第20章 今へ帰還
瞬きするほどの時間が経って、車が静かに止まる感じがした。
「着いたぞ。元の時間点上だ」
王女が俺たちに声をかける。
「場所は」
金内がシートベルトを外しながら、王女に聞いた。
「迎賓館前の駐車場のはず」
そういって、王女が真っ先に車から降りると、すぐに待ち構えていた警備兵がやってくる。
「王女殿下、なぜここに」
「うむ、それは話せば長くなる。地震の被害は」
「いえ、現時点では特にないです」
「それは何よりだ。侍従長を呼んでもらえないか」
「はっ、すぐに」
少し離れて、肩に付けている無線を使って、どこかと連絡をやりあっていた。
その頃には、目を回していた皇女もしっかりとした足取りで歩けるようになっていて、俺らも無事に車から出れた。
車の周りは、平面駐車場となっていて、周囲に車の姿は見られなかった。
入り口が閉鎖されているところから見ても、どうやら封鎖された駐車場のようだ。
「侍従長はすぐに来るそうです。女性を連れてくると言っています」
「そうか、ご苦労であった。ついでに聞くが、銀河中央会議はいつ始まる」
「予定通り、明日です。残り会期は3日です」
「なるほど。下がってよろしい」
「失礼いたします」
敬礼してから警備兵は行ってしまった。
1分かからずに、60年後の王女との対面となった。
「60年ぶりよ」
女王が、王女に告げる。
「ええ、孫に会いました。凛々しい、良き人に育っています」
「やはり、あなたから見ても、そう思うのね」
「ええ、私たちは同じ人間ですもの」
「女王陛下、そろそろ…」
「そうか、では達者で」
ああ、と言って、金内に女王が言った。
「お主、金内じゃな。お主に告げることがある。お主が真実を知った時、怒るでないぞ。これはお主が母親からの愛情だと思うが良いぞ」
金内の返答を聞くこともなく、女王は車にすぐに乗り、慣れた手つきでセットを終えると、敬礼をしてから、出発した。
俺らは答礼しながら、一瞬で消える車を見送った。
それから、ふーと長い息を吐いて、侍従長へ王女は向き直った。
「王女殿下、ご無事で何よりでございます」
「うむ、侍従長も無事そうで何よりだ」
「もったいないお言葉、ありがとうございます」
「それよりも侍従長よ、頼まれてくれないか」
「王女殿下の頼みとあらば」
「船を一艘貸してほしい。日本皇国へと向かう」
行き先を聞き、侍従長がわずかに固まる。
「かしこまりました。日本皇国政府へは、どのようにお伝えいたしますか」
「いつも通りに、ただそちらに行くと。ただし、今回は、金内の母君に会う」
「さようでございますか。では、すぐに」
侍従長が携帯電話で、王女から離れたところで、次々とかけていた。
「ねえ、私のために…?」
金内が、侍従長をぼんやりと眺めていた王女に聞いた。
「ううん。私がただ見たいから。でも、金内ちゃんも、いろいろと聞きたいことがあるだろうし。明日には直接会議へ行く必要があるけどね」
「ありがとうね。私のためにね」
「これぐらいはね」
その時、皇女が眠そうに俺にもたれてきたので、俺は皇女をそっと抱きかかえると、ゆっくりと背負った。
侍従長が戻ってきて、王女に伝える。
「準備はすでに整ったとのことでございます。今すぐにでも、日本皇国へ行くことができます」
「よし、ならば進もう」
侍従長を先頭に、俺たちは、船へと向かった。