第18章 母親は何者か?
金内は銃をその場に静かに置いて、瞬時にその場から消えた。
風が吹いたと思った時には、敵の懐でナイフを首に突き立てている金内がいた。
「…ほう、さすがだ。さすがは彼女の娘、と言ったところか」
「それはどうも」
そこから、金内は手を返し、首の付け根から、股までを一気に切った。
「…さすが、ためらいがないところまで同じとは」
だが、彼は倒れない。
体からは、血があふれていたが、それも、すぐに止まった。
それから、金内のナイフを持っている側の手首を握る。
「さて、この子は私が預かっておきましょうか」
「させるか!」
どこからか声が聞こえ、フローリクはその声が聞こえた、上を見上げた。
フロー陸が、次のアクションを起こすよりも早く、天井と床に魔方陣が現れる。
「移動を不可能にした。同時に、そこからも動けないように」
「…それほどの魔法が使えると言うことは、王立魔法軍の上の人らしい」
相変わらず、声しか聞こえてこないが、どうやら女性のようだ。
だが、その声には、幼さが残っている。
判断するに、15歳かもう少し若いぐらいの声だろう。
天井の魔方陣を壊さないように、少し離れたところが崩れ、俺たちが持っている銃とは違う武器を持った集団が突如として天井から降ってきた。
「あら、遅かったわね」
すでに知っていたかのようなそぶりで、王女が彼らに話しかける。
「御婆様、お待たせしてしまい、申し訳ありません」
その集団の中から、声が聞こえるが、周りが高い壁のようになっているため、相変わらず姿が見えない。
皇女も彼らを興味津々な様子で見ている。
「あの子は誰ですか?」
俺が、王女に聞く。
「あ、申し遅れました。あたしは、イルネス王室の王孫であり、現在の継承順位第2位のイルネス・ルード・フォッカッスです。よろしくお願いします」
やっと体が、守っていたであろう集団から見えた。
今の女王は、俺と一緒にいた王女になるということなので、この子は、王女からみて孫に当たる人物だ。
「なるほどね、そして、今は王立魔法軍に所属しているっていうこと」
「はい、まだ中佐ですが、このように部隊も率いることができます」
「おい、僕を無視するでない。この子がどうなってもいいのか」
すでにナイフは床に落ちていて、握られた手首から先は、白くなっている。
足は床から5センチメートルほど離れているだろう。
声は、なぜか出すことができないようだ。
「そうか、まずか彼からですね。彼は誰ですか」
フォッカッスが王女に聞く。
「彼は、アルカディア・フローリク。宇宙革命軍総帥よ。そして、掴まれている女子は金内愛美、私の重要な部下であり、友人の一人」
「ああ、金内愛美名誉護衛隊長閣下ですか」
そう言いながらもフォッカッス、ポケットから、手のひらサイズのメモ帳のようなものを取り出している。
「"精霊の万能たる力よ。我に力を与えたまえ"」
手にしたのは、杖だった。
「"捕縛せよ"」
杖に向かって、フォッカッスが語りかけると、フローリクの手の力が緩んだ。
そのすきに、金内は床に落ちると同時にナイフを拾い、胸めがけて投げつけた。
フローリクに突き刺さるかと思った瞬間に、光が鏡に当たった時のような軌道を描いて、跳ねかえった。
天井へと突き刺さり、落ちてこないナイフをフローリクが面白そうな表情で見ている。
その間に、金内は、俺の元へと戻った。
「大丈夫か」
「なんとか」
「…面白い」
フローリクがつぶやいた声は、その場にいた全員に聞こえた。
「…面白いだと?」
王女が聞き返す。
「まさか、人造人間の能力が遺伝するとは思わなかった。いやはや、面白い」
そう言うと、その場から一歩も動けない代わりに、魔方陣より大きな場所ごとどこかへ一瞬で移動した。
猛烈な風が、その消えた空間を埋めるように吹き込み、それは一瞬で終わった。
「…どういうこと、人造人間って」
金内が、理解できないという表情を、王女たち、俺たちにも向けてくる。
「さあて」
俺は、それを言うのが精いっぱいだった。