球技大会が始動したのかもしれない⑩
「今日めちゃくちゃ暑いな。」
いつもは制服で登校しているが今日ばかりは体育着で登校している。
何故か。
今日は球技大会当日だからだ。
天美から絶対に勝てと言われてから毎日夜な夜なボールを蹴り、クラスメイトとの練習では俺史上で一番と言えるぐらいコミュニケーションを取ってきた。
その成果があったからか、ただただあまりサッカー経験者がいないからか何とか試合には出場できるポジションを確立することができた。
本当に良かった。練習初日なんてどこで何したらいいかわからないからグラウンドに出ては用もないのに一度ロッカーに戻り、ロッカーで一呼吸置いてからまたグラウンドに戻るという不可解な行動を3回も繰り返しグラウンドに着いたのは誰よりも早かったのに遅刻扱いされてクラスメイトから総スカンをくらった。
まあチームの中心グループと俺の関係を内田が何とか取り持ってくれて今日にいたるわけだが。
俺はいつもより少しばかり重たいバッグを肩にかけ学校に到着した。
実行委員と体育委員長は早く登校し開会式などの段取りを確認しなくてはならない。
俺は静かな廊下を抜け多目的室に入ると入念に資料を読み込んでいる天美がいた。
「おはよう。早いのね。」
「おはよ。俺はいつも通りだ。」
天美はこちらにふと目をやったがまたすぐに資料に視線を戻し作業に戻った。
「ちゃんと勝てるんでしょうね。」
「それはやってみないとわからないな。やれるだけはやってみるけど。」
視線は常に資料をとらえていて天美なりにプレッシャーのようなものを感じているのかもしれない。
俺も事前に配布された資料に目を通しているとほどなくして多目的室の扉が勢いよく開いた。
「おは!いい天気で良かったねー!」
走ってきたのか少し息が上がっている内田が到着した。
体育祭仕様なのかハーフパンツの裾をまくり更に短くさせいわゆる『絶対領域』が露になっている。
髪型は編み込みが入っているハーフアップで気合が入っているのが一目でわかる。
「内田さん。おはよう。ちゃんと寝坊しないで起きれたのね。えらいわ。」
内田はえへへと笑いながら天美の隣に座り褒められたのがうれしかったのか更に弾んだ表情で天美に話しかけていた。
俺もちゃんと遅刻しなかったのに、、。誰もえらいって褒めてくれないなあ。俺は褒めて伸ばされるタイプなのに!
最後に褒められたのいつだったっけと考えていると壊れんばかりのノックの後に朝一番とは思えない声量で、失礼するぞ!と山瀬が入ってきた。
「今日は頼んだぞ!!」
教室に響き渡る声量で山瀬が挨拶すると俺たち3人は苦笑いをしながらよろしくお願いしますと挨拶しておいた。
山瀬は帰り際に俺の前までやってきては逃げずに来たのだけは褒めてやると言い、教室を出る直前に負けないからなー!と叫びながら教室を後にしていった。
褒められたけどあんなマッチョに褒められてもな、、。マッチョに褒められてうれしいのはマッチョだけな気がする。
俺もマッチョになればいいのか!ビバ筋トレ!!
「次は来賓の方に挨拶を頂きます。」
開会式も無事進みタイムテーブル的にも問題なく遂行されている。
天美と内田は本部のテントの中から開会式の司会進行を行い、俺は朝礼台の向かい側でストップウォッチを使いながらタイム管理をしていた。
「最後に体育委員長の山瀬さんから開会の宣言をしてもらいたいと思います。山瀬さん。お願いします。」
山瀬は自クラスの列から駆け足で出てきて朝礼台に上った。
普段でも十分大きい山瀬だが朝礼台に上がると更に大きく威圧感が増した。
山瀬は体育委員からマイクを渡されたがマイクのスイッチは入れずにそのまま手に持ったまま大きく息を吸い込んだ。
「これよりーーー!!!球技大会の!!!開催を宣言する!!!!」
マイク無しでも十分すぎる声量で宣言し、山瀬が礼をすると同時に各クラスから雄たけびが上がった。
山瀬は自クラスに帰る間際に俺をキッと睨みつけ堂々と帰っていった。
はあ、、。帰りたい、、、。
開会式も無事終わり各クラスが盛り上がる中本部のテントに静かに戻ったのだった。
「三ツ島君。お疲れ様。まだまだ仕事は残っているから気を抜かずに頼むわよ。」
天美は半そでの体育着の上に1枚ジャージを羽織っていた。
朝とは髪型が変わったからか雰囲気が変わり高めのポニーテールで束ねられた髪はとてもつやつやで美しかった。
各競技がスタートし学校のあちこちから歓声が上がり上々の盛り上がりを見せていた。
俺はタイムスケジュールを眺め自分の競技の試合が刻一刻と近づいてることを確認しては震え上がっていた。
「みっつあっちでみんなアップ始めてるっぽいよ!」
「まじか。俺も合流してくる。」
「私たち応援行けないけど頑張ってね!」
そう言うと内田はあわただしくテントを後にした。
「私もそろそろ行こうかしら。」
「天美も競技の時間か。頑張れよ。」
「ええ。あなたもくれぐれもしくじらないようにね。」
内田とは対照的に天美は静かに席を立ちテントを後にした。
さてと。俺もクラスに合流しなくちゃな。
俺は大きめのため息をつきクラスメイトがアップをしているグラウンドに向かったのであった。
初戦は危なげなく勝利し二回戦へと駒を進めることができた。
試合を終えてテントへ戻ると天美と内田が戻っていた。
「いやあ~。何とか勝った!」
嬉しそうな内田がタオルで汗を拭きながらハンディファンで涼んでいた。
「天美はどうだったんだ?」
「私もしっかりと勝ったわ。」
こちらは汗1つかかずに涼しげに水を飲んでいた。
「それで、あなたはどうだったのかしら。」
「ちゃんと勝ちましたよ。」
「そう。」
天美は結果を聞くと椅子に座りタイムスケジュールを確認しだした。
各競技の初戦の結果が出たみたいで本部テントの前にあるトーナメント表が更新された。
しっかり山瀬のクラスも勝利していた。
「あなた、しっかり次も勝つのよ。」
「へいへい。足は引っ張らないようにするよ。」
俺は少しでも体を休めるために本部テント内の地面に座りストレッチを始めた。
「みっつ何してるの~?」
「疲れ残したくないからストレッチしてるんだよ。」
「へぇ~。私手伝ってあげる!」
内田は俺の背後から俺の背中を押しストレッチを手伝ってくれた。
「みっつ体硬ーい!」
内田は力を入れるために更に体を密着させてきた。
何だか背中に柔らかい感触がする気がする、、、。
俺はこのままだとサッカーどころではなくなるためストレッチを早々に切り上げた。
「もう終わり??」
「ああ。結構いい感じになった。ありがとな。」
「うん!また手伝うからいつでも言って!」
はあ。これだから女の子は危険だ。
下手にボディタッチとかしないでいただけると誠に助かるでございます。
椅子に座り心を落ち着かせていると天美が何やらこちらをちらちら見ていた。
「どしたの。」
「あ、あの、、」
何やらもじもじしながら保冷バッグを渡してきた。
「これ良かったら、、」
中を見ると凍らせたスポドリに凍らせたフルーツが入っていた。
「これわざわざ準備してくれてたのか?」
「えっと、一応その、勝負とかあるわけだし、、。私もあなたに負けられると困る、、、立場だし、、。」
「おお。ありがとな。」
天美はまた椅子に座り資料を読み始めていた。
さてと。これで負けは許されなくなったな。
適当にフルーツを1つタッパーから取り出し口に運んだ。
どうやら冷凍されたミカンのようだ。
今の時期ミカンは売っていないためわざわざ缶詰のミカンを冷凍してくれたのだろう。
口の中にミカンの甘酸っぱさと柑橘系の香りが広がった。
あー。甘酸っぱいなあ。




