球技大会が始動したのかもしれない①
朝から色々あったが放課後になった。俺は球技大会の会議に向かうべく教室で教科書やら筆記用具やらをバックに詰めていた。これから大会まで約一か月、まったく知らないやつと意見交換をして仕事をしていかなくてはならないと思うとため息がこぼれた。
「みっつ何ため息ついてんのー?」
「いや、これから会議だと思うとため息がな。」
「ももが委員長やってくれるんだからなんか大丈夫だよ!きっと!」
そう言うと内田はほら行くよ!と俺の肩を押しながら歩き始めた。
しかし、実行委員会は俺たちボランティア部の3人と体育委員って言ってたな。うちのクラスの体育委員って誰なんだ?
内田としゃべりながら廊下を歩いていると多目的室に到着した。多目的室の扉を開けるとコの字に長机が並んでおり真ん中にはホワイトボードが設置されていた。ホワイトボードの前設置されている椅子にはには見慣れた佇まいで座っている女子生徒がいた。
「ももお疲れ!」
「内田さん。疲れるのはこれからよ。三ツ島君は何だかもう疲れているような顔しているわね。三ツ島君は人生に疲れているのかしら?ならしょうがないわね。」
なんでこいつは自己解決しちゃってるのかね。
「俺の人生そんなに疲れることないな。人間の大体のストレスの原因は人間関係やら将来への不安やらだと思うが、その点俺は人間関係に困るほどの人間と関わっていないし将来への不安なんてある程度の高望みや周りからの期待から感じることだが、俺の場合は中間層をキープすることに徹するし期待をかけてくれる周りの人間もいない。」
言い終えて思ったけどなんだかすごく寂しいこと言っている気がしてならない。明日起きたら異世界に転生して最強なスライムになって魔王とかになってないかな。
俺は自分の言葉に傷ついていると内田は何とも微妙な顔をして俺の手を握りしめて、諦めないで!と言ってきた。なんだ、真矢みきみたいなこと言ってんな。
「まあ、あなたがなんだか元気がいっぱいあることだけはわかったから。いっぱい働いて頂戴。」
「了解。」
3人でごちゃごちゃ話していると続々と体育委員が集まってきた。
「各クラスごとに体育委員は座ってください。体育委員長はこちらにお願いします。」
天美の一言で各クラスの体育委員は席に着き始めこちらに何やら高身長で体格の良い男が歩いてきた。
「どうも!体育委員長の2年山瀬力だ!よろしくな!」
「1年の実行委員長の天美です。よろしくお願いします。」
「体育委員に連絡がある場合は山瀬さんに連絡をその都度していきますのでよろしくお願いします。」
山瀬はおう!と気前よく返事をして体育委員長と書かれている席に座った。にしても山瀬と天美が並んでいるのを見ると天美がいつもより小さく見えたな。腕とか太ももとか天美の何倍あるんだあれ。
「では一回目の会議を始めます。」
天美が凛とした声で呼びかけると騒がしかったはずの教室は静まり返り皆が天美に注目した。
とても堂々としていて、背筋は伸びていて、いつも図書室で見慣れているはずの天美から目が離れなかった。
「ふぅー。つっかれたね~。」
「内田さんお疲れ様。あと一応三ツ島君もお疲れ様。」
「一応って。お疲れ様。」
会議は一回目ということもあり、俺たち実行委員の自己紹介、体育委員長である山瀬の自己紹介、篠崎先生から今後どのようなスケジュールでこの実行委員が動いていくかの説明だった。
「これから毎日あんな感じで会議とかあるのか~」
「全体での話し合いはこれから数回ぐらいで終わると思うわ。次回の会議の進行次第ね。」
「次回ってなんだっけ?」
内田は首をかしげて今日配布された資料に目を向けていた。
「次回の会議はスローガン決めって言ってたろ。」
「そうだったっけ。」
今度は逆方向に首をかしげていた。あれ、10分前に言われていませんでしたっけ。鶏なみに忘れるの早いな。確かに鶏もそんな感じで首傾げるよね。なんか内田朝強そう。
そんなことを考えていると隣から盛大なため息が聞こえた。
「内田さん。まさか寝てたわけじゃないでしょうね?」
「ま、まさか!ももが横で頑張ってるのにうとうとしてるわけ、、、」
「じゃあ次回の会議はいつって言った?」
「ら、来週?」
天美は冷たく微笑むと内田の肩を掴んだ。そしてそっと耳もとで
「あ、し、た。」
とつぶやいた。
俺は何とも冷たい空気を感じ回れ右で帰ろうとした。
「三ツ島君、、?」
俺は後ろからあまりにも冷たく名前を呼ばれたためびくっと肩を震わせた。
「あなた、今日何もしていないのにそのまま帰るつもり?」
「え、えっと、、、」
「私と一緒にこれから篠崎先生の所に行って今日の活動報告書を提出しに行きましょうか。」
「も、もちろんです。いやぁ、俺もちょうど今行こうと思ってたんだよ、ほんとに。」
「ならよかったわ。」
そして天美はクリアファイルから紙を取り出すと内田に紙を渡した。
「これ、スローガンの案、出してきてね?」
「は、っはい!」
「じゃあよろしくお願い。また明日。」
「また明日!!」
内田は紙を片手に飛ぶように帰っていった。やっぱり前世は鶏だったのか?
「じゃあ三ツ島君も行きましょうか。」
「はい!」
俺は思い切り返事をすると夕暮れの廊下を天美と歩き始めた。
途中何度か天美から冷たい雰囲気を感じることはあったが何とか職員室についた。
「失礼します。篠崎先生はいらっしゃいますか?」
「おー。天美。こっちだ」
奥の方で篠崎先生が手招きをしている。
俺も控えめな声で失礼しますと言い、天美の後ろをついて歩いた。
「あっちの談話室に行ってくれ。」
「わかりました。」
天美は返事をすると職員室の奥にある談話室にノックをして入っていった。
「三ツ島はこれ持っていけ。」
俺は篠崎先生からミックスジュースを二本もらった。
「それ、好きなんだろ?」
「なぜそれを、、」
「いつも教室で飲んでるだろ~。」
「よく見てるんですね。」
「まあ、生徒を見ることが教師の仕事だからな。さぁ天美にも持って行ってやれ。」
「ありがとうございます。」
俺はミックスジュースを二本抱えて談話室に入った。あと、ミックスジュースは普通のジュースより安いからいつも飲んでいますなんてことは言えなかった。
「、、、、と言った感じで次回の会議は進めていこうと思います。」
「うむ。その調子で頼んだぞ。」
「では失礼します。」
「気を付けて帰れ。」
30分ほど次回の会議について話して解散となった。
天美は先に談話室から退出をして俺も出ようかと扉に手をかけると篠崎先生から声をかけられた。
「三ツ島からは天美はどう映る?」
「いや。噂通り勉強もできて完璧だな。と。」
「そうかね。私は全くの逆だと思う。
「逆ですか?」
「完璧な奴なんてこの世にいない。天美も天美で大きな欠点がある。いつか君の助けが必要になるときがくる。」
「は、はぁ。」
「そのときは君が手を差し伸べるんだ。」
「、、分かりました。とりあえず会議進行の邪魔にならないように息をひそめてます。」
篠崎先生は大きく笑うと気を付けて帰りなさいと扉を開けてくれた。
俺はそそくさと職員室を出て下駄箱に向かった。
下駄箱に着くと見慣れたシルエットが見えた。
「わざわざ残っていたのか?」
「、、、どうせ帰り道一緒だし、最寄り駅まで一緒なんだから別々に帰っても駅でまた合流することになるわ。」
「ああ。そう。」
俺は外靴に履き替えると天美と歩き出した。
「大会まで忙しくなりそうね。」
「まぁ、何とかなるだろ。」
「あなたは気楽ね。」
「物事を大きく捉えないのが俺の良いところだからな。むしろ小さく捉えすぎてぼっちライフを極めてるまである。」
天美はさっきまでとは打って変わって柔らかい笑顔を向けてきた。
「お一人遊びは得意だものね。まだ図書室のベランダでお昼食べてるの?」
「当たり前だ。あそこは誰にも譲らん。」
「あそこ確かに落ち着くし静かでいいわよね。」
そして少し先を歩いていた天美は振り返ると、微笑みながら私もあそこで食べようかしらと言ってきた。
少し汗ばむ陽気で、初夏を感じさせるには十分な暑さだった。




