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せめて私が

作者: etoooooe

「あー、嫌だ。」

 彼女は天井を見ながら言った。彼女は何がということもないくせによく嫌だと口にした。

「何でもない独り言にナレーション付けないでっていつも言ってるでしょう。」

 世界がそうあるということは、それだけでは彼女を納得させなかった。

「あなたはいつも世界世界って、あなたはあなたってものがないの?」

 彼女は天井の白さに向かってそう言った。

 彼女には、希死念慮があった。世界には、それを止める方法がなかった。もし彼女が自殺をやめたとしたら、それは彼女自身がやめようと思ったからである。世界は、ただその外にあり、見ることも無く、ただ存在しているだけだった。

「他人事みたいに言うのね、世界さん」

 傍から見れば、彼女は相手もいないのに会話をしている狂人でしか無い。しかし、彼女には確かに世界の地の文が聞こえていた。

「本当よ、聞こえなければ良かったのに。それか、あなたが神様だったら良かった。文句ならいくらでも出せるんだから。」

 そう言って、彼女はベランダに出た。そして飛び降りた。彼女がなにか言う前に、彼女と呼べるものは無くなった。

 世界の声が聞こえるという障害は彼女には重すぎた。それでも彼女は、世界の声に人格を信じ続け、悟らせないように咄嗟に死んだ。

 彼女が死んだことを驚いたり悲しんだりするものはない。そして、彼女について語るべきことも、もはや存在しない。

 世界には「私」がない。もし世界が「私」を作ってしまったならば、他の全ての「私」を否定することになりかねないからだ。

 しかし、彼女が死んだ今、それで困ることがあるだろうか。

 せめて私が、彼女が死んだことを悲しまなくてどうしようか。

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