第13章 60年後の世界
俺達がいるホテルには、軍部の人たち以外にも記者と腕章をつけた人たちが大量にいた。
王女の姿が、彼らの目に留まるとすぐに報道記者たちが取り囲んだ。
しかし、王女は何も答えずに、そのまま歩き去っていく。
俺達は、そんな王女のすぐそばを離れないようにして、ついて行った。
俺たちは、破壊された王宮のそばにある、小さな物置のようなところに入って行った。
木の箱が部屋の隅っこに2、3個積み上がっている。
「すこしばかり、気をつけてくれ」
俺たちに王女が言うと、壁を作っているブロックの一部分を強く押した。
すると、床の一部分がせりあがって、地下へ通じる階段が現れた。
「ここは変わっていないようだな」
そう言って、階段を一段一段しっかりとした足取りで、王女は降りて行った。
「女王陛下、お待ちしておりました」
階段をおり終わると、かなり広い部屋に出てきて、そこは、『新幹線』の『総合指令室』のような光景が広がっていた。
「現状を」
王女は、その中央に据え付けられている椅子に歩み寄りながら、走ってきた軍服の男性に聞いた。
「王宮を中心に広範囲で体感することができる地震が起きました。その直後、どこからか宇宙革命軍が襲ってきたのです。王国軍が現在あちこちで戦闘を行っており、その全容はいまだに不明です」
「地震の被害は」
「不明です。ただし、確認が取れている地域では、火災は起こっていないようです」
「そうか、なにかあり次第、連絡を」
「御意に」
そう言って、再びどこかへ走って行った。
「ふう…」
ため息ひとつつくと、椅子の肘かけにあった赤いボタンを押した。
「いかがいたしましたか、女王陛下」
どこかスピーカーがあるらしく、60歳ぐらいの女性の声が聞こえてくる。
「これより、戦場に出る。わたしの付き人たちの分の装備も持ってきてくれ」
「しかし、そうなりますと、指揮をとられるのは……」
「サワルト元帥がいるだろ。その者を指揮官に任命する」
「…御意に。して、付き人は何名いらっしゃるのですか」
「3人だ。サイズはその場より採寸を」
「畏まりました」
声はそれで途切れた。
「…今の誰?」
金内がきいた。
「私の侍従長。あなたたちは、私の付き人という名目で一緒に居れるから。階級は特務少佐という扱いになるわ」
「なるほどね」
金内が言うと、初老の男性が服を何着か持ってきた。
「申し訳ございません、このような服しか……」
「構わん。この場で裾直しをしてやってくれ」
「了解いたしました」
深々と一礼を王女にしてから、俺たち一人一人に服を渡していく。
「あなた方は、このままでもよろしいでしょう。問題は……」
皇女のほうを男性は見た。
「ぶかぶかだね」
裾も半分ほど引きずるほどだった。
「こちらのお方に関しては、さらに小さなサイズのほうが好ましいと思います」
「最小サイズを今すぐ持ってきてくれ」
「了解いたしました」
再び深々と礼をしてから、ちょっと離れた所から電話をかけていた。
皇女の服を直している間に、俺と金内は軍服を、王女に聞きながら着た。
「ねえ、どうかな」
簡素でありながら、威厳を兼ね備えるような服になっていた。
「いいんじゃない」
金内に聞かれて、上から下までじっくりを見てから言った。
「先輩、まともに答えて」
「軍服なんて、着たことも興味もなかったからなぁ……」
「かっこいいと思うよ」
王女が横から言った。
「ほんとう?」
「私が言うんだから間違いないって」
「わーい」
金内は、王女に言われて、とても喜んでいた。
王女は、そんな金内を見ながら俺に耳打ちした。
「こうやれば簡単に喜んでくれるから」
「勉強になりました」
俺は王女に言った。
「できました」
そんなことを言い合っているうちに、先ほどの男性が皇女の仕立てを終わらしたようだ。
「これでよろしいかと」
「では、武器庫のほうへ。出陣の準備を整えろ」
男性に言ったすぐ後に、俺たちへ向き直って聞いた。
「引き返すなら、今しかないが」
「ここまで付いてきたんだよ。行くにきまってるでしょ!」
とても楽しんでいる金内を、俺はしっかりと目に焼き付けた。