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第19章 元の世界へ戻る

母親のことは、今聞くのではなく、時代を戻って聞くと言うことになった。

また、王宮の全ての部屋を確認し終わったことによって、この戦争も一応の終結を見た。

そもそも、母親はこの時代では生きていないだろうと考えた。


戦争が終わったことで、俺たちは王宮の後片付けと、補修作業を手伝っていた。

「先輩、いつになったら帰れる…」

「さあな。いま、王女と皇女がその設備の研究をしているそうだから、その研究待ちだな」

金内にそう言いながら、左手に持っているパテで、ひび割れを一気に塗りつぶしていく。

すると、元のような白い壁が出来上がっていく。

それを、目につくひび割れすべてに施していくのだ。

ロボットは、先の戦争で大半が壊れてしまい、人が応急処置として施工する以外に道はなかった。

「でも、一つ一つやるなんて面倒だよ…」

「仕方ないさ。これも仕事のうちってね」

笑いあいながらも、脚立も使って俺たちは修復作業をしまくった。


終わってから1週間後、俺と金内が内壁の補修作業をしている時に、王女が嬉しそうにやってきた。

「仕事中?」

「見ての通り。もうちょっとで終わるよ」

「そっか、じゃあその時でいいや」

俺が王女に答えていると、金内が聞いた。

「何の話なの?」

「装置が完成したっていう話。これで帰れるよ」

「ほんと?」

「本当よ。私が嘘ついても仕方ないでしょ」

俺が見つけた最後のひび割れを補修し終わり、脚立から降りて、手にはめていた分厚い革でできた手袋を外す。

それを脚立の足のところにおいておいた黄色い工具箱の中へ無造作に放り込み、その横へ補修用の装置を置く。

「これらを倉庫へ戻してから、案内してもらうね」

金内が王女に伝えて、軽い工具箱と装置を持ち上げる。

俺は必然的に折りたたんでも3mぐらいある脚立をもっていくことになった。

「では、王宮1階の大広間で。衛兵がいるけど、私の名前を出せば、すぐに通してくれるわ」

「了解しました」

軽くお辞儀をしてから、俺たちは王宮の外にある、簡易倉庫へ脚立などを返しに行き、王女はそのまま1階にある大広間へと向かった。


「はい、ありがとうございました。全部返却したことが確認できました」

白いテントにいた係の人に、持ってきた一切を返却して、代わりに受取証をくれた。

大広間へ向かう道の途中、金内に聞いてみた。

「…なあ、この時代の俺たちって、何をしてるんだろうな」

「分かんない。順調に生きていたとしても70歳はとっくに越してるし。もしかしたら、私たちがそのまま結婚して、子供もできて、孫もできてるかもね」

「孫かあ。そんな歳なんだよな」

それから金内が言った。

「でも、私はそれよりも元の時代へ戻りたい。お母さんが、人造人間だっていうことは信じきれないし、だとすると、私って、普通の人じゃないのかって言うことになっちゃうし…」

俺は、そう言って落ち込み気味の金内の頭を、かるくなでた。

「大丈夫さ。普通の人じゃなくても、付き合っていくさ。そう決めたんだからな」

そう言ってやると、どうにも泣きそうになっていた。

周りに人がいたが、何か感じ取っているらしく、誰一人として声をかけてこない。

俺としては誰かに声をかけてもらいたいぐらいなのだが。

と思っているところに、皇女が通りかかってきた。

「あら、金内さんを泣かしたの?」

スパッと切りつけてきた。

「いや、俺は泣かしてませんよ。金内に本音をいったら…」

「本音なんだぁ……」

さらに激しく泣き出し、俺は抱き寄せたうえで、壁へとゆっくり移動する。

皇女も一緒についてきた。

「まあ、私も推す良い子だから、止めはしないわよ。好きなだけしてなさい」

にやにやと笑いながら、皇女は去っていった。


結局15分ほどあやし続けて、ハンカチで顔を拭ってから大広間へ行った。

衛兵が大広間の入口に立っていたが、俺たちの顔を見た瞬間に敬礼をして通してくれた。

扉には鍵がかかっていなかったので、そのまま中へと入る。

「お待たせしました」

俺が言って振り返ったのは、白衣の初老の男性と、同じぐらいの年齢に見える女性だった。

「待ってたよ」

彼が答えて、近寄ってくる。

銀色をした小型のクルーザーみたいな形をした物の裏側から、王女が顔を出す。

「来たね。あなた達に紹介しておくよ」

王女が手を拭きながら、俺たちに先ほどの初老の方々を紹介する。

「今の時代のあなたたちだよ」

「無事に結婚してね。もうすぐひ孫も生まれるよ」

彼ははつらつと俺に話してきた。

「ちょっちょっちょ。どういうことですか」

「ん?話してなかった?」

俺が王女に聞く。

「60年後、人類は宇宙文明と合流して、その独特な文明は非常に喜ばれている。日本は10大帝国として正式に銀河政府へ加入を果たし、他の国々も銀河政府へと合流した。現在は、文化的に価値が高いとして、その文明を保護するように条約が結ばれているため、地球へ誰一人として手出しが出せれない状態になっている。そして、宇宙文明を知った地球では、宇宙空間へと次々と飛び出していくことが可能になった」

「ということは、今の時代で俺たちが帰っても、何ら不思議じゃないっていうことか…」

「まあ、そういうことになるわね」

王女はあっさりと言った。

「君たちにひとつだけ話しておくことがあるんだ。特に金内にね」

「私に?」

二人が一瞬だけ目を合わせてから、未来の金内が話しだす。

「いいこと、これからあなたは何度も泣いて、何度も後悔して、何度も心がズタズタになるのよ。でも、これだけは覚えていて。その代わり、何度も楽しいことがあって、何度も美しいものに心奪われて、何度も生きていてよかったと思うわ。だから、今のあなたには、何も言わない。これから長い人生、楽しみなさい。ちゃんと私は幸せだから」

未来の金内は、笑いかけながら俺の横に立っている金内にいった。

金内は、それを聞いて、何度もうなづいていた。


「さあ、行きましょう」

皇女が金内に囁きかける。

「それじゃあね」

幸せそうな老夫婦に挨拶をして、俺たちは銀色のクルーザーに乗り込んだ。

中は普通の車のような感じだった。

「目標、60年前。目標地点確定。暖機開始…完了。軌道確保。次元流確認」

王女がコックピットに座って、あちこちのスイッチを押していた。

俺と金内は、王女のすぐ後ろにある席に座り、王女の横にある補助席には、皇女が座っていた。

「目標確認完了。軌道方向確定。歪時空軸(わいじくうじく)確認完了。発車準備完了。許可待機状態」

「発射の許可を与える。いってらっしゃいませ、陛下」

別のところから声が聞こえてきた。

「よし、ではシートベルト着用確認。全員、互いの、および自らのシートベルトが締まっているかを確認せよ」

まず俺のほうを確認して、それから金内を確認する。

俺が終わると金内が全く同じ順序で、俺のシートベルトを確認してくる。

「大丈夫」

ポンポンとシートベルトを引っ張って、ちゃんとはまっているかを確認した。

「よろしい、では出発だ」

エンジンをふかして、王女が一気にアクセルを入れた。

体が浮かんで、そして一瞬だけバラバラに内部から砕けた感じがした。

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