第一卷 プロローグ
黒い服を着ている俺は、目の前の祭壇を眺めながら、噴き出さないように頑張っている。
祭壇の中心には白黒の写真が置かれ、白い花が囲んでいる。
写っていたのは中年の男性だった。
この男の名は佐藤立一。俺の前の会社の上司だった。
常識的に言えば、入社時から新人教育を担当してくれた先輩には、多少の敬意を払うべきだが、遺影に向かって一言だけ言いたい。
——ざまあ見やがれ!
お世辞にも、彼に世話になったとは言いたくない。
新人研修時代から俺に難癖をつけ、めちゃくちゃな仕事を押しつけた。飲み会の誘いを断ると悪口を言われて、逆に一緒に飲みに行ってツケを取られた。女性社員がいたら、もっと悲惨なことになる。
もちろん、俺はそんな些細なことで人を恨むような人間ではない。
俺と彼を本当に両立させなかったのはあの事件だった。
俺は偶然、佐藤の横領に気づいた。
俺が告発するかどうか迷っているうちに、何かに気づいた佐藤が先に動いた。
彼は証拠を偽造して、罪を全部俺にかぶせた。
おかげで俺は職を失い、婚約していた彼女と別れ、多額の借金を抱えることになった。
俺の人生は簡単に台無しになってしまった。
その後、実家を売り払ったり、バイトをしたりして何とか借金を返そうとしましたが、その時から、俺は絶対に復讐して、あの男を死ぬよりも死なせてやろうと決めた。
だが、そんなことを考えていた矢先に、佐藤が交通事故で事故死したということを耳にした。
正直なところ、最初は快哉を感じた。
仇敵が死んでしまうことほど嬉しいことはないのだから。
ただ、すぐに虚しさを感じた。
自分の手で復讐できなかったことが、どうにも嬉しくなかった。
だからこそ、俺はあいつの葬式に招かれもせず出席することにしたんだ。
「……」。
隣で声がしたので、俺は慌てて表情を変わって、顔をそむけた。
隣には黒いワンピースを着た美しい少女が立っていた。
中学生か高校生くらいの年齢だろうか。ワンピースと同色の長い髪を後ろで束ね、顔にはうっすらと化粧をしている。
少女は悲しそうに微笑み、俺に軽く頭を下げた。
「佐藤琴音と申します。父の葬儀に参列していただき、ありがとうございました」
自己紹介しなくても、その名前も知っている。
佐藤琴音、15歳、現在は近所の有名私立高校の高校一年生だ。
復讐を決意した俺は、佐藤立一の出身、家族構成、交友関係など、ありとあらゆることを調べていたので、あいつの一人娘の情報も手に入れていた。
そして彼女に会うことが、この葬式に来た目的だった。
「押しかけて失礼いたしました。俺は白水直輝、もとは尊父の部下でした。」
「白水さんですか。生前は大変お世話になりました。」
「いえいえ、俺の方こそ、いろいろお世話になりました。生きているうちに恩返しができなくて誠に残念でした。」
父親の死を本当に残念に思っているかのように、悲しげな表情を装った。
俺が父の仇敵だとは夢にも思っていないだろう。
実際、あいつのことが嫌いな人は結構多いと思う。
それだけに、葬儀には誰も参列してくれなかった。
会社側は、新入社員らしい研修生一人が代表で、親族もただ数人だけだ。
疎遠になっている様子を見れば、来たのも最低限の礼儀であることは明らかだった。
だからこそ、押しかけて参列して、遺影の前に立ち続けていた私は特別に見えた。
佐藤琴音もそれに気づいたから、俺に声をかけてきたのだろう。
よし、計画通りだ。
「貴女、これからどうするつもりですか?」
簡単な挨拶の後、俺は新しい話題を切り出した。
「……これから?」
俺の質問に、彼女は首をかしげた。
さりげなくこの年齢らしい可愛らしさを見せているのに、残念ながら俺は動じなかった。
「なんていうか……葬式に来ただけだったけど、こんなひどいことになるとは思わなかった」
俺はそう言って、遠くからこちらを覗き込んでいる親族たちに視線を向けた。
俺の視線に気づいて、彼らはすぐに目を逸らした。
ぐるりと見渡し、誰も目を合わせてくれないことに気づくと、俺も視線を戻し、同じく視線を戻している佐藤琴音を見た。
目を落とし、ため息をついた彼女。
「…………そうですね、これからのことを考えないといけませんね。」
私立高校は進学校だと聞いていたので、頭のいい子だと思った。俺がちょっとヒントを出しただけで、彼女は現状に気づいた。
母親を早くに亡くし、そして父親も事故死した彼女は、一人ぼっちになっている。
まだ未成年なのだから、誰かが養育責任を負わなければならない。
しかし残念なことに、彼女の父親は嫌な奴だった。親しい友人もいなかったし、親戚との関係も冷めていた。そして、彼女は親戚に対して厄介者かもしれない。
答えはわかっているが、念のために一応聞いておこう。
「———あの、この子を引き取りたい人はいますか?」
俺の声を聞いて、親族たちは口々に話し始めた。
「うちにはもう三人子供がいるんだけど、もう一人増やたら……」
「私まだ独身なんですよ。子供連れだったら、結婚は……」
「15歳になったら、自分の面倒もちゃんと見られるんじゃないかな……」
こいつらは声をひそめていないので、佐藤琴音にもきっと聞こえてるはず。
暗い表情を浮かべ、視線を逸らす彼女。
可哀想に見えるが、これも計画通りだ。
手を伸ばして二度叩いた俺は、みんなの視線を自分に集めた。
「みんな色々な事情があるんですから、俺が引き取ったらどうですか」
「は、はい?」
会場の全員が唖然としている。
特に佐藤琴音。目を丸くしている。
それが面白くて可愛くて、俺は思わず見つめてしまった。
「ごめんね、初対面の人にそういうことを言われたら困るでしょう。でもなんというか、佐藤先輩には大変お世話になったし、その恩は一生返せないと思うから、せめて娘さんのために何かしてあげたい。」
当然、これは嘘だ。
あいつから何の恩恵も受けていないし、娘さんのために何かするつもりもない。
むしろその逆で、わたしはその後、彼女にひどいことをする。
「とにかく、決めるのは本人。貴女の意見を聞きたい」
彼女に目を向け、まじまじとその目を見つめた。
少し複雑そうな顔をした彼女。
俺は焦ることなく、返事を待っていた。
彼女に残された選択肢は決して多くない。
自分を厄介者扱いする人か、自分を歓迎する人か。
答えはわかりやすい。
しばらくしてから、彼女は長く息を吐いた。
ようやく決心がついたようだった。
「……分かりました。貴方のところに行きたいです。」
そう言われた彼女に、俺はようやく本物の笑みを浮かべた。
決着だ。
すべては予想通りだった。
これから、いよいよ俺の復讐劇が始まる。
父親の借金は娘が返す。
それだけのことだ。
舞台のキャラが事故で退場したら、代役を探せば良い。
父親の借りは娘が返す。
それだけのことだ。
もちろん、言わなくても、それはただの八つ当たりであることはわかってる。
けど、そんなのどうだっていいじゃない?
俺はもう優しさも甘さも捨てた。いまやりたいのは、やり場のない怒りをぶつけることだけ。
正しいかどうかは、俺の考えべきことじゃない。
それが憎悪の炎に飲み込まれた俺が得った結論だ。
さあ、復讐劇を始めよう!
はじめまして。天気散歩です。
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