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異世界のスケール


「えーっと、マンションのお隣さんの爪とぎの音が大きすぎて、もはや公害レベルとのことで……」


「そうなんです!どうにかしていただけませんかね、刑事さん」


 相談者は町内会役員のフェース・ショーイさん。男性、39歳。二児の父親である。でもそんなことはどうでも良くて、なんといっても、耳が垂れた柴犬のような顔で可愛いのだ。頭をなでたくなる。


「まあ、お隣さんはドラゴン族ですから、爪とぎが必要なことは分かります。でも深夜にやりますかね!もう私気になってしまって」


「確かに深夜に爪とぎは非常識ですね、警部補」


「ああ、そうなんだ……」


 正直イメージが出来なさ過ぎて反応に困る。爪とぎと言えば、猫が壁でガリガリやるくらいしか知らない。とりあえずここは王道の対応をしよう。


「我々も深夜に確認に行きます。もし本当にひどそうなら、翌朝に配慮のお願いをしに行きますね」


「……警部補、ここはガツンと弾の一つでもくれてやりませんか。ショーイさんもそう思われているのでは?」


……何を言い出すんだこの子は。ショーイさんの顔が一気に真っ青になったじゃないか。


「ちょっと!いきなりどうしたの!」


「いや今までは言葉で聞かせるのではなく、身体に教えるをモットーにやってきたので」


 ああ、転生官が送り込むのも納得だ。


「ダメだ。これからは力ではなく、心で。心を伝えることで解決させていきますよ」


「私も、できればそちらの方がありがたいです……」


 逸るニーナ部長をなんとか抑え込み、深夜に確認へ向かうことになった。



(……と、とんでもない音だ)


 耳元で巨人がすり鉢を爆音で擦っているような状態だ。むしろ、これを今まで耐えていたことのほうが驚きである。


「コーイ警部補。突入しましょう」


「待って待って。確かに凄まじいけど!面倒ごとをこれ以上起こさないで」


 しかし、これはすぐに対応するべきかもしれない。ここまでの騒音だとは思っていなかった。


「よし、声かけるか」


「準備はいつでもできています」


 突入準備を済ませているニーナを横目に、ドアをノックする。


「夜分遅くにすみません!イハリス警察です!」


 爪とぎの音が止まる。てかあの音の中で俺の声が聞こえたのかよ。


「おう?刑事さん?こんな時間にどうしたんだい。事件か?」


 羽が背中から生え、アニメとかで出てきそうなドラゴンの顔をした者がドアを開ける。恐らく男性、年齢は多分50代くらい。


「いやそうじゃないんですけどね。ちょっとお家から大きな音が出ていたので、何かあったのかと思いまして」


「ああ、そりゃおいらの爪の音さ。これ見てくれよ自慢の爪なんだぜ!」


 刃物のような爪を目の前に出される。これはもう、銃刀法でしょっぴけるな。


「あっと、それは一度戻していただいてですね。まあ、かなり大きな音が出ているもんですら、付近の住民の方も気になってしまうと思うんですよ。ですから、できれば日中の方で爪とぎをお願いしたいんです。勝手なお願いで申し訳ないんですが」


 あくまで低姿勢に、興奮させないように。


「そっか……。まあそりゃそうだよな。悪い、ちょっと耳が遠くなってきたかもしれんな!今後気を付けるよ」


 よかった。激情しないタイプだ。助かった。あの爪を使われていたらまた例の転生官と話さざるを得なかった。


 一礼した後、ふとこちらを見ている視線に気づく。隣のショーイさんの家からのものだ。視線を移すと、そこには子供の目があった。ショーイさんのお子さんのようだ。


「……あ、りがとう」


 たどたどしいながらも、言葉を紡いでいる。俺らの一連のやり取りで目が覚めてしまったのか、少し涙目だ。


「大きな音立ててごめんね。お姉ちゃんたちすぐ帰るからね」


 さっきまで「突入できます」顔だったニーナが、いつのまにか優しい表情で語りかけていた。こういう対応が即座にできるところを見ると、やはり彼女も警察官であることを実感する。


「よし、じゃあ今日はこのまま帰って、明日事後処理をしようか」



 次の日、電話でショーイさんに解決の報告と、お子さんを起こしてしまったことへのお詫びを伝える。


「本当に助かりました!こちらこそ、息子が何か言わなかったでしょうか」


「いえいえ、むしろ『ありがとう』と言っていただけて、我々もとても嬉しかったです」


「そうですか。私の方からも、今回はありがとうございました」

ありがとうございます。

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