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こんな青春でいいわけがない  作者: エルキングダム
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努力はそうそう実らないのかもしれない

ふと、俺が今この瞬間に、この世界から消えたとする。するとどうだろう。俺がいなくなったことで、この世の誰かの何かが変わるだろうか。答えは否。なぜかというと、俺は世界中の人々と交流が無く、この世界のだれからも認知されていない。と、なんだか話を大きくしてみたが、要は「友達」がいないのである。友達どころか、「知り合い」と呼べる関係性も無いまである。

 環境が一新し、中学校という義務教育を終え高等学校というステージに変わったわけだが、衣類、カバン、教科書といった、所持するアイテムが変わったのみで、肝心の「本体」のレベルが上がったわけでは無い。そして、アイテムが一新されたことで、自分のレベルまで上がったのではないか、と勘違いした俺は、新学期に絶対やってはいけないランキング堂々の第一位であろう委員会決めで、代々陽キャグループが所属するといわれている「イベント委員」に立候補し、見事に陽キャグループから総スカンを食らったわけである。まさか、陽キャグループが中学時代からSNSで繋がっていて、入学早々にクラス内でのカーストが決まっている、なんて知らなかったわけだが今となってはもうどうでもいい。そしてこの学校のカーストの住み分けを大きく表しているのが、制服である。この学校の制服は二種類あり、スカート、ズボンが青のチェック、無地のグレーの二種類が存在する。チェック柄を着用している奴らはカースト上位の人間で、このかっこよくシンプルでとても頭がよさそうに見える無地を着用しているのがカースト下位の人間である。無地のグレーの方がかっこいいし、元々無地の方の制服を着たかった俺は願ったりかなったりだったわけだ。そんなこんながあった委員会決めであったが、結局俺が所属することとなった委員会は「図書委員」という本好きな俺にはたまらない委員会であった。

 図書委員の主な業務は本の貸し出し、返却後の本の整理、本棚の整理、といったところではあるが、実際のところ、利用する学生が少なく、我が校は自習室が充実しているため、テスト期間に混むといったことも無く、ほとんど仕事がないのが現状である。初めは仕事も少なく静かな環境で、日ごろ人とコミュニケーションをとることが少ない俺としては願ったり叶ったりの状況であると感じていたわけであったが、どうやらこんなにも仕事が無いのならもはや図書館に行く意味もないのではないのか、と考えた生徒が一週間委員会の仕事を放棄し、いつもは先生など見回りに来ないのだが、なぜかその一週間だけたまたま先生が見回りに来てしまい、その結果、図書委員は本来一人図書館にいればよかったものの、他クラスの生徒とペアを組み、二人体制で業務をするように、と宣告されてしまったわけだ。そして、ペアは先生に強制的に割り振られ、まさかの我が校の華が集まる「国際教養クラス」の生徒と二人きりで図書館にいなくてはならなくなったわけである。そして、今日が二人体制になり初めての委員会の日なのだが、俺は図書館の扉を開けることができずにいた。

 今度こそ、第一印象で好印象をつかむために、この日の為にインターネットで予習をしてきた。俺の検索履歴は「自己紹介 ミスしない」「自己紹介 笑い」「自己紹介 好印象」となっており、本気度が伺えると思う。こんなにも本気になったことは過去を振り返ってもそう少ない。そして自己紹介の予行演習を脳内で繰り返し行ってたわけであるが、本番ではこの演習の効果が薄いということまでも、演習からわかってしまっていた。意を決し、ドアを3回ノック、頭を下げ、次いで「失礼します」のコンボを繰り出し、さらっと「三ツ島隼人です。よろしく。」と自己紹介を終わらせたわけであるが、相手から応答が何もない。聞こえていないわけではないはずなのだが、とふと頭を上げると、委員の人がいるはずのカウンターには誰の姿も見当たらなかった。「ふふっ。」後ろから笑い声が聞こえた。「あなた、さっきから図書館の扉の前でぶつぶつと呪文を唱えていたけれど、まさか今の自己紹介の練習をしていたわけではないわよね?」振り返ると、チェックのスカートを身にまとった、誰が見ても、美人だと認めざるを得ない、女子生徒が立っていた。

 「何かしら。驚いた顔で私の顔をじろじろと見て。美女に話しかけられて、緊張して声も出せないわけではないわよね?」「そ、そんなわけあるか。」「ならよかったわ。私は、天美桃音よ。」そう言って、図書カウンターの椅子に腰かけた。俺は何個かツッコミたい気持ちを抑え、心を落ち着かせてから「よろしく。」とだけ伝えた。しかしなんの返答も無く彼女は読書を始めてしまった。俺はこいつをたった今、危険人物、敵として認めた。「あの、よろしくっていたんだけど。聞こえなかったか?国際教養クラスってことは相当偏差値も高いはずだが、こんな基本な挨拶もできないんだな。難しい問題とか、文法を読み解くとか、そんなことの前に、人としての礼儀を、、」「ごめんなさい。また、自己紹介の練習の邪魔をしてはいけないと思って、静かにしていたのだけれど。さっきのは私に言っていたのね。よろしくね。」彼女はそういうと続けて「一つアドバイスをしてあげる。人と会話をするときは目を見て話した方がいいわ。あと、ごにょごにょ言ってて何を言っているか聞き取りにくい。あなた、自分で想像しているよりはるかに人と話せていないってことを教えといてあげる。」そういうと、彼女はまだ何か言いたそうではあったが、時間の無駄と感じたのか、はたまたよほど本の続きが気になったのか、また読書を再開した。俺は、またしても「友達作り」いや、「知り合いづくり」に失敗したのであった。

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