我々に話してくれた」
「それによれば、目標は自分たちだけだったっていうことらしい。もっとも、それは嘘だろうな」
ジハールが王女の背を支えながら、俺たちと合流した。
「それで、これからどうするつもり?」
サルクージョが俺の背中から降りて、全員に聞く。
「サルクージョ皇女閣下、いらっしゃるのでしたら、早くおっしゃっていただければ…」
「言ったところで、何もできなかったでしょ。仕方ないわ」
その後、2分ほど話しあうと、再び議場の演台へ向かった。
イルネス国王へ無事に解放したことと、犯人を取り逃がしたことを報告するためだった。




