第34章 Z機関と人造人間
「……あ、話したくないなら、いいんだ」
俺は慌てて金内にいう。
だが、金内はふるふると首を振った。
「先輩には、ちゃんと話しておきたいから……」
それを聞いて、王女は皇女を背負って立ち上がった。
「んじゃ、私たちは下にいるね」
それは王女の親切心だったのだろうが、その心遣いが金内には嬉しかったようだ。
やっとホッとした表情を見せてくれる。
それを見て、俺も安心できた。
二人きりになった部屋は、前と同じように静かだ。
「それで……」
俺は聞こうと思って、言葉を紡ぎ出す。
「Z機関というのは、都市伝説でもなんでもなかったの。本当にあった特殊機関。そこでは、世界各国から集められた天才、秀才たちが、日夜非合法の実験をしているところだったの」
それから、本当のZ機関について、教えてくれた。
1943年、当時劣勢に立たされていた日本は、その打開を目指して、特殊な爆弾の開発に着手。
この爆弾は、のちに風船爆弾として一部実戦に使われた。
この時の研究機関が「ん号機関」と呼ばれていたらしい。
一方のアメリカは、マンハッタン計画を実施し、原爆を製造。
これらの歴史はみんなが知る通りだ。
だが、終戦になり、GHQがやってくるとん号機関の秘密は全て焼却され、関係者は散り散りになった。
だが、GHQは彼らを呼び戻し、密かにアメリカに連れて帰った。
この時、ナチスから逃げた科学者たちと合流し、さらに秘密研究機関を設立することになった。
驚くべきことに、冷戦となった後も、ソ連がこの機関に一枚かんでいたらしい。
その全世界規模の秘密研究機関こそが、Z機関だという。
当時の主要国は、全員関わっているというこのZ機関は、非合法と呼ばれる数々の実験をした。
そのうちの一つが、人造人間開発だったという。
究極の兵士の開発を目的とした研究ではあったが、開発は難航を極めた。
それでも、金内の祖父は成功した。
人並外れた敏捷性と、反射能力。
さらに武器の取り扱いかも、教えずとも抜群だった。
だが、完成した人造人間は女性であった。
その人こそ、金内の母親である。
「……そして時は経ち、私が生まれた。後は知っての通り」
外から鳥の声が聞こえてくるが、音はそれしかない。
「なるほどな」
俺は、一言いうのがやっとだった。
「それで、どう思う?王女たちは」
わずかに軋みながら、部屋のドアが開く。
そこにはまさしく背負られたまま眠っている皇女と、なんとなくすまなさそうな顔の王女が立っていた。