球技大会が始動したのかもしれない⑦
映画も無事エンドロールを迎え映画館内からはちらほら人が退出し始めた。
俺はいつもエンドロールも最後まで見て退出する派であるが天美はどうだろう。
天美の様子を伺うべく俺は少しばかり姿勢を正して顔を見ると天美の瞳は気のせいか潤んでいるような気がした。
俺は何だか見てはいけない所を見てしまった気がしてとっくのとうに飲み終わっていたドリンクのストローに口をつけてごまかした。
この状況は、あんまり仲良くない人と部屋とかで二人きりになった時全然興味が無いけどとりあえず何かしていないと落ち着かないから飲み物とかの成分表を見てる状況に似ている。これ共感してくれる人いるかな、、。
エンドロールも終わり館内も明るくなりスタッフが退出を促し始めた。
「さあ。出ましょうか。」
天美の表情はいつもと変わらず凛としていた。
映画館を後にした俺たちは近くのカフェに来ていた。
映画を見てそのまま解散しても良かったが、友里から「映画の後にすぐ解散は無し!」と念を押されていたためだ。
俺はカフェラテを頼み天美はアールグレイの紅茶を頼んで席に着いた。
席に着くと何を話していいか分からずとりあえず映画館でもらったパンフレットを眺めることにした。
「あなた、映画のチケットの半券見せなかったの?」
「え、見せなかったけど、、」
天美がレジを指さすとそこにはチケットの半券を見せると3種類のデニッシュから1つ無料でもらえるといった内容のポップが貼りだされていた。
「貰ってきたら?」
「あ、でも別に食べなくても、、、」
「、、、貰ってきたら?」
俺は天美からこれでもかというほどの無言の圧力を感じ静かに立ち上がった。
えーと、イチゴとバナナとリンゴの3種類か。確か天美はイチゴのデニッシュにしていた気がする。
俺は何だか同じデニッシュを頼むのも何だかなと思いバナナのデニッシュにした。
席に戻ると天美は俺が返ってくるのを待っていたらしく紅茶にもデニッシュにも手を付けていない様子だった。
「悪い。待たせた。」
「はい。これ。」
天美は俺にデニッシュの皿を渡してきた。どうやら半分よこせと言うことらしい。
俺はおとなしく半分切り天美の皿にデニッシュを渡すと天美も半分俺にデニッシュを渡してきた。
「さあ。いただきましょう。」
「あ、ああ。」
こいつ、なんだか手馴れてる、、。
俺は天美の鮮やかな半分こに面喰い少し緊張するのであった。
「映画の感想、聞いていいかしら?」
「結構感動したな。特に終盤は泣けるシーンが多かった気がするな。」
「そうなの。この映画の監督は中盤から終盤に向けての盛り上がりとラストシーンのカットが素晴らしくて、あとは、、、」
天美は話し始めるとトークにどんどんと熱が帯びてきて普段の天美から考えつかないテンションの上がりようだった。
ってかこいつちゃんとした映画ファンだったのかよ。なんか流行りの俳優と最近テレビでよく見る女優が出てるから興味あるのかと思ったら全然違うのかよ。
「、、、は、話すぎたわ。」
一通り話し終えて我に返った天美は落ち着かせるためか紅茶を口に運んでいた。
「、、、何でにやにやしているの?」
どうやら俺は普段と違う天美を見ていたら口元が緩んでいたらしい。
「いや、天美がそんなにテンションが上がっている姿見たことなかったからな。」
「、、、おかしかったかしら?」
「全然!むしろ好きなことに夢中になると案外子供っぽくなるんだと思って、可愛いなあと思ってたよ。」
「か、可愛い!?」
天美は顔を真っ赤にしてカップに残っていた紅茶を一気飲みしお手洗いに行ってくると言い残し足早に去っていった。
俺も何てこと言ってんだ、、、。確かに可愛いと思ってたけどまさか口に出すなんて。あいつもあいつであの容姿なんだから可愛いなんて今まで腐るほど言われてるだろうにあんなに取り乱すなよな。
あいつが想像以上に照れたせいでこっちまで照れてきた。
俺も天美が帰ってくるまでに平常心を取り戻すためにカフェオレを飲み干した。
「い、行きましょう。」
帰ってきた天美はまだほんのりと頬が赤くどこか落ち着かない様子であった。
「そ、そうだな。」
俺も何とか平常心を装い天美と店を出た。
カフェを出ると向かいにガチャガチャ専門店なるものがあった。
「ガチャガチャ専門店なんてあったのね。」
「少し見てみるか?」
天美は別に興味があったわけではとか何とか言っていたが店に入ると目を輝かせてはしゃいでいた。
そういうところがいつもと違くて可愛いんだよな~。
俺も久しぶりにガチャガチャを見ているとさっき見ていた映画のストラップのガチャガチャがあった。
「ね!三ツ島君ガチャガチャしていきましょ!」
「お、おお。いいぞ。」
天美は1000円を両替しに行き100円玉を両手で握りしめて帰ってきた。
「私、映画に出てきたあの猫のストラップが欲しい!」
「出ると良いな。」
天美は100円玉を4枚入れると勢いよくハンドルを回し中からカプセルが出てきた。
カプセルを開けると天美のお目当ての猫ではなく作中の主人公が使っていた本のしおりのストラップが出た。
「あぁ。まあ、これでもいいわね、、。」
口ではそう言ってるものの明らかにしょんぼりしている天美の横で俺もガチャガチャを回した。
カプセルを開けると天美が欲しがっていた猫が入っていた。
「あ!」
猫を見ると天美は思わず大きい声が出てしまい恥ずかしそうに手で口を隠していた。
「これ、あげるよ。欲しかったんだろ?」
「で、でもあなたが出したやつよ。」
「俺そんなにこだわり無かったし、良いよ。」
俺は天美に猫のストラップを上げると天美はストラップを大事そうにカバンにしまい代わりに天美が出したストラップを渡してきた。
「これ、交換しましょう。」
「え?そっちも別に、、、」
「交換にしましょ?」
「まあそこまで言うなら。」
俺は天美に押されてしおりのストラップを手に取った。
「さあ、帰りましょうか。」
天美は俺の前を歩き何だか満足気にガチャガチャ専門店を出た。
そんなに猫のストラップ欲しかったんだな。俺一発で出してよかった、、。お父さんが娘にねだられて服とかおもちゃとか買っちゃうのってあの顔が見たいからなんだろうな。だから妹は欲しいものをよく買ってもらって俺は買ってもらえなかったのか。俺可愛くないもんな、、。
俺ももっと可愛くなって将来は働かずとも飯が食えるようになろうと決意して店を後にしたのだった。
駅から家までは歩いてお互い15分ほどなので話しながら帰っていた。
「そういえば三ツ島君。あなたエンドロールまで見る派だった?」
「ああ。最後まで見てから帰るな。」
「よかった。」
「最後まで見る派じゃなかったらどうしてたんだよ。」
「最後まで見させてカフェで軽く説教ね。」
それは確かに良かった。同級生から説教されている姿なんて誰にも見られたくないもんな。
「三ツ島君。エンドロールってなんであると思う?」
「え。監督やらスポンサーの関係?」
「それもあると思うけど私はそこじゃないと思うわ。」
天美は風でなびいた髪の毛を耳にかけ俺に視線を合わせてきた。
「あのエンドロールでいろんな感情を元に戻すの。映画の世界から現実に帰るためにあの時間が必要なの。」
「そうなんだな。そこまで考えたことなかった。」
俺はふと映画が終わった後の天美の様子を思い出した。
「ああ、あのエンドロールがあれば確かに泣いてたとしても出るころには元の感情に戻せるもんな。」
天美はピタと歩みを止めると俺の肩を掴んだ。
「、、、見てた?」
「いや、、何が?」
天美はじっと俺の顔を見るとはぁとため息をついた。
「、、まああなたなら良いか。」
「え?」
「なんでもないわ。」
そう言うと天美はまた歩き出した。
「今日は出かけてくれてありがとう。わ、私あんまり友達と出かけたこととか、、無いから。」
「こちらこそありがとう。俺の方が無いから安心しろ。俺なんか女子と出かけたことなんてお前が初めてだしな。」
天美はぎゅっとバッグのひもを握るとまた頬を赤くした。
「わ、私も初めて。あなたが初めてよ。」
「え?」
「じゃあ。私こっちだから!ま、また学校で!」
「おい!」
そう言うと天美は足早に帰っていった。
俺はしおりのストラップをどこに付けるか考えていると気づいたら家についていた。




