第10章 受勲
船から出る前に、王女と合流した。
「栄誉礼を行う旨の伝達は伝わっておりますか?」
「いいえ、まあ、するとは思っていましたけど」
皇女が普通に王女に答えた。
「栄誉礼って?」
「一般的に儀仗や堵列といわれるもので、皇女殿下のような高位の方や国賓が参られた場合などに行われることになっています。今回は、あなた方も受けることになっております」
「えっ、でも、私たち、やり方なんてわからないけど…」
「左胸に右手を添えてください。それがあなた方の答礼の形になります。皇女殿下が手の甲を額に付けているときに、そのポーズをすれば大丈夫です。当方の外務省からの職員も同行しますので、何かあればお聞きになってください」
「ありがとね」
王女に対しても、まったく気兼ねなく金内は話した。
服や髪形などの身だしなみの確認が終わると、船のタラップが降ろされた。
すぐ外は、巨大な飛行場になっていて、何隻もの船が停泊していた。
「どうぞこちらへ」
王女が先導をし、紅白の幕で巻かれた周りより一段高くなっている台のところへ案内された。
ウルダン帝国国歌、日本皇国国歌を演奏してから、イルネス王国国歌が流れた。
儀仗兵の後ろに軍楽団が待っていて、彼らが演奏をしていたようだ。
皇女は、ずっと胸に手を当てていた。
俺たちは、高女の真似をしているだけだった。
国歌の演奏が終わると、赤カーペットが敷かれた道を歩いた。
ぐるりと一周できるようになっていたから、最初の場所へ戻った。
すると、正面を向き直り、儀仗兵が整然と行進して退場した。
彼らを見送ると、王女が俺たちについてくるように言った。
「こちらが控えになっています。これより、国王の準備が整うまで、しばらくお待ちください」
王女に付き添っている男性が、俺たちに説明をして、どこかのホテルのスイートルームのような部屋で待たされた。
「そういえば、今回の勲章授与式って、どんな感じで行われるんだろう」
金内が俺に聞いた。
俺がわからなかったから、ベッドに寝そべって天井を見ている皇女に話を振る。
「勲章授与式は、基本的に相手国の元首や代表者が直接渡すっていうことになるのが多いわね。今回の場合は、"スギャイルード勲章"というものが授与されるはず。その勲章はイルネス国に対して、国民を守った勇敢なるものに対して授与されるっていうことになっていたはず。私も持ってない勲章の一つよ」
「宇宙革命軍に襲われたときに王女を助けたっていうのが、受勲理由になるわけだね」
金内が皇女のすぐ横に座って聞いた。
「そういうこと。この勲章は、文民に与えられる勲章の中では2番目の高位になる勲章ね。私の記憶通りだったとして、この勲章の授与形式は星章だったはずだから、あなたたちから見て左胸に星型の勲章をつけることになるわ」
皇女が俺たちに見せながら言ったが、その直後、燕尾服を着た人が俺たちの所へ来て、準備が整ったことを知らせた。
「入る順番とかは?」
金内が皇女に聞いた。
「私たちの中では私が最初に入るわ、その次にあなたたち、年齢が高い方が先にね。それで座る場所とかは向こうの人が指示をしてくれるはずだから大丈夫」
皇女が最後にそう付け加えて、廊下へ出た。
連れて行かれたのは、見たことがないほど大きなホールだった。
ホールの所で、キア達と合流する。
それを見てから、付き添っていた人が俺たちに話す。
「戴冠式や婚礼の儀などにつかわれる大広間です」
付き添っていた人が、それから一礼をした。
「それでは、ただいまより、受勲の儀を執り行います」
静かに俺たちに伝えると、ホールの扉を開けた。
中は、玉座に座っている国王を中心に、ほとんど左右対称に飾られていた。
例外は国王の後ろに飾られている3つの旗だった。
俺から見て右から、日本皇国の国旗、イルネス王国の国旗、ウルダン帝国の国旗となっていた。
「受勲者は、前へ」
侍従長のような初老の人が、きびきびと指示をしていく。
「ジハール・キア、貴殿にスギャイルード勲章を授与する」
ジハールは、スーツを着ていて、その上に星型の勲章をつけてもらっていた。
俺達の番が来て、そのまま服の上から付けてもらい、元の場所へ戻った。
それから、晩餐会の会場へと向かった。
向かいながら、すぐ横にいた皇女に俺は聞いた。
「この勲章って親授なんですね」
「あなた方の国でいえば、勲二等に該当するわ」
「勲二等って、かなり上じゃない」
金内が皇女に言った。
「かといって、あなた方のところと違うのは、こちらには勲五等までしかないっていうこと。そのあたりはあまり重要ではないけどね」
そう言って皇女は笑っていた。