球技大会が始動したのかもしれない⑧
俺は結局ストラップをどこに付けたらいいか分からず机の上に置いていたところ妹の友里が俺のキーケースに勝手に付けていた。
昨日は帰ってきてから妹にあれこれ聞かれて大変だった、、、。
また、友里に色々聞かれるのも面倒のためパパっと朝の支度を済ませて家を出た。
学校へ到着すると今日から各クラス球技大会の練習が開始されているためかいつもより人気が多い気がした。
ちょっとうるさい気がしなくもないが教室で静かに読書する分には別に気にならないか。
俺は外靴から中履きへ履き替え教室に向かうべく廊下を歩いていると前から女子生徒が1人歩いてくるのが見えた。
「おはよう。三ツ島君。」
「おはよ。天美のクラスは結構気合入ってるんだな。」
「そうみたいね。まさか初日のこんなに朝早く練習を開始するとは思わなかったわ。」
天美はいつも流している長い髪をゴムで1つ縛りにし、ハーフパンツに長袖の体育着を着ていた。
「三ツ島君はなぜこんなに早く来ているの?あなたのクラスも練習?」
「いや、俺は毎日この時間に登校してる。」
「あ、早く行かないと自分の席が座られていて朝のホームルームが始まるまで廊下で過ごすことになるものね。」
天美はそう言うと憐れむような表情を向けてきた。
「違うわ。確かにそういうときもあるけどちょっと早めに登校して動画見たり読書するのが好きなだけだよ。」
天美は俺をいじれて満足したのか微笑むとまた放課後と言い残し自分のロッカーに靴を履き替えに行った。
俺も教室に向かおうと歩き出したときふと天美の手に持っていたものが目に入った。
あいつもキーケースに付けてたのかよ。なんかお揃いみたいだし、ちゃっかりつけてるしそんなにうれしかったのかと思うと可愛いし、何だあいつ可愛いな。
バッグに入っているキーケースを見るとそわそわしたため別に飲みたくもないジュースを買って教室へ向かった。
教室へ入ると天美と話していたりジュースを買いに行ったりしたためかいつもよりクラスメイトが多くいた。
自分の席に着くとポケットのスマホが鳴り画面を見ると下田さんからだった。
『今日来るの遅かったから話せなかった!』
俺は恐る恐る斜め前を見ると下田さんが俺に向かってベーっと下を出していた。
何か別に約束してるわけでもないけど待たせてたと思うと申し訳なく思ってしまう、、、。恐るべし大和魂。
すぐさま申し訳ありませんの返信をすると下田さんからは明日は必ず早く来るようにとのメッセージが来た。
別にこの距離だったら直接言えばいいのになぁ。そんなに俺と話しているところ見られたくないのかなぁ。
俺はネガティブになりかけた心に今日もちゃんと学校に来てえらい!すごい!ブラボー!と言い聞かせて読みかけのラノベを開いた。
午前の授業を何とか乗り越え昼休みになった。
いつからか天美と一緒に昼食をとることになったため授業が終わるとすぐさま図書室に向かうようになっていた。
図書室に着くと天美は先についていてお昼ご飯の準備をしていた。
「悪い。待たせた。」
「三ツ島君。別に待っていないわよ。私も今来たところ。」
俺がいつもの椅子に座ると天美も準備が終わったのか腰を下ろしたがなぜかいつもより距離が空いていた。
「さあ。食べましょうか。」
「あ、ああ。」
天美は何事もなかったかのようにスープを口に運んでいた。
まあいいか。いつもみたいに隣に座ろうが少し距離を空けて座ろうがあいつの自由だしな。気にしないでおこう。
食べ終わると天美はいつも通り紅茶を淹れてくれた。
俺はカップを受け取るため天美に近づくと近づいた分だけ天美は離れていった。
えー。俺気づかない所で何かしちゃったのか?朝あったときは普通だったからそれ以降のはずだよな、、。
足りない頭で考えに考え抜いていると朝のすれ違ったシーンが頭を駆け巡った。
ストラップだ、、、、!間違いない!俺がストラップを付けていないと勘違いして怒ってるのか。これはどうしたらいいんだ?何かわざわざストラップを付けていることを言うのも変だしだからといってわざとらしくアピールするのもな、、。
悩みに悩んでいると天美がこちらをじっと見つめていた。
まずい、、、。これは間違いなく怒っている。わざとらしくでもなんでもアピールしなくては、、。
俺は急いでバッグの中に入っているキーケースを紅茶のカップの横に置き紅茶を飲み始めた。
天美の様子は、、ちょっと驚いた顔してる!やっぱりこれだったか~。出して正解だった。
俺は胸をなでおろしカップを置くと天美はボソッと使ってくれているのねとつぶやいた。
「も、もちろん!これ可愛いし!天美も使ってるのか?」
「え、ええ。これ。」
天美もバッグからキーケースを取り出し猫のストラップを見せてきた。
「や、やっぱりキーケースとかになるよな!」
朝見ていたことを悟られないように初めて見たかのようなリアクションを取り再びカップを口に運んだ。
大丈夫、、か?
天美の様子を伺うとまだなんとなく重たい雰囲気が漂っていた。
何だ、、あと何がいけないんだ、、、!もう思いつくものが無い、、。もしかして、、、下田さんと遊ぶことをどこかで聞いて怒っている、、のか?いやいやいや、それはさすがに俺も自意識過剰すぎるというか、調子に乗りすぎているよな。
もう一度天美を見るとさっきよりもさらに雰囲気が重たくなっていた。
こういうのって向こうから言われる前にこっちから言わなきゃダメなんだっけか。と、とりあえず自分でも絶対そんなことは無いってわかっているけど、万が一のことを考えて言っておこう。
俺は意を決して天美に声をかけると同時に天美も俺に声をかけてきた。
「あ、えっと。」
「被ってしまったわね。」
「お、俺から、言います。」
俺はすぅと息を吸いこみ覚悟を決めた。
「あの、、、今度、、、クラスの人と遊ぶ、、よ。」
大丈夫なのか、、、?
恐る恐る天美を見ると天美はぽかんとした顔でこちらを見ていた。
「え、ええ。楽しんで。」
「あ、はい。」
あれれ。これ絶対違うやつだ。恥ずかしい恥ずかしすぎる。まじでここから立ち去りたい。
「あの、三ツ島君良いかしら。」
「はい。どうぞ。」
天美は両手を組みながら少しそわそわした様子で話し出した。
「あの、そのね。今日なんで距離があるのかと言うとね、、。」
「言うと?」
「その、朝も2限目も体育だったの。」
「へー。」
「だ、だから。汗かいてしまって。」
「まあそりゃ体育だしな。」
「その。制汗剤とか汗拭きシートを忘れてきてしまって、、ね?」
そわそわしながら頬を赤らめる天美はさらに恥ずかしそうにしていた。
「あ、汗のにおいするかと思って、、、。」
「ああ!それで距離取ってたの!」
「ごめんなさい、、。」
うわぁ。俺全部から回ってたし、何ならめちゃくちゃ恥ずかしい勘違いまでしちゃってたよ。
俺はバッグから汗拭きシートを取り出すと天美の前に置いた。
「これ、俺のでよければ使って。」
「え、でも、、」
「あんまり好みじゃなかったら使わなくてもいいけど。」
「そういうわけじゃないわ!ありがたく使わせてもらいます。」
「どーぞ。」
天美はシートを1枚取り出すとやっと気にしなくてよくなるからか安心した表情で首回りから拭き始めた。
長い髪を片側に寄せているため普段はあまり見えないうなじが見えて俺は咄嗟に目をそらした。
「じゃ、じゃあ俺もう行くから。」
「三ツ島君。本当に助かった。ありがとう。」
「そんなんでよければいつでも。」
俺は汗拭きシートでいろんなところを拭いているであろう天美を見るわけにもいかず後ろ向きで会話をした。
この状況色々想像して男子高校生には刺激が強いですね、、。
俺は変なことを妄想し始める前にベランダから図書室に入ろうとすると天美からアッと声をかけられた。
「どうした?」
「あなた。クラスに遊びに行くような友達いたのね?」
「ま、まあ一人ぐらいは。」
「なぜ私にわざわざ言ってきたの?」
「そ、それは。」
これ、他の女の子と遊びに行くことを知って怒ってるのかと思いましたなんて言えるわけない、、。
「な、なんとなく?」
「へー。なんとなくね。」
後ろで、まあいいわと言いながら椅子から立ち上がった音がしたので俺は逃げ切ったと思い安心し図書室から出ようとするとまた声をかけられた。
「そ、その、、一応聞くけど、、、男の子、、よね?」
「いやいや、下田さんって言う女子だぞ?あ、あのクリーンシップのとき、、」
俺は言い終える前に背後で何やら不穏な雰囲気を感じ取った。
「女子、、なの?」
「えっと。一応。はい。」
あれ。なんか怒っていらっしゃる?そんなことないですよね?
天美は両手をぐっと握りしめていた。
「三ツ島君。」
「はい!」
「これから球技大会まで2週間。忙しくなるから。週末とか資料まとめに各クラスの細かなスケジュール調整、本番の来賓のかたのリスト作りに、それから、、、」
天美は凄い勢いで業務の説明をし始め心無しか語気が強まっている気がした。
「とにかくいろいろとやることはあるから!それじゃ放課後!」
天美は小走りで図書室を出ていくと俺は図書室にぽつんと取り残された。
やっぱり女の子は何考えてるのかわからん。
俺はキーケースのストラップを握りしめると1つため息をつき教室へ帰った。




