第4章 宇宙革命軍
議場へ入ると、すでに9割以上の議員が入っていた。
ベルトに差し込んでいる折りたたみナイフは、座る時も邪魔にならないような場所に収まってくれた。
「何の議題についてかな…」
金内が俺に聞いてくるが、俺にもわからない。
「まあ、待っておけば話してくれるんじゃないのか」
のんきにそんな話をしていた。
数分後、全てのドアは閉められて、つい先ほど議長に選任された人がステージ上に出てきた。
「前会期議長は、御家族に御不幸があったため、お帰りになられました。通常ですと本会期をすべて彼が行う予定でしたが、急遽私がお執り行うことになります。よろしくおねがいします。さて、では最初の議題から入りたいと思います」
その時、ステージの裾から閃光が飛び出し、彼の後頭部に焼け筋を残した。
「"宇宙革命軍"だ!全員を捕縛させてもらう!」
日本刀にライフルの銃身をつけたような珍妙な形の銃を振り回しながら、ドドッと出てきた。
「やっぱりか…」
王女は俺たちに聞こえるようにつぶやくと、さっそうと椅子から立ち上がり部屋から出ようとした。
「ねえ、このあたりの構造って、全部わかってる?」
「いいえ、ここに来たこともほとんどないからね」
金内がなにか考えがあるらしく、王女に聞いたが、残念なことに首を横に振るばかりだった。
ドアに手をかけ一気に開くと、周りの別の議員も殆ど同時に廊下へ殺到した。
「とまれ!」
そこに走る一閃。
全員の時間が止まる中、迷彩服に腰には小型のパイナップルをぶら下げた男たちが、2連式の猟銃を持ってこちらへ歩いて来ていた。
「グループを作って会議室へ来てもらう。運がいいか、5~6人のグループを作ったとしても有り余る人員と余裕なほどの数がある空き部屋がある。おい、かかれ」
ずっと話していたヤツの両脇から、似たような格好の男連中が俺たちを部屋へ押し込みはじめた。
俺たちが入れられたのは6畳ほどの部屋で、俺、金内、王女と別のところから来た3人が一部屋にまとめられた。
別に縛られるようなことはされなかったが、部屋の外からかぎを掛けられ、外へ出ることができなくなった。
さらには電話などもないから、他の部屋と連絡を取ることも出来ない。
尻尾が生えた3人組と、地球型人類が同じ部屋にいるというのも、なんとなく違和感があったが、そんなことを考えている暇ではない。
「ここからどうやって脱出するかだな」
虹色に光り輝くうろこを俺らに向けながら、どうやってここから脱出するかを練り始める。
「まず、外にいるであろう革命軍の連中を気付かれないように黙らせる必要があるな。それから他の部屋から脱出させ、仲間を増やしながら、議場へ進軍する。大筋はこれで大丈夫だな」
「ああ、かまわない」
王女と向こうがわで一番立派なうろこをもつ人物が話しあっている。
その横で下々の者である俺達は名刺交換とまではいかないが、自己紹介をしていた。
「第777号恒星系第8惑星出身で、君達からすればハ虫類に分類されるキア族だ。君たちは?」
「第4091号恒星系第3惑星出身、日本から来ました」
「へえ、10大帝国の一つの?」
「そうらしいです」
俺たちがそういうと、彼らは目くばせをして手を伸ばしてきた。
「オレはフィール・キア。キア一族の第4位」
「僕はカール・キア。一族の中では第6位」
「第4位とかってどういうこと」
「序列だよ。そこで彼女と話しているのがキア一族の族長、序列第1位のジハール・キア。オレの腹違いの兄になる人だ」
「長子優先っていうこと?」
金内が彼らに話す。
「男の長子優先主義だね。ただ、男がいなければ女が家督を受け継ぐことになってるんだ」
その時、尻尾が急に緊張したかのようにピンとなった。
「どうした」
声をひそめて俺がフィールに聞く。
「彼らは結論に達したようだ。オレたちだけで、革命軍に対抗するつもりらしい」
「話してないのにわかるのか」
驚いて、思わず聞いた。
「ああ、キア一族は、互いに感応能力がある。テレパシーといえば分かりやすいかな。だから、普通はこうやって話したりはしないんだ」
「便利だね」
金内は彼らにそういうと、彼らは首を横に振った。
「そうでもないんだ。慣れてないと知られたくないことも周りに知らせてしまうかもしれないし、同じ能力を持つ人から頭の中を知らず知らずの間に調べられるかもしれない。それは避けたいからね」
「それに、話したい内容も指向性をもたない時にはまわりに駄々漏れになるから、それも不便だよ」
「まあ、賛否両論なんだろうが……」
「そんなことよりも、出発するから準備をしとけ」
気づくと、王女とジハールが俺らが話しているところのすぐそばに立っていた。
「武器といったって、折りたたみ式ナイフが3本で、ほかになにかあるんですか」
俺が王女に聞くと、不敵な笑みを浮かべて青色の光を出した。
「"我、命す。我か我が朋友に害なすもの、征討せよ"」
青の光は俺たちの体を包み込み、体と一体化した。
「これで大丈夫だ」
王女はご飯の時に見たあのつえを懐から取り出していた。
「ふむ、魔法の力を持つ者か。久々に見た」
「ああ、とにかく、ここから出ることにしよう。それと、行動する際は別々の方がいいだろう。どう分けるかなんだが」
ジハールがあごを右手でなでながら、王女が持っている杖をしげしげと眺めている。
王女自身はまったく気にしているふうではなく、この6人をどう振り分けるかを考えていた。
「俺と金内は一緒がいい。王女は多分ジハールさんと一緒にいるのがいいような気がする」
「じゃ、オレ達はどうするんだよ」
俺が提案すると、すかさずフィールが口をはさむ。
それに対して、王女とジハールはすでに結論に達していたようだった。
ジハールが俺たちにチーム分けについて話し出す。
「フィール、カールの2名は実戦経験がまだ浅い。しかし、各種能力は、"ザウローグ"を倒すほどだ。そのことを考慮に入れ、金内と天栄の能力も考えると、君たちは一緒に行動することが、最も効果的だと判断した」
「分かりました」
なにか言いたそうだったが、その言葉を飲み込んで、フィールが答えた。
さらに王女が俺と金内に話す。
「何が起きても不思議じゃない、死ぬな。何をしてでも生き延びるんだ」
「分かってるよ。で、どこで待ち合わせる?」
王女の言葉に力強くうなずき、金内が問い返す。
「議会の本会議場だ。議長が選出されたあの巨大なホールの1階部分、演台にて集合。目標時間は、今から1時間後。それでいいな」
「問題ないけど、俺たちはここにはじめてきたんだ。右も左もわからないぜ」
俺が王女にさらに聞く。
「地図か何かはないのか」
「地図はないが、フィールの頭の中に、この建物の構造図をまるまる写した。君たちはそれを頼りにして動いてくれ」
「了解」
作戦は単純なものだった。
各部屋に捕縛されている議員達を救出しながら、議場へ集合する。
おそらくそれまでには、あちこちから緊急情報に基づいて派遣された軍がやって来てくれると信じていた。
扉に鍵がかかっているため、外に出ることはできない。
最初は力技で壊そうとしたが、扉ではなく俺たちがけがをしそうになったため、あえなく失敗した。
次に王女の魔法によって鍵を開けようとしたが、それも対魔シールドにより跳ね返させられた。
壁を掘り返そうにも、ナイフでは歯が立たない。
だから、誰かが開けるまでは部屋の中にいるしかなかった。