第16章 王宮1階制圧作戦
金内は、いつもどおりに銃を片手に、衛視部屋にあったナイフ片手に進撃を始めた。
「王宮は部屋数が500近くある。それらの出来る限り多くを確認する必要がある」
王女が俺達に言いながら、王女自身も部屋のドアを開けては中に銃を向けて確認をした。
「了解。とりあえず、向かう部屋全てを調査しましょう」
俺は王女にそう話しかけた。
殿を務めている俺と皇女は、後ろから来ている敵を、次々と撃っていた。
一方で最前線で突っ走っている金内は、ドアを開けては中を確認し、敵がいれば即座に攻撃、敵以外の人がいれば、その場所を外にいる仲間に知らせていた。
「…いい娘と知り合えたわね」
皇女が俺にそう言いながら、すぐそばにぴたりとついた。
王女と金内は、俺たちの背中側で、1階の一番広い部屋のドアを開けようとしていた。
中から鍵がかけられていると同時に、どうやら中でバリケードでもして開かないようにしているようだ。
「どういうことでしょう」
俺は皇女に聞いた。
銃を向こう側に狙い続け、敵が来るかどうかと待ちかまえていながらの会話だ。
「あんな娘、めったにいないわよ。強く、可愛く、美しい娘、ね」
「皇女殿下も、それに当てはまりますよ」
俺はニコッとほほ笑みながら、見た目はニヤついているように見えることだろう。
「あら、それは嬉しいわね」
皇女も微笑み返した。
「それで、ちょっと聞きたいんだけど、あの娘の親、名前は?」
「金内愛って言うそうです。俺は何回かあったことがありますけど、こんな武器に精通しているような感じじゃなく、どこにでもいるような母親でしたね。どうしたんですか」
「旧姓を知っているか」
「ええ、交野と言ってたはずです。どうしたんですか」
「交野愛…その人は、もしかして…」
そこまで皇女が言った時、俺たちが見張っている方向から青い火球が飛んできた。
俺はとっさに皇女を抱きかかえ、守ろうとする。
間に合わないと思った時、王女の声が響き渡る。
何をいっているのか分からないが、黄色の火球が青色と混ざり合い、空中で爆発を起こした。
皇女は小さくわずかに悲鳴を上げたが、それきり黙った。
「ネズミが入り込んだようだね。追い出さないと」
向こう側からコツコツと革靴の音を響かせながら、男のダミ声が聞こえてくる。
「これはこれは、次帥閣下。お久しぶりですね」
男に王女は話しかける。
「宇宙革命軍次帥…なつかしい声…女王だね。噂じゃ地震に巻き込まれて行方不明とか聞いたんだが?」
「あら、そのうわさが本当なら、今、次帥閣下の…おっと、今は違う肩書なのでしょうね…貴方の前に立っている私は誰なのでしょうね」
「さあ、それは知らん。だが、儂はネズミを追い出す必要がある。わしが唯一師とあがめるお方からのご指示だ。ご期待に添わなければならない」
そう言って、俺たちのすぐ横に来た。
だが、俺と皇女には目もくれず、ただ一点、王女のみを見ていた。
「"我が精霊に請う。我、何物にも負けぬ剣を得んと"」
歩きながら呪文を唱えると、右手に青白く輝く両刃の剣が現れた。
「"我が盟友に請う。我、何物にも負けぬ盾を得んと"」
王女もそれに答えるかのように唱えた。
すると右手に、四角い黄色の光を放つ盾が現れた。
「女王自ら対峙してくれるとは、おもしろい」
黄色い盾を持ちながら、王女は笑みを浮かべていた。
それから、王女の横にいた金内を指さし、さらに呪文を唱える。
「"我が精霊に請う。我、かの者を動かさざるべしと"」
「くっ」
金内が動こうとしたが、足が言うことを聞かないようだった。
俺と皇女も、体が動かなかった。
「王女!」
俺はどうにか動く口で、王女に叫んだ。
「私なら大丈夫だ。それよりも、君達の力を借りるぞ」
「え…?」
皇女はなにか悟ったようで、体の力を抜いた。
俺も何かわからないが、壁にもたれて、そのままズルズルと座り込んでしまった。
「魔力を借りたのか。そこまで奴らを信頼しているということだな」
「残念。本当は貴方からも借りたかったんだけどね」
俺は王女たちが何を話しているのかわからず、皇女に聞いた。
「どういうことなんだ」
皇女は疲れているような声で言った。
「生物は、多かれ少なかれ魔力を持っている。王女やあたしはそれを操る力も。それらの力は相互に影響を与え合っているの。ゴム膜に石を置いたら、ゴム膜が歪むでしょ。あんな感じね。そして、その力はずっと一緒にいると、似たような魔力を示すの。詳しい話は省くけど、似たような魔力になれば、自分の魔力として使うこともできるのよ。それが借りると言ってた話ね」
「なるほど…」
俺は結局良くわからなかったが、とりあえずそう言っておいた。
皇女が話し終わると、待っていたかのごとく、次帥が王女に突撃をかける。
激しい一突き、それを盾でいなすと、盾の縁を使い相手の喉仏へ。
次帥が手を使いそれを受け止めると、剣を王女の首筋に入れる。
それからにやりと口元を歪ます。
「儂の勝ちだな」
「それはどうかしらね」
顔色ひとつ変えず、王女は指で何かの模様を書き、それを金内の方へ押し出した。
「"我、汝に命ずる。我を助けよ"」
指先から黄色い光がとび出すと、金内を覆った。
「動く!」
金内が言うと、眼の色が一瞬で変わった。
「覚悟!」
瞬き一つしてから金内がいた場所を見ると、残像だけが見えた。
それから、次帥はふらっと膝を負ったと思うと、そのばに崩れ落ちた。
同時に俺たちも自由に動けるようになり、息切れ著しい王女の元へ駆け寄った。
「大丈夫?」
すでに金内がその傍らにしゃがんでいた。
「ああ、私なら大丈夫だ。しかし…」
王女は横に倒れて、すでに事切れている男を睨みつけていた。
「まさか、こんなところで出会うとは…」
「知り合い?」
皇女が王女に聞く。
「ええ。と言っても、指名手配書で見ただけなんですけどね」
「どちらさまで」
俺が王女に聞くと、名前を言った。
「スルート・スッピキーナ。若くして宇宙革命軍次帥となった、最強の戦士。60年経った今では、筆頭元帥あたりにおさまっているでしょうね」
「そんな人が出てきたということは…」
俺が思っていることをいうよりも前に、王女が俺に言う。
「ここに、あいつがいる。宇宙革命軍の最重要人物が」
「1階か2階か、それとももう逃げたか。それは分からないけどね」
皇女が言った。
それを聞きながら、金内が肩を貸し、王女を立たす。
「とにかく、この部屋を制圧するぞ。それからだ」
王女が銃を構えながら言ったが、かなり疲れが出てきているようだ。
「私たちで制圧しましょう。金内ちゃんが先頭で、私たちは後ろ」
金内は何も言わずにうなづき、王女を俺に渡した。
「…すまない」
「何をいってるんですか。金内に任しといたら、大丈夫ですよ」
「…そうか」
そう言って、力無く笑った。
1階の最後の部屋である大広間には、敵もいたが、それ以上に人質がいた。
金内は何も言わず、銃をこちらに向けてくる奴らの首筋を正確に叩き、気絶させていった。
「ナイフ、さっきので使い物にならなくなっちゃった」
残念そうに言うと、ナイフを壁に突き刺した。
「1階、制圧しました」
王女に形式的に報告をした。
王女もそれに答える。
「了解した。引き続き、任務を遂行する。1階については、味方に任せる」
俺たちから遅れること5分、王女と皇女に敬礼をした1人を除いて、それぞれが人質を救助したり、敵方を紐で縛ってたりした。
「我々は、これから2階へ向かう」
王女は幾分回復してきたようで、普通に立って歩けるようになっていた。
ただ、魔法を使うことは、難しいらしい。
「…皇女殿下、まだ魔法は使えないようなので、力を借りても」
「ああ、もちろん。その時になったら何も言わなくても貸そう」
そう言って皇女は王女の胸に印を結んだ。
「これで共有される。大丈夫」
皇女はそう言うと、その印に息を吹きかける。
「つながった。分かる?」
「ええ、よく分かります。これで大丈夫です」
どうやら普通になったらしい。
「行きましょう。早くしないと逃げられるかも」
金内が俺たちに言う。
「よし行くか」
王女がそう言って、2階へ通じる階段を金内を先頭にして駆けあがった。