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第1章 連れ去り

すべての始まりは、唐突だった。

いつものように、部活の後輩で、自分の恋人でもある金内愛美(かねうちまなみ)と一緒に帰っていた。

頭一つ小さいから、金内はいつも自分を見上げるような格好になる。

「どうしたんですか」

「いや、何でもないが……」

何かを考えているように見えたのだろう。

実際には、一緒に帰っているだけのカップルにすぎない。

ただ、彼女は少しコンパスが短い分、自分よりも歩くのがわずかに遅い。

「本当ですか?」

「ああ、本当だとも」

自分は、そんな金内の歩調に合わせて歩いている。

「何かあったら、相談に乗りますよ」

金内が自分の方をじっと見ている。

「いや、大丈夫さ」

別れるところへ来ても、なんとなく別れがたい。

Y字路の右と左に別れる、いつもと同じ光景なのに、どうしても別れたくないという意識があった。

いつものような意識だったから、気にするようなことはなかった。

「なら、いいんですが……」

こういうところは、金内はいつも鋭い。

女の勘というものなのかは、知らないが。

そして、いつものように別れようと手を振った時だった。

空から、光がさしたと思った途端に、二人の体が宙に浮かんだ。

その感覚があってから、直後に意識を失った。


「センパイ…先輩、大丈夫ですか先輩」

いつものように、金内が呼びかけてきた。

「あ、ああ」

目をゆっくりとあけると、手術室のような部屋に連れてこられていた。

「ここ、どこでしょう」

「どうせ、宇宙船かどこかだろ?」

「ヨクワカリマシタネ」

片言の日本語で話しかけられてくる。

「誰だ!」

自分が、その見えない相手に叫ぶ。

「アナタ方ハ、選バレタノデス。大変ナ栄誉デス」

「何に選ばれたの?」

二人の距離が零点接近しつつも、金内は聞いてみる。

「全宇宙評議会、通称全評デス。コノ評議会ハ"中央コンピュータ"ニヨッテ選バレタ無作為ノ人タチニヨッテ構成サレマス。高度ナ知能ヲ有シテイルトミナサレル種族ガ住ム惑星ニ対シ、代表2名ヲ選出シ、コノヨウニシテ集メルノデス」

「無理やりつれてくるということか」

自分が聞いてみると、返答がない。

「図星だな」

それから、部屋の中を見回す。

何もない白い部屋の中の中心に、俺たちが寝ていたベッドが置かれていた。

他には、俺たちが持っているカバンぐらいしかない。

制服のままで来た状態で、さらに着替えすらないのは、かなりヤバい状態だと思う。

「モウ間モナク到着致シマスノデ、下船ノ準備ヲシテクダサイ」

なんかよく知らないが、結局巻き込まれて逃げることはかなわないことだけは分かった。

「覚悟を決めよう」

俺はそう呟いて目の前にいつの間にかできた、窓から外を眺めた。

最後の流星みたいな光が消えると、そこには地球によく似た惑星があった。

そこは、2つの大陸から成っていて、一つの巨大な大陸に、オーストラリアのような形や大きさをした大陸が島のようにすぐそばにあった。

「あそこ光ってる」

金内が指さしたところには、巨大な塔がそびえたっており、その土台には放射状に宇宙から見えるほど大きな幅の道が海に突き当たるまで広がっていた。

「8大道路デス。アレラノ道ヲ中心ニシテ全テノ都市ハツナガッテオリマス。タダシ、小規模ノ都市ヤ基礎ガ完成シテ以来デキタ新興都市ニ関シテハ、ソノ限リデハゴザイマセン」

放射状に広がっていく道路は、中心の塔を支えるワイヤーのようにも見えた。


中央の塔の中ほどに、大きく口を開けたところがあり、そこへ掃除機に吸い込まれるホコリのように入っていった。

中は、理解ができない電子機器の数々が壁にへばりついていて、そこを無数の人がうごめいていた。

「ヨウコソ、我ラガ銀河中央会議ヘ」

そういって、今でなかったところで扉が開いた。

「第4091号恒星系第3惑星代表者、金内愛美氏、天栄英資(てんえいひでし)氏とお見受けいたす」

古語調で言ってきたのは、中世ヨーロッパ風の騎士の格好をして出てきた人だ。多分女性だと思う。

「どちらさまでしょうか」

驚いて開いた口もふさがらない金内の代わりに聞いてみた。

「これは失礼仕った。拙者は銀河政府外交省第4091号恒星系第3惑星担当の、セレン・マイテクと申す者。以後、お見知りおきを」

「あ、こちらこそ。よろしくお願いします」

あわててお辞儀をし返す。

なにか、いろいろ間違っているような気がするのは、気のせいだろう。

「拙者は、貴殿を別の者へと引き渡すまで供に行動するように、(めい)を承っている。では、こちらへ参られよ」

前言撤回、やっぱり何か間違ってる。


セレンに言われるまま、カバンを持って船を降りる。

船の全景を見るのは、これが初めてだが、小さな船だというのが印象だった。

あの部屋以外、ほとんどついていないのではないのかと思うような小ささだった。

「何も、ここまで連れてこなくてもよかったんじゃないの?」

高山のように息が苦しい外の空気を吸いつつ、金内がセレンに尋ねる。

「否、銀河政府はテレビなどを介する中継などを一切信用しておらず、直接対話による外交を積極的に推し進めておる。故に、我々はこのようにして集まる義務が生じる」

「俺たちの星は、銀河政府に加盟していないはずだが」

「否、国際連合及び国際連盟は我らが銀河政府に加盟するための惑星全体会合の場として認められておる。さらに言えば、貴殿が属している惑星の国連事務総長は、我々の銀河政府に対し一定の寄託金を払っており、銀河政府は加盟を認めておる」

このまま無視していれば、おそらく彼女はどこまでも話し続けただろう。

だが、周りの作業員の眼がじっと注がれ、前から軍服を着た人が来たとたん、額に手の小指側をあて出迎えた。

「これは、陸軍省大臣閣下。このような場所へ、いかなるご用でありましょうか」

周りをSPで囲まれ、どこから攻撃を加えても陸軍大臣へは被害がないようになっている。

「今回の最年少と聞いて、やって来てみたわけだ。男女カップルだとも聞いていたが……」

上から下まで、なめるように見回してくる。

「あの……」

「軍に引き入れようと思ったが、やはりこいつらには早いな。もう少し待ってから、加えるように打診することにしよう」

「それがよろしいかと」

セレンは、思いもしない客に少し焦っているような気もする。

「"中央"も、今回の会議出席のための来訪ですので、他の事柄を行うのは、意に反するかと」

そういって、大臣は何事かSPへ耳打ちしてから、その場を離れた。

「今回の客人は、他にもおりましょう。その中より選んではいかがですか」

背を向け、どこかへ焦って行くような彼らに、セレンは伝えた。

だが、彼らは聞いているそぶりを見せず、この階から姿を消した。


そんなこともあったが、待合室と書かれたところへ案内され、セレンとはそこの扉の前で別れた。

「拙者の案内に対する命は、ここまでとなっている。よって、これ以上は、室内に折られる王女に尋ねていただきたい。では、失礼する」

徐々に話し方が変わっていく不思議な人だったが、また出会えるように簡単なおまじないをかけておく。

遠ざかっていく甲冑の背中に、五光星を一筆書きで描く。

ヒトデの輪郭を描くようなもので、上に1本だけとがった角が来るようにする。

それから、彼女にまた会えるようにと強く念じる。

会いたいと思う人に気づかれないようにするのが、このおまじないのミソだ。

金内はそのことを見て、軽く不思議な表情をしていたが、気にすることなく待合室へ入った。


「失礼します」

恐る恐る金内のすぐ後ろをついていくと、中には、一人の女性が座っていた。

「あら、あなた達が今回最年少の方ね」

流暢な日本語で俺たちに話しかけてくる。

最初に王女と聞いていたから、『マリー・アントワネット』や『エカチェリーナ2世』のような豪華な人を想像したが、考えてみたら彼女たちは全員女王だったりする。

目の前にいる王女は、そんな人ではなく、普通の一般人に見えた。

ただ、左胸にはどこかの国の勲章があり、他にもさまざまな勲章の類をぶら下げていることから、普通の人とは一線を画した、別次元の人だと確信した。

「宇宙に残っている10の帝国のうち、最長の歴史を誇る"日本"からきた議員ということで、結構期待していたんだけど…」

王女は立ち上がると、俺ら二人をじっくりと見回した。

「高校の制服のようね。そのまま連れてこられたっていうことかしら」

「まさしく、その通りです」

王女は、にこやかに俺たちを見ていた。

「そう、そういえば、名前を聞いてなかったわね」

「俺は、天栄英資。こっちの彼女が金内愛美。俺たちは、家へ帰る最中にここに連れてこられた」

「私も似たような状況よ。そうはいっても、こちらは議会で"開会の式辞"を述べた帰りだったけどね」

議会の開会時、その宣言をするという、簡単なことらしいのだが、詳しくはしらなかった。

分かっているのは、ため口をきいてもこの王女は一切怒らないことだ。

「そうそう、私の名前はイルネス・ケーサカムバリン・リゾーマタよ。第797号恒星系第4惑星統合政府のイルネス王室から来たわ。仮に母を継いで即位するとすると、イルネス王70代目になるわ」

「何年ほど前から王家は続いているんですか」

金内が王女の横に座りながら聞いてみる。

「銀河平均年800年前からね。あなた達のところの暦だと約803年になるわ」

このことは、後で教えてもらったことになるけど、俺たちのところの暦は、惑星標準暦という名前で登録されているらしい。

各帝国ごとにそう言われる暦があり、周囲の惑星国家や複数の国家はそれらのうちどれかを選択することになるらしい。

一方で、そのように暦が乱立することにより、複数の国家にまたがる場合、日付を考えるのが大変なことになるということで開発されたのが、銀河平均年といわれるものになる。

各暦の平均をとり、それを基礎とすることにより最終的には全てを統合しようというのが目的らしい。

「長いですね」

金内は、802年という年を聴いて素直に驚いていたが、日本に続いている天皇家は、それよりさらに長いとされている。

この時点で、公称3200年ということになっていた。

「天皇家は、今に至るまで約3200年間日本の権威の象徴として君臨し続けてきました。それに比べたら、まだまだですよ」

王女だからだろうか、何かしら大人びた感覚がある。

「そういえば、何歳なんですか?」

「私なら、今年で16歳になるわ」

「あたしと同じ年!」

金内は、年齢を聞いた途端に親近感を強く持ったようだ。

「ほんとう?」

顔を見て、もっと若いと思われたようだが、金内は一切気にせず王女にいう。

「ほんとよ、同い年なんて思いもしなかった!」

晴れやかになる顔を見て、金内はどうにか元気を取り戻したようだ。

「ところで、王女とかになると、苦労とかも多いんじゃない?」

「…友人が、少ないとか」

「やっぱり」

王女がすこし引き気味に言っているすぐ横で、金内はあっさりと言い切った。

「じゃあ、私が友達になってあげる!」

「へぁ?」

妙な声をあげたと思うと、急に金内は王女の両手をガシッとつかみ、王女の目を見ていった。

「いいでしょ」

ヘヘッとすこし渇き目の笑い声をあげながら金内が王女の様子をうかがっている。

なごんだような雰囲気で王女が答える。

「いいわよ、友達にしても」

ツンが入っている感覚の会話を聞いていると、入ってきたところの扉が開かれ、銀色のドラム缶を小さくしたようなロボットが入ってきた。

俺の腰のところまでしかない大きさだが、声の大きさは十二分だった。

「会議場ヘオ連レ致シマス、ドウゾ、ツイテ来テ下サイ」

しっかりと部屋に反響音を残し、耳鳴りまでさせてくれた。

徐々に治まってくる耳鳴りだが、そんなことを気にもせずにロボットはおれたちを会議場へと案内した。

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