球技大会が始動したのかもしれない④
「ただいまー」
「あ、お兄ちゃん!お帰り!」
あれから会議の資料を内田と天美と俺の三人で篠崎先生に提出し帰路についた。家に着くと夕飯を料理してくれていたのだろうか友里がエプロン姿で出てきた。ちなみに友里が今つけている白クマがデザインされているエプロンは友里が小学生ぐらいのときに俺がプレゼントしたものである。俺があげたやつをずっと使い続けてくれているからあのエプロン姿の友里を見るたびにほっこりするものだ。
「お兄ちゃん天美さんとのお昼どーだった?」
「友里お前天美のこと知ってたんだったら早く言えそう言うの!びっくりしすぎて陰キャ丸出しになっただろ。」
「お兄ちゃんは一目見ればあふれ出る陰キャオーラがあるから大丈夫!」
友里はグッと親指を上げると、にっと笑い早くご飯食べよーと言いながらまたキッチンへと戻っていった。やっぱり妹の笑顔が一番強いなぁと関心し俺は手を洗うために洗面台へと向かった。
リビングへ行くとテーブルの上には夕飯がそろっていた。
「さ!お兄ちゃん食べるよー?」
「あいよー」
俺は友里と対面に座るとカレーを頬張った。やはりカレーは家のものに限る。
「それでどーだったの?」
「何が?」
「何がって、天美さんとのお昼!お兄ちゃんが女の子とお昼なんて人生で初めてでしょ!」
「まぁ、なんだ、、、普通だったよ。うん。」
「なに顔赤くしてんの~!もしかして次も一緒に食べよって言われた?ねー言われた?」
俺は友里に茶化されるとお昼での顔を赤くしながら次のお昼も誘ってきた天美が頭の中に浮かんだ。いつも堂々として凛としていて、顔を合わせて口を開けばマシンガンのように俺への罵詈雑言が出てくるあいつがまさかあんなに照れて誘ってくるなんて、、、。
「うるせーよ!全然何ともなかったから!」
「ふーん?そーなんだ~?」
にやにやしながら相槌を打ってくる妹に腹を立たせながら俺はさっさと風呂に入るためにカレーをかき込んだ。
「お兄ちゃん天美さんと仲良くなれてよかったね!」
「仲良く、、か。あれは全然そういうのじゃないと思うぞ。ただただぼっちの俺ををいじるのが楽しいんだろ。」
「うーん。そうなのかね?」
「そうなんだ。」
何だかまだ何かを言いたそうな妹を横目に俺は食器を食洗器の中に入れバスタオルやら着替えやらを持って風呂場に向かった。後ろで「これだからお兄ちゃんは、、」ともごもご言っていたが俺は遮るようにリビングの扉を閉めた。
風呂から上がると友里は録画していたドラマを見ていた。
「おーい出たぞー。」
「うん!これ見たらすぐ入るよ~。」
俺は母さんに手を合わせると学校であったことなどを想起し寝る前の挨拶をした。
「友里ー。昼ごはん天美が美味かったって言ってたぞ。」
ソファに寝転んでいる友里は良かった!と言いながらそれでもドラマがよほど気になるのかそれ以上のリアクションは無かった。俺もドラマを邪魔しないようにそっとその場を立つと自分の部屋に向かった。
次の日朝起きると友里はもう家を出たらしくテーブルの上には「今日から朝早く学校に行って勉強することにしました!お弁当忘れずに!」というメモが残されていた。
あいつも受験生だもんな。家事いつまでもさせてられないよな。と思いつつ俺は友里が用意していった朝ご飯を食べて学校に向かった。
いつも通り早めに教室に着くといつもは一番だが今日は先に教室に生徒がいた。
「おはよう!三ツ島君!」
「おはよう。下田さん今日も早く来てるんだな。」
「昨日のクイズの続き。なんでお姉さんは早く学校に来てるでしょう!」
下田さんは俺の席の隣に頬杖を突きながら座り、考えている俺を楽しそうに見つめては「答えわかるかな~?」と茶化すように笑っていた。
「昨日言った部活でもなければ委員会でもないんだろ?ならお手上げだ。わからん。」
「えーー。つまんなーい!」
そう言うと下田さんは口をとがらせて足をバタバタさせながら体全体で不満を表現していた。下田さんのすっと白く透き通った足や思ったことがそのまま表情に出る姿に俺は落ち着くことができなかった。
「じゃあーヒントあげよっかな?」
「おぉ。ありがと。」
「ヒントはね。君だよ君。」
ヒントはどうやら俺に関係するらしいがあまりにも心当たりがなさ過ぎてヒントをもらう前の状況とさして変わらなかった。
「さぁ!答えをどーぞ!当たったらご褒美あるよー?」
「いや、本当に見当もつかないんだが。」
「こんなに大ヒントなのに~?まったくお姉さんここまで鈍い人初めてだぞ~。」
どうやら下田さんがまたいじけそうなので俺は適当に答えることにした。
「わかったわかった。じゃあ、俺の読書の時間を邪魔しに来てる。」
「ひどい、、。そんな風に思ってたんだ、、、。」
下田さんはがっくりと肩を落として机に伏せて泣きまねをし始めた。
俺は慌てて場を和ませようと、
「あ、お、俺と話に来てくれてる、、とか?な、なーんてね~。こんなぼっちが調子に乗りました。ごめんなさい!」
と言うと下田さんは急に泣きまねを辞めて顔を上げた。
「おお!正解!!」
俺は答えが出て喜んでいる下田さんに呆気に取られていると下田さんは座っている俺の後ろに回り込んできた。そして「よくできました!」と言い俺の頭をなで始めた。
「あ、あの、恥ずかしいんだが、、」
「えー?別に褒めてるだけだよー?」
俺はどうしたらいいか分からず不動を貫いていると下田さんは「そうだ!」と言いなでていた手で頭を軽くたたいた。
「ご褒美あげなきゃだったね?」
そういえばそんなこと言ってたな。
下田さんはさっきまで座っていた席にもう一度座ると咳ばらいを一つした。
「ご褒美を発表します!ご褒美は、、、、休日に私と一日遊べる券です!」
「はぁ。はあ?」
「と言うことで休日に遊び行こうね?」
「と言うことでってどういうことだそれ。」
「一対一で私と遊んだことのある男の子なんて今までいないんだからなかなかのご褒美だと思うけどな~?」
俺は全然ご褒美じゃねーと言いかけたが下田さんの機嫌を損ねそうなので黙っていた。
何か最近こういうの多いな。どっかにモニターでもついてんのか、、、?『もしも陰キャラが美女に遊びに誘われたら断わる?断らない?』みたいな企画でもされてんのか?俺はもしモニタリングされていても良いように表情を変えないことに専念した。
「、、、、そんなに嫌なの?」
下田さんはさっきまでの楽しそうな雰囲気とは一転少し不安そうな寂しそうな声で聞いてきた。
「いや、そういうわけじゃないけど。第一俺と遊んでも楽しくないというか下田さんの大切な休日を奪ってしまうかもしれないし、、。俺なんかよりも、、」
俺の言葉を遮るように下田さんは人差し指で俺の口を抑えた。
「それ以上君のこと悪く言うの、たとえ君自身でも許さないよ。」
あまりにも真剣でそれでいて美しい瞳に吸い込まれてしまいそうになった。
「それに、、、」
下田さんは話し始めるとまた明るい雰囲気に戻った。
「天美さんとは遊びに行くのに私とは行かないんだ?」
「えっと、、なんでそれを?」
「私、体育委員だから。」
俺ははっとし、なぜ今まで自分のクラスの体育委員に気づかなかったのだろうと自分が信じられなかった。
「私、楽しみに待ってるからね、、?」
「は、はい。俺でよければいつでも、、、。」
そう言うと下田さんは満足げに教室を後にした。
教室を出るときの下田さんは今までで一番楽しそうで一番柔らかい雰囲気で一番甘酸っぱい香りがした。




