第6章 人質
議事堂の中には、誰もいなかった。
「まだ来てないのか…?」
そう思った瞬間、照明が一斉に落ち、議長席の後ろにプロジェクターから映像が映し出された。
左右2面で、左側はどこかの王族のような風格を示した50代ぐらいの人が、右側にはイルネス王女とジハールが縄に縛られていた。
「やあ、もうそろそろ来ると思っていたよ。天栄英資に金内愛美、それにフィールとカールのキア一族…もう一人はよく見えないな」
40代ぐらいの男の声が、右側からのみ聞こえてきた。
「お前は誰だ!」
俺は右側の画面の端に見える陰に叫んだ。
「紹介が遅れたね。私は、宇宙革命軍現場派遣隊統帥のサバイ・クロッキーナだ」
「クロッキーナといえば…」
俺が背負ったままのサルクージョが話し始めた。
「あの方はまだ元気?」
「元首閣下のことを言っているんだったら、ああ、元気だ。今は首都惑星にて療養中だが」
「だったらかまわないわ」
「何のことだ?」
俺たちは彼らの会話の意味がわからなかった。
「宇宙革命軍元首たる最高元帥は、私の祖母の同級生で、唯一無二の大親友なの」
「どうしてこうなった…」
「さあ」
そんな話をしている間にも、何やら話は進んでいるようだった。
「そんなことよりも、王女たちを救いたいのであれば、君たちの中で最も勇気のあるものが、こっちに来るんだ。そしたら王女たちと交換をしよう」
「そりゃ、どんな種類の勇気だい」
俺がサバイに聞く。
「どんな種類?」
怪訝そうな声で、俺たちに話しかける。
「進むも勇気、だが、それと同じぐらいに進まないのも勇気だよ」
「昔の偉い人が言ってたね」
俺が言うと、金内が横から突っ込んでくる。
「それよりも、我が娘を早く返してくれないのか?」
「娘…?」
「ああ、朕はイルネス王だ。君たちは…」
「日本から来た天栄と金内、ウルダン帝室第1皇女のサクルージョ、キア一族のフィールとカールだ」
それを聞いた瞬間に、画面に映っている全員の顔色が変わった。
「ウルダン帝国の第1皇女殿下でしたか、先ほどの無礼な口調、平にお許しください」
「私自身は気にしてないから大丈夫よ。それよりも、あなたの娘さんの方が優先すべき事項でしょ」
そこまで聞いた時、俺は誰にも聞こえないような小声で、カールに聞いた。
「なあ、ウルダン帝国って、そこまででかいのか?」
「10大帝国の一つで、宇宙で生命が確認されている全惑星の4分の1を統治しているんだ。影響力は宇宙一だよ」
「そりゃでかい。俺も気を使わないと」
「いや、君は別にかまわないと思うね。さっきもそう言ってたし」
それもそうだと思い、俺は再び前の画面に向かって叫んだ。
「リゾーマタさん、大丈夫ですか」
「ああ、私なら大丈夫だ。皇女殿下、このようなお見苦しい格好をお見せすることになってしまい、申し訳ありません」
「気にする必要は全くないわ。それよりも、そこはどこ?」
「G549号室です」
「わかった」
あっさりと場所を聞き出すと、次はイルネス国王に言った。
「国王陛下、あなたの軍は今どこにいますか」
「到着まであと3時間といったところです」
「そう……」
何か考えているようなサクルージョと対照的に、統帥が急にあわただしく支持をし始めているのが聞こえてきた。
「おい、移動するぞ、どこが一番近い」
「H919号室です」
「急いで移せ。お前達、覚悟しとけよ」
言い残すと同時に、画面の片方が真っ暗になった。
「…何を言いたいのか、分かる?」
サクルージョは俺たちの一人一人を見ながら聞いた。
「国王陛下、これで失礼させて頂きます」
「いや、まて。君たちが話しあっている間に閣議を通して勅許を出した。今からそれを公布する」
そういうと、イルネス国王は立ち上がり、俺たち全員に言った。
「現時点を持って、貴官らを特命派遣軍に任命する。なお、階級は名前の後、軍令等は所属している国家の軍令に従うものとする。サクルージョ特命大佐、金内愛美特命少佐、天栄英資特命少佐、フィール・キア特命少佐、カール・キア特命少佐。以上」
「なんで少佐から?」
「特命派遣軍は、イルネス国軍がおらず、その場にいて、イルネス王国の国民を保護する技量を持つ者に与えられる。そして、その最下級は少佐なのだよ」
「ここで油売ってる暇はない。急いでH919へ向かおう」
国王のセリフは半分聞いて残りを聞き流した。
俺たちは、今いる場所から直線で500m、曲がったりしているから実測値では約1kmになる部屋へ向かって進みだした。