第23章 家出
金内が来たのは翌日ではなく、日が変わった直後ぐらいの時期だった。
「あれ、なんでこんな時間に?」
俺はもう少ししたら寝ようと考えていて、適当にラジオをつけていたところだった。
皇女はすでに眠っていて、俺は一人で金内を家へと迎え入れた。
「…お母さんの全部聞いたら、けんかになっちゃって」
「なるほど。まあ、入れよ。親と皇女はもう眠ってるから静かにな」
お邪魔しますと静かに言ってから、金内を俺の部屋に入れた。
「それで、どんな話だったんだ」
着のまま飛び出してきたようで、服以外は特に持っていない。
部屋にあったクッションを、大事そうに抱きかかえながら、俺の部屋の真ん中のちゃぶ台を挟んで話し出した。
「…人造人間って、わかる?」
「ああ、人によって創られた、仮想上の存在だろ」
「26年前に起きた研究所事故の話って、知ってる?」
「いや」
26年も前だとすると、俺たちはまだ産まれていない。
「軍の機密実験として、人造人間を作ることを目指していたらしいの。無敵の兵士よ。その実験の過程で創られたのが私のお母さん。そのあと、いろいろあって軍に戸籍を偽って入り、なぜか入れたらしいわ、そこでお父さんと出会った。1年の交際期間ののちに、お父さんは退役して教員に、それと同時にお母さんも退役して結婚。それから私が生まれた」
「そうなのか」
俺は、うまい言葉が見つからなかった。
人造人間の子供という点を除けば、特に金内はおかしなところはない。
いや、そのことを知っていたとしても、俺の気持ちは揺るがない。
「でも、前々から言ってるだろ。俺はお前のことを見捨てないって。いつまでも好きでいてやるって。な」
俺は金内の髪の毛を手で梳いてやりながら、優しく、できるだけ優しくいった。
皇女が静かに寝がえりを打っているベッドにもたれながら、俺は金内に聞いた。
「それで、これからどうするつもりなんだ」
「分かんない。でも、この力も、お母さんの遺伝らしいの。だったら、私はいらない」
「…かといって、簡単に捨てられるものでもないだろう」
俺が言ったが、金内は聞いていないようだ。
「そう…要らない。要らない、要らない……」
ぶつぶつと呟き続けている金内を、俺は黙って頭を鷲掴みにして、前後左右に揺さぶった。
「痛いですって、先輩」
静かに怒っているようだ。
「落ち着いたかい。ごめんな、なにか壊れかかっていたようだから」
それを聞いて、なんだか恥ずかしくなったようだ。
プイとそっぽ向いて、黙ってしまった。
「でも、俺が言えるのは、どんな金内であっても受け入れてやるってことだけさ。それだけは確信をもって言えること」
俺が金内の頭をなでていると、皇女がもう一度、ゆっくりと寝返りを打った。