第29章 護衛隊長と名誉護衛隊長
俺たちがいる部屋に、キアたちがやってくると、広いはずの部屋も、小さく感じた。
すでに俺らに対して変身の魔法の効力はない。
そのため、あの爬虫類のような風体が、はっきりと見える。
「殿下。本日我々が来たのは、殿下の意思の確認です」
「私たちは、ここに残るわ」
王女は結論をさらっと言った。
「そうですか。ならば、護衛隊を組織し、王女殿下、皇女殿下をお護りする必要がございますが、ご指名は」
「私は、金内を指名するつもりよ。無論、彼女は正規の軍人ではないし、今回は私が直接指名するため、名誉護衛隊長の称号を与えるつもり」
「私に?」
キョトンとした顔で、金内が言う。
王女はうなづいて、それからキアへ告げた。
「そういうことで、父上である国王へ伝えてもらえるかしら」
「すでに、そうなるだろうと陛下からご指示を受けております。陛下からは、わたくしが護衛隊長に就くようにとのご判断です」
「そ。ならいいわ。どこか泊まるあてでも?」
「はい、日本国政府によって居所を用意しております。ご心配には及びません」
キアの言葉に安心したようで、王女はさらに言った。
「学校へは」
「我々は外交使節として、キア一族から派遣されております。長老議会において承認されたことになります。学校へは行かないでしょう」
「残念ね」
皇女が言うが、そもそも皇女は学校に行っていない。
「それでは、これで我々は失礼します」
キアが立ち上がった時、金内の小母さんが入ってきた。
「あらあら、もうお帰り?」
麦茶が入っているコップが7つ、お盆に載せてやってきた。
「キアさんたちも、ゆっくりすればいいのに」
それを聞いて、尻尾がピンと張り詰めた。
「ご婦人、なぜ我々の名を?」
「名乗っていたのは、鈴木二郎でしたっけね。でも、私でもすぐに嘘だと分かるわ。それに私には魔法は効かないの。命を奪うようなものでもね」
「あなたは一体……」
沈黙するキアたちに対して、小母さんは簡単に言った。
「話せば、長くなるわ……」
キアはそれ以上何も言わなかった。
だから小母さんも、何も言わずに部屋からでた。